Episode 22:「試練を越えて…」
3月。 いよいよ、高校進学のための受験の時が訪れた。
教室内のムードもどこかピリピリしており、仲の良かった者同士でも、言葉を交わすことは少なくなり、誰もが来たるべき試練と、卒業への不安を隠し切れない様子であった。
隆太たちはというと…。
友加里は、かねてより音楽アーティストの「悠月あゆみ」に師事しつつ、音大付属の高校への進学を打診されていたので、すでに2月中にその学校の試験を受けに行った。 この時点ではまだ合否の確定はしていなかったが、友加里的には、良好な反応を得たようで、よほどのミスがない限り、合格できそうだと自信たっぷりの様子だった。
あきらは、水泳のインストラクターを目指すつもりでいるのだが、志望校は秋田県にある。 そのため、受験日前日から母親に連れられて、電車で県外へと出ることになった。
愛莉もまた、音楽や、楽器の演奏の勉強をしつつ、水泳選手を目指したいという夢のために選んだ学校は岩手県にある。 彼女もあきらと同じように、前日から母親と一緒に盛岡市内のホテルにチェックインして、本番に臨むこととなった。
…結果、隆太だけが地元青森に残り、そこの高校を受験することになった。 隆太は、仲良くしてきた友達と離れてしまうことも十分苦痛に思っていたが、まずは志望校に合格できなければならない。
しかし、隆太は自分の学力的な面に、いまひとつ自信を持てずにいた。 また、面接でも「自分の個性」を重視されると聞かされていたので、どんなアピールをするかで、受験当日まで頭を抱えていたのだった。
「もう、こうなったらぶつかっていくだけだよな…。」
隆太の心には、妙に図太い気持ちが据わっていた。 …というのも、受験の前日、涼子と一緒に最後の勉強を頑張りつつ、こんな会話を交わしていたのだった。
「ねぇ、涼子さんは入試の時って、どんな感じでした?」
「え…? う~ん…、、、まぁ、それなりに緊張したし、それなりに頑張れたってとこかな~。 確かに、本番の何か月か前まではめっちゃピリピリするけれど、本番目の前ってなれば、もう怖がったってしょうがないじゃん。 後は自分で、やれるだけのことをやるってことでOKだと思うよ♪」
「そう…ですよね…。 はぁ…、、、でも、、、…やっぱり、どんなことになるか、ドキドキしっぱなしで…」
「うーん…。 確かに、違う学校の雰囲気もあるし、全然知らない人ばっかりが集まるから、緊張するのは無理もないだろうね。 だけどさ、自分の夢を叶えるための試験だもの。 何のためにここまで頑張って来たんだよ!!って思って、堂々と試験受ければ大丈夫だよ!!」
「はい!! 僕、頑張ります!! 涼子さん、ありがとう!!」
「うん。 頑張ってね♪ グッドラックだよ(*^-^*)♪ 合格発表の時、一緒に見に行ってあげるからね。」
…涼子は、少し曇った隆太の表情を笑顔で見つめながら、頭を優しく撫でた。
隆太も、ちょっぴり笑顔になって、口にこそ出さなかったが、彼女に健闘を誓った。
そして受験当日。
特に悪天候などによる混乱もなく、試験は順調に進んだ。 隆太は各科目の問題を解いている中、どうしても苦戦を強いられる場面も多々あった。
頭を掻き毟ってみるが、当然そんなことをしても答えは浮かばない。 そんな場面が何度か続き、合格ラインが遠のくような絶望感がチラチラ見え隠れしていた。
だが、隆太は思った。 「こんな思いをしているのは、友加里もあきらも愛莉も一緒だ。 みんなが同じ闘いを演じているはずだ。 自分だけが苦しいわけじゃない!」
問題に詰まると思い出すのは、そんな親友たちの笑顔だった。 みんなに良い報告をしたい。 みんなと喜びを分かち合いたい。 そして、みんなと誓った、自分の夢を絶対に叶えよう!という想いが、絶望感を跳ね除けた。
筆記試験は無事に終了した。 残るは面接試験のみ。 隆太は、どんな質問を受けるか気が気でないのであったが、面接に臨む前に、姉の流美から教わった言葉を思い出した。
