Episode 20:「Nameless Conhesion」~匿名の結束~
受験勉強に追われ、何かに時間のない毎日を過ごしていた隆太たち。 文化祭や遠足といった、いくつかの行事を経たものの、気持ち的には何か晴れやかなものがなく、じわじわと迫り来る「試練」=試験・受験の時に戦々恐々としているかのようだった。
時を同じくして、隆太の学校ではある事件が起こった。
下級生のクラスで、ある生徒が、いじめを苦に自殺を図ったのだ。
幸い、未遂に終わり、その生徒は死には至らなかったが、全校集会でこの件が訥々と校長先生から話され、隆太たちは、まさか自分の学校で、このような事件が起こるとは…!!と、何か信じられないものを感じつつも、内心、(こういった事件が)起こっても不思議はない空気は感じていた。
今現在でこそ、隆太のクラスは平穏な雰囲気を保っている。 しかし、他の学年、クラスを見ると、授業の前後はどんちゃん騒ぎで、場合によってはクラス委員や教師が注意しても納まらない。
そんな中に、いじめの温床と火種は存在していた。 隆太たちだってそれを知っていた。
だからこそ、自分達は仲良く友達との付き合いを大切にしてきたつもりだったのだが、他人事ではないだけに、隆太たちも憔悴した顔を隠し切れずにいた。
愛莉も実は、心無い生徒に言葉の暴力を受けていた。 事故の後遺症がまだ残っており、登校には用心のための杖が欠かせない。 体育の授業も基本は見学で、皆と同じラインに立っての授業が受けられないことを心苦しく思っていたが、そんな時に、ある女子生徒が…
「織畑って、実はもうちゃんと歩けるくせして、ああやって病人のフリしてさ~。 体育とかサボりたいからってわざわざ杖なんて持ってこなくてもいいくせにねー。 休み時間はフツーにしてるくせしてさー」
…それが徐々にエスカレートして、愛莉は学校を休むことが増えてしまった。 流石に親友の心痛を放っておけないとして、隆太、あきら、友加里らは、愛莉が苦しんでいる事態を担任の先生に事細かに説明し、いじめの阻止を懇願した。
…だが、先生から帰って来た言葉に、一同は驚愕した。
「心配ないさ。 もう少しで高校に行く。 そうすればまた新しい気持ちでやって行けるから。」
…何という無責任な発言だろうか。 まるでそれは、ただただ苦痛に耐えろとしか言っていないような、逃げ腰な言葉であり、教師としての正義感など皆無に等しかった。
これに立腹した隆太は、姉の流美にこのことを話し、彼女なりの意見を聞いた…。
「だってさ…。 ぶっちゃけた話、先生だっていろいろな性格持ってるじゃん。 …つまり、本当に生徒のことを想って正義を振り翳すか、ただ単に給料のためだけに授業やってるか…。 要は、担任としては、いじめみたいな揉め事は起ってほしくないし、一番手を焼く事態じゃん。 …でもさ、いじめにまともに向き合っても、決められた時間分の授業を労働として過ごしても、貰える給料って同じじゃん? いじめ解決手当て(仮)なんてのは出ないと思うし…。 …だったら、下手に腫物をつっついて、事を拗れさせたら自分の立場悪くなるから、そうやって見て見ぬふりしたり、現実から目を逸らしたりするんだよ。 自分の受け持つクラスにいじめがあるって認定されれば、立場にも給料にも影響出かねないし、対応の仕方悪いと生徒に卒業してからも恨まれるし…。 何より、今の社会はそういうことに敏感だから、一発そんな噂が広まれば、学校全体が問題視されて大騒ぎになっちゃうじゃん。 だから先生も、実害がないうちは何かと口実つけて…、例えば、確たるいじめの要素が見つからないとかって言って、生徒のSOSを受け流しちゃってるんだよね。」
