表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/46

3.高い塔

そもそもわたしは乙女ゲームの主人公になんてなりたくなかった。

転生先としてはいただけない。

だって乙女ゲー主人公というのは相手役の力がなければたいがい境遇が悪い。

わたしもそうだ。

それに比べて悪役令嬢たちは生まれながらにして高スペック。


ずるくない?

このゲームはまだわたしに戦う術があるからマシかなとは思うけど。



これから各王は、全ての女性と一度は会う。

少なくとも全員一度は顔は合わせるわけだ。

そんな律儀なルールいらなかった。

わたしは一度たりとも顔を合わせたくない。



わたしの順番はもちろん最後なので、それまで有り体に言うところのステータス上げをすればよい。

残念ながら乙女ゲームなので、その合間にもうっかり会ってしまうイベントはあるわけだけど。

それは避ければ済む。あまり覚えてないというのが困ったところだけど。




記憶の通りならわたしの部屋はここだ。




一番外れの部屋…というか建物すら別の小屋だ。うん、小屋。

ここしか部屋が残っていなかったとかいう理由だけど、それは嘘だ。

高貴な身分の御姫様方と同じ待遇にはできないというちょっとした意地悪。


この小屋ってかつて侍女たちが使っていた部屋だから、一室一室はとても狭いし調度品もあまりない。

寝具と椅子があるのでそれだけで十分だけど。

共用だったであろう広いキッチンもあるし、外には井戸もあるのでまあおおむね満足だ。

実家とさほど変わりない。


荷物はご親切にも既に運び込まれているから、それをぱぱっと取り出して片付ければ終了。

部屋付きの侍女も他の方々には居るはずだけど、ここにはいない。

こんなところに貴族の娘である部屋付き侍女が居てたまるかって感じだけど。

平民のわたしに部屋付きの侍女がいるのもおかしいし。


もちろん平等に手配はされていたはずだけど、どこかで誰かの意地悪に遭い、こういう感じになった。

わりと可哀想なヒロインなわけだけど、わたしにとっては好都合だ。

だって好きなだけ部屋を抜けられるし。


ちなみにこんな待遇を王たちに見られたらいけないので、かれらが訪れる予定の日には違う部屋に案内されるはずだ。

ひどいことをするよね、本当。

これをやっちゃうのが竜族のご令嬢で、悪役令嬢たちの筆頭なわけだけど。



今は感謝しかないよね。

拝んでおこう、ありがたや。



さて、と適当に動きやすい服に着替える。

鼠族よりも小柄な我が一族の女性は、男性の恰好などしてしまえばすぐに小さな男の子に見える。

都合よく兄様の服が紛れ込んでおり、それを拝借した。


裾や丈が長いのは切ってしまう。

ごめんね兄様。



ということでいざ出陣です。





***




ゲームでは確か高い塔の上に鳥の触媒があったはずだ。

そのアイテムを拾って飲み込むと『召喚』の力を得るという強引な設定だった…気がする。

どうやって飲むのか今は考えてはいけない。



恐らく自分たちのお部屋のお姫様方のためにお忙しく働く人々の間を気配を消して縫う。

影の薄さにかけては自慢できるレベルだと思います。


そこを抜けると目的の塔がある。

すんなり見つかったことに拍子抜け。

まあ遠目でもよくわかるほどに高い塔だしね。



「ここ、だよね?」

手入れは行き届いているようで立派な扉をそっと潜るとすぐに螺旋階段がある。

「…うわあ」

天辺が見えないくらい高いが、腹を括るしかない。



「ふう、…うそでしょー」

やっと10階分くらいのぼったところでわたしは絶望することになる。


階段が、ここまでしかない。


この上は梯子で、何階分あるのだろうか。

無理だ。

今のわたしでは到底。



階段に座り込み、しばし呆然とする。

唯一覚えている触媒の場所だったのに。

それにこれだけあればそれでよかったのに。


この触媒を得るために他の触媒を探さなきゃだめってこと?

「…いや無理ぃ…」

思わず声が漏れるのも仕方ないと思うの。


だって捜索範囲、天空領全部だよ?

13も広い王宮があってその上森やら湖やらあるどこまでも広い天空領だよ?

「無理でしょ…」




ちょっぴり黄昏て座り込んでいると。

「おやおや、こんなところに人が居るね」

ふわりと音もなく隣に立ったのは、間違いなくさっきまで壇上に居たお方。


あまりに唐突で、びくりと体が震える。

「ちッ…!!」

鳥王(ちょうおう)陛下。

言葉にならないままにとりあえず頭を地面にこすりつけておきます。


「ここ、立ち入り禁止だけど知らない?」

立ち入り禁止ならそう書いといてくれよ!!

「もももも申し訳ございませんッ!!存じ上げませんでした!!」

小姓に見えているはずだから、この人が大らかであれば許されるはずだ、多分。


いや無理かなあ。


「どこの誰?」

冷えた声が刺さるようだ。

わたしここで死ぬかな、いやもうそのほうがいっそマシかもしれない。



なんて思いつつ一応考えていた嘘を並べておきます。



「種族名無き我が一族で付き人をしております」

ここに来た花嫁候補じゃなくてその付き人ですよみたいな体で逃げ切ろうと思います。

一人あたり一人まで従者を連れてくることが許可されているのでそれを利用します。

わたしにはいませんけど。


この言い訳で逃げ切れます?死ぬ可能性ありですね。


ちなみに"種族名無き"というのはその通りで、我々にはそんな高尚なものはない。

名乗るときは相当に遜る。



「劣等種の小姓がここへ何のために来たの?誰かの命令?」

ひえ、ますます声が冷えている。

こっわ!


鳥王陛下こっわ!

クルマサカオウムみたいな見た目してるのに!!

いや髪の毛が派手なピンクってだけだけどあながち間違ってないんじゃないかと思っている。

鳥族って色々種類があるから見た目も派手なんだよね。



「いいえ、迷ってしまったので高い場所から見渡せば目的地がわかるかと思い登ってしまいました」

早口で準備していた答えを告げれば、ため息を吐かれた。


「どこに行きたいの?」

「え、ええと食堂へ。お嬢様へ食事を…」

「わかった。もう二度とここへ来たら駄目だよ。次はないから」

耳元で囁くように脅されて、わたしは震える声で「はい」と絞り出した。



もしかして触媒の在処って王が守護なりなんなりしてますか?

そんな話でしたっけ?

い、いえいえまさかそんな。ええ。

王がそんなに暇なものですか。

それではつんでしまいます。



「その者を案内しろ。きっちり食堂まで」

傍にいた鳥族の騎士がわたしの首根っこをひょいっとつまみ、ふわりと地上へ降り立つ。

「…もうやだ帰りたい…」

思わず泣きごとを漏らすと、なんだか慈愛に満ちた眼差しで見られた。


怖かった。


「食堂はここだ。お前、主に恵まれてないのか?」

「い、いえそうではなく…僕たちはこんな場所へ来てもいい存在ではありませんから。姉さまと早く家へ帰りたいだけです」

「だが陛下方に見初められればお前の主…姉なのか?も喜ぶだろう?」

特に鳥王陛下は素晴らしいと自らの主を称える彼に適当に相槌を打つ。


うるせえ個々ではよくっても12人は無理なんだ!

と内心で悪態をつきつつ顔は笑顔のままだ。


「そうなんですねえ、僕たちにはやっぱり恐れ多くって」

食堂へ突っ込まれたのでそこでお別れ。



こうして初日のミッションは失敗に終わったのでした。








毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。

『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される』

https://ncode.syosetu.com/n6804fq/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