第21話「償いとこれからの一歩へ」(後編) ‐Side狭霧その4‐
ヒロイン視点の後編です。次で主人公視点に戻ります。よろしくお願いします。
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時間は再び戻って私は絶賛大ピンチの状態だった。さっき一瞬で私に振られた枝川とか言う筋肉ダルマのボクシング部部長はトイレに行くと言って体育館のトイレに入ってしまい。目の前にはクズとその取り巻きがいた。
「俺がクソし終わる前には片付けとけ見澤ァ!! あと金髪も黙らせとけ!!」
「はいっ!! 枝川さんっ!! わっかりましたぁ!!」
相変わらずこの見澤のクズさは健在のようで強い者のは全力で媚びて弱い者にはどんな卑怯なことでも平然とやる。信矢に対するイジメもそうだった。これは後からパパから聞いた事だけど、動機は体育の時間でドッジボールで外野の信矢に当てられ負けて以来、信矢と親しかった私にちょっかいをかけていたそうだ。
そしてついにあの日に信矢が爆発した。その結果、私たちはこんな状態になってしまった。と、そこまで考えていたら他校の男バスの部員が見澤たちに詰め寄っていた。クラスメートらしい。
「いい加減にしろ! 見澤!! これ以上うちの学校の名前に泥を塗るな!!」
「んだよ!! てめえも邪魔すんのかよ!! やっちまえ!!」
他校のバスケ部の人も四人が来ての、つかみ合いになったけど人数も多ければ、バスケ部とボクシング部、ケンカが強いのは目に見えて明らかだった。ある人は鼻血を出して倒れ、ある人は昏倒させられてしまった。その光景を見て女子の先輩たちが悲鳴を上げて逃げ出した人も出て来た。
逆に一年生は男女共にこの事態に怯えるばかりだ。だけどここで私は最大の違和感に気付いた。信矢が居ない。この状況なら真っ先に仲裁に入って場を収める信矢が出て来ないのが疑問だったけど、すぐに思い出した。
さっきスマホを見た後にどこかに行ったと。生徒会の仕事……もしかしたらあの吉川って一年生と何かをしているのかも知れない、タイミングは最悪。そう言えばあの子のせいで私の不名誉なあだ名が信矢にバレたんだった。
◇
「ゴメン無理……他当たって」
「理由を教えて下さい! 竹之内先輩!!」
「言う必要有る? じゃ、急ぐから」
私は体育館裏に呼び出されて告白されていた。呼び出したのはバスケ部の一年生の男子だった。身長も一八〇センチを超えていて信矢よりも少し大きい。思ったのはそれだけ、その程度にしか思わなかった。
部活中に『すっげぇきれいな金髪っすね』とか地雷を踏み抜いて来た後輩は入学して来てからしつこく、そして本人的には距離を詰めたと勘違いして告白して来たみたいだった。今日は時間の都合上、信矢は一緒に帰れないと昼に連絡があったから昨日の件を凜と優菜に相談しようと思っていた。そうしたらここに呼び出されたから正直言うとかなり不快だった。
「はぁ……サイアク」
「お、タケお帰り~!! いつにも増して早かったわね」
「そりゃ誰が来ても一緒でしょ? 今の狭霧なら」
部室に戻るといつもの二人に茶化される。何人か別の先輩には睨まれるけど無視だ。もしかしたらあの一年を狙ってた人が居たのかも知れない、そんな事を考えてると部長も近づいて来る。
「あ~……タケ? 一応同じバスケ部だからさ、ちゃ~んと穏便に断った?」
「さぁ? 向こう次第ですね。すいません部長、私もう帰っても良いですか?」
みんなと帰ろうと思ったけど気分が極限まで不愉快だった。シンに会いたい。そう思って連絡したい衝動に駆られる。部長が「はいはい。どうぞ」と頷くと今度は凜と優菜が近づいて来る。
「え~! 私たちに今日は報告でしょ?」
「シンのとこ行って来る」
「え? 副会長のとこって……今日無理だったんじゃ?」
時間が合わないから無理と連絡があっただけで、この時間なら合うかも知れない、取り合えず校舎の方を見ようと体育館を出て校舎を見ると生徒会室の電気は付いていた。もしかしたらまだ残ってるかも知れない。
「ゴメン。ちょっと見てくる!!」
「ちょ……狭霧……行っちゃった」
「やっぱりあんたらの言う事って本当だったのね。いや、赤音ちゃんもポロっと言ってたから疑ってた訳じゃないけど……うちの女神様ゾッコンじゃない?」
「部長。それ言うとタケ怒りますよ~? 部内じゃ言わないように暗黙のルールなんですからね?」
後ろで部長たちが何か話していたけど興味は無かった。そんな事より生徒会室に向かって私は走った。早く信矢の元に早く行きたくて仕方なかったから。そして走って来た息を整えて扉の前に着くと信矢の声、それと女の声が聞こえた。二人分しか声が聞こえない、まさか二人きりな訳無いよね?そして私は我慢できずノックをして同時に入室していた。
「嘘……女バスのGG……何でここに?」
「やっぱまだ居たんだ……シン……電気付いてたから気になっちゃって」
何か今すっごい不愉快な単語が聞こえた。相手を一瞬見ると、黒髪ロングの清楚系……羨ましい。やっぱり女子と二人きり……さっきの不愉快な告白を忘れるために来たのに更に不愉快になる。負の連鎖ってこう言う感じなのかな?
