夢での出会い
今回はソフィアのお話です。最近フェリスティアとクロフォードの影が薄い…
「ソフィア、聞こえますか?」
薄紅色の濃い霧の中、遠くの方から声が聞こえる。
今、私は眠っていたはず。
にも関わらず、すでにフェリスティアに譲ったはずの巫女の正装を身に付けて霧の中に立っている。
これは夢の中の出来事なのだ、と自分ではっきりと認識できた。
「私がわかりますか?」
辺りを見回すと1ヵ所、淡い光を放っている所がある。
ゆっくりとそちらに進んで行くと、光が徐々に像を作り、その姿がはっきりと見えてきた。
「あなた様は…」
私の目の前に現れたのは、数十年に渡り、対話し続けて来た、私の代の精霊だった。
「お会いできて光栄です。精霊様」
「えぇ、久しぶりですソフィア」
「どうして…」
「今の巫女から話を聞いた今代の精霊が『母』に相談をし、短い時間であれば夢を渡る最後の力を授けてくれたのです」
先日のフェリスティアとの会話を思い出す。
気にかけてくれていたのか。
「私はずっとソフィアに謝りたかった。あの大事な時に貴女と私の関係が切れてしまったせいで、貴女を苦しい立場に追い込んでしまいました」
私が徐々にお告げを聞くことが出来なくなっていた時期は、1年に1度の雨期が来ず、国中が混乱していた時期だった。
「こんな時にお告げが聞けないなんて」という非難めいた声も少なからずあり、私自身、国の困難になにもできない自分の無力を呪った。
そして巫女の交代は今まで、巫女の死によって行われてきたため、自身の死も覚悟していたことを思い出す。
「いえ、全ては私の力不足によるものです。精霊様がお気になさることではありません」
「それは違いますソフィア。力を失っていたのは私の方なのです」
「精霊様がですか?」
「巫女と精霊の関係が、今まで巫女の死によって途切れてきたことはすでに知っていますね?」
「はい」
「これは少し間違った認識です。正確には、巫女か精霊、どちらかが死ぬことによって、関係が途切れるのです」
「では、まさか…」
「はい、精霊としての私はすでに死んでいます」
~・~・~・~・~
「精霊は死なないわけではありません。ただ、人間と違い寿命が長い。個体差はありますが約1000年といったところでしょう」
なるほど、だから今まで神託の巫女と精霊の世代交代は巫女の死によることが多かったのか。
「精霊達は死ぬと『母』の中である期間を過ごした後、再び精霊として生まれ変わります。私は今、『母』の中でその時を待っている最中です」
「精霊様、『母』とは一体どういった存在なのでしょうか」
精霊は首を横に振る。
私が踏み込んでいい話ではないのだろう。
こちらも静かにうなずいた。
「私のせいで貴女に辛い思いをさせてしまいました。本当に申し訳なかったです」
「いえ、この国の者は時として、精霊様を頼りすぎているところがあります。本当は我々王室の者が、もっとしっかりとしていなければならないのです」
そう、精霊のお告げは万能で、私達はそこに胡座をかいてしまいがちだ。
でも本来はそれがなくとも、国を守り、繁栄させていかなければならない。
それが王室の役目であり、責任なのだ。
「だから、決して精霊様がお気になさることはありません。それどころか私はずっと貴女様にお礼を申し上げたかったのです」
夢の中ではあるが、ソフィアは自然と身なりを整え、所作を正した。
「長く、このグリンフィールド王国に神の言葉を授けいただき、そして若輩者だった私をずっとそばで見守ってくださり、本当にありがとうございました」
「ソフィア…」
「もしも辛いことがあったとすれば、長年共にあった貴女様にこの事を伝えられなかったことです」
「ソフィア、私こそありがとう。貴女が私の巫女で本当によかった」
精霊の姿が少しずつぼやけてきた。
恐らく時間なのだろう。
精霊とソフィアがお互い、静かに微笑み合うと次の瞬間には精霊は目の前から消えた。
~・~・~・~・~
コンコン
「ソフィア様、お部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
控えめなノックと侍女の声で目が覚め、入室を許可する。
「おはようございます。いつもの起床のベルが聞こえず、お声がけしてしまいました。申し訳ございません」
「いえ、私こそ寝坊してしまいましたね。起こしに来てくれてありがとう」
「寝坊だなんて。まだ朝食まで十分時間がありますよ。ですが珍しいことですね」
「少し夢を見ていました」
「いい夢でしたか?」
ソフィアは少し考えて答えた。
「はい、とても」
いつもお読みいただき本当にありがとうございます!
明日からはフェリスティアの話に戻ります




