第20話「償いとこれからの一歩へ」(前編) ‐Side狭霧その3‐
ここでヒロイン狭霧視点になります。ヒロイン視点では初の前後編です。よろしくお願いします
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信矢が私を助けに来る少し前に時間は遡る。私、竹之内狭霧は今まさに悪夢と遭遇していた。眼前には他校の男子生徒が七人。その内の三人は顔見知りだ。本当は思い出したくも無いほど大嫌いな連中、そして残りの四人の中で知らないけど大柄な一人が、いきなり私に付き合えと言い出した。こんな筋肉ダルマみたいな人間はお断りとハッキリ言うと、それは大声で喚き散らした。
後ろにいた優菜や部長も笑っていたが、次の瞬間に近くを歩いていた三年生の男子の先輩が殴られ昏倒させられた。完全な八つ当たりだ。体育館内で悲鳴が上がる。リーダー格の見澤がこっちに威嚇するように言った。
「竹之内よぉ!! オメーの親父とあのクソ教師のせいで俺らはひでえ目に遭わされたんだよ!! 無理やり転校させられるわ、家族には厄介者扱いで山奥の全寮制の高校に突っ込まれるわで散々だ!! ありえねえ!!」
「「そーだそーだ!!」」
「そ、それはあんた達の自業自得でしょ……」
「うっせえなぁ……ガキの時は陰キャだったクセに調子乗りやがってよぉ!!」
その後も止めに入って来たうちの男バスの部長も拳一発で黙らせてしまった。部長は身長が一九〇センチ以上有るのに一撃だった。後で聞いたら、相手の筋肉ダルマはあれで県大会の常連のそこそこ強いボクサーだったらしい。
「だけどよ。試合前に後輩にこの画像見せられてな。イライラしたぜ。あの根暗金髪女がカレシ作って楽しそうにしてんだからよぉ!! おかげで俺は試合で負けちまった!! ありえねえ!!」
「それって……クレープ屋さんの写真……なんであんた達が……」
「ぶん殴った後に話を聞いたらお前とそのカレシに絡んで返り討ちにあったらしいからな。後輩の仇討ちだ。優しい先輩だろ俺ってさぁ!!」
私と信矢に絡んで来たってあの三人組の事だよね?せっかく良い所を台無しにされたから覚えてる。あの後二人でご飯に行けたからそれで忘れようとしてたのに、ほんと最低な気分。なにより高校に入ってからの信矢との初デートをこんな奴らに侮辱されるなんて、あれは私の人生でもトップスリーに入るくらいの大事な思い出なんだから、そう思って私はあの日の放課後デートの事を思い出していた。
◇
あの時の私は、とりあえず部活の皆との行きつけのクレープ屋さんに信矢を連れて行く事にした。ほとんどの人は知らないだろうけど信矢は意外と甘党だ。だからカップルがよくやると言うお互いのクレープを食べさせ合うアレをやりたかった。男子では信矢としかしたくなかったからこの機会にやっちゃおうと思ったからだ。
だけどなぜか信矢はおかず系のクレープばかり選ぶので、さり気無く誘導すると、なんと私の狙い通りのクレープを選んだ。ふふん。いい女は男を手玉に取るって言うけど今回の私は正にそれだったね。後日、凛と優菜に話したら二人とも呆れた顔をして『はいはい凄い凄い』と言った後になぜか信矢が大絶賛されていた。
色々とサプライズもあったクレープ屋さんで最後に写真の件もあったけど二人の記念にと画像データを貰った上でボードに貼ってもらった。信矢は最後まで納得してなさそうな顔をしてたけどここは押し切った。だってこれは信矢が私のものだと示せる絶好のチャンスなのだから。しかしこの後は少し色々あった。クレープを約三つも食べた私はそこで満足していてこの後のデートプランなんて考えて無かったのだ。
「ま、奥まで行く途中にも色々見たい物も有るしさ、買うもの決まってるからゆっくりと見て行こうよっ!!」
「分かりました。ですが、それではまるでウィンドウショッピングの方がメインのような気が……」
鋭い、やはり信矢は鋭かった。長年幼馴染をやっていたから多少のブランクなんて関係無い鋭さだ。そしてこのままじゃ高確率で解散になってしまう。取り合えずこう言う場合は強引に押し切って落ち着ける場所に誘い込むのが得策、と雑誌に書いてあった。
中学の頃から雑誌を使って何度もシミュレーションをして来たので完璧だ。取り合えず雑貨屋とか適当なところに誘った後に流れで……ファミレス? いやカラオケに行こう!!暗いから色々出来るって書いてあったはず!!
