しめじ系女子
今日はヒリア帝国において編成されたR方面軍の出陣式である。国家を斉唱する立場のレナにとっては式典の中身はそれほど興味のある内容ではない。ほとんどの隊員は既に軌道上に配置されており、レナの声も超光速ネットワークで届くのみである。人がたくさんいるよりは、閑散とした音響室で歌う方がずっと気が楽だった。ただ、おめかしできることについては悪い気はしない。お偉いさんたちに混ざってレナはグラスを手に持つ。二度と元に戻せない誓いを立てるらしい。レナはアルコール控えめのシャンパンを所望することにする。レナにとっての初仕事は就任式であり、祝福の歌を捧げたリザ代表は記憶に新しい。その彼女がまたしてもレナの目の前にいた。今日は、この出陣式の後にまたしても彼女に歌を捧げることができる。彼女は美しく、レナに年齢が近い。そしてこの戦争において元帥という立場で戦争の指導を行うことになる。人は本質的に自分にはないものに憧れ、嫉妬する。
(もし、彼女のように強い人になれたら…)
レナは同じ軍人でありながら、彼女のように強さの溢れる女性ににわかに憧れた。
「貴殿らの活躍は帝国民に捧げよ。そして、国民は勝利を望んでいる」
シャンパンはほんのりと口の中で香り、潤いをもたらした。そして、飲み終えると皆が一斉にグラスを地面に叩きつけて割ってしまう。約束に使った器は壊れてなくなり、もう二度と新たな契約で上書きすることはできない。
その後は粛々と式が進みあっという間に解散であった。レナがこの場所に知り合いがいるわけでもないからすぐに帰ろうとした。そんなときに、リザ代表に話しかけられたのである。
「レイアミラン中尉。今回もありがとうね」
「はい、私にはこれしかできませんから!」
代表は、以前も私が歌ったことを覚えていてくれた。と言う高揚感。レナは普段目立つのを嫌うが、やはり人に覚えられるということを嫌っているわけではなかった。
「見守るのもつらい立場よね」
「はい、戦えるなら直接戦いたいですね!」
これは、レナ自身が自分らしくない言葉だなと思った。でも、思いを隠さないことも案外気分が良いものである。そして、その式典のあとレナはすぐさまこの発言を後悔した。
「なぜ、歌声採用の私が艦隊勤務になっているのか!」
もしここで、国家的な陰謀でもあれば、シウスがエリミネートモードに切り替わり、
「気づいてしまいましたね」
と、渋いモザイクボイスでしゃべるかもしれない。しかし、レナの質問にシウスは教科書体のフォントで答える。いつも通りの反応。何の死亡フラグも立たなかった。
「艦隊勤務はストレスが溜まるから君の歌声でみんなを癒してほしい」
誰が打った文章か知らないがレナは納得しない。
「私のことは誰が癒してくれるの? ろくな訓練も受けてないのに!」
「大丈夫、最近の艦隊戦は死者が出ないから。安全だよ」
安全に戦争。レナの中の「安全」と「戦争」の定義が揺らぐ。歌を歌っていないときの自分がどれほどしょうもない人間か。キノコで例えればしめじ。大勢集まって初めて成立する存在。しめじが好きだという人はまあまあ好きと言い、嫌いな奴は無言でよける。皿の上の単体しめじなど単なる得体のしれない謎キノコである。そんな謎キノコの私に何ができるだろうか!
レナは、そんなことを思っているだけで正式に抗議しなかった。明日抗議しようとしているうちに月日は流れ、レナの体はもう艦上だった。これでも階級が中尉であるレナ。船上の同僚たちは、
「あの青い星がアイスマーキュリー(惑星アクアのある)星系だよ。綺麗に見えるね!」
と、能天気である。本当は全力で嫌がるべきだが、レナは感情表現が苦手だった。と言うより、周囲からはどんな状況でも沈着冷静なクールビューティーとして映るらしい。
「うん、何もかもが懐かしい」
顔には出ないレナだが、体の至る所から変な汗が出るのである。レナが配置された艦は、フラッシュソナー艦と呼ばれる星系早期警戒管制艦ブラックサイトである。期せずして、レナもまたこの戦争に深くかかわることになる。
(私、この戦争が終わったら結婚するんだ…。相手はまだ見つかっていないけど)




