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11/11

11助けてくれ?無理ですね。でも、条件次第で考えましょう

 闇魔法は未熟で、全く脅威ではない。魔導師たちに触れることなく、彼らの魔力をわずかに乱すだけの魔法を使うと一斉に魔力暴走を起こし、苦悶の表情を浮かべてその場に倒れ込んだ。


「ぐっ……な、なぜ……!?」


「ま、魔力が……!」


 魔導師たちが意識を失って倒れていくと、公爵令嬢は顔を真っ青にした。


「な、何を……!?」


「面倒なことをしたくない。だから、貴方達にもね、面倒なことをしてほしくない」


 冷たい視線を公爵令嬢に向けた。


「さあ、王子の拘束を解きなさい。魔王の器とやらについても詳しく話してもらう」


 公爵令嬢は恐怖に顔を歪ませた。想像以上に強力な存在であることに気づいたのだろう。遅い。


「……くっ、貴方など、本当は存在してはならない存在なのよ……!」


 再び短剣を向けたが、動きは先ほどよりもはるかに鈍い。魔導師たちの魔力暴走に、少なからず影響を受けているのだろうな。短剣を指一本で止め、そのまま彼女の魔力をわずかに乱した。すると、公爵令嬢もまたその場に崩れ落ち意識を失う。


(ふぅ、これで邪魔者は片付いたか。さて、王子、貴方の番)


 拘束された王子に近づいた。王子は、私の存在に気づくと、驚いたような顔をする。


「ティリエン……なぜ貴方がここに……」

「貴方が、また自業自得なことをしたから、でしょう?よりによって、こんな危険な計画に巻き込まれるとは。本当に、運がない」


 冷淡に言い放ち、王子の拘束を解いたら王子は、解放されると、すぐに縋りつくような視線を向ける。


「ティリエン、頼む!忌々しい魔王の器とやらを止めてくれ!このままでは、私の身が危ないのだ!」


 王子は、顔を真っ青にして懇願した。恐怖と、こちらへの依存が見て取れた。


(は?本気で言ってる?この私が、貴方の尻拭いをして?世界を救えと?馬鹿馬鹿しい!)


 即座に首を横に振った。


「お断りいたします」


 返事に王子は絶望したような顔をした。


「な、なぜだ!?貴方なら、できるだろう!闇魔法の使い手である貴方なら!」


「面倒なことは絶対にしない。貴方の自業自得な状況を解決する義理など、私にはないもの」


 冷たく言い放ったら、王子の顔は、みるみるうちに青ざめていく。


「それに、貴方が魔王の器になるというのなら、それもまたこの世界の不幸の一つでしょう。私はそれを、傍から眺めているのが好き」


 ニヤリと笑った。王子の顔は、恐怖と絶望に歪んでいく。


(貴方の自業自得)


 倒れている公爵令嬢と魔導師たち、絶望に顔を歪ませる王子を眺めながら、静かに微笑んだ。王子を魔王の器となる運命に放置し、公爵令嬢とその配下を勝手に魔力暴走で停止させ、薄暗い地下遺跡を後にした。


 当然ながら王都は大混乱に陥っただろう。王子誘拐の事実、王位継承争いの結果であること、さらには魔王の器という物騒な話まで。


(まあ、どうでもいい。私には関係ない。彼らが勝手に不幸になるだけだし)


 夜の闇に紛れて屋敷に戻り、何食わぬ顔で自室のベッドに潜り込んだ。


 翌朝、屋敷中が大騒ぎになっているのは当然のこと。


「ティリエン様!大変でございます!王子が、王子が魔王の器にされてしまうと……!」


 ユニメラが泣きそうな顔で部屋に飛び込んできた。ノックしよ?人間として生きてほしいところだ。後ろには顔を真っ青にした父と母もいる。


「ええ?……何を言っているの?寝ぼけているの?」


 欠伸をしながらとぼけたふりをした。


「そんな、お、お姉様!昨夜、お、王子の誘拐事件が起こりまして……だから!」


 ユニメラは必死に説明しようとするが聞く耳を持たない。


「あいにく、昨夜はぐっすり眠っていたの。だから何も知らない」


 冷淡に言い放つと父と母は態度に呆れと僅かな恐怖を滲ませる。


(よしよし、これで誰も面倒なことは頼んでこない。平穏な日常はこれで盤石になるなぁ)


 予想通り、事件は王族内部で極秘裏に処理されることになった。表向きには「王子が原因不明の病に倒れて療養生活に入った」と発表。もちろん、真実を知る者は限られており、その中には自分も含まれるが決して口を割ることはない。面倒だから。それ以外に理由なんてない。


 結局、王子は魔王の器となることはなくただただ魔力が枯渇しただけの存在として、王宮の奥深くに幽閉されたらしい。主犯の公爵令嬢も重い罰を受け、どこかの修道院に送られたと聞く。なぜそこまでやれるのか自分には理解できやしない。


(ああ、なんてつまらない結末。もう少し、盛大な不幸を見たかったのに)


 内心で少しだけがっかりした。それでも、自身が一切手を汚さず、誰からも咎められることなく、この一連の騒動が収まったことに、密かな満足感を覚える。これで、評判はさらに地の底に落ちたことだろう。


「闇魔法使いのティリエン令嬢は、王子の危機にも知らんぷりだった」

(結構。それが一番、私にとって都合がいい)


