Episode 08:「プレシャス・プレゼント」
作曲家を志す友加里は、その進路をいかにして取るべきか、ある日、水泳部の顧問で、音楽科担当でもある、矢野先生にその相談を持ち掛けた。
放課後の指導室の中は妙に静かで、時折、遠くを電車が駆け抜ける音や、鳥のさえずりが聞こえるものの、友加里は自らの心臓の鼓動の方が、大きな音として聞こえているようだった。
「作曲家になるためには何が必要だと思っているか?」
…友加里は、矢野先生の質問に対し、音楽の技術や幅広い楽曲ジャンルへの興味、関心を持つこと…と答えたが、その次に返って来た言葉に、彼女は驚愕した。
「…今のお前の考えでは、音楽系の学校へ進学できないから、あきらめろ。」
…当然、友加里はすぐさま疑問を投げかけた。 「な…なぜですか!?」
矢野先生は、ゆっくりと椅子から立ち上がり、窓の外を眺めながら友加里に語った。
「浅倉。 …作曲家に限らず、アート、芸術と呼ばれるものを作る人間に必要なのは、そして共通なのは、何だと思うか?」
「そ…それは…。。。」
…言葉に詰まり、沈黙の時間が流れる。 埒が明きそうにないので、矢野先生は自ら助け舟を差し出した。
「そうだな。 一言二言では語り切れないが、幅広い感性と知識だろうな。 それも、人文自然、哲学、数学、言語学、現象学…、ありとあらゆる世界における、様々な物事の姿や、それを受け止める自分の感受性ということだろうな。」
「…??」 (友加里は、息を飲んだまま俯いている。)
「難しい話なので、簡単にはわからないとは思うが。 因みに、ある海外の美大では、入学試験で白い紙とエンピツを渡されて、これで”砂糖”と”塩”を描き分けろという問題を出されるそうだ。 先生も試したことがあるが、私は正直、砂糖や塩の描き分け以前の問題だった。 しかしこれは、限られた道具だけで、いかにして砂糖と塩を描き分けることができるか、受験者のセンスに全てが懸かっているだろう。 先生は解けない難問だったが、とても興味深い問題だった。 だから今でも印象に残っている。」
「…。。。」 (友加里は、何か恐怖に慄くような表情を見せていた。)
「まぁ、音楽もまた似たようなもので、ドレミファソラシ…の、限られた音の中で、自分にしかできない何かを”表現”するのだからな。 つまり、例えばお前の心の中で”ラーメン食べたい”とか”私は怒っている”とか”あなたが好き”とか言ったメッセージを、音楽で表現しようと思ったら、どんな音色を、どのように並べて、どのように演奏すれば、その通りに相手に伝わるか…? もちろん、複雑な情景を曲で表現しようと思えば、モデルにする世界観についての知識も作曲者には求められる。 どんなに優れた演奏技術や、幅広い音楽の試聴歴があっても、オリジナルを作る生みの親となるのであれば、それは誰も見たこと、聴いた事のないものを生む必要があるな。 お笑い芸人や小説家だって、世の中には何人もいるが、彼らもやはり、誰かの作ったことを模倣したり、コピーしたりするのでは売れないよな? エンターテインメントの基本というのは、”二つとこの世にない喜びを創り出す”という点に全てが集約されていると言っても過言ではないのだよ。」
…友加里は、先生の言葉に圧倒されていた。 自分の”作曲家”への志や、それに対する考え方など、てんで子供であったことを思い知らされて、強い失意の念さえ感じていた。
「ああ、、、あの、、、先生!! …そ、、、そのためには、どんなことを、勉強すればいいのですか? それで、わ、、、私は、音楽系の学校に入ることが、、、できるでしょうか…??」
…矢野先生は、うっすらと笑みを浮かべながら友加里に語った。
「まぁ、浅倉はまだ1年生だから、今はひとまず、部活と学校の勉強を頑張りなさい。 聞けばお前は、ピアノを習って長いそうじゃないか。 無論、楽器を操る技術は生命線になるだろうから、これからも惜しみなく努力しなさい。 だが進路の方は、お前が強くそう願っているのであれば、先生もできる限りの力を貸すつもりだ。 しかし、自分の意思が強ければ強いほど、多くの困難に苛まれることになるぞ。 苦境に立たされて弱音を吐くことがあっても仕方がないが、大切なのは、成し遂げようとする強い気持ちが、苦しさに負けたり、逃げたりしないことだ。」