そして不愉快さマックスなその女子を無視して信矢と話してたら、さすがの信矢も怒ったのか少し強めの口調になった。分かってました。完全な八つ当たりですよ~。
「狭霧。後輩に対してその態度はさすがにどうかと思いますよ?」
「う……分かった。2-9の竹之内狭霧。スポーツ科バスケ部所属。そして、信矢の幼馴染よ!!」
ふふん!!言ってやったわ。信矢と放課後に二人きりなんて羨ましい事しているんだからこれくらいは許されるはずよね!!と、相手を見て言うと、その女子が一瞬ビクッとした後に、こちらを睨み返してきた。
「……はい。1-6の吉川紗枝です……生徒会所属の春日井先輩の《《唯一の後輩》》で、先輩には、《《いつも》》お世話になって、《《日々色々と》》ご指導頂いてます!!」
は?はあああああああ!?色々とお世話になってる!!日々ご指導!?信矢の唯一の後輩!!
むしろお世話したいのはこっちなんですけど!!
私だって信矢に色々なことを指導してもらいたいんですけどっ!!
あとこっちは四歳の頃からの唯一無二の幼馴染なんですけどおおおおおおお!!!
心の声が何とか漏れ出ないように表情を作りながら私は理解したコイツは敵よ。明らかに挑発して来たし、今のうちに潰しておかないと悪い虫は信矢の周りに置いておく訳にはいかないから……ふふっ。
「私も驚きました……女バスのGG。噂と違うんですね? まるで普通の女子じゃないですか」
「女バスのダブルジー? 何ですかそれ?」
「女子の間で勝手にそんな事言われてるだけ。シンは知らなくていいからっ!!」
やっぱり女子だから知ってるんだ。信矢には知られたくなかった。取り合えず私がそんな呼ばれ方を望んでいない趣旨を伝える。気まぐれでクールな女神とか、私はただ鬱陶しいだけの告白をさっさと断っていただけなのに、さっきのもそうだけど私が受ける告白は一人だけからってあの時から決めてるから。
「なるほど……それで狭霧は不機嫌になったわけですか。納得です。そんな呼ばれ方絶対に嫌でしょうから」
信矢がそう言った瞬間に自然と力が抜けた。自然と体に力が入っていたみたいで次の瞬間に頭をポンポンと撫でられる。それだけで怯えも怒りも自然と消えて行った。
「なるほど、確かに今みたいに必死に耐えている姿は、私には見慣れたいつもの狭霧ですが、狭霧を知らない人からしたら、睨んでるように見えるかもしれない。ただ泣かないように頑張っているだけなのに……」
「別に睨んでないし……なるべく見ないように目は合わせなかったけど」
「続けますね? まず狭霧は美人だ。対外的に見ても私個人から見ても、そして美人が少し強く見るだけで恐いと思う人種もこの世にはいますからね? あと昔から狭霧は男性自体が苦手で、だから早く告白を断ろうと焦って素っ気無い態度になる。なるほど金色の女神様とは言ったものです。ただ、私にとっては、よく知っている狭霧なだけなのですけどね?」
そう言って私の正面に立って私の目を見つめた。反則だ。全部正解。嬉しくて顔がニヤニヤしそうになるけどここは学院なので表情はそのままにしたまま頷く。やっぱり私を分かってくれるのは信矢しか居ない。だけど同時に少し悔しかった。ここまで見透かしてるなら私の思いにも気付いて欲しい。
「うん正解。中学の頃から告白を断る時はそう言う風にしてたんだ怖かったし、男子って、すぐに私の胸とかお尻とか凄い見て来るんだよね。次に髪の毛。シンはいつも胸しか見て来ないけど……」
だから意地悪を言う。私は分かってるんだよ?って……効果はてき面で凄く動揺して慌てて視線を反らした後にまた胸を見た。ほんと大きく育って良かった。これは母さんに感謝しなきゃいけないなと思ってモゴモゴ喋っていると信矢も照れて語尾が弱くなってる。
言ってて自分も恥ずかしくなって信矢の方に頭を押し付けると撫でてくれたので、もっと撫でてもらおうと頭をグイグイ出していると後ろから吉川さんが騒いで出て行った。信矢は少し複雑な顔をしていたけど私は高らかに勝利宣言をした。ポッと出が幼馴染に勝てると思わない事ね!!
