断罪の場2
「!そちらの花でございます!」
「よくわかった、ありがとう。ルーベン神官長、入ってくれ」
殿下に呼ばれ、謁見の間に入ってきたのはルーベン・アーリア様だった。
屋敷に軟禁されていたはずだが、見た目にお変わりはない。
ご無事で本当によかった。
「色を変えるために使われた植物、城に飾られた植物。ルーベン神官長、これらは一体どういった薬草だ?アーリア家で代々薬草を扱ってきた貴方ならわかりますね」
「恐れながら申し上げます。まずは侍女・フェティアの髪と目の色を変えた薬草ですが“カラード”と呼ばれるものです」
ルーベン様は手に持っていた図鑑のページを開き、皆に見せた。
そこには薬学の授業で見たことがある、白い小さな花をもつ薬草が描かれていた。
「この薬草に少しの顔料を加えて煎じると、塗った物や摂取した者をその顔料の色に変える効能があります。少量の顔料で色を変えることができ、薬草も安価で害もなく、手に入りやすいため、布地の染色などに使われており、学院の薬学の授業でも取り扱う一般的な薬草です」
「ふむ、では、こちらのピンク色の植物は?」
「こちらは“サキュス”と呼ばれる薬草でございます」
「これにはどういった効能があるんだ?」
「サキュスは薬草というより毒草でございます。その香りを嗅いだ相手の意識を朦朧とさせる効果があるためです。その状態で意思決定を乗っ取ったり、相手を洗脳状態にするなどし、他者を操るために使われることがほとんどです」
「そんなものがあるのか」と貴族達の間からどよめきの声がもれる。
サキュスのことは恐らく危険な薬草のため、一般に詳しく知られてはいないのだろう。
私も授業で直接習ってはいない。
教科書の巻末の“取扱注意”の欄で名前を見ただけだ。
「ルーベン公!その薬草に副作用などはあるのですか!?」
貴族達の中から質問が投げ掛けられる。
実際にサキュスの被害を受けた彼らにとって、その疑問は当然だろう。
「この広間で1度匂いを嗅いだくらいならば、副作用はほぼないでしょう。一晩経って体調に異常がなかったのであれば、問題はありません。ただし、長期間にわたり、匂いをかぎ続けたのであれば話は別です。頭痛や意識の混濁、手足のしびれなどが表れる可能性がありますので、解毒のための特別な治療が必要です」
広間には安心した空気が流れる。
恐らくそのような症状の方はいなかったのだろう。
しかし、王太子様だけは1人唇を噛み、悔しそうな表情を浮かべていた。
しかし、ルーベン様に「殿下」と促されるとすぐにいつもの凛々しい表情に戻り、話を続ける。
「神官長、そのサキュスは簡単に入手できる薬草なのか?」
「いえ、サキュスは自生できる場所と環境が限られた薬草でございます。その環境は国内でも数ヵ所しかありませんし、自生していることが確認されると、アーリア家の専門家により、すぐに駆除されます。また栽培することも非常に難しく、かなりの専門知識を有していないとできません」
「さて、もう1つ皆に見てもらいたいものがある」
王太子様の合図で運び込まれたのは、どこかの景色を描き写した風景画だった。
青空の下、ピンクや黄色、紫の花で覆われた丘が連なる景色でとても美しい。
「これは私専属の近衛騎士調査団に王室画家を同行させ、描かせた絵だ。とても美しい風景だが、これはすべて毒草だ」
王太子様の発言にギョっとする。
「ピンクの花はサティス、そして紫の花を“ガノーラ”、黄色の花は“ツテ”というそうだな」
騎士団が実際のガノーラとツテを持ってきて、皆にみせてくれる。
「ガノーラは興奮状態を抑えるために飲む薬草ですが、正常な状態の際に飲むと貧血などを引き起こします。ツテは逆で貧血に効果がある薬草です。国内で頻発した、精力剤と言われ薬草水を飲んだところ突然貧血を起こし、それを巫女が煎じた薬草水で治してくれたという事案はこれらの薬草を使ったと考えられます。2種ともサティスと似たような環境で育つ薬草でございます」
「ありがとう、ルーベン神官長。下がってくれ。さて、ピカサ・ルモンド伯爵この場にいるな」
ルーベン様を労う優しいお言葉の後のピシャリとした物言いに再び広間は緊張感に包まれた。
やがて集まった貴族達の一画が少しずつ開き、ある1人の男性のために道を譲った。
「あの方は…」
思わず声がもれてしまい、慌てて口を手で塞ぐ。
あの方は確か、国王陛下主催のパーティーでご子息と共にルーベン様にお声をかけていた伯爵公だ。
「ピカサ伯爵、この絵の風景に心当たりはあるな?」
「いっ、…いえ…なんのことだか…」
「ルーベン公爵によると、国内で数少ないサキュスを栽培できる環境は伯爵の領地なのだそうだよ。そしてこの絵や薬草は調査団が貴方の領地で描き、採取してきたものだ」
「…」
「しらばっくれるなら構わない。これを聞いてもらおうか」
~・~・~・~・~
『ねぇお父様!ルモンド伯爵からの薬草はまだ届かないんですの!?』
『あぁ、サキュスの栽培もそうだが人に見られないように運搬するのが難しいそうでな。あまり頻繁に城内に荷物を持ち込んでは衛兵に怪しまれる』
『衛兵を買収できないのぉ?』
『城勤めの騎士達はなかなか忠誠心が篤い。万が一、買収の働きかけがバレれば、まずい状況になる』
『じゃあ近衛兵の宿舎でサキュスを焚いて洗脳した時みたいにできない?』
『あれも領地で金を持たせた侍女を無理矢理、宿舎付け侍女に、と王室に寄進して潜り込ませ、毎日サキュスで洗脳し続けているからな。怪しまれずにやるにはなかなか骨が折れる…が、それしかないか』
『あとルモンド伯爵の息子さんに聞きたいことがあるのよ』
『ピカサ君か?』
『えぇ、クロフォード様にサキュス入りのクッキーや飲み物を差し入れているんだけどなかなか落ちてくれないのよね~。粉末にしてまぜてるんだけど、少量だからダメなのかしら?もっと効果的なやり方がないか、研究してほしいのよ』
『あぁわかった。私から伝えよう。彼はなかなか頭がいい。今回の薬草を使った一連の作戦は、エレーナの発案と彼の研究、そして我がアナスタシア家とルモンド家の利害が一致していたからこそ、ここまで順調に進められたのだ。お前は私の自慢の娘だよ』
『ふふっ♪まぁ私はクロフォード様のお相手になれればそれでいいのだけど』
~・~・~・~・~
それは不思議な光景だった。
クロフォード様がピンク色の宝石のようなものに手をかざし、力をこめると音が流れ出した。
まるで前世の録音危機のようだ。
「これは王家に伝わる宝玉の1つ。近くの音や声を石の中に留める不思議な力を秘めています」
そう仰ると殿下は腰に身に付けていた剣の柄で、ピンク色の宝石を叩き割った。
すると、真っ黒な石がでてきた。
「これがその宝玉です。さて私はこれを今割ったピンク色の宝石で包むような加工をしていましたが、この宝石に見覚えはありますよね?」
そう仰ると、強い怒りの視線をご自分の腕へと、正確には腕に絡み付く女性へと移す。
そこには青ざめた表情で、唇を噛むエレーナ様がいらっしゃった。
お読みいただきありがとうございます!
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断罪編もう少しお付き合いくださいm(__)m




