17.婚礼の儀について
婚礼の儀というのはつまり、王と王の花嫁が行う特別な結婚式のことだ。
ゲームで入手できる一番最後のスチルがこれなわけだけど、その時は12日も行うなんて書いてなかった。
でも確かに衣装が違う、相手も違うスチルがきっちり12枚準備されていたな。
どこに力をいれてたんだ。
「ねえ、わかっていないみたいだけど、初夜もあるのよお…?」
「ないです。」
すっぱりきっぱりここは言っておきましょう。
だって婚礼の儀は3カ月後。
わたしの身長がたった3ヶ月で150cmを超すことはあり得ない。
「…それもそうね。12夜連続で、なんて本当に死んでしまうわあ。」
ということで初夜はまだ先だ。
誰が何と言おうとまだまだ先だ。
数年は先だと踏んでいる。
とりあえず公的な儀式を先に済ませてしまおう的なあれだと思っている。
わたしの立場の公布も必要だし。
わたしは冷静だ、大丈夫。ひっひっふー。
「そうねえ、だとしたらあ。」
といくつか本を持ってきてくれた。
過去の婚礼の儀の記録らしい。
「衣装は…本来なら花嫁の実家が準備するのだけどお…」
言い澱むのは我が一族の困窮具合を嘆いています!?
貧乏ですしね!!わたしが後生大切に取っている衣類ももはや着させてはもらえませんものね!!
(それ本当に着るのかしらあ?と來姫様にやんわり止められてから着ていない)
「陛下たちが準備してるから問題ないよ。ねっ翠!」
「ええ、先日鳥王陛下がそう仰っていました」
「わたくしそれ見れてないんだけどお、大丈夫、よねえ?」
不安げに首を傾げる來姫様に紅さんも翠さんもあいまいに微笑むだけだ。
「大丈夫じゃない場合があるんですか?わたしも鳥王陛下のしか見てないんですけど」
「今の陛下方の高揚具合だとお、好き勝手作ってる可能性がないわけではないのよお…」
はふうと悩まし気な溜息を吐く來姫様が今日も美しい。
興奮しちゃう。
「どんな決まりがあるんですか?」
「各種族の色が決まってるわあ」
「あれ、じゃあすでにダメでは」
鳥王陛下結構いろんなやつ持ってきてたよね。
「貴女の種族の色よお?」
「え、ないですよそんなん」
「…え?」
「え?」
つまり、花嫁の種族の色、というのが普通らしい。
鼠族なら灰、
牛族は薄緑、
寅族は黄色、
兎族は白、
竜族は青、
蛇族は青緑、
馬族は薄青、
羊族は薄赤、
猿族は赤、
鳥族は薄桃、
犬族は紫、
猪族は橙。
私の一族はなんだろうね、黒?遠い昔にはあったのだろうけど、今は知らないな。
でも黒い花嫁って前世の意識からすると相当に格好いいことになっちゃう気がする。
綺麗だとは思うけど。
「だから自由に作ってらっしゃるのねえ…はあ、もう考えても仕方がないわねえ」
あ、來姫様が投げた。わたしに直接的な被害がない部分は來姫様も関与しないことにしているらしい。
王たちが好き勝手やるのいちいち止めてられないもんね。
「貴女には当日の進行だけ伝えておくわあ。また近くなったら詳細を叩き込みましょうねえ」
当日の様子は国中に呪術の鏡で映されるらしい。
そんな中継みたいなことできたのか。
意外とハイテク。
わたしは王の住まいまで歩き、そこで待つ王と名の交換を行うらしい。
それが、つまるところの指輪交換らしくて、今王たちは特別な呪術を編んだ指輪を製作中らしい。
わたしにしか見えないように名前を埋め込んであるそうなのだけど、正直そのほかの効果がありそうであまりつけたくない。
「…わたしの指は10本しかないのですけれど」
「薬指は2本ずつになると思うわあ」
「いかつい指になりますね」
メリケンサックかよ。
で、王が挨拶して終わりらしい。
本当なら神への祈りとか奉納の歌とかそういうのが必要なんだけど、相手がわたしなので、不要ということになった。
隣に居るからね、神…の生まれ変わり。
「で、陛下方が仰ってたんだけどお」
「はい」
「貴女のその職業って、始祖の生き物が姿を現すって本当かしらあ?」
「はあ…?」
見たことないけど…でも確かにゲームではそういう演出あったな。
あれ、じゃあ出せるのかな。