「じゃ、信矢行こ!!」
そして神社へと信矢を誘導するために昨日やったように腕に抱き着いた。そして私は今日の出来事もあって決心した。この後、神社で信矢に告白しようと、そこで今までの事を全部謝って本当の関係に戻ろうと幼馴染で恋人になるという長年の野望を叶えようと決めた。そのための第一歩のために校門付近で見せつける事にした。
「あ、あんた……隠す気ゼロね……」
「えへへ~。ごめん凜、優菜わたし、シンと帰る事になっちゃってぇ~」
「うっわ……あんた誰よ。てかタケか。あんたいつもの能面どこ置いて来たのよ」
中々に酷い言い方だけど、先ほどまで不機嫌マックスだったので、その変化に驚いてるのだろう。実際二人や部長には悪い事をした気がするので後で謝っておこう。ちなみにこの下校する集団にはバスケ部の男子もいる。
「嘘だろ。あれ竹之内か? ほんと誰だよ?」
「あぁ~里中くん知らなかったっけ? あれがタケの男よ」
「えっ!! 竹之内先輩ってカレシ居ないって聞いてたのに……」
あ、二番目に告白してきた部長とさっき七番目になった後輩が一緒に居る……ま、どうでもいいやと思って信矢の方を見る。
「狭霧? どうしました? あと歩き辛いので少し緩めてくれると助かるのですが……」
「い~やっ!! 今日はさっきすっごい嫌な事あったから信矢と離れたくないの~」
「はぁ……まぁ、その程度で良いのなら。っと、すいません井上さん、それに佐野さんとバスケ部の確か桐山部長、昨日は突然見学して失礼しました」
「あ、ああ……気にしないで良いから。早くそれ引き取って。目に毒だし、主に男子連中に」
そう言って信矢と一緒に男バスを見ると全員真っ赤になっていた。それを見て信矢が少し見た後に納得した顔をした。
「理解しました。確かに狭霧の《《笑顔》》は彼らにとっては色々問題が有るようですね? 私と居る時は《《いつも》》こうなので気付きませんでした。配慮が足りませんでした。では失礼、行きましょう狭霧」
「うんっ!! それより今日こそカラオケ行こうよ~」
「ダメです。どうしてもと言うなら連休後の、そうですね次の休日にでも時間を作りますから、それまで我慢して下さい。予選も有るのでしょう?」
休日!!土日!!ついに本格的にデートだね!!この後に告白するから自動的に恋人同士の初デートになるのね。なら当然シンの家に行く事になるから色々と準備しなきゃ母さんに色々と聞いておこう!!
