2.十二の王
本来のストーリーなら、遅れて来たヒロインが注目を集めてしまい、さっそく悪役令嬢方のやっかみを買うが。
どうやら更に遅れたことで、注目を集めることは免れたようだ。
兄様はさっさと帰ってしまったのか、ここからは出られない。
扉の前に屈強な竜族の騎士の方々がいらっしゃるので。
頼めば出られるかな、なんてちらりと顔を見たけれど、普通に怖かったので諦めた。
だって3mくらいある。こわい。
戦術的撤退です。
逃げることはまだ諦めていない。
煌びやかなそこには色とりどりの衣装で身を包んだお姫様(比喩ですよ)たちがいた。
各種族から少なくとも2人、多いと10人ほど招集されているようだ。
何人いるんだろうなあこれ。
結婚できる年齢であること、未婚であること、上級貴族ということ、の3つが条件だ。
しかしわたしは上級貴族ではない。それどころか平民だ。庶民だ。しかも貧乏だ。
特異種である我々は人数がとにかく少なく、というかわたしの一族しかいない。
たまに物好きが現れて婚姻してくれて細々とつないでいるような状態だ。
子供は必ず特異種になる。
いままでよく絶えなかったよね、そこは神の末裔パワーなのかな。
全ての種族から平等にお集めになった尊い方々は、我が一族の中から唯一未婚の女性であるわたしを呼び出すしかなかった。
兄様にはああ見えてかわいい鼠族のお嫁さんがいる。
余談だけどお母様も美人ぞろいの兎族の中でも特に美人の部類だ。
他にうちにいる女性陣はみんな他種族だから、わたしが行くしかなかった。
こういうところもまあ乙女ゲームのご都合設定といえばそうなる。
そうでなければ他の人に押し付けたのに!
で、そんながばがばの条件で集められたわりにお美しいお姫様しかいない。
どうなってんですかね。
高貴さには顔も必要ですか?
わたしはというと、確かに顔立ちはお母さま譲りなのか可愛らしいとはおもうけれど、普通に黒髪黒目だ。
瞳だけは乙女ゲームの主人公らしく、神の力に目覚めればたしか虹色になったはずだ。
その予定はないので一生黒目です。虹色の瞳とかなんか怖いし。
美人のお母さまは兎族らしく綺麗な白髪に赤い目なんだけどな!
遺伝はどこいった。
父様も兄様も私と同じ黒髪黒目だからもうこの一族の血が濃いんだとしか思えない。
と、会場を机の陰からそっと見渡し終えた頃。
銅鑼が響き、お姫様たちが静々と頭を下げて前へ出た。
あれが正しいお作法なんでしょうね!
わたしはもちろんそんなことは知らない。
そんな教育受けてないもの。
この机の陰というベスポジを手に入れてしまったので動きません。
念のため頭は下げておきます。
前に出る気がしないというのも、服が貧しすぎるのだ。
細々と自給自足で暮らすわたしたちが煌びやかな衣装なんて持っているはずもなく。
持ってこられたのは親戚一同からかき集めた婚礼衣装を手直ししたもの。
もちろんわたしたちの中では一番きれいな服ではあるけれど、目の前にいる正真正銘の貴族たちに並ぶことはできない。
ヒロインは堂々としてたけど、普通の感覚をしていたら無理だと思う。
だって恥ずかしい。
ドレスコードのある高級店にジャージで行くようなものだ。
無理無理恥ずかしい。
「面を上げよ」
厳かなお声と共に、お姫様たちが顔をあげたようなのでわたしもそっと十二の王たちを見る。
今話したのは各王の代表格である竜族の王。
真名は契らないと呼べないことになっているので竜王と呼ぶ。
確か年齢だけでいうと最年長で200歳くらいらしいけれど、竜族としてはまだまだ若いらしく見目は10代後半くらいにしか見えない。
とんでもなく顔がいい。流石攻略対象。
次いで猪王と蛇王、鼠王が100歳くらいだったか。
馬王、牛王、羊王が80歳くらいで、鳥王、兎王、犬王は50歳くらい。
最年少の虎王は20歳だというが、まだ5歳くらいの子供にしかみえない。かわいい。
合法ショタだ。
寿命が種族によって異なるため、それによって成長度合いが異なるようだ。
見た目と年齢が一致しない。
例えば鼠王と猪王と蛇王は同じ年くらいなはずなのに、鼠王と猪王はイケオジって感じで蛇王は涼やかな20代くらいのイケメンって感じ。
鼠王はゲームプレイ時もスマートで好きだった記憶がほんのりとある。
まあレベル上げにばかり精を出していたのでストーリーなんてほぼすっ飛ばしてたわけですが。
どの王たちも大変に見目が麗しく、お姫様たちがうっとり息を漏らしているのが聞こえる。
前では竜王が代表してよく来たな的なことを言っている。
ここは十二ある王宮が円形に並ぶ中央に位置する十三番目の王宮。
かつてここは神が住まう宮だった。
神は最初の王たちの最後の一人が寿命を終えるのと同時に眠りについた。
以来ここは催し等の時に使われる共用の宮とされた。
ということになっている。
嘘だ。
わたしたちの一族の王が亡くなって、他の家族は次の王を出すことを拒否した。
王たる神が作った12の種族が独り立ちし、もう神の力は必要なくなったから。
そうしていつしか神の一族は忘れ去られてしまって、今に至るわけだ。
もちろん遥か昔の話だから所有権を主張する気はさらさらないけれど、遠い祖先の遺物がここにはある。
つまり『召喚』の能力を得るのに必要な"触媒"のようなものだ。
このあとわたしたちに与えられる部屋もこの十三の宮になるので、それを探せば逃げられるのではないかと思う。
十二もいらない。
鳥の能力が空を飛べるはずなのだ。それさえ見つければわたしはここを去ろう。
そう決意し、この部屋からいつのまにか人が居なくなっていたのに気づいた。
やば。自分の部屋に行かなきゃ。
毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。
『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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