「少し歩き疲れちゃったな~少し休みたいな~」
「まだ一〇分も歩いて無いのですが……体調が悪いのなら今日は切り上げましょうか?」
「あ、やっぱり大丈夫だったみたい!! 全然余裕!!」
「なら先を急ぎましょうか?」
ぐぬぬ……これはバレてる。明らかに私の動きを読んだ対処法だ。普段は助かるけどこう言う時は本当に厄介な信矢の気づかいスキルだ。次のカラオケ屋まであと三つくらいしかお店が無い。時間稼ぎにドラッグストアに入って何かを探す。そう言えば母さんの化粧水がそろそろ切れそうだから買っておこう……これだっ!!
「完璧な作戦を思いついてしまった自分がこわい……フフフ」
私は母さん用の化粧水や自分用の乳液他にも必要なものを買うと信矢を探す。珍しく信矢はキョロキョロしている。そんなに珍しいのかな?そしてこちらに気付くと二人で店を出てすぐに私は作戦を実行する。
「あ、あ~!! ドウシヨー!! メイクが崩れてきたからどこかで直さなきゃ~」
「狭霧? 今度はどうしましたか?」
なんか若干呆れてこちらを見ている気がしないでも無いけど私の気のせいだろう。ここまで来たのなら後は行くしかない行くとこまで!!
「どこかでメイク直さなきゃ……あ、あんなところに三〇分で170円のカラオケ屋さんが~!! ちょっとメイクを直して休憩するには良いと思わないカナ?」
「いいえ。そもそもメイクと言いますが……狭霧、あなた化粧をしていたのですか? ちなみに学院の校則では禁止なのですが?」
「なっ!! ちゃんと目立たないように毎日ナチュラルメイクしてるから!! 分かり難いだろうけどキチンとしてるよ!! ほら、バッチリ崩れてない!! だから早くカラオケ行こう!!」
スマホのミラーで確認するが崩れてないのを確認してシンの方を見る。朝会う時と違ってちゃんとメイクしてるのにシンは気付いて無かったなんて、やっぱり私に興味無いんだ。ここ最近はいつ会ってもいいように頑張ってたのに。あとカラオケ行きたい!!