「面接はかっこつけず、自分のいいところをありのままにアピールするのよ!!」
いつも通りの自分が大切。 そう思って隆太は、キリっとした表情を維持しながら、面接会場の教室のドアをノックした…。
「度胸」の言い聞かせが効いたか、思った以上に声は出せる。 無事に自己紹介はできた。後は質問に答えられるかどうかだ。
面接官「…ところで、小野君は自分のどんなところが好きで、どんなところが嫌いですか? 簡単にでいいので、お話してください。」
隆太「はい!! 僕が自分で好きなところは、スポーツでも音楽でも、好きになったことは徹底的に好きであり続けられることです! そして、それは人が相手でも例外ではないということです。 年齢も性別も問わず、どんな人とでも仲良くなることができて、その交流を大切にすることで、人として必要不可欠な心を学び、自分の中で育んで、周りの誰もを優しい気持ちにさせることができるという点です!」
面接官「なるほど…、それはけっこうなことですね。 …誰もを優しい気持ちにさせるとおっしゃいましたが、それは具体的にどんなことですか?」
…!! (うっ…!! まずい…、、、この質問は想定していなかった…)
一瞬、面接会場に無情の静けさが漂った。 しかしその時、隆太の脳内には、部活動としての水泳を頑張ってきたことや、「スウィートショコラガーデン」のライブで聴いた、音楽や歌が流れ、同時に、それを聴きながら過ごした時間に味わった経験も思い出した。
(そうだ!!これだっ!!)
「はいっ!! 例えば、僕は水泳を通して、大切な友達を作ることができましたし、音楽が好きで、演奏は下手ですが、その仲間たちと心の通った時間を過ごしたことがありました。 たとえ今の自分が何事に対して未熟でも、自分から心を開いて、お互いに助け合い、積極的にみんなと交わっていこうとすることで、友達の輪が広がって、ひいてはその相手みんなが、優しい気持ちになれて、それぞれを大切に想うことができました! 僕は、そのようにして、何かのジャンルで集まるみんなと、和やかな雰囲気を作って、有意義な時間を過ごせるという特技を持っていると自負したいです!!」
面接官も、この隆太の答えは予想外だったのか、びっくりした様子ながらも、良い表情をして次の質問へと移った。
面接官「では最後に、小野君がこの学校で生活する中で、一番大切にしたい目標を教えてください。」
「はい!! …それはもちろん、人としての協調性を守り、友達みんなの未来を尊重しつつ、自分の未来の夢である、水泳選手や小説家、芸術家などの、なりたい職業をしっかりと定めて、自分の歩むべき道をしっかりと見据えていくことです!!」
面接官「そうですか。これであなたのことが大体わかりました。 入学が叶った暁には、ぜひその気持ちを大切に頑張ってくださいね。 ではこれで、面接試験を終了します。お疲れ様でした。」
「はい!! ありがとうございました!!」
…隆太は、少し身体に緊張感を帯びながらも、面接官に一礼して、試験会場を退室した。
帰宅後、筆記試験の自己採点をした隆太。 少し浮かない表情をしていることに気付いた流美が、「どうしたの?」と声をかけた。
「ああ、お姉ちゃん…。。。 面接は何とかつっかえずに話せたけど、、、筆記の方が、、、いま自己採点したら、受かるかどうかすごい微妙だよ~…」
流美「あちゃー…。あんた、、、そんなことじゃ…って、もう試験は終わったんだから今更言ってもしょうがないけど、受かる可能性が消えたってこともないでしょう? もっと自信を持ってたらどうなのよ?」
「そうだけど…、やっぱり不安なものは不安だし…。 あきら達も、どうなったか…。」
…その夜、あきらと愛莉からメールが届いた。 二人とも試験の反応はまずまずだったとのこと。 隆太はその返信の文面で、「ちょっと自信ないなぁ…」といったことを記してしまったが、二人からはこんな返信が届いた。
あきら「自分を信じて何が悪い!! 最後まで受かることだけを考えろって!!」
