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6 便所の魔神は逃げられない

前回のあらすじ

 ビガンの町の中央広場が【AFK】の聖地になってた。ヒロシが失言した

ヒロシ!お前何してくれてんの?!絶対に許さない!

とりあえずヒロシだけなら誤魔化せた。周囲の人もコイツ何言ってんの?みたいな反応だったし。

良くあることなんだろう。それで大丈夫だと思ってた。


そこにあのメガネの男性が現れたんだけど、突然目の前で土下座を始めた。


「便所の魔神様!!!私が間違っておりました!!!!再びお会い出来て光栄です!」


土下座したまま、どこからそんな声が出るんだってぐらい通る声でそんなことを言いだした。


メガネの人、ドルニエットさんはビガンの町では有名なミュージシャンらしく、歌唱道場も持っているらしい。

この広場の木も整備に尽力してるらしく、結構な顔役だった。

ドルニエットさんの横にいた僕と同世代ぐらいの男性が彼の門弟らしく早口にいろいろ教えてくれた。

そう、そんな人が僕を[便所の魔神]だと認めてしまったので誤魔化すのはもう無理だった。


広場中の人がざわざわしながらこちらを見ている。

遠くでヒロシが両手を合わせてゴメンのジェスチャーをしている。ダメだ!許さないぞ!

参拝列に並んでた人達が周囲をぐるり囲んで、なんか僕を見て拝んでいる。

あれ?コータさんとツネさんもそこに混じってる。やめてください!


