その3 盗賊団狩り
「とある魔法の装備一式を揃えて欲しい、というのがクライアントの依頼……」
と、アルケナルは切り出した。
ホルスベック冒険者ギルド併設のコーヒーハウスにて、レーデル、セレナ、ルーティはアルケナルとの打ち合わせをしていた。
大きな窓から午前の柔らかな光が差し込む、明るい雰囲気の店である。ギルド併設とはいえギルドメンバー専用というわけではなく、見渡せば近所の住人や商人風の人々が席に着き、コーヒー片手に話し込んでいる。正午前ながら客は多く、それなりに繁昌している店のようだ。
「魔法の装備? どういった代物?」
魔法の武器や防具と言ってもピンキリである。鍛冶職と魔法職の両者に精通した職人が一人で作り出す物などは高級品だが、既存の武器防具に魔道士が魔法をかける、という手法で作り出された物は比較的手頃。前者は貴族など金持ちの持ち物だが、後者の簡易魔法装備なら、街中で見かける機会も多い。
「双月の竜騎士の武具、と呼んでいるわ……。特徴としては、黒妖鋼という黒い金属でできていて、どこかに二つの三日月を背中合わせにくっつけたマークが入っているはず……」
「はず、って、随分曖昧な言い方だな」
セレナの指摘に、アルケナルは人差し指を伸ばして答えた。
「実物を見たわけじゃないのよ……クライアントが所持しているのは胸甲一つだけ……。推測が正しければ、胸甲に剣、兜、ガントレット、そして竜面という五点セットのはず……」
「竜面? 何それ?」
「竜の顔につける装甲よ……。少なくとも五十年以上前に作られた代物で、単純に全部揃えただけでも結構な価値になる……」
「しかも魔法の武器防具となると、すげー値打ちだな。どういう来歴があるんだよ?」
「それは秘密……」
「教えてくれてもいいじゃねーか」
「クライアントの許可なしにはダメよ……。私も雇われの身だからね……」
アルケナルはレーデルに視線を投げた。
「五点全部を回収するには、同盟都市領内をあちらこちら出歩く必要がある……。あなたたちには私のボディガードをしてもらって……必要に応じて、その腕前を振るってほしい……どうかしら……?」
レーデルはコーヒーをすすりながら応じる。
「腕前を振るう、ってことは、モノを戦って奪い取るケースも想定されるってことだな?」
「避けられないケースもあるでしょうね……頼める……?」
「やってやるさ。腕には覚えがある」
そう言い切って、レーデルはセレナに視線を投げる。
セレナもやる気十分だった。
「大魔王の手下どもとも渡り合ってきたんだぜ。レーデルが勇者の称号を剥奪されるまでは、だけど」
「いらんことを言うな。で、何から手を付ければいいんだ?」
「どれもだいたいの場所は特定できてる……。最初にお願いしたいのはガントレットよ……」
アルケナルは周辺地図を取り出し、テーブル上に広げた。
自治都市ホルスベックを中心に、周辺の農村と主要街路、都市同盟に加盟している他の自治都市が記されている。
農村とも他の都市とも異なる地点にいくつかのバツ印がつけられ、そのうち一つが赤インクで丸く囲まれていた。
「バツ印は、盗賊団がよく根城にしている場所……。根城として使いやすい遺跡やら洞窟やらがある、という意味ね……」
「こんなにあるのか。このへん、昔は激戦区だったって話だからな」
ホルスベックをはじめ、都市同盟が繁栄している領域は、約五十年前までは人間と魔族がお互いの生存をかけて争う戦乱の地だった。ある時は魔界の魔族たちに支配され、ある時は人間達が土地を取り戻し……という一進一退を繰り返している。
そのためあちらこちらに砦や要塞が築かれた。現在もその機能を果たしているのは一握り、ほとんどは廃虚となっている。しかし往年の姿を半ば留めていて、それらを盗賊団などが住処、拠点として活用しているのである。
「今となっては迷惑な話よね……。で、今回のターゲットはこちら」
赤丸で囲ったところを、アルケナルはつついた。
「ここの盗賊団のお頭が、竜騎士のガントレットを所持している……」
「ふーん。その根拠は?」
