コミュニエロー艦隊一斉出撃
いよいよ敵艦隊が襲来する?
開戦から一週間程度だろうか。
諜報部隊には天文観測班が存在する。コミュニエローという星は巨大なガス状惑星である。ここシャインレイから眺めるコミュニエロー星は一等星のゴールデンリングよりも大きく見えた。シャインレイの空では、今まさに攻撃艦隊が準備をしている。諜報省の天文観測班は地上からこれら艦隊の様子を観察し、本国へ報告する役割を負っている。
彼ら天文観測班が一斉にヒリア帝国へ符号を送ってきた。民間人の動画に暗号を仕込んで一般の通信回線を経由して情報は送り込まれる。こういう意味では中立を自負するメディアも立派な軍事兵器である。ここから得られた情報は直ちに方面軍司令部へ通達される。これらの通達によれば、コミュニエロー艦隊がオーバードライブにて各星系から一斉に出発したのである。
オーバードライブは超空間跳躍である。巨大な戦艦に働くマクロな物理法則世界から速度を上げて艦隊を圧縮し、素粒子にしか働かないミクロな物理法則の波に乗るのである。外から見たとき、非常に強力なエネルギーとそれに伴う輝きを残して十一次元の空間に遷移する。鮮やかな星空のイルミネーションが明滅する夜空を少しだけ明るく染めたのである。
「大佐。一斉、で間違いないですか」
少佐となった参謀のミラナがモロコフスキー大佐に聞き返す。
「一斉で間違いない」
「チャージ開始も同時でしたね?」
「そうだ」
二人はしばらく沈黙する。
おさらいだが、オーバードライブの跳躍時間はどんな距離でも一か月ほどだが、跳躍距離はエネルギーをチャージする時間により変わる。早ければ一週間程度でチャージできるだろう。しかし、コミュニエロー惑星は人口密集政策をとっているので惑星ごとでエネルギー余剰量が星によってかなり異なっている。同じ距離を跳躍するにも、エネルギーに余裕のあるメッシュラインは一週間のチャージで済むかもしれないが、余剰が少ないシャインレイは三週間くらい必要だった。しかし、彼らはチャージ時間を揃えて跳躍した。つまり、
「あいつら馬鹿なんですか!?」
異なるエネルギー量で同時に飛び立てば、出現座標は離れ離れになってしまう。チャージエネルギー量の違いは跳躍時に放たれる光の色でも確認することができ、エネルギーの少ないシャインレイ近傍から出撃した艦隊はオレンジ色の光線を、エネルギーの高いメッシュライン艦隊は青色の光を放つ。コミュニエローは先の通り単一ガス惑星の衛星たちなので、スタート地点はほぼ一か所と言える。同じ地点から出発した十個の艦隊が異なる諸元で飛び出せば、当然ながらバラバラの場所に到着する。それも一光年も離れた範囲である。こうなると、近郊で一つに集結して待ち受けるヒリア帝国艦隊としては容易に各個撃破できる。艦隊には通常航行エンジンも搭載されているが、星系内ですら合流するには月単位の時間がかかるほどに時間を要し、ゲートウェイドライブを搭載するヒリア艦隊にとっては好きな艦隊から攻撃が可能な状況だった。敵地へのオーバードライブ時の鉄則はただ一つ、ちゃんと出現場所を合わせて飛び立つことである。