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【AFK】のレベルが7に上がった』


まだまだ上がりそうになかった【AFK】のレベルが突然7になった。

みんなが[便所の魔神]とやらに拝んだ結果が僕の【AFK】の経験値に反映されているようだ。認めたくない。

これってレベルが上がっても恩恵が用を足す時間が短くなるだけなんだよな。

【AFK】の説明を見てみることにした、レベルごとの効果を見たいので魔力をつぎ込んで【ステータス】をレベル3の表示で呼び出す。


■■■

【AFK】

瞬時に用を足す。レベル上昇で硬直時間が短縮される

レベル1で小が30秒、大が300秒程度の硬直時間を必要とする。1レベルにつき10%短縮される。

■■■


確かに大の方をするときは暫く身動きできなくなるけど、レベル7だと40%てこと?小が12秒で大が120秒か。あれ?意外と実用的じゃないか。

そんなことを考えている今も周囲の状況は一向に改善しない。


「魔神様!ぜひ、我が道場にお越し下さい!」


ドルニエットさんがテンションが高いままそう切り出した。

なんかここで誘いに乗ったら[便所の魔神]として認めてしまったようで受け入れ難い。

ただ、ここで人に囲まれてる状態は打開したい。

僕は、結局ドルニエットさんに連行されることを選択した。


―――――――


ドルニエットさんの道場はビガンの町の南東ブロックにある綺麗な建物だった。道場というよりサロンという方が合っている。

綺麗に花が備えられ、家具類も落ち着いたものが揃っていたが、佇まいが高級な感じがする。

道場にいた人達も綺麗に着飾った女性が多かった。一度営業先の女社長に連れられて参加する羽目になった社交の場に似ていた。

あれはいろいろ常識が違う場に面食らったな。おかげで大量の発注をもらったので社長さんには感謝しかない。


僕は通されたパーティルームのような場で過剰な歓待を受けていた。

テーブルの上には豪華な食事に上品な酒類も並んでいた。料理は女性が多いせいか肉料理より野菜料理やフルーツが多めだった。

ドルニエットさんと奥さんのバーバラさんがいろいろ話な話をしてくれた。

βテストで問い詰められていたときにはなんだこの人は!と思ったけど、とても物腰が柔らかくて良い人だった。


βテストが終わって間もなくした頃、ビガンの町に次元神ゲルハルト様が現れたらしい。

神様の登場に町を上げての大騒ぎだったらしい。

いろんな歓迎パーティが企画されたが次元神様はすべてを断って広間に向かったそうだ。

そして僕がしていたように水筒を取り出して木に水を掛けている姿を町の人が遠巻きに眺めていたようだ。


『ユーキ殿!!!私も【AFK】の習得と相成りましたぞ!!!!』


突然、次元神様はそう叫ぶと涙を流していたそうだ。毎日広場に行くのが日課のドルニエットさんもそれを見ていたらしい。

次元神様はそのまま上機嫌で冒険者ギルドに引き上げていったようだ。


「私はそれを見て、試さずには居られませんでした」


ドルニエットさんは『どういうことだろう?』と自宅から水筒を持ってきて同じようなことをしてみることにしたんだとか。

歌を披露する会場によってはトイレが十分に整備されていないことがあり、困ることが多々あったので【AFK】のことは知っていたらしい。

そんなスキルは存在しないという町の噂を聞いて諦めていたところに次元神様の叫びを聞いて、試さずには居られなかったんだそうだ。


「試す時点で、これはきっとスキルが習得できる。そんな予感がしておりました」


そう彼は言った。

そして、あっさりと【AFK】を習得してその日は舞い上がって仕事が手に付かなかったらしい。


その後、噂が広まって町の人が訪れるようになり、町の外の人が来るようになると貴族の中には木を持ち去ろうとする人も現れだしたらしい。

次元神の逸話を話すとさすがに引き下がってくれたらしいが、このままではいけないと町の人で環境を整える活動をはじめたんだそうだ。

大量に訪れる人が代わる代わる水を掛けるので、その頃には木が根腐れを起こしはじめて酷いことになっていたらしい。


「件の木は酷く弱り、これは何とかしなければいけない。そう思い始めた頃の出来事でした」


暫くすると今度は町に武神ヘンリック様が現れたらしい。

冒険者ギルドに転移施設があって、神様達は大抵冒険者ギルドからやって来るようだ。

武神様は町の外に用事があるらしくすぐに西門から出て行ってしまったようだけど、一緒に来た5高弟の一人クルサード様が魔神の木を訪れたらしい。

木が枯れそうになっているのを見ると周囲の人を遠ざけさせて農業系のスキルを使うとあっという間に成長して立派な大木になったんだとか。

開拓の異名は伊達じゃないですね。クルサード様はやっぱり武人というより農家なのか?


その時、武神様は目的が果たせなかったらしく、八つ当たりで丘陵地帯が水平に刈り取られたらしい。

【ラージラット】の群れはそれを境に姿を見せなくなったんだそうだ。

ネズミからメダル回収のルートは武神様が潰していた。

なにやってくれてんですか!


「クルサード様のなさりようは素晴らしいものでした。町に住む我々こそがそれを成さねばならないとみんなで話し合いを始めました」


その後、広場の木がちゃんと残るようにしようと町の人と話し合って今の形になったそうだ。


神様方は入れ替わり立ち替わりでいったい何やってんの?シナリオライターの人が遊びすぎだろう!!

僕に通り名付けるとか、明らかにやり過ぎです。後で苦情出そう。

苦情報告するようなスキル無いのかな?

このゲームだったら【GMコール】みたいな感じだろう。


ドルニエットさん達によると通り名は自分ではどうにも出来ないらしい。ただ変わることはあるそうだ。

昔、とある町で英雄だった男が地位にあぐらをかいて横暴を重ねた結果、町から追放された時に通り名が変わったことがあるらしい。

この広場の状況より何かまともなことで有名になるのか……ちょっと出来そうにないので問題を先送りしよう。

それよりせっかくなのでこの道場のことを教えてもらおう。


「ドルニエットさん、ところで、この道場では何を教えてるんですか?」

「ああ!当たり前のことを説明するのを忘れておりました!失礼しました。

我が歌唱道場は[歌のサロン]と申しまして【歌唱】【作曲】【弦楽器術】などの歌にまつわるスキルを教えているのです」


やっぱりサロンだった。

なんでも、道場のような場所でみんなで練習すると一人で練習するよりもスキルが上がりやすく、道場自体が軽いパワースポットになるらしい。

このサロンにいる綺麗な女性の方々もそれらのスキルの使い手らしい。へ~。

面白いな。なんとなくゲームの仕組みが分かってきた。

これはさっきの広場にも通じるものがあるな。


「スキルを沢山習得したり、レベルが上がったりすると世界との結びつきが強くなって、綺麗なまま長生きすることができるのですわ」

「そうですわ。せっかくなら美しいスキルが良いでしょう?【歌唱】スキルは声も綺麗にいられますし人気なのですわ」


お嬢さん達が教えてくれた。へーそういう仕組みなのか。あれ?本当にお嬢様なんだろうか?

