求めたものは。
「サイラスさま、お味はいかがですか?」
昼休み、一際派手な集団が中庭に集っている。
ランチボックスを手に笑い合うキース王子たち。
その中でアイリスがサイラスにやわらかな笑顔を向けていた。
「うまい。塩味の中に…これは…」
「様々なハーブを混ぜておりますの」
「ハーブ? それにしては舌触りが」
「乾燥させて粉にしたものですのよ」
「これは好きだな」
サイラスの言葉にアイリスがパッと笑顔を見せる。
「サイラスさまのお好きな味になりまして?」
「あぁ、好みだ」
「昨日のサンドイッチとどちらがお好みでした?」
「昨日の粒マスタードは歯応えと辛味がよかった。今回は味の複雑さが面白い」
答えが出ないようだ。困った顔のサイラスにキース王子が何事か言い、座が沸く。
ランチを終えたアイリスたちが食堂前を通り過ぎた。
窓際にいた俺と目が合うとにこやかに会釈をしてくる。
昔から見慣れた表情だ。
「まぁ、アイリスさま。いらっしゃったのですね。ひそやかにしていらっしゃったので、侍女かと思いましたわ」
俺の横に座っていたデイジーが勝ち誇ったような顔で笑うと、グレースが目をきつく細めた。
「どの獣が物申しているのかしら? キースさま、何か聞こえまして?」
「いや、僕の耳には愛しい君と大切な友人の声しか聞こえないから」
「まぁ、キースさまったら…」
グレースが頬を染めて、上目遣いで王子を睨む。
「そういう顔は可愛すぎるから、外ではしないようにって言っただろう」
「キースさまっ…」
なんだこの胸焼け感は…。
同意を求めて隣を見ると、デイジーは憎々し気に顔を歪め、グレースたちを睨んでいた。
アイリスは…。
アイリスはサイラスと目を合わせ苦笑している。
「またお二人に当てられましたわ」
「俺たちは空気に徹していよう」
「そうですわね」
「空気の声が聞こえているよ。うらやましいなら君たちもいちゃいちゃしたらいい」
「キース王子!」
サイラスが焦った顔で抗議し、アイリスはグレースよりも赤くなった顔を小さな両手で隠す。
隠れるその瞬間、うれしそうに、控えめにアイリスは微笑んでいた。
目が潤み、きらきらと午後の光を反射する。
それは俺が見たことのないものだった。
それは長い間俺が求め続けた、誰よりも幸せそうな魅力的な笑顔だった。
俺のためにしてほしかった表情だった……。