「分かったよ。じゃあ連休後の土曜日ね!! 私お泊りセット用意するから!!」
「なんで家に泊まる事が前提に……ちゃんと奈央さんや家の母に許可を取れたなら良いでしょうが……たぶん杞憂ですね。おっと、頭を擦り付けないで下さい。ちゃんと撫でますから。狭霧は昔から好きですね、撫でられるの」
「うっわぁ……トドメ刺したよこの副会長。狭霧も大概だけど副会長も案外重めなのね。類友ってやつかぁ……」
こうして私は翌日からバスケ部からの告白は一切無くなり一部の運動部からの告白や不躾な目も向けられる事が減った。ちなみにこの光景を見た後のバスケ部、主に男子はお通夜状態で女子はお祭り状態だったらしい。
凛が言うには『これで涼学の女子のパワーバランスが大きく崩れるわ!!』と言う事らしい。そんな事より信矢はもっともっと私を撫でるべきだと思う。
「着きましたね。では……っ!? すいません少々トイレに」
「うん分かった。早くしてね~!!」
私たちは二人で郊外の神社、どちらかと言えば信矢の家に近い方の市街地の林の入り口にある神社に来ていた。トイレを我慢していたらしい信矢を見送ると改めて神社内を見る。ここはバスケを始める前まで二人でよく遊びに来た場所だった。妹の霧華は毎回置いて二人で来てたからよく不貞腐れてた。
と、一人で浸っていたら神社の奥から足音が聞こえて来た。この奥は反対側に繋がってる街への出口か裏の林かしか無い。どうやらその足音は街の出口から入って来たようだ。ここはショートカットも出来るからたまに使う人もいるのだ。
「あぁ~後は斎藤さん家の配達とその帰りに宮田さん家の皿回収かよ~何で今日はこんな出前多いかね~」
なんかグチグチ言いながらラーメン屋さんのアレを持ってラーメン屋さんの恰好をした茶髪の女性が走っていた。年齢は私より少し上かも……と、思っていたらその人と目が合った。そして私はその人を知っていた。
「おやおや~? シン坊の彼女ちゃんじゃ~ん!! こんなとこで何してんのさ?」
「別に……あなたに答える必要無いから」
「相変わらずアタリ強過ぎね……てかそんなんじゃ世の中生きていけないよ? これ人生の先輩からアドバイス」
「別に、シン以外にどう思われようと構いませんから。それで? お仕事中じゃないんですか?」
最悪な人間に出会ってしまった。シンがこの場に居なくて本当に良かった。コイツらにだけはシンと会わせるわけにはいかない、昨日だってあの二人を見ただけでアレだったんだから……とにかくシンが戻ってくる前にどこかに行かせたい。
「ふぅ、相変わらず重いね。あんた。前にも言ったけど重過ぎるのも大概にしときな? シン坊のためにも、後はあんた自身のためにもね?」
「それは余計なお世話です!! もう私とシンに関らないで!! 私から信矢を取らないで!!」
「はぁ……何を言っても無駄……か。ま、そろそろユーキもそろそろ帰って来るし、そん時にまた顔出すわ。じゃね~!! シン坊によろしく~」
「なっ!! アイツまでっ!! 絶対に会わせない!! やっと、やっとここまで来たのにっ!!」
一番警戒する名前が出て来た。それはそう、だってこの女は奴の恋人なんだから動向を知っているのは当然だ。その後は私の大声に驚いた信矢が慌てて来たけどその日は告白とかそんな気分じゃなくなり、普通に参拝して二人で帰る事になった。
私が大声をあげた理由を蛾が飛んできたからと適当に誤魔化すと信矢も少し疑問に思っていたみたいだけで言及はされなかった。
そして、それからは予選大会や色々な事があって連休前半は終わった。もちろん勝ったから、その報告を信矢に連絡するとすぐに既読が付いてメッセージが返ってくる。このやっと取り戻した大事な日常をあいつらに奪われないために私は今度こそ決心する。そう、次の練習試合で勝ったら告白する事を決心したのだ。
◇
そして今日、試合前に凛が練習前のアップ中の私をいきなり呼びつけた。試合前は集中したいし今日は本気出して行くからって言ってたのにと、凛を見たら隣に信矢が居た。見間違いじゃないかと確認するとすぐに走り出す。
「タケは猫系だと思ってたけど、今のあんたはご主人様に尻尾振ってるワンコにしか見えんわ」
「ご主人と奥様なんて呼び方、まだ早いよ~凜。でも式には呼ぶから参加してね」
「この女都合のいいとこしか聞こえないタイプだったかぁ……」
信矢は私たちが話していると肩に下げていた銀色のバッグから何かを取り出していた。なんか保冷剤がいっぱい入ってる中に見覚えの有る容器ある。それもそのはず、その中身は小さい頃に信矢が作ってくれた蜂蜜レモンだった。また私のために作ってくれたのが嬉しくてその場で食べると懐かしい味がして泣きそうになる。
「その様子では味は合格点だったようで何より」
「うん。ありがと!! すっごいやる気出たから!!」
そして信矢が上に戻ろうとしていたから呼び止めて勝利宣言をした後に今日の試合後に告白するために待っててもらうように言った。言ってしまった。だから後は勝つだけだ!!
