第10話 お姉さん と 正体
感覚がないはずの私だけれど、何故かお姉さんの声は聞こえる。
次にお姉さんらしきシルエットを目が捉えると、次第に感覚が戻ってきた。
気が付くと、感覚を失う前と同じカフェのカウンター席に私はいた。
後ろからお姉さんの声が聞こえる。
「あなたは、ナニモノ?」
お姉さんの声に反応するように、私は振り返った。
そして、振り返った先にお姉さんはいたが、私と目があった瞬間、フラッシュをたいたような光に視界を遮られ、思わず目を閉じた。
光が収まり目を開けるとお姉さんのいた場所には、連絡が途絶え、忘れていたシオンが立っていた。
「あれ?なんでシオンが…。お姉さんはどこに?」
「アキ、ごめんね。」
「シオン?」
「ずっと騙してた。嘘ついてた。」
「どういうこと?」
「アキと私、シオンが出会ったのは大学の入学式じゃないよ。大学入学から3か月した頃。アキが初めてこのカフェを訪れた日が私たちが初めて会った日。」
「意味がわからない。シオンと出会ったのは入学式で、このカフェで出会ったのはシオンじゃなくてお姉さんだよ?」
シオンは何を言っているの?それとも私の記憶が間違ってるの?わからないよ。
「アキ、よく聞いて。私との出会いと物に触れられない現象を説明するには、今のアキが本当はナニモノなのか説明しなきゃいけない。だけど、それを聞く覚悟がある?」
「覚悟って何?私は人間だし、それ以上でもそれ以下でもないよ?そういうこと?」
本当に何が起こっているの?私がナニモノであるかってなに?どういうこと…?
「はぁ、わかった。とにかく全部話す。それを聞いてどうするか決めたらいいよ。」
シオンの話を要約するとこういうことだった。
私は大学の入学式の日に事故にあって帰らぬ人となった。
帰らぬ人となった魂は約3か月後、死神によって死者の世界に連れていかれるらしく、私の魂も事故から3か月後に連行役を担っていたお姉さん(シオン)がこのカフェを介して死者の世界へ連れて行こうとしたが、私がそれを拒んだという。
私からすると、さっぱり意味がわからないが、どうやら通常魂になってから3か月すると自分が死者であることを認知するようだが、私は認知しておらず生きていると思っていたため、連れていけなかった=拒んだらしい。
それを知った死者の世界の神らしき人でいいのかわからないが、死者を何としてでも連れてこいとかなんとか言ったらしく、お姉さんは私の監視役としてシオンの姿となって私の大学生活に潜り込んだ、ってことみたい。
あ、シオンの時の姿が本当の姿で、お姉さんの姿のほうが私を連れてきやすいと思って変装(?)してたらしい。
「って、ちょっと待って。私、死んでるの?入学式の日に?嘘でしょ?」
「嘘じゃない。現に今だった物に触れられないでしょ?」
「触れられないけど…。あ、そこのドアには触れたよ。」
「あぁ、あのドアは死者にも触れるようになってる。でも、料理には手を付けられなかったでしょ?」
「うん、手がすり抜けた。」
「それが何よりも、アキが死者である証拠。で、わかったら死者の世界に行くよ。それともまだここに留まりたい理由でもあるの?」
「理由っていうか、なんていうか。あなたは入学式に日に死にました。あなたは死者です。死者の世界に行きましょう。って素直に受け入れられるわけないのわかるよね?」
「はぁ。わかった。なら、明日1日あげる。それでもグダグダ言うなら強制連行に出るけど、その場合は転生や生まれ変わるなんてことできないよ。」
ものすごく納得いかないけれどひとまず、考える時間はもらえたみたい。
でも、これよく考えててか、よく考えなくてもだけど、人には認知されなくて自分も物に触れられない時点で、未練をなくそうにもどうにもできないよね?そうだよね?ってことはさ、明日1日って時間はもらえても何もできないまま強制連行されるだけじゃない?
「あ、言い忘れてた。明日1日時間あげる件だけど、今のままだと未練を解消するなんてできないだろうから、明日1日は認知もされるし物にだって触れられるようにしてあげる。ただし、明日の23時59分までにこのカフェに来なかった時点で強制連行にでるから、転生や生まれ変わりを望むなら判断を間違えないようにね。」
シオンは言うだけ言って、目の前から消えた。
とりあえず、明日1日どうやって過ごしたらいいんだろう。
未練って言ってもやり残したこともないし、しいて言えば、今の状況をうまく消化できていないから落ち着いて考える時間が欲しかっただけとは言え、消化しきれたから死者の世界に行きますって言えるかっていうと別の問題のような…。
「お嬢さん、今日のところは家に帰って、じっくり考えてみなさい。」
これからどう過ごすか考えているときにマスターからの助言(?)はありがたい。
動かなかった私の身体はいとも簡単に動く。
「ありがとうございます、マスター。今日はもう帰りますね。」
「ありがとうございました。またのご来店、お待ちしております。」
マスターのいつもと変わらないといっても、ここの来たのは2回目だけれど、言葉を聞いて家路についた。