「ええ、その通りです。今朝会った時の顔はしっかり覚えているので今と若干違うのは分かりますよ? なのでメイクは崩れてないと断言出来ます。それと今『崩れてない』と自白しましたよね?」
「え……あっ!? そ、それは……そのぉ」
「そもそも私が狭霧の変化に気付かないとでも思いましたか? 私から言わせてもらえば、メイク前は昔から知っている可憐な狭霧で、メイク後は少し大人っぽい綺麗な狭霧です。つまりどちらも私の可愛い幼馴染です。あとカラオケは行きません。良いですね?」
「~~~っ!! …………はい」
こうしてカラオケへ行こうとした私の作戦はアッサリと潰えた。上手く丸め込まれたとかチョロいとか言われても仕方ない。だって今顔真っ赤だから。絶対に赤くなってるのが分かるくらい顔が熱い。さり気無くそっぽ向いてる信矢も首が赤くなってるから多分照れてる。照れるなら言わなきゃ良いのにね。嬉しかったけどさ。
そしてその後に起きたナンパ?未遂事件、なんか信矢が終始ボケ倒して回避しようとしてたから黙ってたけど、途中からいきなり私の事をカノジョ扱いしてくれたのでさっきの事もあって完全に頭が真っ白になってしまった。
「いえいえ。私のカノジョの過失なのですから、私がお支払いすると言っただけですが? 何かご不満でも?」
「カノジョ……ついに私が……えへへ。夢の幼馴染卒業……」
その後に信矢がボケ倒し過ぎたせいかもしれないけど相手の茶髪の人が信矢に殴りかかって来た。信矢はそれをかわすと私に下がるように言った。私は喧嘩なんてしたら絶対に危ないから逃げるように言ったけど、信矢は何かいつもと少し違って見えて改めて私に下がるように言ったので渋々後ろに下がった。
「はっ!? テメ―もボクサーかよ!? サラッと回避しやがって!!」
「いえいえ。私は、ただの器用貧乏です。少し心得が有るだけの素人ですよ?」
「ほざけよっ!!」
「なるほどなるほど。やはりアウトレンジ、『ボクサー』ですか」
信矢は冷静に言ってるようだけどボクサーにボクサーと言ってる。当たり前じゃないかな?だけど相手側の二人は違ったようで動揺しているように見える。
「マズイ!! お前のスタイル今のでバレたぞ!!」
「貴重な情報を感謝します。やはり『ファイター』では無い。確信を持てました。なら対処のしようも有りますね?」
「そんなの、分かったところでぇ!!」
だけどその宣言通りに信矢には攻撃が全部届いてなかった。しかも信矢は素人の私が見ても分かるくらい相手が隙だらけになったのに反撃しなかった。たぶんわざと反撃してない……やっぱり、強くなってる。最後は周りの人が集まって来て三人組が逃げ出したのでこの事件はここで解決した。
ただこの後に、三人が私たちのデートしたクレープ屋で私たちの写真を見つけて、それを三人と同じ部に所属してたあの男たちと繋がってしまうなんてこの時は思ってなかった。とんでもない偶然だった。やっぱり信矢の言う通りにしとけば良かったと死ぬほど後悔する事になった。
その後は信矢が珍しく手を繋ぐとか言ってくれたのが嬉しくて思わず腕に抱き着いたりしてると目的地に着いてしまった。そしてお店に入ろうとした時にその二人は出て来た。見覚えのある二色頭と悪い目つきの男、あの二人に信矢を関わらせてはいけないと頭の中で警戒感を強めて信矢を強引に店の中に連れ込んだ。
だけど信矢は最後まであの二人を気にしていた。やっぱりまだ気にしてるんだねアイツらの事を……だけどもうアイツらの所には行かせない。今日は二人だったけど全員集まったら……また私の信矢を取られる。
「もう、誰にも渡さないから……今度こそ」
「ん? どうしましたか?」
「何でもないよ! じゃあ早く買っちゃうね」
再度シンの腕を引っ張って店の中に入った後は取り合えずテープだけを買った後はどうやって時間を延ばすかを考えているとスマホに通知が入っていた。
確認すると母さんから今日は早く帰れるから晩ご飯は何を食べたいかと言う通知だった。今思えば酷いけど少しイラっとした。母さんまで信矢と私のデート邪魔するんだって、だから私はすぐに今日は部活仲間と食べて帰るから遅くなる、と返信した。
