主人公の憤懣2
番外編「本来」主人公編です
前後編です。番外ばかりですみません!
前編は侍女視点のお話です
私のお嬢様の通う学院は先日から夏期休暇に入っている。
主人が学生である家の使用人達は、学院が長期の休みになると非常に忙しくなる。
普段はいないご主人様が屋敷にいたり、外出や社交の機会が増えたりと色々と御用が多くなるからだ。
貴族と言えど、人間であるので性格は様々。
素晴らしいお人柄のご主人に仕える使用人達は「忙しくなるわ」などと口では文句を言いながらも、主人の在宅を楽しみにしており、嬉々として仕事に励む。
ドンっ!!ガシャン!!!
一方、そうでもない主人に仕える使用人達にとって、主人の在宅は苦痛以外の何物でもない。
天井から聞こえたなにかが壊れるような音に、控え室で待機していた侍女達は顔を見合わせる。
そして無言で私を見る。
仕方がない。
私は大きなため息を吐き、席を立った。
~・~・~・~・~
私がこのアナスタシア家にお仕えして1年半になる。
にも関わらず、すでに中堅扱いだ。
なぜならこの1年、侍女達が次々に辞めていくからだ。
ガン!ガン!!ガン!!!
辞めていく理由は明白。
このお嬢様の性格だ。
まだ少し残っている古株の先輩に聞くと、昔はこんな方ではなく、私がこの屋敷に来る少し前から、こんなにも“意地悪で粗暴でわがまま”な性格になったのだとか。
使用人達は皆、お嬢様の言動に耐えられず辞めていったり、お嬢様ご自身に辞めさせられたりしていく。
私だって出来ることならこんな屋敷、とっとと辞めたい。
しかし、貧乏な実家は私のお給金でもっているようなもの。
弟妹を食べさせ、学校に行かせるためには、唯一接点のあった貴族であるこの伯爵家の働き口を失うわけにはいかない。
そんな事情を知ってか知らずか、私は周りにお嬢様係を押し付けられていた。
ジャリーンっ!!
「誰でもいいから速く来なさいよっ!!!」
本来、貴族は傍らに誰かしら使用人を置いておくのが常のようだが、うちのお嬢様はそれを嫌がり、使用人を呼び出す際はベルを鳴らすことになっている。
そのベルがドアに打ち付けられたのだろう。
音を聞く限り、おそらくベルは無事ではないはずだ。
重い足取りでようやく目的のドアの前にたどり着く。
大きく息を吸い、意を決してノックした。
~・~・~・~・~
「遅いっ!!!呼んだら速く来なさいよ!この愚図っ!!」
「失礼致します」の言い終わる前に、罵声と共に本が飛んできた。
それをギリギリでかわした所で周囲を見やると、ビリビリに破られた紙や割れた花瓶、常に用意されているお菓子などが散乱し、ひどい有り様だ。
「申し訳ございませんでした」
反論したり、目を合わせるとろくな目に遭わない。
できるだけお嬢様の目を見ないよう、深々と頭を下げ、部屋の掃除に取り掛かった。
~・~・~・~・~
「ねぇフェティア?あなた、フェティアって名前よね?」
「はい、そうでございます」
部屋の掃除をしばらく眺めていらっしゃったお嬢様が急に猫なで声で話しかけてくる。
歌うようにかけられる声は大変お可愛らしいが、この部屋の惨状を見ると、私の気持ちを逆撫でしているとしか思えない。
そして、なぜ(今さら)私の名前を確認してくるのか。
フェティア、両親からもらったこの名前。
平民にしては珍しい、やや凝った名前で以前は地味な私なんかに似合わないとあまり好きにはなれなかった。
しかし、新しい神託の巫女様のお名前が“フェリスティア”と仰り、名前の響きが少し似ていると知ってから、この名前は私のささやかな自慢になった。
「フェティア…あなたの名前って巫女様のお名前に似てるわよね?」
「はっ、はい…少し似ているかもしれません」
私の頭の中を読まれたのかと思い、少し焦る。
このお嬢様は、たまにまだ招待状が来ていない舞踏会の予定を知っていたり、予言とは違うが不思議なところがある方なのだ。
「私、学校で巫女様を見て知っているのだけど、あなた、彼女に背格好もそっくりよ。結っている髪、ほどいて見せてちょうだい。あぁ、やっぱり。髪の長さもほとんど同じ」
「はぁ…」
お嬢様に命じられるがまま、髪をほどき、くるくると回され体格をチェックされる。
それが一体なんなのだろうか?
「フェティア、あなたにしか頼めない、素敵なお仕事があるわ!」
屋敷に来て1年半、私は初めてエレーナお嬢様の笑顔を見た。
それはたしかに花がほころぶような、鈴の転がるようなお可愛らしいものだった。
しかしこの時、その笑顔が私には悪魔のそれに見えていた。
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