試験も補習もレッスンも大変です 2
そのままの状態でヴァン先生の部屋のドア前に到着した私達。いつもなら私がするはずのノックを、今日は何故か、オルロージュ先輩が私と繋いでいない反対の手で行った。
「どうぞ。」
部屋の奥から、聞き慣れた優しい声が反応する。すると先輩は、いつの間にか作り上げた先程同様の胡散臭い笑顔をして目の前のドアを開けた。
「……。」
「こんにちは先生。いつも俺の『可愛い後輩』が、お世話になってるみたいですね。」
笑う先輩に対し、無表情の先生。いや、これは驚いてフリーズしてる?
「先生の事は彼女からよく聞いています。今日は僕も一緒に、補習して頂きたいなと思いまして。」
そう言いながらオルロージュ先輩は、私と繋がれたままの手を高々と上げて見せた。その瞬間、ヴァン先生の瞳が大きく見開かれる。
「まさか学校の教師であるあなたが、勉強に意欲的な発言をする生徒を追い出すなんて事…しませんよね?」
先輩更に笑ったー!胡散臭いレベルも更に上がったー!言ってる事は至極真っ当なはずなのに、どうしてそんな張り付いた笑顔なんですかー!?
あと手。何でわざわざ見せびらかすような事してるの。いい加減離してください手汗が限界です。
「…わかりました、アルブレ君も入ってください。でも勉強をするには片手では不便でしょう?」
レンズの奥から、繋がれた私たちの手に視線が刺さる。仰る通りですし、私は早く解放されたいんです。
手を離してくれる瞬間を今か今かと待機している私そっちのけで見つめ合う…いや、睨み合う?先輩と先生。あんな事を言われたのだから秒で離れるだろうと思っていた手は、その数秒変わらず握られたままだった。やがて観念したのか、先輩はやっと私の手を解放してくれた。
「…仰る通りですね、ほらこの通り手は離しましたよ。入ろうトゥシェちゃん。」
「…はい。失礼します。」
おわかり頂けたであろうか。
先輩がドアをノックしてから今の今まで、私ひと言も喋ってません。どうしてかって?喋れるような空気じゃ無かったでしょ間違いなく。ようやく解き放たれたのは良いんけど、手汗が気持ち悪いな。
「先生、手洗いたいんで水場借りますね。」
「どうぞ。」
そう言った瞬間に先輩の嘘笑顔が崩れたような気がした。でもそんな事はどうでも良いので、とりあえず手を洗ってスッキリさせていただいた。
水場から戻り、私は定位置に座って勉強道具を広げ始める。先生も私の近くに腰を下ろし、今日はどの範囲をやりますかって確認をされた。そして普段同様に問題を解き始める。
「先生、この数式ってここに代入すればいいんですか?」
「それは「違うよ、代入するのはこの部分だ。」
「…。この式は、こことイコールになっている扱いで良いんですよね?」
「ええ「正解!トゥシェちゃんわかってるじゃん♪」
……。
「オルロージュ先輩、さっきから何なんですか!?私はヴァン先生に質問してるんですけど!?」
「だって、その程度の問題なら俺でも余裕で解けるんだもん。先生の手を煩わせちゃ駄目でしょ?」
私がヴァン先生に質問したら、決まってオルロージュ先輩が割り入ってくるんですけど!?先輩、勉強道具は広げてるけど、私の質問にばかり対応しててちゃんと自分の勉強出来てるんですか?
それに確か、先輩は『補習に参加しないとわからない問題がある』って言っていたはずなのに、先生に質問しようとする素振りが一切見られない。意味がわからなすぎる。
「…アルブレ君。君が優秀なのは僕も知っているけど、ルルーさんの勉強の邪魔はしないでもらえるかな。」
「先生、俺は彼女の疑問に答えてるだけなんですから、邪魔にはなって無いでしょ。」
「…君は突然この補習に参加してきた上に、彼女の勉強のペースを乱している。これは邪魔とは言わないのかい?」
そうだそうだ!と、心の中で先生サイドにつく。気持ち先生側に近づいて、じとーっと先輩に睨みを効かせた。すると先輩はやれやれといった感じで眉を八の字にした。
「これは失礼しました。じゃあ俺も、大人しく試験勉強させて頂きます。」
どうやら先生の正論に観念したらしい。オルロージュ先輩は自分の教材に向き合い、ペンを手に持った。それを確認してから私も勉強を再開する。勿論先生に質問もしたんだけど、さっきの言葉が効いたのか先輩の乱入はなくなった。
…謎にめちゃくちゃ視線は感じたけど。