剣術道場のルニートさんの見た目が若い理由が分かった。

僕の年齢に驚かなかったのもそれが原因か。


「魔神様、今日はどのようなご予定でしょうか?よろしければ我が屋敷にお泊まり下さい」

「えっと魔神様はやめて下さいよ。ユーキと申します。呼び捨てで良いですから」

「はっ、それではユーキ様と呼ばせて頂きます!」


ドルニエットさんがそんな提案をしてきた。だめた。これは話聞かない奴だ。

問答するのも無駄ですと語りかけてくる目の力に諦めて、ユーキ様で妥協した。

宿泊も近くの宿に泊まるからと辞退しようとしたのだが、そっちも全然無理だった。


仕方が無いので一泊だけ泊まることで妥協した。

この日は遅くまで美男美女達の歓待を受けて楽しく過ごさせてもらった。


「【AFK】のおかげで講演が本当に楽しくなりましたわ!」

「魔じ……ユーキ様のおかげですわ!」


みんなドルニエットさんと同じく講演の際にトイレで困っていたらしい。

門弟の方々は【AFK】を広場で習得したらしく、代わる代わる感謝の言葉を掛けられた。

なんでも女性はドレスの着替えの大変さとか女性特有の大変さもあって凄いありがたいと力説していた。


こういう時、なんて返せばいいんだろうか?

「え、ええ。良かったですね」と苦笑いを繰り返すことになりちょっと居心地が悪かった。

そもそも異界神様のスキルなんだから、異界神様に感謝するのが筋だよね。

途中からは「スキルを作られた異界神様に感謝ですね」と付け加えるようにしたら、ちょっと居心地の悪さが解消した。

こうやって信仰が集まるのが神様への道なのかもしれないな。


異世界の人々は夜になっても凄い元気でびっくりした。

ドルニエットさんは美術神の使徒に選ばれるのでは無いかと言われるレベルらしく、ものすごい美声で、ものすごい声量だった。

前にお客さんにもらったチケットで行ったクラシックコンサートでは寝てしまった僕も素直に感動した。

後で聞いたら【歌唱】スキルのレベルが8もあるらしい!


夜遅くまで歓待は続けられ、途中簡単な歌だからぜひ一緒に歌いましょう!

と合唱に巻き込まれ、抵抗は諦めて、せっかくなので変わった体験を楽しませてもらった。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【歌唱】を習得しました』


あ!あっさりとスキルを習得した。さすがのパワースポットだ。


調子に乗った僕は演奏に使っていた弦楽器も触らせてもらった。

凄い高級そうだったので練習用の奴無いんですか?と言ったんだけど……


「ぜひ!私の楽器を使って下さい!!」

「いや私のを是非!」


美女軍団に迫られてちょっと恐怖を感じるぐらいだった。

【魅了耐性】持ってて良かった。無かったら絶対耐えられなかった。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【魅了耐性】のレベルが2に上がりました』


いややっぱりレベル1ではダメだったようだ。

誘われて一緒に歌い出すなんてよく考えればいつもの僕じゃ無い。

でもまあこの人達は害がなさそうだし、一緒に楽しみますか。


楽器はバイオリンのようなものや、バンジョーのようなものをお借りして見よう見まねで演奏してみたが、高くなった能力値のおかげか苦も無く演奏することが出来た。

なんだろうこれ。出来るとなると楽しくなってきた!!


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【弦楽器術】を習得しました』


パワースポット凄い!!

剣術道場とか冒険者ギルドもこの調子でスキルが覚えられるなら相当楽しそうだな。


「さすが道場ですね!【歌唱】と【弦楽器術】のスキルをこの短時間で習得出来ましたよ!」


そう告げるとなんか周りがざわざわしたが、ドルニエットさんがしきりに「流石ユーキ様です!!」を連呼して褒めてくれた。

こんな風に褒め上手の師匠の元ならみんな道場楽しいんだろうな。


夜更けまで、いろんな歌を教えてもらって演奏したり歌ったり楽しんだ。

【並列思考】の恩恵があるようで、演奏しながら歌っても手元がおろそかにならないのが凄い。

調子に乗ってバンジョー弾きながら、ペダル式のドラム慣らしながら、歌を歌ってとやったのはご愛敬だ。

ちょっと周りの目が冷たいような気がしたがお酒の勢いもあって乗り越えられた。


ヴァース世界の楽曲はどこかで聞いたことあるメロディのものも多かった。

聞けば異界神様が伝えた楽曲だと教えられたので地球の歌という設定なんだと思う。

知的財産権対策なのかちょっとだけ変えてある様子だった。


夜は客間に通され、明らかに高級品だと分かるふかふかの布団で寝ることになった。

一日目はこうして、まったく想像も出来なかった穏やかな終わりを迎えた。


次話「7 冒険者ギルドの講習会」

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