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ヒトの骨格を持つ魔物に滅ぼされゆく世界を救う物語/アストリア戦記

 ──ここに、ひとつのボタンがある──


 一度それを押すと世界が繰り返され、アストリア大陸に蔓延る魔物は“蠅の魔物”ではなくなる。


 その代わりとして、かの魔物が蠅であるが故に生じていた事柄や繋がり、その一切がただちに失われる。


 押すか、押さないかは自由の意思に委ねられる。


 ……


「──と、いうことなんですけど、どうですか?ヴェスパの王子、ベル様!」


 厳かに語るのは、華麗なるタキシードに身を包む脚長の紳士。

 彫りの深く整いし顔立ち、その鋭い目つきとは対照的に柔和な笑みが綻ぶ。その頭には触角、背には背広のような翅。それは青年の姿をしたヴェスパだった。


「……いやオマエなに俺オレ様にタメ口きいてたの今?つーかオマエ誰よ!?」


「演出ですよ!エンシュツ!──どうも、私はエイプリアスと申します」

「どうもじゃねえよ!あとさっきからオレ様の容姿描写がねえんだけど!どゆこと!?」


「ベル様はまだ活躍の機会がまだですから」

「お前もぜってー登場してねーだろ!しかもミョーに盛られてるし!イイからオレ様の姿がわかるようにしろよ」


「いいんですか?そういうのはもうちょっと少しずつ威厳を持たせながら、こう、影とかで隠しつつそこそこなポジションのニンゲンを次々と始末し、ここぞって時にバーンと姿を表すのが良いかと思いますよ!そこでヴェスパの王子だと打ち明ける!」


「もうおせーよ!!!テメー最初にオレ様のことバラしてんじゃねえか!さっきからなんなんだよこの茶番は」


「ウフフフ、それでボタン、押します?押しません?」


「テメーぶっ⚪︎すぞホントに。──っていうか、お前の人物描写だけして地の文もどっかいってないか?オイ”地の文“やる気あんのか!?帰って来い!」


「『地の文は読まれない』という意見もありますからね」


「そんな事ねーだろ。……つーか、せめてオレ様の容姿の描写くらいしろよ」


「ベル様、この世界はニーズの雰囲気(マナ)に支配されている世界です。何処かへいってしまった地の文、そしてこのボタンはその表れといっても良いでしょう」


「ニーズだと?」

「星々、そして世界、人々は観測される事で存在を得ます。しかし、ニーズから完全に逸れてしまった世界は、観測されなくなり、やがてワールド・エンド──それは消滅と同義なのです」


「それは困るな」


「でしょう?このボタンを押せば、よりニーズ沿った世界になるやもしれません」


「もう既にイロイロおかしいケドな。ま、オレ様がいつまで経っても出てこないっつーもニーズから逸れてるわな。イカしたオトコが出てくるのがあまりにも遅すぎるっつーのはダメだ」


「プッ・・・自分でイカしてるとか言ってる・・・!おもろ!」

(その調子です!ベル様!)


「テメエおい心の声が漏れてんぞ!!!」


(あ、間違えて心の声を発し、建前を秘めてしまった)


「……さ、押しましょうベル様!今の観測者のいちばん大事なニーズ……こっそり言いますよ、コッソリと」


「それは──」


「──えっちなことです!」



「!!?!?」


「蠅の魔物にえっちなコトはフツーの観測者は期待しませんしチャンスも苦しい!ですが、我々が蠅の魔物でなくなればなんら問題もありませんっ!!」


「押す!!!!オレ様このボタン連打しちゃう!!!!」


 "繰り返す蠅紋石の過ちフライティン・コンティニュー"──!!!



 ──



「・・・ん?ここは、洞窟?」


「オレ様の姿は、あんま変わってねえな。ま、元々完成されてるしな」


「いたぞ!討伐対象だ!」


「なっ!?」


(弓矢が飛んできた!?なんだあのかけだし冒険者っぽいヤツらは!っていうかマジに当ててきやがる!アブねえ!)


「エリック!コイツすばしっこそう!隅に追い詰めて!」


「いやちっこいけどコイツ結構おせーぞ、リアン。ゴブリンより当てやすいぜっ」


「クリティカルショット──!!」


「オレ様はネズミじゃねえ!!!いでええええ!!!」


「っしゃ命中っと──!ガレン任せた!その新しく絶好調の剣で頼むっ」


「うおおおおおお!!」



 ──



(・・・)


「あ、お帰りなさいベル様、モグモグ」


「えっ・・?オレ様どうなったの?」


「死にましたね」


「・・・」


(──オレ様、めちゃめちゃ弱くなってない?──)


「それで、どうでした?あれもう居ない」


(蠅の魔物であることを棄て、“繰り返す”!!えっちな体験をするまで──!)



“コンティニュー!!”



「ここは・・・女の部屋・・・っ!?」


「それに、ドレスの王女!!?」


「すげえ!!これがニーズってヤツか!!いきなり過程をすっ飛ばしてえっちな体験が出来る!ニーズ最高!ハハッ!」


揺るぎなき(ダイヤモンド)金剛石の(スラム)一撃”──!!