「そういう特別な力を見せたほうが国民は納得するから練習させろって言われてるのだけどお…わたくしじゃあわからないし、文献も残ってないのよお」
わたしができない場合は來姫様が呪術でなんやかんやしてくれるつもりだったらしい。
「うーん?」
普段力を使うときはそういう演出ないし、むしろ邪魔だから要らないし意識はしてこなかったけど。
一番使っている"調合"を使うときのことを思い浮かべてみる。
確かによく使うからか、なんだか体の奥に糸のような繋がりを感じるようになってきたんだよね。
目を閉じてそれを手繰るようにどんどん先へ意識を進ませる。
やがて辿り着いた先に居たのは、やたらと神々しい兎さんだった。
かわいい。
こちらを敬うように頭を下げているところを見ると、わたしって本当に神様とやらの生まれ変わりなんだなあ。
「きてください」
と声をかければ、嬉しそうにわたしの周囲を駆けた。
目を開くと、ぶわりと吹く風と共に、兎さんがわたしの傍に侍っていた。
「こんな感じ、です…あれ?來姫様?」
來姫様がわたしに向かって平伏していた。
え、そんなとこ見たくない!!!
「ららららら來姫様!?ど、どうしたんですか!?」
「…直視ができないわあ。神々しすぎるのよお」
と言われたので、わたしは慌てて兎さんをもふもふし、「もどってください」とお願いした。
今度はふんわりとした風が吹き、うさぎさんは消えてしまった。
「…はあ、さすがの威圧だわあ。わたくしが直視できないなんてえ。で、これは12種族出せそうなのかしらあ」
確かに竜王陛下がお相手でも全然普通だものね、來姫様って。
家柄は藤姫様より下って言ってたけど、竜としての力のようなものは來姫様のほうが上なのかな。
「えっと、よく使うのでできただけっぽいです。あんまり使ったことないので竜は呼べそうにありません」
と申告すれば、嬉しそうに笑う來姫様。
「そう、じゃあ貴女の外出許可を取らなくてはいけないわねえ」
「!!!」
「屋内でやるわけにはいかないでしょう?ちょっと待ってなさいなあ」
***
ということで來姫様のおかげで毎日來姫様と一緒なら十三ノ宮から出られるようになった。
狩りをするとわたしが喜ぶということで専ら狩りだ。
全ての力をまんべんなく使い、線を繋げて太くしていく。
ただこの線を広げていくと、なんでか王たちが嬉しそうにするのでちょっと不気味である。
「あ、あのう、この…線?みたいなのって結局なんなんでしょう。陛下たちが嬉しそうにというか今までにも増してねっとり見てくるようになったんですけど」
「…わたくしに黙ってることがまだあるのねえ?」
じとりと來姫様が見るのは、今日の引率役である牛王陛下だ。
「來姫は本当に雛のことが好きなのだな!」
はっはっはと快活に笑うあたりらしいけれど、來姫様怒ってるぞ。
「これは…なんというかうまく説明できぬのだが…縁、か?」
「縁、ですか?わたしには特になにも感じられないのですけれど」
「雛が拒絶しているだけだ」
少し悲しそうな顔で見られてうっと詰まる。
「この縁をもう少し受け入れてくれれば、雛の成長も早くなると俺たちは見ているが」
「ああ、であればもうしばらく拒否します」
体の成長はなるべく遅らせたいからね!!
ストップ・ザ・初夜。
「ふむ。それは雛の為にはならんと思うが」
心配げにみるその目は嘘ではなくて、心底心配しているようだ。
「…はい?」
「初夜はやるぞ?」
「無理です拒否します」
何考えてんだ…いや、待てこやつらやるといったらやるぞ。
「…ちなみに誰がどういう交渉をするつもりでしょう」
やるぞと言ってわたしがはいと言うわけがないので、誰かが何らかの餌をぶら下げて交渉に来るに違いない。
「馬王が明日雛に話をすると言っておったな」
にこっとさわやかに微笑まれてわたしは來姫様のほうをばっと見ると。
「ごめんなさいねえ、わたくしは精一杯止めたのよお…でも解決策があると言われたらこれ以上は拒否できなくてえ…」
しょんぼりと肩を落とす來姫様があんまりにも可愛らしいのでぎゅっと思わず抱き締めた。
ふわふわ!