「うん。ありがと……あ、ごめん連絡来てた。…………母さん、今日も残業か」
「奈央さんお忙しいのですか?」
「う、うん。そうみたいだよ。はぁ……でも家に帰っても一人だし……ご飯の用意めんどうだな~」
信矢が一瞬探るような目つきでこちらを見たけどそれ以上追及はしてこなかった。こう言う時は鋭いから気付かれたかもしれないけど、強引に押し通そうとした。だけど中々折れない。
でもそれも織り込み済み、だからさっきドラッグストアで買っておいた目薬を使ってキチンと目は潤ませておいた。なんか効果が大きすぎて信矢に悪い気もしたけど今は自分優先!!去年から皆に連れて来られるようになった『サイですか?』通称『サイデ』に入ると奥の席へと通される。
「取り合えずドリンクバーと何にする?」
「このハンバーグ&グリルのセットで。ドリンクバーも付いているので私の分は大丈夫かと」
「じゃあこっちは軽めにパスタとサラダでいいかなドリンクバーは私の方は単品でっと、じゃあ店員さん呼ぶね?」
「あ、あの……良ければなんですが、こちらのセットに付いてるサラダはいりませんか? こちらはセットなので少々量も多いですし、どうせサラダを頼むならこれを差し上げますが……いかかですか?」
おかしい、シンが珍しく余裕がない。普通の人なら気付かないけど若干引きつった顔をしてるし目が少しだけ泳いでる。何か有ると判断して私はもう一度メニューを見る。ふふん、そう言う事ですかぁ……。私の口元が思わず緩んだ。向こうから見たらニヤニヤしてるように見えるだろう。
「な、なんですか?」
「ふふっ。相変わらず玉ねぎダメなんだね? し・ん・や?」
「ぐっ……それは……」
メニューを見ると本日の日替わりサラダはオニオンサラダ、信矢は本日のディナーコースを注文する予定でサラダとスープは強制的に日替わりしか選べない仕様になってる。これでスープもオニオンスープだったら悪夢だったね。だってカレーに入ってる玉ねぎを端に除けるくらい嫌いだったもんね。
「やはり注文のへんこ――「ううん。私もお小遣い節約したいし助かるからOKだよ。コスパ大事だよね?」
今日はいっぱいワガママ聞いてもらったし、最後はここまで付き合ってくれた。だからこれくらいはね……それに将来的にちゃんと節約出来るアピールはしておいた方がいいはず。
「ありがとうございます。私も少し引き締めていかないといけない事情がありまして、助かります。しかし注文しておいて残すのはさすがに気が引けて」
「ふ~ん。信矢は結構無駄遣いしないイメージだったのに、何か買うの?」
「ま、色々と秘密です。それにそもそも母に色々と言われてまして……」
あ、それで察しました。シンママは元は会計士で今はフリーで以前勤めていた事務所を在宅で手伝っているらしい、とにかくお金の管理に厳しい。ケチなんじゃなくて厳しいのだ。
何でそんなに詳しいかと言うと学生時代は私の母さんも管理してもらったらしく、事あるごとに『あ、これ学生の時に先輩に言われたことだ』と言って無駄な出費を抑えたり、たまに二人で電話で話している時も『分かりました!先輩!』と、もはやアドバイザーとして我が家の家計の一助となっている。
そんな私の将来のお義理母さんを持っているシンなら私より徹底管理されているのは想像に難くない。将来的に私も少し恐い。
「あはは。シンママは相変わらずなんだね? あ、私、少しトイレに……」
そして立ち上がった瞬間にポケットからポロっとさっきウソ泣き用に使った目薬が落ちる。あ、マズイと思った時にそれは信矢の足元へと落ちて行った。
「これは……ほお? どう言う事ですか? 竹之内さん?」
あ、これはバレたと思って何も言わずにトイレに逃げ出す。そして軽く鏡を見て本当にメイクが崩れてないか確認すると目薬を使ったので目元だけが少し怪しかったのを軽く整える。そして何食わぬ顔で戻ると料理が来ていたので待っていたシンと一緒に食べ始めた。しっかりサラダはこちらに来ていた。
