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誰にでも出来る簡単な仕事(大嘘)  作者: うどん


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26:杭を打ち込み封を張り直す為の仕事

 最近、妙な感じがする。

 くじ引きでティッシュ以上のものが普通に当たったり。

 財布が落ちていて交番に届けたらすぐに持ち主が現れて、感謝の印として万札を貰ったり。

 ラッキーな出来事が毎日の如く起きている。

 少し前からついている感じはしていたが、それが日に日に増えているような気さえした。

 以前までは、自分で運が良いなんて思った事はあまり無かったが……何でだろう。


 他にもある。

 街を歩いていた時の出来事で、明らかに柄の悪そうな人間に因縁をふっかけられた。

 前から二人組が歩いてきてぶつかって来たのでさっと躱した。

 しかし、何故か、急に片割れが腕を押えて喚き始めたのだ。

 チンピラのような強面の兄弟らしき人たちから慰謝料を要求されて――突然、苦しみ始めた。


『ぐぅあ!? は、腹がぁぁあいでぇぇ!!』

『ああぁあだまがぁぁぁ!?』

『……救急車呼びましょうか?』


 明らかに演技には見えなかった。

 顔色は土気色で、脂汗もかいていた。

 だからこそ、すぐに救急車を呼んだ。

 すると、何故か二人は未成年で救急隊の人に同行してくれと言われてついていき……どうやら体に異常があったようだった。


 早期に見つかった事で手術をすれば助かるらしい。

 何故か、チンピラの人たちやその家族らしき人たちからは泣いて感謝された。

 チンピラの兄弟が小遣い欲しさに俺に因縁を吹っ掛けた事を母親らしき人に言えば。

 母親の表情が鬼のようになり、目の前で残虐ファイトを見せられてしまった。


『本当にすみませんでした!! もう二度とこんな事はさせませんので!! あ、慰謝料は勿論すぐにお支払いを』

『いや、要りませんよ。それじゃ』

『あぁ! ま、待ってください! せめて御礼を! あ、そうだ! こ、これを!』

『……おぉ』


 謝罪とお礼を兼ねてチンピラさんの親御さんが経営している農場の野菜を沢山貰った。

 瑞々しく新鮮な野菜で。

 キュウリやトマトにナスなどが山ほどであり……ありがたかった。


「……」


 今は貰った野菜を……ぬか漬けにしたキュウリを食べている。


 ぽりぽりとしていて食感が良い。

 ほど良い塩気で、マイケルからのアドバイスを元にやってみたが……成功だな。


 マイケルの料理の知識はすさまじい。

 和洋中なんて関係ないほどに色々と知っていた。

 だからこそ、友達の借金を返し終わった今は自分の店を開いているらしい。

 店は繁盛しているようで忙しいとは言っていたが……良かったな。


 美人の奥さんもいて、今度、食べに来て欲しいと言っていた。

 マイケルは世話になったお礼をしたいなんて言ってたけど。

 俺の方が世話になっているのに……よく分からなかった。


 店の場所は聞いている。

 さほど遠くにある訳じゃないから何時でもいける。

 もしも行くのなら柳さんやルミ先輩でも誘おうかと思った。


 壁に掛けた時計を見る……夜の9時か。


 キュウリのぬか漬けとノンアルのカクテルを飲む。

 テレビをつければニュースがやっていた。

 イチは俺の膝に座って丸まっていた。


 テレビでは美人のアナウンサーと白衣を着た偉そうな人が話している。


『ここ最近になって“逆行性健忘”を発症する患者さんが増えているようですが』

『――恐らく、社会での強いストレスによるものだと私は考えていまして』

『世間では所謂……呪いや祟りの類ではないかと言われていますが?』

『ははは! あり得ませんよ。科学的に証明できない事など信じるに値しません。それは心理的なもので』

「……」


 逆行性健忘か……多いよな。


 前職にいた時はどうとも思っていなかったが。

 多くの人間が突然に“数か月の記憶を喪失する”事例が多く発生しているらしい。

 それも中には、更に過去の記憶が歯抜けのような状態になっている人間もいるらしい。

 何故、そうなるのかは現在でも解明はされていないが。

 多くの医療従事者は外傷がない事からストレスによるものだと分析していると聞いた事がある。

 その理由としては、逆行性健忘を発症する人間たちが強いストレスがかかるような環境にいるとかなんとか……まぁどうでもいい。


 テレビでは他にも色々と言っている。

 石塚さんが作曲した曲が世界中で高く評価されているとか。

 日本が依然変わらずにGDPをぶっちぎりでトップであったりとか。

 色々な分野において日本はこれからも発展していくと……まぁいいか。


 テレビを消す。

 そうして、最後のキュウリを食べる……美味い。


 カシスオレンジのノンアルで喉を潤す。

 そうして、イチを撫でれば……欠伸した。


「……寝る?」

「わふ」


 少し早いが今日は寝る事にした。

 イチは俺の膝から飛びのき、布団の方に向かう。

 俺は近くに置いてあったコロコロで服の毛を取る。

 そうして、食器などを持って台所へと……ん?

