大本営発表Ⅱ
恒例の墓穴タイム
「現状、我が艦隊は十個艦隊のうち、まだ八個艦隊は勝利しています」
スター総帥は軍部の長時間にわたる報告にイライラしていたが、結果として歓喜した。
「つまり、クローザーは勝ったということだな」
スター総帥はさっそく、リザを挑発する動画の製作に取り掛かる。飛び切りの侮辱を添え、恥辱で塗りたくった文句も考えた。今度こそ、プライドの高そうなリザの悔しがる顔が見れる。そうやって想像するとたまらなく興奮するスター総帥であった。
「奴らは敗北を知られたくないらしい。何も発表しようとしないじゃないか!」
数時間の間、総帥はご機嫌だった。そして、突貫工事で動画を作る、壊滅するヒリア艦隊を総帥の想像を元にCGを作成し、派手な演出とわかりやすい字幕で勝利の宣伝を始めたのである。
そして、勝利報告から約八時間。製作費をたんまりと盛り込んだ一流映画並みの宣伝動画が出来上がった。
「さぁ、早く公開しろ」
この少し前の時刻である。エーリッヒとリザはいつもの共有スペースでクロリーの入植計画について相談していた。そこに、国防大臣がやってくる。
「お二方に朗報です。本日、午前一時(地球基準時間)に作戦を開始し、先ほど敵第二艦隊約二十一隻すべてが投降いたしました。当方の被害艦は存在せず、出撃した航空機の一機が帰還用のゲートウェイドライブに異常を発見し、第二艦隊が直接回収を実施しております。我々は完全な勝利を収めました。以上、速報です」
「ありがとう、ゲートウェイドライブの異常原因は早急に調査して頂戴」
「畏まりました」
そして、エーリッヒが口を開く。
「アイゼンフローラ。少し良いか」
「はい?」
「勝利発表は少し待とう」
「良いけど、どうして?」
「黙っていると墓穴を掘るのが向うさんの礼儀作法らしいのでな」
リザは少しだけほくそ笑む。発表は事実関係を整理して翌日行うことにした。
「せっかくだ、捕虜の提督には政府発表に出演してもらおう」
基本的に捕虜を動画などで映し身元を公開することは条約により禁止されている。しかし、オオクマ提督やクローザー提督のように同意を得た場合は良いとされている。早速、艦隊に連絡が行き、クローザー提督のインタビューが行われる。
「今回の戦いにおいて何か一言いただけますか?」
「俺は戦いで負けたがドリフトでは負けてない!」
彼の体の大きさや声の圧力もあって非常に迫力あるインタビューとなる。思わず小柄なインタビュアーがのけぞる。白い肌に血管が浮かび上がり、更に顔が真っ赤になっている。だが、彼曰く動画に何か意気込みを向けるときはいつもそうしており、べつに怒っているわけではないらしい。
「それで、ヒリア帝国には美女が多いらしいから、亡命を希望する。俺に抱かれたい奴はいつでも抱いてやるから名乗り出るがいい!」
スター総帥はいい気分で目覚め、クローザー提督のインタビューを目にしたあたりで最悪の気分となった。またしても、勝ったと思ったらいつの間にか負けていたのである。
「さっきまで勝っていたはずじゃないのか! 一晩で何が変わったんだ!」
またしても、軍上層部は一掃されて入れ替わることになる。既に、作戦立案要員の八十パーセントが失われ、国内に残る現役の将官は誰もいなくなった。今回の敗北は海軍の問題であるが、陸軍も海軍も一緒に粛清を受け、コミュニエロー共和国軍司令部はこの時点ではほとんど機能しない存在となった。コミュニエロー総帥府は深刻な機能不全を引き起こすこととなる。
「ヴァルトヴェルト、私、思うんだけど」
「ん?」
「向こうの総帥って統合失調症だと思わない? 勝手に勝利動画を上げて、勝手にわかりやすい嘘をついて、それでいて責任は誰かに擦り付ける真似ができるのは常人では無理だと思うのよ」
「君の言いたいこともわかるが、統合失調症はあそこまで重篤だろうか?」
「ふむ、それもそうね」
クロリー新興府には平和な時間が流れていた。