「さて、まずはこれをお返ししましょう」
「アハハ。ありがと……やっぱりバレてる?」
「おおよそは、ですが先ほども言いましたが今回だけですよ? せっかくの二人での外食ですからね」
目薬を返されると、これ以上はお説教は無いみたいで一安心。もしかして気付いてたから怒らなかったのかもしれない。その後は二人で他愛のない話をしながら私たち二人の時間は過ぎて行った。信矢は先にご飯を食べ終わるとスマホを弄っている。その後に私も食べ終わると食後の紅茶を取りにドリンクバーへ、信矢にも同じものを持ってくる。
「すいません。少し母に連絡をしていたので助かりました。竹之内さん」
「あのさ……信矢。ちょっといいかな」
私はサイデに入ってからの違和感に気付いた。店に入るまでは、確かに『狭霧』と呼び捨てだったのにこの店に入ってからは『竹之内さん』になっているのだ。これに異議を求めると信矢はアッサリとその理由を説明してくれた。
「クレープ屋ではカップル割のための演技で、先ほどの乱闘未遂は、あなたへのナンパのための牽制で、その必要が無くなったので本来の呼び方に戻しただけですよ?何か問題が?」
「有りまくりで~す!! 私は昔みたいな呼び方か最低でもさっきまでの名前の呼び捨てが良いからで~す」
「しかし入学してから全く接点も無かった私たち二人がいきなり呼び捨てで呼び合うのはどうかと……」
う~ん。ここまで水汲みポイントを貯めて来たのに最後の一線を中々超えて来ない。ここまで押してるのにそろそろ気付いてくれても良いのにと思う反面、心のどこかで分かっていた。あの出来事があってから信矢は臆病になったんだ……私以上に。だって私が裏切って傷つけてしまったから優しいシンを……。だから私が、私から行くしかない。
「でもさ。信矢の事はもう女バス公認だと思うよ? 私は良いんだけど凛と部長辺りが高確率で噂しちゃうと思うけどな~? ウワサされると恥ずかしいんだっけ?」
「その話題は勘弁していただけると、別にウワサくらいなら構いませんよ。公私を分けるべきと――「私は、私は分けられたくないな。信矢が……シンがどうしても嫌なら私は諦めるから、でも昔みたいに戻りたいんだ私は、ワガママなのは分かってるけどさ」
「……竹之内さんこそ嫌では無いのですか? これでも面倒な人間と自覚してます。それに生徒会所属で他にも色々噂が有るので、何より私たちは不釣り合いで、それから……」
まだ言い訳をぐちぐち言ってるシンを見て私は驚いていた。私の中での信矢は優しくて滅多に怒らず、けどいつも私を守ってくれた人。自分の事をここまで卑屈に言う人間ではないと思ってたから。だからこんなに悩んで、苦しんでいるなんて思って無かった。いや自分が傷つかないように思いたくなかった。私を守ってる時にいつもシンは傷ついていたのに、そんな事を今更気付くなんて本当に幼馴染失格だ。だけど、それでも私は……。
「私は、もう後悔したくなから……だから、私の名前を呼んで……信矢」
「っ!? はい……私も、戻れるなら戻りたい、ですがそれは難しいです。ですが新しく始める事なら出来ると、そう思ってます……だから改めてよろしくお願いします……狭霧」
「うんっ!! 信矢!! これからよろしく!! 湿っぽいのはこれくらいで良いよね? さっき思ったんだけど連絡先!! ID教えてよ。さっきの三人には教えようとしてたよね? と~ぜん私にも教えてくれるんでしょ?」
そこからはぐいぐいと押しの一手で行けたしIDの設定名も少しだけ弄らせてもらった。信矢は渋い顔をしていたけど最後には『家族や知人くらいしかこちらのIDは知りませんからね』と言って笑って許してくれた。なんでも生徒会用のアカウントと二つを使い分けているらしい。なんか仕事用とプライベート用とかカッコいいかも。
その後は少し話をしたりその場でメッセージを送り合ったりしてる内にすっかり遅くなり、その日は解散となった。もちろんアパート前まで送ってもらったけどその間はずっと手を繋いでくれた。あんまり抱き着きすぎると色々と困ると信矢から言われたので手を繋ぐだけにしてあげた。名残惜しいけど後で連絡すると言って別れたまでは良かったけど、その後に問題はあった、家の前に母さんが居たのだ。