「グハッ!!!!」


「ヘンな魔物が入ってきたと思ったら、弱っちいわね。何この思春期のしょぼい悪ガキみたいなヤツ。どっから入り込んだのかしら?外にぶっ飛ばして棄てとこ」


(地の文がやる気ないのを良いことに、オレの容姿をテキトーに解説するんじゃねえ!!)


(ていうか、この女ニーズに全く即していねえ!弾き返す血筋の能力でニーズを弾き返し、コンプライアンスに問題がありそうな暴力系ヒロインを貫いていやがる・・・!観測の話でいったらイロイロな元凶だろこの女!)


(・・・がくっ)


「あ、死んだ」



“こ、コンティニュー・・・”



「よく出来ました、リリアさん。なかなか難しい問題なのに、よく解けましたね」

「ふふーん♪」


「む、リリアのヤツ・・・やるな。一発で人前でムズカシイ問題を解いて・・。なんだか、からかってやりたい気分だけど、アイツ全然隙がないんだよな」


(お、ココは・・・!)


(あれは・・・レインの野郎!あのクソガキと、そして──リ・リ・アちゃん!!)


(これは大チャンス!なんとなく感じるが、この世界ならアイツらは仲が悪いまんまなんじゃないのか?隙をみてクソガキをぶっ殺して、リリアちゃんをいただく・・・!!)


「おいリリア、そこ俺の席なんだけど。トモダチと話すのはいいけど、そこどいてくんない?」

「なぁに?話しかけないでくれる?」


「なっ!?お前勝手に人の席奪っといてえらそーにすんなよな!」

「お前って呼ばないでよ!!ばーーーか!!」


(やった!!やっぱりこいつらメチャクチャ仲悪いぞ!確実にクソガキを始末するっ!)


「くたばれっ、レイン!!」


「なっ魔物!!?どっから来た!?」

「きゃ〜〜〜〜!!」


「コイツ!リリアを襲うつもりか!?こうなったら戦うしか!」


(オマエをぶっ殺すんだよマヌケ!!そのちっこい剣で何ができんだよ・・・お゛!?)


「いでえええええええ!!!!」

(!?)


(足の小指を角にぶつけちまった!!!死ぬほど痛エッ!!息が!!)


「え、コイツ弱・・・」

「ありがとうレインくんっ」


(ウソだろ・・・!?)


「大丈夫か2人とも!?この魔物野郎っ、コイツの頭髪は俺の魔法剣で燃やしとくぜ!」

「まかせたピコラス!」



(待って髪はやめて・・・!?)



 ──



「お帰りなさいベル様。どうでした?」

「どうもこうもねーーーーーよ!!えっちな体験どころか、オレ様一瞬で死ぬんだが!?」


「観測者は基本的に時間がありませんからね。サクッとやって爽快!それもニーズかと!」


「えっちな体験はどこいったんだよおい!」


「う〜〜〜ん、いくらニーズといっても、あなたはまだお子様ですからね。そこの線引きはしっかりしてるっていうことでしょう」


「え、じゃあ、この世界ではオレ様はあっさりやられるだけで、えっちな体験に遭遇するにはオトナの魔物じゃないとダメってことなのか!?下級兵ばっかりイイ思いしてやがるっていうのか!」


「皆喜んでますよ。例えば──グギャガルジオラスさん。来てください!」


「どうも、グギャガルジオラスです……」


 そこに立つのは、かつてヒトの骨格を持つ蠅の魔物として忌み嫌われていた魔物──


 それが今や、舞台俳優の如く鼻筋の通った美麗なる顔立ちに、磨き鍛え抜かれた体幹に四肢、麗しく煌る艶肌を備えし貴公子と成り果てていた。


 生まれ変わった外見は自信を呼び、魔物と人間の女子両方が振り向き声をかけられ始めた矢先──彼はその対応に未だ慣れず初々しい返事をしつつも、乙女を学ぶため通勤時間に読書を始めていた。

 ちなみに読書時は眼鏡をかける。


「あ、地の文が帰ってきましたね」

 

「もうこの世界、オレ様にメリットないから戻してくんない?」


「うーん、ボタンをもう一度押すと戻れるみたいですねぇ。でも、いいんですか?」


「まだなんかあるのかよ。もうこれ以上死にたくねえよ!」


「アナタのフィアンセのププ様、すっごく可愛らしくなっておりますよ」


「へ……アイツが?でもアイツ、俺に興味ないだろ」


「あなたとしっかりお話をしたいと」


「……ホントか?」


「ええ、つらく、何をするにも地道でさっくりといかない、そしてストレスフルなあの世界に、もう戻っちゃいます?」


「……もう少しだけ後にしてくれ」


「わかりました!ただし、ニーズに合ったアストリアに居られるのは4月1日の間だけ、らしいですけどね!」


「オトナになって、ずーーーーっと4月1日がいいわ」



 おしまい

AI非使用

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