「ずいぶんと舐めた事言ってたね? 金髪ちゃん?」
「は? 何か言いました?」
試合開始前に整列して挨拶をしてポジションに付こうとした時にすれ違った相手校の選手に言われた。私はわざとすっとぼける。煽って来たのはあっちもだからね。
「こっちも全国行ってるわけだから県大止まりの格下に言われたらそりゃキレるでしょ? わざわざ来てあげたんだからさこっちは」
「負けるためにわざわざ来るなんて大変でしたね。お疲れさまで~す」
そうこうしている内にホイッスルが鳴り響き試合開始、相手校のセンターと桐山部長がジャンプボールで奪い合う。しかし取られた、下がろうとするけど反対サイドの先輩が抜かれた。抜いたのはさっき私を煽って来た人だ。たぶんレギュラーだから三年生だと思うその人はドリブルが上手かった。あっさりと先制点を奪われる。
PGの先輩がすぐに私にパスをしてくる。私も少しドリブルをしつつすぐにボールを回す。私にマークはついて無いのを確認した部長が私にロングパスをしてきたのでそれを受け取る。位置取りは完璧、そこから後ろにジャンプしながらシュートを打つ。ピーッと得点したブザーが鳴り得点が3-2に表示が変わった。私の得意分野はスリーポイントラインからのシュート。属に言うスリーポイントシュートだ。さあ、本番はこれからだよ今日の私は絶好調だからね!!
第二クオーターが終わって得点は34-12。今の所はこっちの圧勝ハーフタイムに入ると私は軽くスポーツドリンクを飲むとバッグに入れておいたそれを取り出す。
「う~ん。やっぱりこれだぁ……シンありがとう」
「タケ……あんたそれって……蜂蜜レモンてまた面白いの持ってきたわね」
「ほんと、竹之内さん。いつもは飲み物だけよね?」
私は試合外とかならプロテインとかも飲むけど基本的に試合中はスポーツドリンクオンリーだった、たまに先輩にアメとか部長からバナナとかを貰うけど基本自分用の食べ物とかは持ち込んだ事がない。でも今日はこれがある。
「はい狭霧タオル~……おっ、これが凜の言ってた愛しの副会長手作りの蜂蜜レモンね? 一つ……はいダメですね。分かりました」
「あぁ……これ副会長が作ったの……それであんた上機嫌だったのね……」
「てか竹之内がこんな笑顔なの初めて見たんだけど」
「あ、私はこの間見たわよ。ヤバかったわよこの子。副会長の腕に抱き着いてデレデレしまくってたし」
部長や優菜が私を見て全てを察した顔をしてるし、レギュラーの他の先輩たちも物珍しそうに話しかけてくる。それにこの間の事もすっかり話題になっていた。
ちなみにあの一件以来、私の部内での地位は安定した。今までは一部先輩や同級生から距離を置かれていたけど、何故かみんなからにこやかに挨拶される。不思議だと思ってたら凛が銀色の何かを持ってきながら話に混じる
「そらタケが無害認定されたからよ。副会長にあんなデレデレしてりゃね? おまけに男子は希望打ち砕かれたわけだ。あんたに告白したルーキーなんて練習中酷かったらしいわよ~」
「ふ~ん……ってそれシンが持ってた保冷バッグじゃない!! なんで凜が持ってるのよ!!」
「試合中にトイレ行ってたら、作り過ぎたので良ければ皆さんでどうぞって……いらなければ狭霧に渡して問題無いって言われて」
保冷バッグを開けると似たような容器に「5-1 春日井信矢」となっているタッパーに蜂蜜レモンが入っていた。
「え? これ良いの!? 気になってたからも~らいっ!! あ、意外といいバランスの味」
「あ~~~!! 私のシンの手作りなのに!!」
「ゴメン。タケ私も一つ貰うわ。まだたくさんあるじゃない!! いちね~ん貰ってあげな!!」
「ぶ、部長!! あっ!! 先輩達も!!」
今まで後ろで控えていた一年生や他の先輩も集まってくる。私のための蜂蜜レモンがぁ……予備なら私の分のはずなのに……でも皆さんでどうぞって言ったのなら仕方ないかな?
