1.プロローグ
軽い気持ちで始めたので30話程度で終わります。毎日予約投稿しています。
――この世界には十二の種族が存在する。
各種族の王が住まう王宮がここ天空領に聳え立つ。
今、わたしは天空領に一歩踏み出した――
ここでオープニングムービーが流れ、各王、つまり攻略対象の紹介が入る。
そう、ここはオリエンタルな雰囲気が売りの乙女ゲーム『十二の王と末の神』の世界だった。
この通り、わたしヒロインに転生してしまったようなのです。
ちょっとこの世界について回想させてくださいね。
パニックなんです。
まずわたしことヒロインは、人種のいないこの世界での"十二の種族"に該当しない。
特異種と呼ばれ、獣耳も無ければ尻尾もない。つまり見た目はただの人間。
ネタバレをしてしまうと、人間じゃなくって神の末裔(タイトルがネタバレ)で、この世界の神はどちらかというと護られる存在なので神だからといって特殊な能力はない。
ちょっと生命力とヒロイン力が高い程度だ。
けれど各種族の王からこれでもかというほどに愛される。
理由なんてヒロインが神の末裔だから、それだけだ。
初めから出来レースの簡単・お手軽の逆ハーレム構築ゲーだ。
生前のわたしについて思い出せることはほぼないけれど、このゲームを仕事の片手間に遊んでいたことは思い出せる。
乙女ゲームはあまりやらないのだけど、このゲーム、ストーリーはともかくシステム自体は面白かった。
普通にRPGっぽくジョブや戦闘もあったり。
服が可愛かったり。
ヒロインの見た目をいじれたり。
とにかくお手軽なスマホゲームだった。
そうだ、そのジョブの最終系に、ヒロインだけが使える『召喚士』というものがあったはずだ。
十二の種族に伝わる伝説の生き物から力を引き出せるとかなんとか。
その演出がいちいち格好良かった記憶がほんのりとある。
だれど決して転生先に選びたくはなかった。
だって、最終的に12人の夫ができるんですよ。
しかももれなく全員王様だ。
嫌でしょ。無理でしょ。こっちは生まれてこの方平民(しかもかなり貧しい)だぞ。
このゲームのおかしなところは個別ルートにまともなルートが存在しないことだ。
個別ルートに入る = バッドエンド。
個別のルートに入ってしまうと、必ずヒロインは生きた標本みたいにされる。
ガラスケースの中に閉じ込められて、意識もぼんやりとしたまま身動きも取れずにただただ生かされる。
それを回避するには全員から愛されなければいけないし、愛さなければいけないという頭のおかしいゲームだ。
サイコパスかな。
せめて個別ルートを作ってくれたらよかったのに。
しかも乙女ゲームらしく悪役令嬢さんがもちろんいるんですよ。
それをこう…ヒロインはバトルで倒すんですけど。
無理でしょう。
12という数でお察しかと思いますけど、十二支の動物がモチーフなのだ。
虎とか竜とかいるわけで。
ね、無理でしょ。
よし、帰ろう。
だってわたしまだこの天空領の端っこに足を踏み入れただけだもの。
まだ間に合う。
ここにヒロインがいるのも、下は20歳、上は200歳までの王たちの伴侶を探すために国中の適齢の女性が集められたからだ。
種によって寿命はそれぞれだが、乙女ゲームのご都合主義よろしくたまたますべての王に伴侶がいない。
が、ほぼ確定と言われている最有力候補のご令嬢たちがいる。
美しく、聡明な各種族トップクラスのご令嬢方が。
そこへ入ってきたヒロインのほうがお邪魔虫だ。
何がしたいんだこのゲーム。
いや脳死でイケメンたちからただひたすらに愛されるっていう疲れた社会人にはぴったりなゲームではあったけど。
異分子はわたしのほうなのだから、今逃げだせば平和に生きられるのでは?
思い出したのがぎりぎりだけど今でよかったということにしよう。
「よし、帰ろう。それしかない」
ここへたどり着いたのは幸いにして最後だ。
なにせほら、ヒロインって遅刻するものだから。
わたしは特異種の集まる小さな村で、細々と暮らすのです。
あそこは穏やかで時間が止まったようで、いいところでした。
送り届けてくれた兄様と一緒に帰りましょうそうしましょう。
と踵を返し、わたしは天空領と下界を繋ぐ唯一の手段である昇降機に乗り込んだ。
が。
昇降機がうんともすんとも言わない。
え、これの動力はなんです?
電力ではないことはわかります、この世界にはないし。
魔力というか、この世界では呪力とかいうんだけれど、それかもしれない。
だとしたら絶望的だ。
呪力はヒロインに備わっていない。
だってそういう種族だから。
というか兄様は何処へいったの?
王宮まで連れてっていってくださるって言ってたよね!?
「おい、雛。早く行くぞ、何をしている」
持ってきていたはずの荷物がないので、先に届けて来たようだ。
仕事が早い。今は困るけど。
うん、あの荷物のことは忘れましょう。
わたしたちにとっては高級なものばかりだけれど背に腹はかえられませんって!
「兄様!!やはりわたしたちは帰りましょう!!」
「急にどうした?ほら行かねば。」
わたしを持ち上げようとする兄様に全力で抵抗し、昇降機から降りまいと手すりにしがみ付く。
「わたしたちみたいな特異種が行ったって笑われるだけですもの、帰りましょう!!」
「いやそれもそうだが、お前を寄越すよう通達が来ているのだ。俺たちに断るすべはないぞ」
困った顔で、しかしわたしが手すりを掴む手をぺりっと剥がされる。
ほら、笑われるんですよ!!絶対!!
いやそれはいい。もう笑われているほうがよっぽどいい。
だいたい名前もなんか生贄みたいでいやなんだ、雛って!!
「どうした、お前がこんなに暴れるなんて珍しい」
そうですね、さっきまでのわたしは大人しく唯々諾々ということを聞くお人形でしたものね!!
今ならわかる、自我が目覚めてなかったんだなって。
やっとわたしが目覚めたんだなって。
もう目覚めなかった方が幸せだった気すらします。
ろくな抵抗もできず、兄様に抱えられたまま集合場所へ放り投げられたのだった。
逃げられなかった。
こうなればあとはただただ息を潜めて空気になるしかない。
虎視眈々と逃げる隙を伺うほかない。
無理だとしても、1年何事もなく終われば帰れる。
それを目指すしかない。
毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。
『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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