QED ead
『人を殺すことは悪いことです』
『不幸であっても、殺人を犯すことは、
更なる不幸を呼びます』
常識的な、後悔を促す台詞はたくさんあった。
そして、私にはそれが99.9%できた。
でも、できなかった。
『天使の声』は使えなかった。
使いたくなかった。
私の心の声で、私自身の言葉で伝えたかった。
彼を責めることなどできない。
よほど私の方が罪にまみれているから。
この手は、見過ごした血で汚れているから。
私は自分が嫌いだ。
自分の仕事も。臆病な性格も。
けれど、彼に一目惚れした瞬間から。
私は、そんな私が嫌いでなくなった。
生きる意味を見つけた。
そして、彼の牙と爪が私に向いたとき、理解した。
――ああ。分かった。
私はあなたが、ほんとうに、
ずっとずっと好きだったんだ。
彼の牙が首筋に染み込んで、爪が肩に食い込む。
まるで抱擁のようだ、と朦朧とする意識で思う。
ああ。私は喰べられたかったんだ。
私のすべては、あなたのためにあったんだって。
なら、あなたの一部になって。
それで、あなたが幸せになって。
もし、傷つけることをやめたなら。
とても、嬉しい。
「――――――好きです。
・・・ありがとう。」
これは私が解決できなかった、
最初で最後の事件。
それはまさに初恋そのもの。
あの地獄のような日々の終り。
私はそれが誇らしかった。
最後の意識で私は彼を抱きしめた。
彼の吐息が頬に触れて。
私は笑った。
幸せだった。
おそらく明日完結。