「私には少し甘いかね……ま、たまには悪くないかも」
「せんぱ~い頂きますね!!」
「あぁ……今度一年はしごくか……足腰立たなくてしてやるわ!!」
「それにしても先輩のカレシ良いな~!! わざわざこんな風に作って持って来てくれるなんて凄い良い人ですねっ! 羨ましいな~」
この一年は分かってるわね。彼女は特別に軽めにしてあげましょう。そんな事をしている内にハーフタイムは終わって第三クオーターが始まる。さすがにスリーポイントを入れ過ぎたせいで、第二クオーターから私にはマークが二人付くようになった。そのせいでスリーポイントは厳しくなった。だけど、私の最大の武器は別に有る。それは……。
「あっ!! またっ!! どこ向いてパスしてんのよ!! あの17番!!」
「おかしい、フェイクってレベル越えてるわよ!! 見てる方向と全然違う方向にパス出せるとか異様よ!!第一ボール見てないでパスとか!!」
それはフェイク、目線や仕草で相手を誘導するテクニックの一つなんだけど私の場合は目線や仕草では無く、そもそも見てない方向からボールを受け取ったり、逆にパスを出したり出来る。何を言ってるのか分からないだろうけど要はボールを見ないでプレーしているのだ。
でも実はこれには秘密があって厳密には見ているけど、そのチラ見の頻度が凄い早い上に相手が気付く前に勝手に体が動いているので結果ボールをほとんど見ないでプレーしているように相手には見える。もはや脊髄反射とかそういうレベルで動いてるから私も自分の事なのに分かってない。
これが出来るようになったのは小四の頃で信矢と二人で練習している時にチラチラと信矢の顔色を見たり、後ろに居る時にも辺りの様子を見たりして、極めつけはミニバスの試合中も信矢の姿をいつもチラチラ探しながら試合をするようになったから。
その結果、どこに信矢が居ても見つけられるように探しているので、試合中は相手から見たら常時フェイク状態になってしまった。これをそのまま技術として体得してしまった。ちなみにこう言うのを『怪我で微妙』って言うんだよね。と、ドヤ顔で信矢に言ったら無言でことわざ辞典を渡されるんだけどそれは少し先の話。
そして二〇分後、試合終了のブザーが鳴り響き結果は、54-28で私たちの勝利だった。試合が終わると他校の選手に囲まれるからどうしようと思ってると私のフェイクの凄さを褒めてくれて教えてとか言われて話し込んでしまった。視線の隅で信矢がどこかに行ってしまったけど今は他校の人や先輩たちと色々バスケ談義に花が咲いてしまった。勝ったから早く告白したいのに~。
「ここですっ!! 枝川さん!!」
「おおう!! 本当に金髪巨乳が居るぞ!! すげえ」
そして奴らが入って来た。後は信矢が来るまで私や他の部員、特に優菜がいやらしい目で見られてた。優菜も結構スタイルが良くてどうやら見澤の好みだったらしい。そして筋肉ダルマの枝川がトイレに入ってすぐ後にその音が体育館に響いた。
ビュンと一陣の風とメキッと確かに鈍い音が響くと私たちを取り囲むように包囲していた後ろの一人が吹き飛んだ。その風はそのままその場で回転すると相手を掴んで叩きつけて二人を地面に叩きつけて気絶させていた。そこで私が一番待っていた声が体育館の中で響いた。
「狭霧っ!! 私の後ろに!!」
私は見澤の腕を振りほどいて、一緒に別な奴に捕まっていた優菜の手を引いて信矢の後ろに隠れた。その瞬間とてつもない安心感が私を包んだ。この背中、絶対な安全圏。信矢が見澤を睨みつけて宣戦布告するとまた一人を倒す。
信矢、こんなに強くなってたんだ……そりゃそうだよね。中学の時にあんな人たちと一緒に戦ってたんだからこうなってるよね。今の信矢を見て私は高揚感と少し寂しさを覚え複雑な気持ちになった。
お読みいただきありがとうございました。まだまだ拙い習作でお目汚しだったかもしれませんが楽しんで頂ければ幸いです。読者の皆様にお願いがございます。
こちらの作品は習作なので誤字脱字のご指摘などして頂けると作者は大変喜びます。どうしても誤字脱字を見逃してしまうので皆様のご協力をお待ちしています。また些細なアドバイスなども感想で頂けると助かります。