 

 音が聞こえた。

 端末の音で……仕事か?


 俺は食器を置いて水に浸しておいた。

 そうして、充電中の端末を取り……電話に出た。


「はい」

《夜分に失礼します。八咫烏のAです。今、お時間よろしいですか?》

「大丈夫です。仕事ですか?」

《……はい。少し急を要する仕事で……イチ様は我々の方でお預かり致しますのですぐに来ていただくことは可能でしょうか?》

「分かりました。行きます」

《ありがとうございます。迎えの車は手配しておりますので――》


 Aさんからの説明を聞いていく。

 その間に、アパートの外に車が停まる音が聞こえた。

 窓を少し開けてみれば、八咫烏の職員さんが立っていた。


《――以上になります。質問はありますか?》

「いえ、ありません」

《……それでは、お待ちしております》


 Aさんはそれだけ言って通話を切る。

 俺は端末を耳から外す。

 そうして、イチを見れば……嬉しそう?


 さっきまで眠そうにしていたのに、今は舌を出して笑っていた……まぁいいか。


 俺はすぐに着替える事にした。

 食器を洗うのは翌日でもいい。

 手早く準備を終えて、すぐに仕事へ向かわないといけない。

 Aさんの口ぶりからして、少し焦っているように感じた。


「……」


 報酬は今まで以上に高いかもしれない。

 が、それ以上に危険な仕事になるのか。

 分からないが。まぁ仕事なら――ただ、やるだけだ。



 #



 車に乗り込み辿り着いた場所。

 何処かの山の中であり、長い石階段が続いていた。

 見れば、立派な石燈籠が点々と設置されていて火が灯っていた。

 職員の方の先導の元ついていけば……大きな神社が建っていた。


 見た事も聞いた事も無い神社だった。

 綺麗であり、人の手入れがよく行き届いていると感じた。

 広い敷地であり、これほど立派であれば地図にも載っていると思ったが……。



 ただ、その神社の立派な門に飾られていた扁額には……“八咫烏”と書かれていた。



 不思議に思いつつも、案内されるままに敷地内へと足を踏み入れた。

 そのままついて行った部屋には白い装束が飾られていた。

 待っていた顔を隠した巫女姿の女性たちにあっという間にそれに着替えさせられて。

 次に案内されたのは、巨大な異形の像が飾られた場所だった。


 仏像に見えるが頭は無い。

 全身に木の根のようなものが張っていた。

 それがまるで、その仏像の装束のように自然に見えた。

 片手を此方に向けていて、その中心には細められた瞳があった。

 闇のように黒く、見つめているだけで吸い込まれてしまいそうに感じる。

 もう片方の手には心臓……のように見える……星のようなもの……何で、俺は、星って……まぁ、いい……か?


