母なる世界樹
1週間ぶりの投稿になってしまい恐縮です…
長い暗闇をまっ逆さまに落ちてきた私は、固い地面に打ちつけられた。
「~~~いった~…」
「やれやれ、せっかく我が気を遣ってもとの世界に戻してやったというのに」
頭上から降ってくる声に慌てて見上げると、そこには果てない大樹がそびえ立っていた。
しかもこの大樹、驚くことに幹が女性の姿、葉は空色で髪のようになっており、その女性が私に話しかけてきたのだ。
「母様~!!フェリスティア~!!」
「精霊さん!?」
呼ばれた声に振り向くと、精霊さんがすごい勢いで私に飛びついてきた。
「なんでかえってきちゃったの~!」と泣きながら私の胸をポカポカと叩いてくる。
「ハロ、止めなさい」
「母様!でも…」
「初めて会うのだから挨拶をしなければいけないな、我は世界樹。この国の大地を支え、お前達が精霊と呼ぶ子供達からは“母”と呼ばれている」
「世界樹…様…。初めてお目にかかります。巫女を勤めております、フェリスティア・アーリアと申します。精霊さんにはいつもお世話になっております」
王族の方々にするのと同じように最上級の礼でご挨拶する。
あっ、思わず「勤めております」と言ってしまったが、今の私は巫女ではない、ただの罪人だ…。
「そなたこそが今代の巫女よ。我が決めたのだ。自信をもて」
えっ?今、私口に出してしまっていたのかしら?
「出ておらぬよ。人間の考えていることは手に取るようにわかる」
さすが世界樹様、規格外のお力の持ち主だ。
「さて、そなたに問う。我が気を利かせて元の世界に帰してやったというのになぜ戻ってきた?この世界との通り道はいつも開いているわけではない。死ぬ可能性もあったはずだ」
「せっかくのお心遣いを無下にしてしまい、申し訳ございません。元の世界に戻る途中、精霊さんに世界樹様との約束を私達が破ってしまったこと、グリンフィールド王国が終わることをお聞きしました。約束を守れなかったことを世界樹様に謝りたい。そしてもしも、この国になにか起こるのであれば、なんとか国を救いたいと思い、ここに戻って参りました」
「約束の内容も聞いておるな」
「はい、王国の建国時にこの大地を守り、豊かにしていくと世界樹様にお約束したにも関わらず、何者かが土を汚す毒草を植えてしまった、と。私が謝罪したところで、世界樹様のお気持ちが晴れるとは到底思えません。ですが謝罪させてくださいませ。本当に申し訳ございませんでした」
私はその場にうずくまり、頭を地面にすり付け、心の底からお詫びをする。
「ふむ、口先だけではないようだな。頭をあげろ。そなたの謝罪は受け入れよう」
「恐れ入ります。ありがとうございます」
「ただし、許すかと言われれば話は別だ」
「はい、覚悟しております」
世界樹様の仰るとおりだ。
大事な土地を汚してしまったこと、謝ったくらいで簡単に許されることではない。
「世界樹様、もう一度だけ私にチャンスをいただけないでしょうか?」
「ほう、チャンスをもらってどうするつもりだ」
「汚れた大地を元に戻します」
世界樹様は一瞬虚を突かれたような顔をしてから、声をたてて大笑いを始めた。
空に向かって豊かに伸びた空色の葉を揺らし、風を起こす。
他の精霊さんたちが、驚いた様子で木陰から飛び出てきた。
「大地を元に戻すのは、人間の力では生半可なことではないぞ」
「はい」
「それにそなたが救うほどの価値がこの国にあるのか?今、おそなたの婚約者殿の姿を見せてやろう」
突然目の前に全く違う場所の映像が映し出される。
これは王場のお庭の風景だ。
色とりどりの花が咲くお庭を1組のカップルが仲睦まじく歩いている。
クロフォード様とエレーナ様だ。
「エレーナ嬢、今回の件、改めてお礼を言わせてもらいます。色々と尽力してくれて感謝する」
「いいえ、すべてはクロフォード様のためでございます!なんの苦労もございませんわ!」
「あぁまさかこんなことになるとは…。私の力足らずで申し訳ない」
「クロフォード様の優しさにつけこむような魔女が悪いのです。どうぞお忘れになって!私はいつもクロフォード様のお側におりますわ!」
「エレーナ嬢は優しいな」
「ありがとうございます。そうだ!お疲れかと思いましてクロフォード様にお茶をお持ちしたんです!我が家の庭で栽培している薬草を煎じたものなんです」
「あぁ、ありがとう。いただいて後でゆっくり飲むよ。すぐに飲み干してしまうのはもったいないからね」
「クロフォード様」
「エレーナ嬢、よければ明日も同じ時間に会えないかな?もっと話をして貴女のことをよく知りたいんだ」
「もちろんでございます!」
お2人は肩を寄せ合い、時折見つめ合いながら庭を歩いていく。
エレーナ様は終始、頬を赤く染めていた。
その姿は正に恋人達そのものだった。
婚約破棄となり、新しい婚約者ができたのだから当然の姿なのだが、胸が締め付けられる。
国を救えたとしても、王太子殿下のお側にいられる日は戻って来ないだろう。
国を守ることと、私の罪を晴らすことや婚約破棄は別問題だ。
それでも構わない。
私は今までの多くの人の優しさに報いたい。
そういうものを大切にして生きていきたい。
そう決めたのだ。
「一応覚悟は出来ているようだな。しかしそれだけてはない。国を救うためにはもう1つやらなければならないとがある」
「それはなんでございましょう」
「1度この国を浄化するため、私は嵐を起こし、全てを洗い流すつもりだった」
「っ!!」
すべて―つまり、人も物もということだ。
考えただけで身震いする。
「先程、我の力の一端を見ただろう。我は風を起こすすことができる。その風を国に巡らせ、我は大気や大地の様子を知ることができる。そして我はすでに嵐の卵となる風を大気に放っている。国を救いたいなら、その風を見つけ出し、止めるなければならない」
嵐を止める?
一体どうやって?
「そなたの覚悟を買って、チャンスをやろう。大地を浄化し、嵐を止め、国を救って見せろフェリスティア」
そう仰ると世界樹様は髪を振りかぶる。
すると空色の葉っぱがヒラヒラと1枚、私の前に落ちてきた。
葉っぱと言っても、畳1枚分はあろうかという、大きな葉っぱだ。
「それに乗れ」
言われるがまま、恐る恐る乗ってみると葉っぱは私を乗せたままフワリと浮かび上がった。
「ハロ、一緒にお行き」
「フェリスティア、またあえてうれしい!ぼくもてつだう!」
「精霊さん!ありがとうございます!」
「フェリスティア、本来我が言うべきことではないが、健闘と息災を祈ろう」
「世界樹様、チャンスをいただきありがとうございます。行って参ります!」
世界樹様が一際大きな風を起こすと精霊さんと私はすごい勢いで飛ばされ、その場を後にした。
間が空いてしまったにも関わらず、お読みいただきありがとうございました!
ここから不定期連載になりますが、物語も終盤です。どうぞ最後までお付き合いいただけますと幸いです。




