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種蒔きの聖女 【第一部完結】  作者: 遠見じゅん


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聖女と呼ばれておるらしい

初作品です。

作品の仕様上、まぁまぁゴミが人のように逝きますので、用法・用量をよく守ってお楽しみ下さいませ。

「どうかお願いします、それ以上はお止め下さい!」


 絶叫に近い懇願を無視し、リチャードは掴んだ腕を振り払い、右手を大げさに上げ言い放った。


「シェスカよ、そなたは自らを聖女ではないと認めながらも聖女と偽った!よって、リチャード=ハドンソの名において、シェスカ=フォン=エグゼドの聖女認定を剥奪し、新たに偽聖女と認定する」


「従って、偽りの上に成約された私との婚約は破棄とする!新たに同家門より聖女ミネルバを婚約者として迎え入れる事を宣言する!」


怒りと悔しさとやるせなさで涙がポロポロ溢れ出し、ついには膝の力が入らなくなりその場にへたり込んでしまった。


――――

――



「リチャードよ、ダライオスの娘と一席設けてみぬか?」


 父王が暴徒鎮圧から帰ってきて第一声がコレ、というのも何かしら理由があるのだろうと考えてはみたが、何も思いつかない。


 ダライオス伯の娘といえばシェスカ嬢か、学院のクラスは違うが同学年であるので顔はすぐに思い浮かぶ。暗い赤髪で女子生徒の中で一番デカイ娘だ。目立つ身長とは裏腹にいつも隅っこにいる大人しい印象の娘だが、それ以外の事は知らなかった。



 ◇


 夏の終わりに庭園のガゼボでお茶会は行われた。


「お招きいただきまして光栄の至りでございます。」

「ああ、いやそんなに固くならないで欲しい。貴族院の同学年ではないか。今日はシェスカ嬢に来てもらえて私も嬉しく思う」


 身近な学院での話や趣味の話に話題を振ったり相槌を打ったりしている間に、少しばかり彼女の為人が把握できた。

 勉強は嫌いではないが成績はクラスの中間位程度、家族が大好きで跡継ぎなので婿を取って父母の面倒が見られればそれで良いらしい。

 寄宿舎では刺繍や編み物というように比較的静かに時間を過ごしているようだ。


 そして、やはり女子生徒の中では一番背が高いらしい。当然、色んなパーツも大きい。瞳は黒目勝ちでつぶらなのだが、顔の比率でみると目は小さく見える。


 自分は男子生徒の中でも高身長の部類に入るが、目の前の彼女も自分に引けをとっていないどころか少し高いように見える。本人はそれを恥ずかしいと思っているのか自信無さげに小さく見せよう目立たないようにしようという所作が随所に溢れている。


 ここまでの印象は、大きな小動物?

 いや、違うな、図鑑で見たレトリーバーという大型犬に雰囲気が似ている気がする。


 観劇や流行りの店などは殆ど行った事がないらしく、私の得意な王都内での流行りの店の話題などは然程盛り上がらず、見慣れた王宮の宮廷貴族の子女と比べるとどうにもあか抜けない印象が否めない。

 伏し目がちでたまに合う視線でさえも熱を帯びているというより何というか悪い事をしてしまった犬のような印象で、そちらが希望した割にはあまり嬉しそうにも感じられない。


 話が盛り上がらないので、クッキーを進めると嬉しそうに食べだした。


 さすが甘い物効果というべきで、場が和み少し踏み込んだ話もポロポロと上りだした。寄宿舎生活で、大好きな愛犬と別れて過ごしているのが辛いらしい。


「そうか、その愛してやまない犬の名前は?」

「ブリガンダインと言います」

「ブリガンダイン……たしか西方国の騎士団が装備している鎧の名だったね、さぞかし勇猛な子なのだろうね」

「ブリガンダインはとても優しい子ですよ。昨年子犬を4匹産みました」

「雌だったのか。名づけはお父様が?」

「いえ、私です。家に来た時、女の子だと分かったので、そう名付けました」

「君が?なぜその名を?」

「お父様が、私が生まれた時につけてくれようとした名前らしいのです。お母様に大反対されて私の名前はシェスカに決まったのですが、その話を聞いたときにブリガンダインも良かったなと思ったのです。響きが可愛いですよね?あ、もちろんシェスカも好きな響きですよ」

「もし妹が生まれたら名前をブリガンダインにしてもらおうとずっと思っていたのですが、子犬が女の子だと分かった時に、言わば私の妹ということですよね?それでブリガンダインの名を与える事にしたのです」

「そ、そうか可愛い名前を付けてあげたんだね」


 クッキーを頬張りながら、シェスカはコクリと頷いた。


 ――何に突っ込めば良いか分からんが、これだけは言える。まだ生まれて居らん妹御よ、もし犬より先に産まれておれば、少々辛い人生を歩むことになったやもしれんぞ




 その後もしばらく話をし、やがてお茶会も終わりを迎える事となった。


「ところで、今回のお茶会の希望は貴方から父上に?」


 え?と驚きの顔でこちらを見て口を開いた。


「いえ、陛下から父に依頼されたとお聞きしております」


 ――父上から?なぜ?