「取り合えず入りなさい狭霧? 色々聞きたい事があるから」
「は、はい……」
やっぱり嘘なんてつくもんじゃないよね……助けて信矢~なんて思ったけど意外にも待っていたのはお説教では無かった。
「さて、狭霧。さっきのシン君でしょ!! この前見た写真の通りだったから上から見てもすぐ分かったわよ? 去年より背も伸びてたしね」
「へ? 怒らないの? てかシンの写真って何よ!!」
色々と言いたい事は有るけど大人しく謝ろうと思っていた私の決意を返してよ母さんという顔で見ると母さんはこっちを見てスマホの画面を見せて来た。
「そりゃ私は先輩経由で色々情報仕入れてますからね~♪それにシン君のIDの登録名が急にこんなんになったら分かるわよ。私もさっき先輩から連絡来てビックリしたんだけどね。そしたら、あら不思議シン君も帰りが遅れるって先輩に連絡があったみたいよ? あんたが私に連絡して来た時とほぼ同時刻にね?」
そう、さっき私はシンのID名を『春日井信矢@竹之内狭霧の幼馴染』と変更した。更に詳しく聞くと元々はシンのお父さんが何か用事あったらしく信矢に連絡を取ろうとしたら変化に気付きシンママへと連絡、そして母へと連絡が来たらしい。親のネットワークがほぼ完璧だったんですけど。
「だから母さん聞きたいな~? シン君との久しぶりのデート? どうだったのかしら? 楽しかった?」
「ま、まあ楽しかったよ……しょうがないから少しだけ話すけど……」
私は今までの出来事を一通り話すと母さんはうんうんと頷いていた。なんか色々と複雑だ。親に自分の恋バナしかもデート報告とかするんだろうか?あんまりしないと思うけど。
「それで最近あんた朝早くからどっか行ってたのね……声かけるのに一ヵ月って相変わらずヘタレねあんたは……それなら教えてくれればシン君に予定聞いといたのに」
「うるさいなぁ……。今更どんな顔してシンに会おうかとか必死だったんだから。それより……さっきから母さんこそ何で当たり前のようにシンのアプリのIDとか知ってるの? その、いつから?」
「去年の入学式の時よ。ほらあんたが『早く部活に慣れなきゃいかないから顔出してくる』とか言った時よ。あの後に先輩とシン君と合流して三人で入学祝いしたのよ。そこでID交換しといたの」
な、なんだって……そんなビックイベントがあったなんて聞いてないんですが?それを言うと『だってあんた聞いて来なかったでしょ?』と言われる始末。あの時は部活で頑張ればシンも見てくれると思っていたから部活優先だった。
「じゃ、じゃあ写真って何!!」
「ああ、たまに先輩に送ってもらったりしてたのよ。これとか」
そう言って母さんは複数枚の画像をスライドして見せてくれた。見ると月一で送ってもらっていたようで入学式のも含めると十三枚あった。
「あのっ!! お母様!! 私ね今日ドラッグストアで足りない物を色々と補充して来たんですけど!!」
「あら気が利くって……それカラオケに誘うのに失敗した時に間に合わせで買ったとか言ってたのじゃない? でも明日の帰りにでも寄ろうと思ってたからちょうど良かった。それで?」
「うん!! シンの写真全部送って!!」
そしてこの日のデートは本当の意味で終了した。最後に親に報告とかやっぱり変だと思いながらシンに翌日、朝のジョギングはいつもの公園前で待っている趣旨を伝える連絡をするとすぐに了承する返事が来る。
いきなりガツガツ行っては行けないので今日はこれくらいで止めておく。だってこれからはいつでも連絡が取れるんだからね。
お読みいただきありがとうございました。まだまだ拙い習作でお目汚しだったかもしれませんが楽しんで頂ければ幸いです。読者の皆様にお願いがございます。
こちらの作品は習作なので誤字脱字のご指摘などして頂けると作者は大変喜びます。どうしても誤字脱字を見逃してしまうので皆様のご協力をお待ちしています。また些細なアドバイスなども感想で頂けると助かります。