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悪役令嬢の手記1

窓の向こうは一昨日までの雨が嘘のように、星がきらめいている。


私はため息を一つついて、先程まで筆を動かしていた日記帳を閉じ、昔、お父様にいただいた異国の風景の彫刻が施された木箱(一目見ただけではわからないからくり仕掛けになっていて、私にしか開けることはできない)に納め、それを机の引き出しにしまった。


あとは寝るだけだからと、すでに使用人達も下がらせているし、明日の支度も済んでいる。


私はクローゼットの前に掛けられた制服をそっと撫でた。


「また始まってしまうのね、憂鬱な学院生活が…。」


~・~・~・~・~


私がこの世界の秘密を知ったのは1年前。

高熱を出し寝込んだ時のことだった。


連日続いた熱と頭痛に加えて倦怠感で起き上がることもできず、侍医達もお手上げ状態。

ベッドでうなされ続ける娘を前に、両親は娘の死をも覚悟したらしい。


しかし、私がうなされたていたのは、高熱の苦しさだけではない。この間に見た夢のせいだった。


~・~・~・~・~


「ようやくエンディングまでこぎ着けたわ!」

「お疲れ~。ほんと、なかなか難易度高いゲームだったわね~。メインの王子攻略に、あんたがここまで手こずるとわ」

「選択肢がめちゃくちゃ多くて、名無しの脇役との会話とかもゲージとかイベント発生条件とかに影響するから複雑なのよ、このゲーム。特にメインルートの悪役令嬢が手強くて、どの選択とってもゲージとか獲得スキル下げてくるから大変なのよね」

「しかもこの悪役令嬢、なかなかやること陰湿でえげつないよね」

「現実であったらイジメ、ハラスメント果ては犯罪か!?って感じだもん」

「最後に婚約破棄されて、家はとり潰し、国外追放、ほんといい気味よ」


私の住む世界とは全く異なる世界の風景と会話。


ゲームとは一体なんなのだろう。


黒く四角い額に映る不思議な絵は、次から次へと勝手に移り変わっていく。


まるでお芝居を閉じ込めてしまったようだ。


その絵はどうやら結婚式を映しているようで、そこに登場する方はなぜか、我が国の王太子様にそっくりだった。


「この悪役令嬢、たしか名前あったよね?説明書見せて?」

「はいはい、あっ!あんたポテチ食べた手で触んないでよ。この悪役令嬢、たしか名前は―」


私は絶句した。


会話から聞こえたのは間違いようもない。

私の名前だったのだ。


~・~・~・~・~


机の明かりを消し、ベッドに潜り込む。


ただ、明日からの学院生活のことを考えるとなかなか眠れなかった。


あの悪夢から目覚め、両親の顔を見たときはほっとした。


体力が回復し、少しずついつもの生活を取り戻すとやっぱりあれは、高熱が見せた夢だったのだと思えてきた。


しかし、それこそが束の間の夢だったのだ。


病気からも回復して無事王立学院への入学を果たし、教室へ入ったとき、目の前に現れた少女に驚愕した。


「初めてお目にかかります、ロザリア様!これからよろしくお願いいたしますね♪」


入室早々に、私の前に走り寄ってきて話しかけてきたのは、悪夢の中で見た結婚式で、王太子様の隣に寄り添っていた令嬢そのものだったのだ。


~・~・~・~・~


現在、王太子様に公式に発表されている婚約者はいない。


ただ王族に嫁ぐのは歴代、貴族の家の者が多く、中でも公爵家は多くの「未来の王妃」を輩出している。


今の公爵家の中で未婚の女性は、バランタイン家の私だけ。


そのため貴族たちの中でも、私が婚約者第一候補と目されている。


未来の王族と円満な関係を!と思っている家はやたらと取り入ろうとしてくるし、我が家から王族を!と息巻く家からは疎まれている…。


なかなか寝付くことができず、ベッドの中で寝返りを打つ。


そもそも私は王太子様と結婚などしたいのだろうか。


もちろん家のことを考えればそうした方がいいし、私だっていつかどこかには嫁がなければいけない。


ただ、あの悪夢―主人公に意地悪をし、イジメを行い、最後には国外へ追放されるあの夢―が気になって、学院生活を平穏に送り、未来を描くことになんだか抵抗を覚える。


そもそも、私は他人のドレスを破いたり、誰かにケガをさせたり、そんなことしたくないのだ。


学院生活最初の1年はとにかくそういったことを起こさないように、なぜかやたらと絡んでくる例のご令嬢とできる限り接点を持たないように、それだけに注意をはらってきた。


あの夢のようにならないために、学院生活の間は神経をすり減らしてきた。


明日からそんな毎日がまた始まるのだ…。


「ダメよ。ちゃんと寝なくちゃ。明日は編入生の案内も先生に頼まれているのだから」


私はなんとか気持ちを切り替えて、編入生に案内する学院内の場所を考え始めた。


そうすることでようやくうつらうつらできたのは、空が白み始める頃だった。

お読みいただきありがとうございます!

本日もう一話投稿予定です!

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