 瞬疑問が浮かぶが、ここで問うても答えは見つからない。


「ああ、そうだったね。今日は有意義だったよ。それではまた学院で会える事を楽しみにしている」


 閉会の時刻となり、手を差し述べて立ち上がらせるとヒールのせいか、やや見上げる高さとなった。


――いやデカイな


 カーテシーで見送る彼女に軽く掌を振りガゼボを後にする。

 結局、お互いに何を目的としたお茶会だったのか、よく分からないままだった。



◇


「リチャード、シェスカ嬢との茶会はどうであった?」

「はい、学院や日々の生活など当たり障りない内容に終始して、特にこれと言ったものはありませんでした。シェスカ嬢も何故呼ばれたのか分からず戸惑いが隠しきれていない感じでしたね」

「ふむ、……将来の伴侶として考えた場合はどうだろう?」


 ――は?


「いえ、全くそういう目で見ていなかった為何とも。ですが、例え王家に嫁いだとして上位貴族に揉まれるのは荷が重いかと思います」

「うむ、まだ内定を出しておらんのでどうかと思ったのだが」


 ――ちょっと待ってくれ!男爵令嬢が靡いてくれないかと何となく内定は出してはいなかったが、どう考えても侯爵令嬢のミネルバが最善だろう


「私はミネルバを迎え入れようかと考えて居りました」


 頭から血が引くのを感じながらも、なるべく冷静を装いながら絞り出した。


「少し聞いてもらいたいのだがよいか?」

 そういう切出しで、王国を取り巻く現状を語り出した。


 ―食料の生産量が上がらず、飢えが慢性化していること

 ―近隣諸国も似たような状況であること

 ―不満の矛先が王国中枢、なにより王族へ向かいつつあること


「……次代を担う其方には申し訳ないが、王国は揺らぎつつある」


 ――そもそも、先ほどの話でこの流れは何だ?

 父上や騎士団が一揆鎮圧や越境難民からの防衛に出向いているのは知っている。だが王都では普通に市が立っていると聞くし一揆なんて田畑を増やして働かない民草の怠慢だろう。なぜ王族にそのツケを回してくるのだ


「ところで、ダライオスについて知っておる事は?」

「父上とはご学友同士、シェスカ嬢は一人娘であるという事くらいでしょうか」


「聖女と呼ばれておるらしい」


 ――は?


「シェスカ嬢がですか? 昨日会った時には何も言って……そもそも聖女など本当に居るのですか?」

「分からぬ。しかし300年程前にも現れたと文献にはある。病を治しただの水源を掘り当てただのの記録があるのだが、その時に法整備も行われておる事からして何かしらの力を持った者が居たのは確からしい、それゆえか今日まで民草の聖女信仰は続いておる」


 ――あのレトリーバーみたいな子が病を治したり水源を掘り当てたりできるのか?犬みたいに?


「先日、儂の元に嘆願書が届いてな、豊作はシェスカ嬢が居るからだと、学院を卒業したら帰して欲しいと、ダライオス領だけでなく周辺領の農民達もがシェスカ嬢を帰して欲しいと騒いでおる、聖女という呼び名を引っ張り出してな。私の勘でしかないのだが本当に何かしらの力があるのではないかと思っておるだ」


 ――いや、豊作などたまたまだろう。そもそも、人の力でどうこう出来るものではないだろうに


「先ほど申したように最早王国は盤石ではない。離れつつある民心を纏め上げるのに聖女と民に慕われている者を王家に取り込めないだろうかと思っておるのだ」


「……私は学生で、まだ政治の行方までは見通せません。ですが父上はそのようにした方が良いとお考えなのですか」


「うむ、だが儂とてそう先の事を読み切れる訳でもない。ミネルバ嬢の名が出る程二人の仲が進展していたのも知らなかった事だしな。だから、この話もただの提案として捉えて欲しい。これからの人生の方が長いのだし、もし未練があるなら断ってくれて構わない」


 ――正直、シェスカ嬢は背が私より高いせいか興味の全く沸か無い女性だった。伴侶とするには少々思うところはある。靡かない男爵令嬢は諦めるにせよ、むしろ金髪藍眼で透き通る程白い肌を持ち所作も美しく洗練されたミネルバの方が聖女と呼ぶに相応しいではないか。

 だが断れば第二王子の方へ話を持っていくのだろうし、そうなれば王太子指名で不利となるのではないだろうか?


 ぐっと白くなるほど拳を握りしめながら反対の親指の爪を噛んだ。


 ――どうすれば


 ふと、ある考えが頭に浮かんだ。


「……分かりました」

「……」

「シェスカ嬢との婚約、お受け致します」

「そうか、これでリチャードの代は安泰だ。調整が終わり次第公示する。それまでは今まで通りに過ごせ」


 嬉しさが隠せていない父王の執務室を出て、リチャードは冷えた廊下を自室へ帰っていった。意志にそぐわない将来の話をされたというのに、浮かぶ顔色はいつもと変わらないものであった。

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