「…はい。」
…再び、物静かなムードに包まれた指導室だったが、矢野先生は外の夕陽を見ながら、友加里に話しかけた。
「何を隠そう、先生もまた、中学生の頃は作曲家志望だったんだ。」
「ええっ…!? …そ、、、そうなんですか…!?」
「ああ。 しかし、さっきも話したが、先生にはどうも、作曲家として必要な、幅広い知性や感受性が足りないようだった。 その証拠に、作曲に関するコンテストや、音楽制作会社への就職試験はことごとく失敗に終わって来た。 結局自分は、音楽の先生になることで、それまで磨いてきた音楽の技術や情熱を失わずにいられたが、心の中は正直だから、チャンスがあれば先生を辞めて作曲家に転身したいといつでも思っているよ。」
「…そ、、、そんな…??」
友加里は、作曲家になろうとする自分が、大変な試練へ自ずと歩いていることを自覚した。 同時に、その途方に暮れるような苦労を重ねる覚悟も求められたかのようで、悄々とした顔をしてその場に座っていた。
それを見た矢野先生は、元気をつけようと思い、こんな言葉を投げかけた。
「浅倉。 作曲家ってのは、試験で受かればなれるってものではない。 しかし、至るところに、その夢が叶うチャンスはあるものだぞ。」
「えっ…?? それって、どういうことですか?」
「ああ、例えば最近は、音楽の同好会やサークルに参加して、最初のうちは既存の音楽を演奏することに力を注ぐ。 それが幅広い人間に着目されるようになれば、次々と演奏の依頼が来るだろうし、自分の音楽の幅も自ずと広がりを見せる。 そしてその中で、何かオリジナルの音楽を作ることになって、作曲を手掛けることがあれば、お前が名乗りを上げて、自分なりの力を発揮してみるんだ。 無論、すぐには人々に認知してはもらえないだろうが、お前が様々な知識、感性を持っていれば、その多くの聴き手に共感を与える可能性はある。 いきなりの売れっ子にはなれないが、そういった小さなことからコツコツと努力していけば、どこかで、自分を受け入れてくれる場面がきっとあるはずだ!」
…友加里の心に、少しだけ明るい光が射し込めたような言葉だった。
「勿論、音楽を扱う会社に就職して、仕事をしながら自分の書いた曲をアピールしていくという方法もある。 一昔前のゲームメーカーなどは、おおよそそんな風にして”作曲家”が生まれていった。 浅倉は初めに行っていた通り、あらゆるジャンルの音楽を聴くことが大事だと自覚しているよな。 それは間違いなく大切なことだ。 なのでお前は、どんな作曲家を目指すにせよ、これから長い人生を生きる中で、一つでも多くの経験をして、一つでも多くの感性を学びなさい。 その経験が増えれば増えるほど、お前の作曲のセンスは研ぎ澄まされて、多彩な表現を音楽で訴えることができるようになるだろう。」
「はい!!」
…こうして、友加里と矢野先生は部屋を後にした。 具体的な進学先などについては、まだ先の話として、今回は触れずにおいたが、友加里が進学を希望する学校は、入学することになったら寮生活を余儀なくされるような場所にしかない。
家族と離れての生活となる不安も胸中にはあったが、今は中学生として、部活、勉強、恋愛に精を出すことが今の使命であるということも諭されて、友加里はどこか心に余裕を持てるような気がしていた。
…それから数日後。
隆太は、相変わらず休日に涼子と水泳の練習をしたり、ちょっとしたデートを楽しんだりしていた。 友加里はそれを大よそ知っていたが、恋心よりも自分の進路の方が気になっていたため、ある事をすっかりと忘れていた…。
「ああーーーー!! 10月15日…、、、隆太の、誕生日だった…!!!!」
進路相談の件もあって、隆太へのプレゼントを失念していた。 もう誕生日は過ぎた。 知らぬふりをして過ごそうかとも思ったが、大好きな隆太の、一番大切な日を「忘れてた」で済ませられるわけがないのだった。
幸い今日は土曜日。 友加里は急いでプレゼントを買おうと、A市にあるショッピングセンターを目指して電車に乗っていた。
「隆太って、どんなものなら気に入ってくれるかなぁ…??」
