33、たこ焼きで幸せになりました。
たこ焼き一皿八個入り、二百円。
そこはお値段も良心的だった。
え?こんなに安くて大丈夫なの?と心配になるほどだけれど、多分大丈夫なのだろう。
「おばちゃん、たこ焼き四つください!」
皆、たこ焼きに飢えている。一人一皿は確実に必要だろう。
「はいよ!すぐ食べる?」
「すぐ食べます!」
イーリスは元気良く答えると、おばちゃんの神業のような手さばきに見とれた。
おばちゃんは素晴らしい手捌きで、あっという間に四人分のたこ焼きを木製の舟皿に盛り付けた。
「青のりとマヨネーズは?」
「両方お願いします!」
斯くして出来立てホヤホヤの、おかかも踊るたこ焼きが四人の手元に行き渡った。
「いただきますっ…!」
夢にまで見たたこ焼き、今ついにそれが食べられるのだと、イーリスはドキドキしながら、竹串でたこ焼きを刺した。
ちょうど竹串が、ブツリと中のタコを見事に刺した感触がする。
かなりの熱さが予想されるので、入念に息を吹きかけてから、イーリスはたこ焼きを頬張った。
「お、美味しいっ…!!」
そうそれは、夢にまで見た美味しさだった。
流石に未央オススメの店だけあり、下手したら記憶にあるたこ焼きよりも、更に美味しいかもしれない。
カリッと焼かれた外側は、香ばしく、カリカリしながらも柔らかく、口に蕩ける中身の出汁の味は、どこまでも味わい深い。
中のタコは大粒でプリプリしていながらも柔らかく、噛むたびにタコの旨味が口いっぱいに広がる。
まさに至高の美味しさだった。
「ああ、これが、これが私のずっと食べたかったたこ焼きですっ…!!」
イーリスは、たこ焼きを食べながら涙を流していた。
バルトもゼフィール皇太子も、初めて食べる本場のたこ焼きの味に驚いていた。
二人は、あちらの世界でも真似て作っていたたこ焼きでも充分に美味しいと思っていたので、本場のたこ焼きが本当にこんなに美味しいなんて驚きだったのだ。
「これは、イリィがずっとこちらのたこ焼きを食べたがっていたのも頷けるな。」
「ものすごく美味しいですね。」
文句の付けようのない味に、二人とも唸るばかりだった。
「せやろ、美味しいやろ。」
そんな三人を見ながら、未央も満足気である。
「これ、おかわりしてもよろしいですか?」
「そんなにたこ焼きばっか食うたら、他のが入らなくなるんちゃう?」
「他のご馳走も魅力ですけれど、今日はこのたこ焼きをもっと食べたいんですの!」
「ならしゃーないな、別にここにはこの後も何回でも来られるさかい、串カツはまた今度にしたらエエし、エエんとちゃう?」
「なら私も、もう一皿いただこう。」
「あ、私も食べます!」
こうして結局全員がたこ焼きを二皿ずつ完食して、初めての道頓堀でのたこ焼きデビューとなったのだった。
ちなみに、キラキラと輝くばかりに美しい美男美女のグループが揃って、感涙しながらたこ焼きを頬張る姿は、ものすごく目立っていたのだけど、心優しい大阪人の皆様は、遠巻きに写メを撮るぐらいで、微笑ましく見守ってくれていたようである。
道頓堀名物の、飛び出す寿司の看板、飛び出す竜の看板、食い倒れ人形に、グリコの看板、それらを観光しながら、シェアしながら寿司やラーメン、餃子も食べて歩いた。
あまりの情報量の多さに、ゼフィール皇太子とバルトは完全に頭がとお腹も飽和状態になっていた。
「聖女様の国には、ものすごく素晴らしいものが溢れているのですね。」
ゼフィール皇太子の国にはない、様々なもの。餃子も、豚まんも、寿司も、たこ焼きも、流通させれば、必ずやかなりの利益を生むだろうと予想できた。
「それに、文明もかなり発展している。」
電気を元にした機器の作り方は分からないけれど、真似をできれば、かなりの文明を飛躍的に進歩させられると、ゼフィール皇太子は感じていた。
「そうですわね、電気冷蔵庫が作れれば、魔法に頼らなくても食物の保存ができるようになりますわね。」
「冷蔵庫…。」
イーリスの言葉に、ゼフィール皇太子は考え込む。
『エクサヴィエンス』の世界にどれくらい文明を持ち込んでも良いのかは分からなかったけれど、皆の生活が豊かになるのであれば、それは決して悪いことではないような気がした。
どんな道具であっても、悪い人が使えば悪用できるし、良い考えで使えば人の役に立つ。
ゼフィール皇太子なら、きっと使い方を間違えることはないと、イーリスは信頼していた。
「まあ、こっちの世界にもまた好きな時に来られることがわかったさかい、今日は一旦帰って、ゆっくり考えてからまた来たらエエんちゃう?」
「そうだな。」
四人の手元には、城の皆へのお土産用に、551の豚まんが山のように用意されていた。
「皆とこの豚まんを食べながら、またこれからのことを考えれば良いな。」
「では、戎橋に行きましょうか?」
四人は戎橋に行くと、道頓堀の川を覗き込みながら、全員で手を繋ぎ、そこでイーリスは祈りを捧げた。
全員の身体が淡く発光し、そのまま「エクサヴィエンス」の世界へと転移していくのが感じられた。
「ちょ、豚まん持ったまま飛び込んだらアカンでー!」
その姿を見た街の人が、川に飛び込んだのかと勘違いして、何かを叫んでいたけれど、皆の耳には小さな声としてしか届いていないようだった。
無事に城に戻り、お土産に買った551の豚まんを皆に振る舞いながら、ゼフィール皇太子とイーリスは、未央の世界のことを皆に話した。
バイエル王国を更に豊かにするために、未央の国とどのような関わり方をするのが良いのか、重臣達は、その議題について、それから数日間話し合うことになったようだった。
あの時食べたたこ焼きの味にすっかりハマってしまったゼフィール皇太子とイーリスは、バルトと未央と一緒に、あの後も月一で大阪に行っては、皆でたこ焼きを食べるのが楽しみになっていた。
行くたびに、お好み焼きを食べたり、串カツを食べたりしてはその味に感動して、バイエル王国へのお土産が増えていった。
バイエル王国、引いてはピュレル王国の国民も、大阪の食べ物の美味しさに気付いてからは、その仲介をする未央の商売も非常に潤い、皆が幸せに暮らしたようであった。
おしまい。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
皆がたこ焼きを食べてただ幸せになるだけの、おまけの話でしたが、書けて良かったです。
この後も、皆幸せに暮らしていくと思います。