隆太は、珍しく流美がまともなことを言うので驚いたが、今はそれよりも、愛莉に向けられているいじめについて、どう対処するべきか論議するべきだった。
この日は結局、二人だけではあまり良い案は出そうにないので、後日、あきらと友加里も読んで、隆太の家で会議を開くことになった。
先日流美が話した、いじめと先生の現実についても語った上で、どう対処していくべきか話し合った。
友加里「ウチだったら、何度もそういうこと言う人って力づくでもやめさせるww 人の心の痛さを、肉体の痛さで教えてやるよww」
あきら「おいっ!! それじゃあ火に油だっての!! 今度はこっちが加害者になりかねねーよ。」
隆太「何とかして、そういう事言うのが本人の心を傷つけているってのを理解させられたらなぁ…」
…隆太たちは、それぞれに案を浮かべたが、どうも具体性がない。 だが無理もない。 こういう物事については、正直なところ自分達だって触れたくないし、目を背けたい。
だけど、愛莉がすっかり悄然として、元気もなく、1週間のうち1~2日は何らかの理由で学校を休むようになっている。 隆太たちには正直に、いじめを受けていることを話していた愛莉だったが、彼らから受ける友情の気持ちよりも、今日学校に行ったら、どんな目に遭わされるか…? そちらの方が恐怖で勝ってしまうので、精神的にも辛い状態だった。
あきら「学年主任の先生に訴えようよ! あの先生なら威厳もあるし、授業の時はみんな静かになるから、頼れると思うよ!」
友加里「でも、ウチ達だけで訴えても、本気にしてくれるかなぁ…? だって、流美さんの言う通り、先生だって正義感のあるなしで全然違うから…。 一時的におさまっても、またぶり返すんじゃないかって心配だよね。」
隆太「うん…。 学校じゃ、週に一回ホームルームで、いじめについてのアンケート調査してるけど、実際は全然活用されてないもんなぁ…。」
流美「…みんな…。 みんなの言い分はもっともだけど、結局のところ、いじめる人が、なぜその行為を好き好むのか…とか、物事の善悪の判断を学習させるべきだよね。 でもさ、いじめる人って実は、クラスでも社会でも、一番弱い心の持ち主だよ。 自分が色々受ける不安やストレスを、人を傷つける事以外で解消できない、残念な奴らなのよ。 例えば、家庭環境がすっごい複雑で、家に帰っても誰とも話せないとか、勝手に大人になったつもりで、人を見下すような行動こそがエライって勘違いしてるとかね。」
… … … (隆太たちは、どうしても具体案が出せない。)
…と、その時隆太は、愛莉が参加している音楽バンド「スウィートショコラガーデン」の演奏会の通知が来ていることを想い出した。
「友加里!! これだよ!! 手紙!!」
「え? 手紙が、どうかしたの?」
「先生のもとへ手紙を書くんだ!! 愛莉が誰にどんないじめを受けているか知っているし、直接話すよりも、手紙なら先生の空いた時間にじっくりと読んでもらえると思うんだ。 そうすれば先生も、真剣になって考えてくれると思うんだよ!!」
あきら「なぁ、だけど手紙書いたって、俺達が出したってこと、ばれないか?」
隆太「それは心配ないよ。 匿名で手紙を書くんだ! 一人一通ずつ出そうよ! 筆跡でばれるのが嫌なら、パソコン使って書けばいいと思う。 とにかく、何か行動を起こさないと、愛莉がどんどん追い詰められちゃうよ!」
あきらは、自分の彼女がそんな目に遭っていながら、助けてあげられないことを自責してもいた。 なお、あきらは作文の類は苦手としていたが、恋人を救う唯一の手段だと思えば、手紙なんて書けない…なんて弱音を吐いている暇はなかった。
「よし! 隆太! 友加里! 手紙作戦、やってみようぜ!!」