…小学校時代からの付き合いではあるが、あまり誕生日プレゼントをあげた例がなく、男子である隆太がどんな品を好むかは、友加里もほとんど想像がつかなかった。
考え込んでいるうちにショッピングセンターに着いてしまった。 隆太に、何が欲しいかメールで聞こうかとも思ったが、過ぎてしまった誕生日を今さら…という気持ちもあったため、ここは彼女自身の”センス”で勝負に出る覚悟を決めた。
…しかし、予算の壁も立ちはだかるため、良さそうに思ったものでも買える値段ではなかったり、自分で納得できる品物ではなかったり…と、プレゼント選びは難航した。
迷いながら歩いていると、視線の先に見覚えのある女性の姿が映った。
「えっ…!?!? …りょ…、涼子さん…!?!? それに、、、隆太まで…!!」
遠目から見ていたので、どんな会話をしていたのかは定かではなかったが、妙に仲良くしていて、時折お互いに「チョンチョン」と突き合ったり、手を繋いで歩いたりしていた。
気が付けば友加里は、二人をつけて歩いていたのだが、隆太と涼子は、フードコートに入り、何と、注文したクリームソーダにストローを2本差し、一緒に顔を近づけて飲んでいるのであった。
「なな…、、、何よ隆太ぁぁぁぁ・・・・・・。。。 涼子さんのこと好きだからって、、、そんなにイチャイチャしなくたっていいじゃんかぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・」
強い嫉妬の念が友加里を襲う。 今すぐにでも飛び出して行って、涼子から隆太を奪い返したい…。
…しかし、隆太は涼子の方に気があること、友加里は最近、進路のことで頭がいっぱいで、隆太とあまり話をしていないことが、自分で状況をマイナスの方に考える要因となっていた。
じりじりと隆太の近くへにじり寄っていく友加里。 さながらストーカーそのものだが、二人の会話の聞こえる範囲まで近寄った時、少し気になる話が聞こえて来た。
「ねぇ、隆太くんって誕生日に何かもらった? お姉さんとか、クラスメイトの子とかから…」
「いえ、ぜんぜん…。。。 僕たちって、基本、そういうことって、したことないですね…」
「そっかぁ。 じゃあ、この前私がプレゼントしたCD、気に入ってもらえたかな?」
「はい!!勿論です!! 今でも、ほぼ毎日のように聴いていますよ!!」
「そっかぁ~♪嬉しい~♪ …あ、でも隆太くんは、本当に欲しいプレゼントって、こういうのじゃないって言ってたことあったよね?」
「え…、、、ま、、、まぁ。。。 いや、涼子さんからのプレゼントなら何でも嬉しいです!!」
「ごめんね~(^-^; 時間がなくってテキトーに選んだCDだったから、気に入ってもらえるかどうかめっちゃ心配だったんだよね~」
「いえ、ホントに気に入りましたし、涼子さんの気持ちが、すっごく嬉しかったです♪ CDもいいですが、手書きのメッセージカード、最高でした!! 僕、そういう、心でやりとりするようなプレゼントって、本当に嬉しく思うんです!! ずっと記念にとっておくこともできますし…」
「そっかぁ♪ じゃ、来年のバースデーにはもっと手の込んだ、人に真似できないようなプレゼントでびっくりさせちゃおっと♪」
「あはは…ww」
友加里は「これだっ!!」と言わんばかりに、ファンシーグッズの専門店へと走った。 隆太たちのデートはもうどうでもいい様子で…。。。
買い集めたのは、可愛らしいクマやウサギのシールや、花の模様のスタンプや折り紙などだった。 これを自分なりに”味付け”して、作曲家を志す人間としてのポリシーを強調する意味も込めて”この世に一つしかないプレゼント”を作ろうという決心だった。
その日の夜、友加里は必死になってメッセージカードを作っていた。 普段あまり文章を書くのが得意ではない彼女だけに、できれば思わず歯の浮くようなセリフを書きたいと思っていたところだが、何と書こうにも言葉が浮かばないし、書いても自分で赤面してしまう…。
言うなればそれは、作曲家として活躍するようになれば、何度でも味わう産みの苦しみのようなものなのだが、友加里はただひたすら、隆太に「ずっと残しておいてもらいたい言葉」を探し、書き記していった…。
