バルコニーの来訪者
ひさびさ王太子様の登場です!
会話の人波もようやく途切れたところで、ルーベン様のお仕事の部下の方がやって来て、小声で何かを話していく。
「フェリスティア嬢、申し訳ないが少し席を外します。すぐに戻れると思いますので、お待ちいただいてもいいですか」
「わかりました。ではバルコニーで少し外の空気にあたっています。いってらっしゃいませ」
ルーベン様を見送り、給仕係の方からドリンクを受け取るとバルコニーにでる。
涼しい夜風にあたると、緊張で強ばっていた肩の力が抜けていった。
1人になると、さっきの『寂しい』と感じた気持ちが蘇ってくる。
そもそも私はなにが寂しかったのか。
確かに王太子様と踊れたことは、想像以上に楽しかったし、恐らく一生に一度の光栄な経験だろう。
もしかして王太子様が素敵だったから、あわよくばもう1度、と考えてしまったのだろうか?
だとしたら、なかなか欲深い、巫女という立場なだけで貴族の仲間入りをしたにすぎない私には身の丈に合わない夢というものだ。
王太子様は誰にでもお優しいし、周囲を楽しませたりするのもお手の物なのだろう。
「お一人ですか?お嬢様」
「!!」
考え事に没頭しすぎてしまい、誰かが背後にいることに全く気がつかなかった。
もし、先程話しかけられた伯爵公の息子さんだったら…。
ルーベン様に「関わらないように」と言われていたのに、完全に油断していた!
が、慌てて身構え振り向くと、そこにいたのは今まさに考えていた王太子様だった。
「王太子様、どうしてこのような場所に!?」
「しっ!静かに!踊るのも疲れたから、こっそり抜け出してきたんだ。外は気持ちいいね」
のほほん、と仰っているが、主催者かつ注目の的である王太子様が抜け出して来ても大丈夫なのだろうか。
だが、それをお伺いするのは失礼になるかもしれない。
「フェリスティア嬢は踊らないんですか?」
「はい、今回はアーリア家でお世話になっている皆様にご挨拶をさせていただきたいので」
「ふーんそっか…バルコニーで会うのも2回目だね」
そう言われ、私もその時のことを思い出す。
前にお会いした時は、初めて聞いたお告げが本物なのか不安で苦しんでいた時だった。
「あの時は本当にありがとうございました」
「いいんです、僕が勝手にやったことだから」
王太子様は本当になんでもないことのように仰って、いつもと変わらぬ凛々しい顔で風にあたっている。
この方はこうして、多くの人に優しさを与え、励ましたり元気づけたりしていのるだろう。
それは王族としても、人としても称賛される姿だと思う。
でも、王太子様がつらい時、誰か励ましてくれる人はお側にいるのだろうか。
「王太子殿下は…なにかおつらいことなどございませんか?」
「えっ?」
「いえ、王太子様は大変お忙しいと聞いておりますし、なにか私でお手伝いできることなどあればと思ったのですが…すみません、私などが失礼を申し上げました…」
「いや、そういうことじゃなくて、そんなこと言われると思わなかったから、びっくりしただけです」
「すみません…」
「いえ、逆ですよ。ありがとう。そう言ってもらえる、そう思ってくれる人がいるだけで充分です」
やはり、私など頼りがいがないのだろう。
出過ぎたまねをしてしまった、と思い、少し寂しい気分になる。
「ただ…」
「えっ!?」
突然、王太子様に手を握られたかと思うと、まるでダンスを踊るかのように、ターン。
くるりと半回転させられる。
なにがなんだかわからず、王太子様を仰ぎ見ると、いつかのバルコニーでも見た、いたずらっ子のような笑顔でこちらを見つめていた。
そのあまりにも眩い視線に、思わずたじろいでしまい、バルコニーに寄りかかる格好になってしまう。
すると殿下は、私を閉じ込めるかのように、静かにバルコニーの柵に手を置いた。
近い、王太子殿下が近すぎる!
鼻先が触れ合いそうなほどの距離に、その甘すぎるお顔が迫ってくる。
「あんまりかわいいこと言われると、充分じゃなくなっちゃうかもしれないよ?」
…頭が沸騰して卒倒しそうです…。
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