…かくして、3人はそれぞれに、愛莉がいじめを受けていることを仔細に記した手紙を書き、それをクラスの担任、学年主任の先生にそれぞれ「匿名で」送った。
この効果が、良い方向へと発揮されてくれればいいが、解決されなかった場合、流美も何らかの力を貸すことを約束してくれた。 もちろん、愛莉の兄、愛希もこの事実は重く受け止めており、何らかの事態が起こった際に、的確な応対ができるよう、協調の姿勢を見せることにした。
学校を休んでいる愛莉に、あきら達はこのことを伝えると、愛莉は泣きじゃくりながら話した…。
「…いじめる奴…、、、あたしだって、本当はそいつら、本気で悪口言ってるわけじゃないんだと思ってる。 だけど、あたしに聞こえる場所で、わざとあたしが傷つくようなことを言うってことは、あたしをいじめたいって思ってるわけだし、最近だと、置いてある杖を蹴り飛ばしたり、歩いている時にわざとぶつかってきて、痛そうにしているあたしを見て、痛がる演技がお上手ねーwwって言うんだよ。。。」
俯きながら、涙をこぼす愛莉の手を、あきらは強く握って、みんなで先生方に手紙を書いたこと、流美や愛希も協力してくれることを話すと、一瞬、安堵の表情を見せたものの、今度は何かやり返されないかと、おびえる様子も見せた…。
あきら「それもないようにってことで、俺達は手紙に記したさ。 あと、実は俺…、、、あ、いや、、、何でもない」
友加里「必ず愛莉はいつも通りに学校行けるようになるよ! 私達、絶対に親友の愛莉を守ってみせるよ!」
隆太「僕、国語は得意なんだ! 一生懸命辞書引いて、真剣な気持ちを書いたんだよ! 先生だけじゃなく---」
あきら「シー!!隆太!!それは言うな!!」
…愛莉は、何か言いかけてやめたのが気になったが、3人の心強い励ましは、木枯らしの吹く秋の空の下で、どんなものよりも暖かく感じられた。
それから数日…。
愛莉はこの日も、学校を休んでいた。 しかし、この日は1時間分だけ、本来の授業は中止され、担任と学年主任の先生、そして、生徒指導の先生までが教室を訪れ、「このクラスに、いじめがある」として、事の詳細を全員に向かって話したのだった。
もちろん、具体的な加害者、被害者の名前は伏せたが、先生は「人として卑劣極まりない!!」と、声高に主張して、クラス中を沈黙させた。
そして、愛莉をいじめていた者たちは、放課後に生徒指導室に呼び出された。 そこで先生が持っていたのは、まさに、隆太たちが出した「匿名の」手紙であった。
「これは先生のもとへ届いた手紙だ。 これには、お前たちが織畑に対して仕掛けた、心無い行為の数々が記してある。 なお、手紙の差出人は不明だ。 この通り誰が出したのかは一切書いていない。 しかしだ! お前たちがこうして、誰かを傷つけることを平気で続けていた事実は、必ず誰かが見ていたということだ。 無論、このクラスの者だとは限らない。 人は誰しも、ふとした過ちで誰かを傷つけることはあるだろう。 だが、それを自分の非として詫びるのであればまだしも、事もあろうに更に傷つけ続けるとは言語道断だ!」
「ドン!!」…と、拳で強く机を叩く音が、放課後の学校に響いた…。
…いじめた者たちは二の句が継げなかった。 なぜなら、その者たちにも、同じような手紙が届いていたのだ。
差出人不明の手紙がある日下駄箱や机の中に入れてあり、開けてみるとそこには、「愛莉の怪我を嘲笑するようないじめは断固として許さない!!」…といった旨の内容が記されていた。
ワープロ文字なので、筆跡で差出人を想像しようにも無理があった。 文章の文体でも、いじめる者たちには想像もつかない理路整然とした中身だったため、何か強い恐怖心を抱かざるを得なかった。