夜遅くまでかかり、メッセージカードは派手なラッピングを伴って、ようやく完成した。 …しかし、友加里は何か、これでは足りない…と思うものがあった。 メッセージカード自体は多くの人が相手に送っているわけだし、もう一工夫必要だと思ったのだ。
「そうだ!! 声だ!! よく、文通している人とかが、自分の声を録音して相手に送るっていうのを見たり聞いたりするじゃん!! それだ!!」
思ったはいいが、それには問題もあった。 友加里はカセットテープに声を吹き込もうと思っていたが、ノイズ混じりでなかなか綺麗に聞こえない。 それに、隆太がカセットテープを再生できる機械を持っているかどうかもわからない…。
そこで、音質も劣化しない、CDへの録音が一番理想的だと考えたが、友加里にはその環境がない。。。
ふと思い出したのが愛莉のことだった。 愛莉は、スウィートショコラガーデン♪というバンドを組んでおり、音楽の製作に関する知識や環境を持っている可能性がある。 翌日、愛莉に電話でそのことを相談した友加里だったが、愛莉は当惑した表情でこう語った。
「無茶言わないでよ…。。。 CDみたいなデジタルへの録音って、あたしだってできないよ…。」
「そこを何とか…!! ね!! 愛莉なら、何かできるでしょう?? お願い!!」
「そんなぁ…。。。 バンドでもたまーにスタジオ借りて、演奏を録音することはあるけど、そういう時に使う機械なんかはあたし持ってないし…。 できるとすれば、リーダーの由真さんにお願いして、使わせてもらえるかどうか頼んでみることぐらいだよ…」
「…お願い!! 愛莉!! 頼んでみて!!」
…愛莉は、隆太の恋敵(?)の頼みを引き受けるべきか否かで悩んだ。 いや、それ以前に、友加里の声をCDに録音することなど、果たしてできるかどうか…という問題があったのだが…。
「…わかったよ。 後で由真さんに聞いてみる。 でも、ダメかもしれないから、アテにしちゃだめだよ。」
「うん…。ありがと。。。」
…翌日、愛莉は友加里の下へと駆けつけた。
「友加里!由真さんが言うには、今度、練習でスタジオ借りるから、その時にすぐに済ませられるのであれば、何とかできそうだって言ってたよ!! 一応、由真さんがCDのマスタリングとかもしてあげるって言ってた。」
「ええっ!?ホント!? わぁ…、、、ありがとう!!」
…そして、二人は由真に約束された日に、Sweet Chocolate Garden♪の練習会の合間、彼女の指示に従って、借りたスタジオを訪れ、友加里の愛のメッセージを吹き込むことにした。 当然ながら、喋る内容は愛莉にも由真にも、そしてスイチョコの面々にも丸聴こえなのだが、彼女としてはそんなことを気にしている暇はないのだった。
由真「いい?友加里ちゃん? あまり時間がないから手早く済ませようね。 このマイクに向かって、録音したいことを話せば、それがそのまま記録されるから。 でも、何度もやり直すことになると、スタジオの使用時間を過ぎちゃうから、なるべくミスのないようにね。」
「はい!!」
…由真が、スタートの合図を出した。 友加里は、隆太に大切に残しておいてもらいたい言葉を、包み隠さず語った…。
●REC 「隆太へ。 いつも、私のことを想っていてくれてありがとう。 一緒に作って来た楽しい思い出も、ケンカしちゃったことも、全部が私にとって大切な記憶です。 どうかこれからも、かけがえのない存在として、隆太のことを好きでいさせてください。 私は、隆太がいたおかげで、いつでも前向きに頑張ってこれました。 隆太も、私も、お互いに、幸せな未来をつかもうね♪ 大好きだよ!隆太! 友加里より。」 ■OFF
由真「はいオッケー♪ いまCD-Rに焼いているところだから、もう少し待ってね。 …いやしかし、それにしてもこっちが恥ずかしかったよ~。 友加里ちゃんって大胆だねぇ~♪ みんながいるところで、ここまで堂々と愛の告白とか普通無理だよ~ww よっぽど彼のこと好きなんだね~」
「ああ…、、、いやぁ…それは…そのぉ…、、、今回は、状況的な都合ってのもありましてぇ…、、、」
「おっ!できたできた! はいどうぞ♪ 友加里ちゃんの愛のメッセージの入ったCD、この世に二つとない、あなただけのものだよ♪」
「あ、、、ありがとうございます!!!!」
