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【番外編】 団長様の誕生日⑤

*本編の「キス事件」よりも前の出来事です*


団長視点です。

俺の部屋に姿を見せたアリスは、しかしなかなか部屋に入って来ようとはしない。開けた扉のわずかな隙間から中の様子をうかがうようにして覗いている。


「……何してんだ、お前?」


じーっと無言のまま、アリスが俺を見ている。


「おい、お前はお化けか。何か用なら入ってこい」


すると、ゆっくりと扉を開けておずおずとした様子でアリスが部屋に入ってくる。左手を背中に隠して何かを持っているようだ。


「団長、この間の掃除の件ですが、大事な書類を捨ててしまってごめんなさい。……あの、まだ怒ってますか?」


アリスが小さな声でそうたずねてくる。そして俺のことをじっと見つめている。あまりにも見つめられ過ぎて、俺は思わず視線をそらした。たまにこいつはこうして俺のことをじっと見つめてくるのだが、俺はそれにとても弱い。


「怒ってねぇよ」


はき捨てるようにそう言うと、


「本当ですか?もう怒ってませんか?」


アリスの声が一瞬で明るく変わった。


「本当に本当に怒ってないですか?」

「ああ」

「本当に本当に本当に怒ってないですか?」

「…ああ」

「本当に本当に本当に本当に怒ってないですか?」

「……ああ」

「本当に本当に本当に、」

「うるせぇよ!怒ってないって言ってるだろ。今度言ったら殴るぞ」

「わわ、ごめんなさい」


アリスが一歩あとずさる。


「それよりもお前、左手に隠しているソレは何だ?」

「え…」


俺が気付いていないとでも思ったのか、左手のソレをさらに背中へ隠そうとする。


「お前、まさかアレか。その左手にナイフでも隠し持っているのか。それを使って日頃の俺への恨みをついにはらしにきたのか」


冗談で言ったつもりだが、アリスはきょとんとした顔を見せて、


「え、団長。自分が私に恨まれているって気付いていたんですね」


なんて言いやがった。


「お前なぁ……」


イスを蹴るようにして立ち上がると、アリスはあからさまに怯えた態度を見せる。


「わわ、ごめんなさい」


俺はまたイスに深く座り直し、腕を組んだ。


「で、お前、なに持ってんだ」


そうたずねると、アリスはもじもじと左手に隠していたものを前に持ってきた。


「あの…これ、団長に…その…えっと…あの…」

「何だ?」

「今日は団長の…その…た…た…」


「団長の誕生日だから、プレゼントを渡しに来たんだよね、アリスちゃんは」


テオの言葉にアリスが小さく頷いた。そして俺の近くへやって来ると、持っていたそれを机の上にコトンと置いた。


「プレゼントです。団長、今日が誕生日なので」


俺は机に置かれた、正方形の箱を手に取った。そしてリボンをほどきラッピングをビリビリと剥がすと、箱の中身を確認した。


そこにはマグカップが入っていて―――。


「あの…この前、私、団長のマグカップを割ってしまったので、新しいのを買ってきました。使ってください」

「…………」


俺は言葉もなく、しばらくマグカップを見つめていた。それから視線をアリスへと向けて一言。


「こんなもん使えるか」

「…え?」


マグカップを手に取りその柄を見て思わずため息が出る。


「お前はバカか。この俺がどうしてこんな花柄のコップを使わないといけないんだ。くれるならもっとマシなコップを渡せ」

「わわ、ごめんなさい」


アリスが俺にプレゼントだと渡したマグカップには可愛い花柄の絵が描かれていて…こいつはこの俺にコレを使えというのか。どんな嫌がらせなんだ、まったく。

本当にこいつはバカだ。


それにしても、と思い直す。

こいつ、自分が割った俺のマグカップのことを気にしていたのか…。


数週間前、俺が王都の騎士団に所属していた頃から使っていたマグカップがアリスにより粉々に破壊された。俺とテオにコーヒーを運んでいたのだが、何がどうなってそうなったのか俺には理解できないが、おぼんに乗っていた俺のマグカップを床に落とた。もちろんカップは割れた。

あのときもアリスを叱りつけてしまったのだが、マグカップを割られたからではない。特に気に入りというわけではないのでそんなことはどうでもいい。俺が怒った理由はあいつのうっかりグセやおっちょこちょいグセが何度注意しても直らないからだ。


俺は目の前にいるアリスをちらりと見る。

どうやらプレゼントしたマグカップが俺の気に召さなかったようで落ち込んでいるようだ。視線を少し下に落として、浮かない表情をしている。


「ま、とりあえずコレは受け取ってやる」


俺の言葉にアリスがパッと顔をあげて、


「え、使ってくれるんですか?」


と、声色も明るくなった。

本当にこいつはわかりやすい性格をしている。


「使うか使わないかは俺が決めるが、ま、貰っといてはやる」

「よかったー。団長、お誕生日おめでとうございます!」


素直に喜びを表すわかりやすいアリスの様子に俺はなんだかおかしくなってしまった。バレないように口元に手をあて、小さく笑った。


「でわ、私はこれで失礼します!」


俺にプレゼントを受け取ってもらえて気分が良くなったのであろうアリスは、軽く頭をさげて部屋を後にしようと俺に背中を向けた。しかし、


「おっと、聞きたいことがあったんだ」


そう呟いて、もう一度俺に向き直る。


「ところで団長はいくつになったんですか?」

「どうしてお前に俺の歳を言わないといけないんだ」

「え、いいじゃないですか、教えてくれたって。30は過ぎてますよね?」

「…………」

「あ!当たりました?ということは、私と団長は10歳以上歳が離れているということですね」

「…………」


言っておくが、俺はまだ30は超えていない。たしかに老け顔と言われるが、ギリギリ20代の29だ。だから、今年20になるお前とは10も離れていない。9つだ!


そう訂正しようとした俺の言葉より先にアリスの言葉の方が早くて。


「でわ、昼食の準備してきます!今日は団長の誕生日なので豪華にしました!なんと、ケーキもありますよ、団長!」

「ああ、そうか」

「楽しみにしていてくださいねー」


と、アリスは部屋を後にした。


あいつが去った扉を見つめている俺に、テオが言う。


「仲直りできたようだね」


俺は、返事の代わりにため息をついた。


「ディック。お前に言われたからそこにあるたくさんの誕生日プレゼントは全て処分するけど、ソレはどうするの?」


と、テオは俺が持っている花柄のマグカップを指さした。


「ソレもいらない?」

「いや…これはいい」


俺はマグカップを机の隅に置く。

そんな俺を見てテオがニヤリと笑みを浮かべたのがわかった。


「なんだ」

「別に~」


しばらくそんなテオを見つめ、俺は気になっていたことをたずねた。


「お前がアリスに俺の誕生日を教えたのか?」

「まぁね」

「ッチ。よけいなこと教えやがって」

「そうかな?アリスちゃんにプレゼント貰えて嬉しかっただろ?」

「別に、嬉しかねぇよ」


机の隅に置かれた俺にはまったく似合わない花柄のマグカップ。

アリスから貰った初めてのプレゼントだから使うわけじゃない。絶対にそうじゃない。長年愛用していたマグカップを割られてしまい、代わりのものがないから仕方なく使ってやるんだ。


アリスにプレゼントを貰って嬉しいなんて俺は少しも思っていない。


番外編お読みいただきありがとうございました!

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