「いい?もし貴女が本当に本当に嫌なら言いなさい。わたくしが命に代えても守るわあ」
めら、と燃えるような圧を感じ、ああこれが竜の本気かと納得した。
普段は仕舞っているだけで、來姫様も紛れもなく竜なのだ。
だけど怖くはない。むしろ安心できる心強さがある。
「はは、さすがに來姫を敵に回したくはないな。天空領もただでは済まぬ」
朗らかに笑っている臣さまも少しだけピリっとしている。
「…ちなみに、ちなみにですよ?わたしが來姫様に助けてって言った場合どうなりますか?」
これは臣さまに訊ねる。
「雛は知らぬだろうが、來姫は竜族きっての武闘派一族である老家の中でも最も強い。」
老家がどれくらい強いのかはわからないけど、竜族で一番とすると相当お強いのだろう。
竜王陛下と同じくらいとか?
知らなかった。なるほどそれでいつもちょっと物騒なのか。
「雛も抵抗することを考慮に入れると俺たち12人が全力を出す必要がある。」
あ、そうか。わたしも來姫様に手を貸すもんね。
「結果としては天空領の半分、地上領も壊滅状態になる可能性は十分にある」
「來姫様お強い!!」
手を組めば国が亡びるくらいにお強いだなんて知らなかった!
こんなにふわふわで美人さんなのに!
「紅も翠も手を貸してくれるでしょうし、地上領も含めて焼け野原にしてやるわよお?」
「來姫様格好いい!!」
頼もしすぎるので思わずきらきらと見てしまった。
「…それほどに俺たちを拒絶するのか…?」
あ、ヤンデレスイッチ入れてしまった。
12人の中でもかなりヤンデレ度の低い臣さまなのに。
うーん、逃げたいように見えちゃったかな?
やれやれ。みんなすぐヤンデレスイッチ入れちゃうんだから。
「わたしだって痛いのは怖いです。体が追い付いていないからもう少し待ってくださいとお願いしているだけじゃないですか」
ぷく、と敢えてふくれた顔を作ってやれば、ヤンデレモードは霧散した。
逃げるとは言ってない。
初夜が怖いって言ってるだけ!
そこを勘違いしないでほしいの!
「…雛は、俺たちのことがまだ嫌いか?」
「嫌いではないですよ。」
最初から嫌いではない。興味があんまりないだけだ。
「では好きか?」
「う…うーん…?」
これには悩んでしまう。
少し前なら秒で「好きではない」と言えていたはずなんだけど。
そう言うのを躊躇うくらいには、この人たちのことを少しだけ気に入りかけている。
「もう少しだけ待ってくださいよ。初夜は間に合わなくてもあまりお待たせしませんから」
「…ではせめて2人切りでの逢瀬を増やしてくれ。であれば俺は初夜を強要しないと約束しよう」
「わかりました。陛下の誠意に感謝します」
と微笑むと。
次々に手紙がぼとぼととどこからか降ってくる。
「…ほかの陛下方からですね。」
全て達筆な字で臣さまと同じ約束を結んでくれ的なことが書いてある。
「仕方がないですね、では毎日どなたかと2人きりになる時間は作ります」
でないとわたしの行動を逐一監視せずにはいられないようなので。
このまま放置して国でも滅びたら大変だ。
まずは1時間、王と向き合う時間を作ることにしよう。
善は急げというし。
「牛王陛下にはさっき狩ったドラゴンのお肉で何か作りましょうか」
「おお、それはつまり2人きりなのだな!」
「はい。1時間だけ」
「うッ…いやいい。それでいい。」
「じゃあ3時間後にお部屋に来てくださいね」
わたしも歩み寄るのだから、陛下たちも少しは歩み寄ってよね!!
ちょっとだけ猛獣使い的な気分になり、もしかすると"神様"もそうだったのかもしれないなあなんて遠い目をしつつ。
ドラゴン肉を解体すべくわたしはお気に入りのナイフを取り出したのだった。
お付き合いいただきありがとうございました。
書きたい部分は書いてしまったので、一旦ここで完結とします。