愛莉「隆太なら大丈夫だよ。 そこそこの反応ってことは、望みも大きいはずだから、福音を待っていようよ。」
…その日の夜は、胸の動悸がいつまでも止まなかった…。
数日後、中学校の卒業式の日が訪れた。 3年間通った学び舎も、今日を最後にもう訪れることはなくなる…。
隆太たち4人は、お互いの入試の経験談から、これからの自分達について延々語り合っていたが、卒業式が終わると、妙に寂しくなってしまい、式の最中には、友加里や愛莉はシクシクと泣き出してしまった。
会場から出ると、水泳部の後輩である、紡木真奈があきらの方へ駆け寄って来た。 暫く会っていなかったが、それは彼女なりの配慮だったという。 あきらに、愛莉という恋人ができたことを、真奈は早い段階で知っていた。だから自分は、恋心が進まないうちにきっぱりとあきらへの憧れを遮断し、違う彼氏を見つけたのだという。
「あきら先輩!!第二ボタンください!!」
…あきらは、色々な意味で戸惑ったが、徐に右手で第二ボタンを掴み、それをちぎって彼女に渡した。
「真奈!!これからの水泳部、しっかり頼んだぜ!!」
「はいっ!!ありがとうございます!!あきら先輩!!」
そこに隆太たちも駆け寄って、みんなで別れを惜しみつつも、最後の談笑に喜びの表情を見せていた。
さよなら、母校…。
数多の思い出が脳裏を過ぎる中、みんなは、小雪のちらつく帰り道を、名残惜しそうに歩いて行った…。
それから数日後…。 いよいよ、高校の合格発表の時が来た。
友加里にはすでに、進学先の高校から合格通知が届いていた。 あきらと愛莉は、受験した学校へ再度赴き、発表を見ることになったので、隆太はひとりで受験した学校へ行くことになっていた。
だが、合格発表当日、流美が車で学校へと送って行ったら、その先に待っていたのは、涼子であった。
「やっほー♪ 隆太くーん♪ 試験、どうだった? 自信、あるよね?」
「そ、、、それは…、、、何というか…」
隆太の曇った表情は、まだ冬の空模様の曇天の空に溶け込んでしまうかのようだったが、涼子は隆太の手を握り、発表の瞬間を待っていた。 しかし、流美の車の運転が慎重すぎたのか、発表時間ギリギリに到着してしまい、隆太たちは掲示板のずっと後ろ側で番号を探すことになってしまった…。
午前10時。 ついに、伏せられていた掲示板が開かれて、合格者の番号が公開された。 その瞬間、ある者は歓喜の声を上げてジャンプし、またある者は抱きしめ合って喜びを分かち合っていた。
…隆太はというと…、、、
…ない。。。 ないよ…。。。 僕の番号、、、ないよ…。。。
流美も涼子も、まさか…といった表情をしたが、彼の持つ受験票を見て、掲示板の方を見ても、歓喜に湧く人混みとは裏腹に、隆太の受験番号は見つからない…。
どっと力が抜け、その場に倒れ込みそうになる隆太。 流美も、まさか弟が落ちるとは思っても見なかったので、相当なショックを隠し切れなかった。。。
流美「厳しそうだって言ってたけど、やっぱり無理だったか…。。。 仕方がないわ。 第二志望の学校に進む方向で考え直しましょう…」
…隆太は、涙を流しながら、無言で首を縦に振った。 二人は、沈黙のまま、学校の校舎に背中を向けた。
…しかしその時であった。 涼子が、帰ろうとする二人を呼び止めた。
「ちょっと待って!! ねぇ、もう一度だけ、掲示板を見て見ようよ!!」
「そんな、、、涼子さん。。。 僕はもうだめだったんですよ。 何度見たって…」
「いいからほらっ!! 今、前の人混みがひいてきて、しっかりと掲示板を見れるでしょう!!」
「えっ…!? …??」
そう。 隆太たちは群衆の後ろ側にいたので、掲示板の下の部分がよく見えなかったのだ。 特に、背が低い隆太には、人の背中に隠れた部分にも番号が記載されていたことに気が付かなかったのだ。
「139番!! あああっ!! あった!! あったよ!! お姉ちゃん!! 涼子さん!! 僕の番号があったよ!!!!」
「ああっ!!本当だぁ!! さっきまでは人混みのせいで見えなかったんだ!! 隆太!! やったじゃん!! よかったよかった~~~!!!!」
