嵐
「みなさん、嵐がくるかもしれません!空模様が怪しくなったら避難してください!事前に避難の準備をしてください!」
ハロさんと共に嵐の卵の行方を追いながら、眼下に町が見えたら降りて行き、飛びながら注意を呼びかける。
私以外の人にはハロさんは見えないので、私だけが緑のじゅうたんのようなものに乗り、叫んでいるように見える。
ほとんどの人が突然現れた私にギョッとし、ポカンとしたままなので、きちんと伝わっているのか不安だが、ひとまずいきなり捕らえられる心配はなさそうだ。
「あっ!あったよ!発見!」
「これが嵐の卵なんですね」
ハロさんが指差した先にあったのは、風が渦を巻きながら進んでいる―いわば小さな台風がそこにあった。
「よーし、退治しちゃお!フェリスティア、霊力の玉、だせる?」
「霊力の玉、ですか?」
「あっ、しらなかったのか、ごめんごめん。母様からあずかってる石に力をこめてるでしょ?あれを石なしでやってみて?」
言われた通り、手の中に石があるつもりで力を込めてみると、空色の火の玉のようなものが浮かび上がる。
これが『霊力の玉』なのか。
「その玉、空中にうかしてみて?」
私はかざしていた手を、そっと離してみる。
すると霊力の玉は、そのままフヨフヨと宙に浮き続けた。
「よしっ、ここらはぼくの出番!」
ハロさんは手から風を産み出すと、その風で霊力の玉を包み、それを野球のピッチャーのように、嵐の卵に向かって投げつけた。
ボールは見事命中し、嵐の卵は霧散した。
「すごいです!やりましたね!」
「へへん!でしょでしょ?」
これで、嵐の問題は解決!と喜んでいると、ハロさんが渋い顔をしている。
「フェリスティア、残念なおしらせ」
「なっ、なんでしょうか…」
「もしかして嵐の卵、1つだけじゃないのかも」
「複数あるということですか?」
「うん、風があちこちからぼくをよんでる」
たしかに嵐の卵が1つだとは、世界樹様も仰ってはいない。
恥ずかしいぬか喜びをしてしまった。
「仕方ありません。頑張りましょう…。ハロさんにはお手数おかけします…」
~・~・~・~・~
「ねぇ、偽者まだ見つからないの?」
「はい、申し訳ございません。目下全力で捜索中でございます」
私は今、クロフォード様の婚約者候補として、王城の一室をもらって毎日過ごしている。
アナスタシア家の部屋の3倍はあろうかという豪華な部屋に、クローゼットは美しいドレスや宝石で溢れている。
王室専属侍女も付けてもらい、食事やおやつも私の好みを叶えたメニューで悠々自適だ。
そんな素晴らしい毎日を送っている中で気がかりなのが、偽巫女に仕立てあげ、斬首台送りにしたフェリスティアが、処刑前に行方不明になったことだ。
王室騎士達総出で探しても見つからないなんて、一体どこに隠れているのか。
さっさとアイツを葬ってしまえば、もう安泰。
私の思い通りにいくのに。
唇を噛みながら、そんなことを考えているとノックの音が聞こえる。
許可すると、銀縁メガネの侍女が入ってきた。
「失礼致します。エレーナ様、そろそろ王太子殿下とのお約束のご用意のお時間でございます」
「えぇ、お願いするわ」
メガネ侍女の合図で後ろから他の侍女達が入室し、ドレスやメイク、湯浴みの準備、果ては部屋の掃除などを始める。
言われなくてもテキパキと仕事をする。
やはり、王室侍女は伯爵家の侍女などとはレベルが違う。
貴族の侍女といえばこうでなくちゃ。
私が鏡台に座ると、金髪の侍女が話し掛けてきた。
「本日は王庭で、王太子殿下とお茶会の予定でございます」
「なんかせっかくのデートなのに、お城の中ばっかりね」
フェリスティアが偽巫女であることや、今まで私がアイツから嫌がらせを受けていたことを手紙にしたため、外交先へ向かうクロフォード様にお出しした。
すると、クロフォード様はすぐに国にお戻りになり、私の話を聞いてくださった。
そして、「今までツラい目にあわせてしまい、すまなかった。そして国を守ってくれてありがとう。今後、ぜひ親交を深めていきたい」と仰ってくださり、婚約者候補という立場にしてくれた。
国王や貴族達の前で先手をうって、クロフォード様が私を婚約者に指名したと言ってしまったが、結果ほぼその通りになったのだ。
それ以降、クロフォード様は私に夢中なのか毎日のように庭を散策したり、お食事やお茶をしたりとデートに誘ってくださる。
しかしよく考えると、どれもこれもお城の中ばかりで、この部屋に住み始めてから外に出ていない。
城下での買い物やカフェ巡り、旅行なども楽しみたいのに。
「王太子殿下もその事については申し訳ないとお考えのようでございます。ただ、国王陛下、女王陛下も体調を崩され、国内の混乱がまだ収まってはおらず、殿下ご自身が王城から出ることが難しいのでご容赦くださいませ」
「まぁそうかもしれないけど~お忍びとかでなんとかならない?」
「申し訳ございません。代わりに本日のお茶会にはエレーナ様の好みのお菓子やお茶を王太子殿下自ら取り寄せ、奮ってご準備をなさったそうですよ。そしてこちらを」
そう言って侍女が取り出したのはピンクのリボンが掛けられた白い小箱。
それをほどき、箱を開けるとピンクダイヤモンドとパールがあしらわれた豪華で美しい髪飾りと手紙が入っていた。
“貴女に似合うと思い、急ぎ設えさせた髪飾りです。もし気に入っていただけたなら、それを私と思い、片時も離さずに身に付け、傍らに置いてほしい。
今日もそれを身に付けた美しい貴女にお会いできるのを楽しみにしています。”
前世から夢こがれたクロフォード様からプレゼント。
「やったわ!見て!クロフォード様からプレゼントよ!やっぱりクロフォード様は素敵ね~。私の好みもよくわかってらっしゃるわ」
「そちら、お茶会につけていかれますか?」
「当たり前でしょ!?クロフォード様につけた私を見ていただいて、誉めていただがなくちゃ!」
ヘアセットをしてもらい、目立つところに髪飾りを付けてもらう。
クロフォード様のお見立て通り、私によく似合っているわ。
先ほどのイライラはすっかり消えていた。
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