 異形の神か仏か。

 分からなかったが、そこには既に俺以外の人間たちが待っていた。

 全員が白装束を纏っていて、正座をして目を閉じている。

 俺もその場で正座をする。


 皆が静かで、何かを待っていて――扉が開かれた。


「「「……」」」


 入って来たのは巫女のような装束を纏ったAさん。

 そして、楽器を持った神職の格好をした人たちだ。


 彼らは儀礼的な事を始めて――Aさんが鈴を鳴らす。


「――」


 言の葉が紡がれていく。

 俺にとっては呪文のように聞こえるそれは何を意味するのか。


 Aさんは舞のようなものを舞っていた。

 無数の鈴のようなものを鳴らしながら、悠然と舞を舞う。


 舞を踊れば、部屋中に置かれた蝋燭がゆらゆらと揺れる。

 まるで、この場に俺たち以外がいるように感じた。

 火を揺らして何かを伝えているようで。

 不思議と体が熱くなり、妙な感覚を覚えた。

 体を見れば、薄っすらと膜のようなものが見えて……まぁいいか。


 Aさんは舞を舞う。

 言の葉は静かに響き、太鼓と笛の音が空間に広がっていく。

 そうして、最後に鈴を鳴らして……静かに姿勢を正す。


 仏への一礼。

 台のように置かれた場所からひょうたんのようなものを取る。

 蓋を取り、中身を仏の前に置かれた盃へと並々と注いでいった。

 その酒は神へと捧げるものらしい。

 Aさんは深々と頭を下げて、巫女たちが俺たちの前に小さな盃を置いていった。


 Aさんは順番にひょうたんに残った酒を俺たちの盃へと注いでいく。

 一つ、また一つと注ぎ……Aさんは仏の前に戻る。


 Aさんも自らの盃へと酒を注ぐ。

 そうして、その場に正座し酒を両手で持ち――飲み始めた。


 周りを見れば、全員が酒を飲み始めた。

 俺もそれに倣って酒に口をつける。


 ……酒か……味が……まるで、水……いや、ほのかに米の甘みが……。


 水のようにのど越しが良く。

 米のほのかな甘みがする。

 酒特有の飲んだ後の高揚感は無い。

 その代わりに、眠気が吹き飛び思考がクリアになったかのように感じる。

 まるで、疲労を消してくれたかのような……まぁいいか。


 盃をその場に置く。

 すると、Aさんは此方に向き直り――その場で手をつき頭を下げた。


「……此度の招集に応じて頂き……誠にありがとうございます。今宵の仕事はお客様……いえ、我々、八咫烏からの仕事となります」

「「「……」」」

「ふふ……まぁた封が緩んだのかなぁ?」


 Aさんに対してルミ先輩が質問する。

 それを聞いていた斎藤さんたちは何も言わなかった。

 封とは何かと思っていれば……Aさんは静かに頷く。


「あ、そ……じゃ、パパっとやっちゃおうかな! ね? 井上君」

「あ、はい」


 ルミ先輩は立ち上がる。

 どうやら、もう立ってもいいようだった。

 斎藤さんたちも立ち上がり肩を鳴らしていた。


 Aさんが手を叩く。

 すると、両脇の扉が開かれて今回の仕事で使う――道具が運ばれてきた。


「ハンマーと……縄と……札……」


 普通の道具のように見えるが。

 明らかに妙な感じがする。

 薄っすらと道具に何かを書いているようにも見えるが……まぁいいか。


「改めて本日の業務についてご説明させて頂きます」


 Aさんは説明する。

 今回の仕事は八咫烏直々のもので――“工事”だ。


 専門的な知識は必要としない。

 ただ、そこにある杭をハンマーで打ち直し。

 新しく持ってきた縄で杭同士を結び直して、最後に大岩に対して札を貼るだけだ。


 ルールは4つ。

 1つ、絶対に仕事を途中で終えてはならない。

 2つ、どんな事が起きようとも全ての業務を完遂しなければならない。

 3つ、道具を奪われてはならない。

 4つ、“理外者(リガイシャ)”に惑わされてはならない。


 以上だ。

 2つに関してはほぼ同じような意味に聞こえる。

 それほどまでに、今回の仕事だけは何が何でも完遂しなければならないという事か。

 理外者については事前に説明したが。

 Aさんたちですら姿形は分からず。

 その時々によって変化し、人を理の外へと誘う者たちらしい。

 俺は改めて今回の仕事の重要性を再認識する。


「業務を終えれば報酬として――5000万円をお約束します」

「……おぉ」

「ふふ……ま、当然だねぇ」

「「「……」」」


 ルミ先輩はそう言ってハンマーを手に取る。

 重そうな両手用のハンマーの筈なのに、ルミ先輩は軽々と片手で持っていた。

 俺もハンマーを手に取り……やっぱり重い。


 俺はチラリとルミ先輩を見る。

 すると、ルミ先輩は俺の視線に気づいて首を傾げた。


「……ん? 何々?」

「……いえ、何でも」

「んー? 何だよぉ教えてよぉ」

「すみません」

「……何で謝るの?」


 俺は失礼な考えを消した。

 そうして、ルミ先輩からの疑惑の視線をスルーした。

 斎藤さんたちは残った縄と札を手に取った。


「……力仕事は任せた」

「ま、気楽にやりなよ」

「はい」


 斎藤さんは俺の肩を叩く。

 田中さんはにへらと笑っていた。

 他の3人も笑っているが……目は真剣そのものだ。


「……それでは皆様、井戸へと向かいましょう」

「「「……」」」


 Aさんは立ち上がる。

 そうして、井戸と呼んだ場所へと向かった――




 神社から離れて山の中を歩く。

 暫くAさんについていけば……あった。


「……?」


 井戸はあった。

 が、明らかに井戸と呼べるほどの大きさじゃない。

 凄く大きな井戸であり、その周りには木の棒を立てて縄で結び札などが……いや、人もいる。


「「「――」」」


 何人もの神職者らしき人間がいた。

 ぶつぶつと何かを唱えている。

 中心には大きな井戸で……何だ?


 俺が疑問に思っていれば、斎藤さんたちが無言で井戸に近づき……その縁に立った。


「井上君! 大丈夫……ほら!」

「あ、はい」


 ルミ先輩に言われて俺も井戸の縁に上がる。

 ハンマーを持ちながら下を見れば……底が見えない。


 真っ暗闇であり、冷たい風が吹いていた。

 まるで、黄泉の世界に繋がっているような……まぁいい。


 何処に繋がっていようともやる事は変わらない。

 仕事を果たせばいいだけだ。

 それで全てが上手く行く。

 お金を貰い仕事をして……それで十分だ。


 俺は深呼吸をする。

 そうして、斎藤さんたちと同じように目を閉じる。



「それでは皆様――ご武運を」

「「「……」」」



 斎藤さんたちがダイブしたのが音で分かった。

 一人、また一人とダイブしていく。

 最後に残ったのは俺で――俺も井戸の中へと落ちて行った。


 自由落下であり、冷たい風が体を抜けていく。

 凄まじい風であり、まるで人の絶叫のように響いて――――…………

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