スイチョコの面々と愛莉に深々と頭を下げ、出来上がったばかりのCDを持って友加里は帰宅した。 そして、用意してあったメッセージカードをセットにして、隆太の家に走った。
「あ…友加里じゃん♪ どうしたの?」
「りゅ…、、、隆太、、、あの…、、、おっ…おっ…、、、お誕生日、、、おめでとう!! 遅くなっちゃってホントごめん!! 今さらなんだけど、ウチ、隆太に、プレゼント持ってきた!!」
「わぁ…ww 友加里…!!ありがとう!!」
「あっ!!…ウチ急いでるから、今日はこれでねっ!!」
「ああ…、、、友加里ぃ…」
…突然のプレゼントに、戸惑いを隠せない隆太だった。
ドキドキしながらも封筒を開けてみると、そこには友加里が直筆で書いた、渾身のメッセージが記されていた。
---Dear 隆太♪ お誕生日おめでとう☆彡 遅くなっちゃって本当にごめんね。
これからも私は、隆太のことを好きでいてもいいよね♪ というか、私のことを、好きでいてください。
私は、隆太のことを忘れて生きることなんてできないです。 私がいま在るのは、隆太がいてくれたおかげだと信じています。
お互いに、将来の夢に向かって頑張ろうね!! 水泳も負けないよ!! 隆太も身体に気をつけてね。
色々とダメな私だけど、ずっと繋がっていてください♪
友加里より♪ ---
…そして、友加里の声の入ったCDも聴いた隆太は、何か心の底から湧いて来る、嬉しさ、感激の念を抑えきれなかった。
一度は不仲になってしまったような彼女が、こんなにも自分のことを想っていてくれたなんて…。
友加里の思いがけない優しさや、作曲家志望らしい粋な演出に、その夜は涙が止まらなかった。
…翌日、水泳部の部室が空くのを見計らって、隆太は友加里を呼んだ。
「友加里…、、、昨日は、、、ホントに、ありがとう!!!! ぼ、、、僕、、、あんなに心がこもったプレゼントをもらったことって、なかったんだ…。 嬉しくて嬉しくて、一晩中読んでたし、声も聴いていたよ。 僕、友加里からのプレゼント、一生、大切にするよ!! ホントに、ありがとう!!!!」
…そう言って隆太は、思い余って友加里を抱きしめた…。
…友加里だって涙を浮かべていた。 一つのプレゼントを完成させるのに、大変な苦労を積み重ねた。 それこそが、作曲家として生きるようになったら味わう”苦悩”なのかもしれないが、作り上げた感激もまた、それまでの自分にはない大きな喜びとして返って来た。
「グスン、、、グスン、、、隆太ぁぁぁぁ…。 嬉しいよぉ…。。。」
「僕だって、、、嬉しいよ…」
部室に杏奈がカギを駆けに来る寸前まで、二人はお互いを見つめ合っていた。
友加里は本当は、先日の涼子とのデートについて問い詰めようと思っていたが、こんな時に余計は話をするのは意味がないと考え、そっと水に流した。
そして、すっかり暗くなった帰り道、二人は恋人つなぎして歩いて帰った。
「隆太…。たとえ、将来、涼子さんをお嫁さんにしても、ウチの事、絶対に忘れないでね。。。 私は、作曲家になりたいから、この先、どんな試練でもぶつかっていく覚悟だし、遠くへ離れても、ウチ、隆太のこと、忘れないからね…。 隆太いてくれるおかげで、苦しくても頑張れるような気がするんだよ…」
「うん。。。友加里…。 僕も、友加里が将来作曲家になれること、信じて応援していくよ!!」
「グスッ…、、、ありがとう…。。。」
…枯葉の舞う秋の日に、恋の花びらも舞っていたような二人の時間だった。
時は過ぎて、雪の便りが届く頃、今度は友加里の誕生日を迎えた。12月17日が、友加里の誕生日だ。
隆太は、女子の好みがわからないので、直感的に「これだ!!」と思った男性アイドル系のCDに、自分の言葉を書いたメッセージカードを添えて彼女に渡した。
「ごめん、、、友加里…。 僕、、、この程度のプレゼントしかできなくて…」
「ううん…。 気持ちが嬉しいんだよ♪ 隆太だってそうでしょ? ありがとう♪」
…気が付けば冬休みに入り、カレンダーも残り1枚になっていた。
色々な出来事が思い返される大晦日、隆太と友加里は、それぞれの「大切なプレゼント」を何度も何度も読み返して、心で受け止める贈り物の嬉しさをいつまでも抱きしめているのであった。
-つづく-