「わぁ~い!! 隆太くんおめでと~う!!(*^▽^*)!! 危うく自分から不合格にしちゃうとこだったね(笑) ま、とにかくよかった~♪♪ ばんざ~い!!」
最後まで希望を捨てないことの大切さ、こんなところにもしっかりと現れるのだということを、隆太は知らされた。
やがて、あきらと愛莉からも電話がかかってきた。 何とその二人とも、志望校に合格できたとのことだった。
隆太もすかさず、自分も第一志望校に受かったことを告げると、電話ごしに狂喜するような会話になった。
次の日、帰宅したあきらと愛莉に、友加里、隆太も加わって、みんなが望むべき進路に進めることになった事実を喜び合った。
だが、その嬉しさ溢れる会話もすぐに途切れた。 そう。 言うなればその福音は、親友との別れが決まったという意味でもあったので…。
お互いにまだ、それぞれの学校へ進むまでには時間がある。 それまではじっくりと過ごせるだろうと思っていたが、友加里はこの時、衝撃的な一言を発した。
「みんな…。 ウチ、都会で寮生活する準備とかもあるから、明日の夜行列車で、東京に行くんだ…。 できればでいいんだけど、駅に見送りに来てくれると嬉しい…」
そう言い残すと、友加里は駆け足で皆のもとを去ってしまった。
あとに残った3人は、呆然とした表情でお互いを見つめ合ったが、友加里が遠くへ行ってしまうことは前々から知らされていた。 いままさに、その時が来たのだとそれぞれが言い合って、明日の夕方、青森駅に友加里を見送りに行くことを決めた。
だが、その日の夜、友加里から隆太にメールが来た。
「明日、1日だけ最後のデートお願い♪」
隆太も、これもまた大きな試練の一つだと思って、彼女の気持ちを受け入れることにした。
「やっぱり、友加里は恋愛は3年間限定って言ってたけど、それは運命として避けられなかったってことだろうなぁ…。」
友加里のメールには、こんな一節もあった。
「隆太のこと、本当に大好きだったよ。 だから…、卒業したら、思い出したくない。 でも、忘れないで…。」
隆太の涙腺は崩壊し、涙で枕を濡らしたまま眠りに就いたのであった。
友加里もそれは然りであり、隆太と過ごした日々のことが走馬灯のごとくよみがえる…。
だが、固く決めた自分の夢のため。 隆太だってわかってくれた。 だから友加里は、将来、立派な作曲家になって、夢を叶えた自分を見てもらうために頑張る決意をしたのだ。
隆太は恋人として、そして、心の友達として、自分を強く、大きく支えてきた。 強い淋しさもあるが、もう悔いはないという「度胸」もまた据わっていた。
そして、友加里が旅立つ日の朝を迎えた。
友加里は自ら隆太の家に出向き、彼をデートに誘った。 デートを許される時間は、列車が発車する18時まで。 友加里は、同行する母親に事情を話し、荷造りなどは母親に任せて、後は自分だけが列車に乗りに来ればいいだけになるよう頼んでおいた。
二人が向かった先は、青い海公園。 そこは、中学に入ってすぐの頃、まだお互いによそよそしさの残る中、初めてのデートをした、思い出の場所である。 まだ冬に降った雪が多く残る中、二人は刻々と迫る別れの瞬間までを、一分一秒さえ惜しむかのように、手を繋ぎながらゆっくりと歩いた…。
「隆太と出会えて、本当に幸せだったよ♪」
「僕だってそうさ。友加里…。」
お互いに繋いだ手の温もりが、いつも以上にあたたかく、ずっとこのまま、時が過ぎなければいい…と思いつつも、過ぎてゆく時間を惜しみながら、思い出の場所を歩き、懐かしい気持ちを振り返っていた…。
隆太も友加里も、最後は笑顔でお別れしようと心に言い聞かせていたが、刻々と迫るさよならの時を感じずにはいられない…。 気が付けばお互いに握る手の力が、ぐんぐん強くなっているのがわかった。
まだ真冬の寒さの残る公園と街を、二人はそれぞれの瞳にしっかりと焼き付けながら、西の空に陽が傾く時までのわずかな時間を、一緒に、仲良く寄り添って歩いていった…。
- つづく -