「双月のマークよ……。このガントレットで敵を殴ると、双月のマークが刻みつけられるんですって……。で、この『赤蛇団』を自称する一団に襲われた村やキャラバンには、必ず双月のあざが浮かんだ被害者がいるって話……」
「なるほどね。じゃ、俺たちはこの赤蛇団とやらを襲撃して、竜騎士のガントレットを奪えばいいんだな?」
「そうね……。買い取りできるなら、お金で話をつけろ、とクライアントから言われているんだけどね……」
「話をすること自体難しいと思うけど」
「私もそう思う……だからあなたたちを雇った……」
「なるほどね。赤蛇団ってのは何人くらいいるんだ?」
「二十人かそこら、って聞いてる……」
「それに対してこっち側は――」
レーデルはまず自分を指し、セレナを指し、アルケナルを指した。
「全部で三人」
「ボクは?」
「ルーティはお守りみたいなもんだ。他に味方は?」
「以上よ……。もちろん、人数が多いに越したことはないけど、こちらにも予算の都合があるから……。やれるかしら、勇者様……?」
問われて、レーデルは視線でセレナに意見を求めた。
「三人でいけるんじゃねーの?」
セレナは気軽に答えた。
一つ頷いてから、レーデルはアルケナルに向き直る。
「三人で行こう」
「そう言ってくれるのはうれしいけど、大丈夫……?」
「どうにかなるさ。盗賊団狩りは何度もやってる。俺とセレナの二人だけで十数人の相手を向こうに回して、失敗したことはないね」
「それは頼もしい……」
「伊達に勇者として選ばれたわけじゃない。それに、難儀している村の人たちを味方に付ければ、盗賊団の行動パターンやら周辺の地理情報やらを教えてくれるからな。それを元に作戦を立てれば、確実に勝てる」
「手慣れてるのね……」
「いつ出発する?」
「都合が良ければ、今すぐにでも……」
問題の砦の廃虚は、丘の麓に半ば埋もれるように建っていた。
前面は見通しのいい平地で、森に包まれた急峻な斜面とのちょうど真ん中に、すすけた色をした石造りの壁面がそびえている。周囲の木や草に隠れて全容は測りがたいが、結構大きな建造物のようだ。四角い入口に扉はなく、そのまま丘の地下に掘られた内部へ続いているのだろう。
入口のすぐ手前に何本か石の柱が建っている。その周辺に見張り役と思われる男が三人ほどうろつき、あるいは柱にもたれていた。
「暇そうにしてんな。油断しきってる匂いがするぜ」
離れた岩陰に身を潜めつつ、ターゲットを凝視しているセレナが鼻を鳴らす。
その隣で、レーデルは別方向を目視していた。
「あんな奴らはどうでもいい。確認しておくべきは、逃げ道だ」
砦の正面から丘を回り込んで、数十メートル離れたあたりに、木々で覆われた暗いくぼみがあった。
「村の人の情報が正しければ、あれが砦の裏口だ。困った時の逃げ道だな」
近所の村で「盗賊退治のため情報が欲しい」と聞き込んでみると、レーデルの予想通り、村人達は喜んで協力してくれた。
「奴らは俺たちが必死に働いて育てた作物をごっそりあさっていくんだ。追い払っても追い払ってもしつこく戻ってくるし、こっちにも怪我人が出たり、本当にうっとうしい! やるんだったら二度と悪さが出来ないよう完璧に叩き潰してくれよ、変態勇者様!」
村ではかなり憤懣が溜まっていたらしく、次から次へと村人が来ては様々な情報を教えてくれ、しまいには食事まで用意してくれるという歓待ぶりだった。
「こんなところまで変態勇者の名が轟いているとは、驚いたわね……」
「本当にどうなってやがるんだ。だが、変態呼ばわりされたからって手を抜く俺じゃないぞ。村の方々の思いに答えるためにも、赤蛇団は完全に叩き潰す」
「……それじゃ、作戦は打ち合わせたとおりに……?」
「適当なタイミングで始めてくれ」
そう言って、レーデルはその場から駆け去った。
「……うまく行けばいいんだけど……」
「うまく行くって。いざという時はあたし一人で全員ぶっ飛ばしてやるからさあ!」
セレナは岩場に転がる適当なサイズの石ころをかき集め始めた。
握り拳大のものを適当に二、三十個ほど集め、そのうちの二つを手に取り、お手玉をする。
レーデルが砦の裏口そばに待機したのを確認してから、気合いの声を上げた。
「そんじゃ、始めるぜ!」