 誰にも干渉されない、完璧な平穏を手に入れた。完璧な平穏は、同時に新たな退屈をもたらす。魔導書を読み漁るのも飽き、庭園で紅茶を飲むのも飽き、人の不幸を待つのも飽きたのだ。


(何か、面白いことは)


 そんなことを考えていたある日、ふと、あるアイデアを思いついた。思いついたのは極上の怠惰をもたらす魔導具の販売。


(この世界の人々は、なんて面倒くさいことばかりしている。服を着替えるのも、食事を用意するのも、部屋を掃除するのも、全てが面倒。ならば、面倒を全て解決する魔導具を作れば)


 思考回路が、商売へと繋がった。もちろん、これは他人の面倒を解決することで、金儲けをし、さらに怠惰な生活を送るための手段に過ぎない。

 早速、自室にこもり、魔導具の製作に取り掛かった。第一弾として開発したのは、自動着替えローブ。

 これは、魔力を込めるだけで、その日の気候やTPOに合わせて、最適な服を自動で着せてくれるという優れもの。もちろん、服を脱ぐのも自動。


(これで、朝起きて服を選ぶ、という面倒な行為から解放される。最高)


 次に開発したのは自動調理ポッド。これは、食材を投入して魔力を込めるだけで、望む料理を最適な状態で調理してくれるというものだ。食器も自動で洗ってくれる。


(これで、献立を考える手間も、料理を作る手間も、後片付けの手間も、全てが省ける。完璧)


 最後に開発したのは自律型清掃ゴーレム。小型のゴーレムに魔力を込めるだけで、部屋中を完璧に掃除してくれるという。ゴミの処理も自動だ。


(これで、掃除という最たる面倒事から解放される。夢のよう)


 これらの魔導具を完成させると、まず屋敷の使用人たちに試させた。彼らは便利さに驚き、感動する。


「ティリエン様!魔法のようです!これがあれば、私たちの仕事がどれほど楽になるか!」


 使用人たちの声は、興奮に満ちていた。


(ふふ、貴方達が楽をすればするほど、儲けになるのだから)


 彼らの反応に満足したが、問題が一つあった。これらの魔導具を販売するためには、商人を雇い、店を構え、広告を打つという非常に面倒なプロセスが必要。


(はぁ……面倒。本当に面倒。誰か、代わりに商売をしてくれないだかな?)


 頭を抱えた。面倒くさいことを、誰かに押し付ける方法はないだろうか。その時、脳裏に、ある人物の顔が浮かんだ。

 いい人材がいたな。

 目をつけたのは、以前、隣国から私の元にやってきたポシュナイダ。ライナー新国王の側近として、非常に真面目で、責任感が強い。


(あの男なら、代わりに面倒な商売を全てやってくれる。もし失敗しても、あっちの責任。何の損もない)


 早速、ポシュナイダに手紙を送った。内容は新たな魔導具の共同開発と販売について、貴国の繁栄に貢献できる可能性があるという、いかにももっともらしい文言を並べたもの。真の目的は、商売の丸投げと、新たなことに巻き込むこと。


 数日後、ポシュナイダが慌てた様子でナデシュタエン家にやってきた。


「ティリエン様!このお手紙は、まさか……!」


 ポシュナイダは、手紙を握りしめ、興奮した顔をしている。背後には、同行してきたのであろう、数人の兵士たちが控えている彼らもまた、警戒と期待の入り混じった表情で見つめた。


「ええ、そうよ。貴方に、新たな商売を持ちかけたくて」


 目の前に広げられた、魔導具たちを指差した。


「これらは、開発した、日常のあらゆる面倒を解決する魔導具。販売すれば、貴方の国も、大いに繁栄する」


 ポシュナイダは、魔導具を食い入るように見つめ、機能の説明を聞くと、驚きと興奮で顔を輝かせる。


「これは……素晴らしい!まさに、革命的な魔導具ですよ!これがあれば、国民の生活がどれほど豊かになるか!」


 感動で震えていた。


(ふふ、思う壺。興奮すればするほど、目論見は成功する)


「つきましては、魔導具の販売を、貴方に一任したい。もちろん、利益は折半」


 商売の条件を提示。ポシュナイダはすぐに真剣な表情に戻った。


「わ、わたくしに、そのような大役が務まりますでしょうか」


「貴方なら、できる。責任感も強く、真面目な貴方こそ、商売を成功させることができる。もし失敗しても、それは貴方の責任」


 責任感を煽る言葉を投げかけた。ポシュナイダは、言葉に、眉間に皺を寄せ、深く考え込んでいる。


(さあ、どうする?面倒な商売を引き受ける?それとも、チャンスを棒に振る?どちらに転んでも構わない)


 決断を淡々と見守った。苦悩する顔を見るのは密かな楽しみで、顔を上げ楽しさに満ちた表情を浮かべる。


「承知いたしました!このポシュナイダ、ティリエン様のご期待に応えるべく全力を尽くさせていただきます!」


 頭を下げた。


(やった。これで面倒なことは全て押し付けられる。商売が成功すればもっとさらに怠惰な生活を送れる。最高!)


 満面の笑みを浮かべ、別のことも期待するしかない。極上の怠惰をもたらす魔導具が世の中にどのような影響をもたらすのかと、怠惰に浸ることを思い、淡々と期待に満ちた目でポシュナイダを見送った。

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。ブクマも是非

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