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嵐との対峙1

急に頭の中にハロさんの声が響く。

それと同時に突風で謁見の間の窓ガラスが割れた。


「きゃあ!」

「危ない!広間の中央へ!」


「…王太子殿下!?」


ガラスから身を守るためうずくまった私を、背中から抱きしめるに殿下がかばってくださった。


「大丈夫?怪我はない?」

「はい。殿下はご無事ですか?」


クロフォード殿下は一瞬、私の顔を無表情にじっと見つめると、ニヤリと微笑んで抱きしめる手に力をこめる。


「私は大丈夫だよ、()()()()()()()

「よかったです…クロフォード様」


クロフォード様はようやく私ににっこりと笑顔を向けた。

そしてそっと耳打ちされる。


「そう、名前で呼ぶ約束は守ってくれなくちゃ。君こそが今までもこれからも、僕の唯一の姫なんだから」


自分でも耳が真っ赤になるのがわかる。


『フェリスティア~イチャイチャしてるばあいじゃないよ~』


はっ、しまった!嵐だ。

嵐を止めなければ!

私は急いで立ち上がった。


「クロフォード様、私は巫女としての役目を果たして参ります!…私を信じてくださり、とても嬉しかったです。ありがとうございます」

「待て!!フェリスティア!!」


クロフォード様に深く礼をして外に出るべく、走り出そうとすると、ちょうど割れた窓から世界樹様の葉が風にのって目の前まで運ばれきた。


『フェリスティア!それ、のって!』


言われた通りに葉に乗ると、葉は再びふわりと舞い上がり、私を乗せて窓から飛び出した。


~・~・~・~・~


「ねぇねぇなんかさ、イチャイチャしてなかった?ねぇねぇ」

「…いえ、クロフォード様に助けていただいただけですので…」

「そうなの?あやしいな~」

「ハロさん!今はそんなことより嵐です!」


世界樹様の葉に乗り、ハロさんとは無事合流できた。

が、城内の様子をこっそり見ていたらしく、先程からこの調子である。


「嵐のことおしえたら正直にはなす?」

「…はい」

「うそついても、母さんにきいたらすーぐわかるからね?」

「それでは最初から世界樹様に聞いてください!」

「わかってないな~はずかしがる本人からきくのが楽しいんじゃない!」


ハロさんの顔はもはやコイバナを楽しむ乙女そのものだ。

精霊さんは皆さん、こうなのだろうか。


「まっ、フェリスティアのイチャイチャ話はあとのお楽しみとして、ついたよ!あれが大嵐だ!!」

「っ!!なんて大きさ…」


精霊さんが指した方向を見ると、濃密で重たそうな黒い雲が渦を巻きながらノロノロと進んでいた。

なんとも巨大だ。

決して狭くはないグリンフィールド王国の国土の1/5程が覆われてしまっている。


「とりあえずいつも通りやってみましょう」


私は両手の平をを合わせ、霊力の玉を作りだし、それを宙に浮かす。

それをハロさんが自らの風の力で、嵐に向かって投げ飛ばしてくれる。


が、それはまったく嵐には効かなかった。

霊力の玉は嵐という固い壁の前に弾けて消えていった。


「きかないね…」

「今度は玉をもっと大きくしてみます」


霊力の玉を大きくしてみたり、逆に力を小さく圧縮してみたりと試してみるが、効果は全くない。

そのうちに、力を使いすぎた私の方の息があがってきてしまった。


「すこしやすもうかフェリスティア」


そうですね、と返事をしかけたその時、つんざくような雷鳴と共に辺りが光った。

思わず目を見開くと真っ黒な雲の下、雷が太い柱のように地上に落ちていくのが見えた。


「ハロさん!」

「まずい!嵐が完成しちゃいそう!」

「これでもまだ完全ではないんですか!?」

「完全にできあがったら大雨がふって洪水をひきおこすはず!それまでにとめなくちゃ!」

「でも、どうやって…」


恐らく私の霊力では力不足なのだ。

もう時間がないのに、私はなんの役にも立てないのか…、不安や悔しさが沸き上がってくる。

その時、胸元に熱を感じた。

慌ててその「元」に手を当てると、それは約束の石だった。


石をそっと手で包み込むと強い熱と共に、代々込められてきた力と、精霊さん達との絆や国を思う優しさが伝わってくるのを感じる。


「ハロさん…約束の石を使います」

「…それを嵐にぶつけるの?」

「はい、きっと嵐に対して私の霊力だけでは足りないのです。代々の巫女の皆様の力を使わせていただきます」

「でももし、それでもダメだったら?」

「…ハロさん、この石は代々の巫女が繋いできた精霊さんたちと人間との絆の結晶です。この嵐は世界樹様の人間に対する不信の結晶。約束の石の温かな思いがきっとその不信を洗い流してくれると思います。私はそう信じます」

「…そうだね!そうだね!ぼくもしんじる!よっし!いっちょやってみよう!!」

「ただ、約束の石は世界樹様からいただき、お預かりしているものです。本当に私が使ってもいいものなのか、ハロさんから世界樹様に確認していただきたいのです」

「わかった!ちょっといってくるね!」


ハロさんは笑顔で手を振ると、光の中、世界樹様の元へと消えていった。


「ごめんなさい、ハロさん」


消えた光に謝罪する。

約束の石をどのように嵐にぶつけるか。

私の案を聞いたら、優しいハロさんはきっと止める。

でもこの案しか思い浮かばなかった。

私は深呼吸して息を整え、約束の石を握りしめる。


「世界樹の一葉様、私を大嵐の渦の上へ連れていってください」


~・~・~・~・~


「なんて、大きさなの…」


世界樹様の一葉さんに嵐の上、いわゆる台風の目の上に連れてきてもらった。

黒い雲が見渡す限りに広がり、雲の下からは雷鳴が聞こえる。

きっともう時間は残されていない。


約束の石ならばきっとこの大嵐に対抗できる。

ただ、問題は嵐の周囲で吹き荒れる風だ。

私の霊力の玉をハロさんの風の力で投げる方法では、嵐にぶつかり消えてしまったり、風に吹き消されたりしてしまった。

この風を掻い潜り、約束の石の力を確実に大嵐の中で発揮させなければならない。

そのためには、私が自らの霊力で石を守りながら大嵐の中で石の力を発動させるのが最も可能性の高い方のだ。


「世界樹様の一葉さん、ここまで運んでいただきありがとうございました。私が降りたら気をつけて世界樹様の元へとお帰りください」


感謝をこめて葉をなで、覚悟を決める。

葉の上に立ち上がると、全身に霊力をまとい私は大嵐に向かって飛び込んだ。



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