実はこの難しい文面、国語が得意な隆太の功績である。 もともと文章を書くのが得意な隆太は、辞書を使いながら、そして、相手に愛莉の苦痛をしっかりと伝えられる内容で、いじめる者たちへも手紙を「匿名で」出していたのだった。
同じように、あきらと友加里もまた、愛莉をいじめる者に、似たような手紙を書いていた。 無論、その文面は何も、「いじめたお前に天罰を与えてやる…」みたいな脅迫めいたものではなく、多少の強い表現は用いつつも、愛莉がどれだけ心を痛めているか、切々と訴えたのだった。
…そのことも思い出し、いじめていた者たちは、その場で大声を上げて泣き崩れた。。。
その日の夜、愛莉の家には、ある来客が…。
…その来客こそ、愛莉をいじめていた張本人たちであった。 今日の放課後のこと、匿名の手紙のことで、愛莉にお詫びを入れに来たのであった。
杖をつきながら玄関に出て来た愛莉。 暫し、それぞれが言葉に詰まったが、いじめた者たちは、泣きべそをかきながら、やおら愛莉に土下座をはじめた。
「悪かった!!愛莉!! 私達、ひどいことしてた!! ごめん!! 何でもするから許して!! マジ怖い!! 誰だかわからない人が、私達のことを見てるなんて怖い!! でも、それだけ悪いことしてたんだって知ったら、愛莉に謝らないとって思って…!!」
…愛莉は、涙を流しながら、いじめた者たちの手を取った。
「じゃあ、もう、私にひどい事しないって約束してくれる?」
「うん。勿論だよ。」
「そして、私からもお願いがあるの。」
「えっ…!?何??」
「私達、卒業までもう何か月もないでしょう。 中学出ちゃうと、クラスのみんなはバラバラになっちゃうから、せめて、中学にいるうちだけは、みんなで仲良くしましょう。 そうじゃないと、学校を出てからも、クラス会とかでまた会おうって気持ちになれないから…」
「そうだよね…。 愛莉…。 私、自分のことだけで頭いっぱいで、イラっとするとすぐに誰かに八つ当たりしてた。 ダメだってわかってても、抑えられなかった…。 でも、手紙にも書いてあったんだけど、そういう性格だと、高校行ったら、逆にいじめられる立場になるって…。 いじめても、いじめられても、人として必要な未来を失うことになるって…。」
愛莉は、普段のいじめる者たちの素行からは想像もつかない台詞が飛び出したことに驚いたが、彼女は、その言葉を信じて、お互いに固い握手を交わした。
「愛莉…!!ホントにごめんよ!! 愛莉のこと、めっちゃ間違ってた。 このままだと高校行けなくなるし、友達も減らしちゃう…。 そして、悪いことしちゃうと、必ず誰かに見られちゃってる…。 本気でそれ、怖いと思った…。最低だとも思った…。 うわぁぁぁぁぁーーーーーーん!!!!」
どれだけ、涙がこぼれたであろうか…。
外も真っ暗になってしまい、そろそろ帰宅するよう、愛莉の家族に促されて、いじめた者たちは、家路を急ぐことにした。
「愛莉!!また学校に来いよ!! 今度は、愛莉と一緒に休み時間に色んなことして遊ぼうぜ!!」
「アタシもね! 中学の思い出、今からでもまともなことを作らないと大変だからね!」
愛莉は、彼女達の瞳を見つめながらこう言った。
「ありがとう。」
…思えば、苦しいいじめを受けていた愛莉から、それを与えた者へ発せられる言葉とは思えない一言だった。
だが、隆太たちの作戦は功を奏し、翌日の教室には、みんなで明るく話をする愛莉の姿があった。 もちろん、その中にはつい先日まで、愛莉をいじめていた者も…。 だが、隆太たちも加わって、この良い雰囲気が、ずっと続くことを願って、あえて彼らは、愛莉たちの話に加わるようになったのだ。
そして、それ以降、愛莉は体調を崩した時以外は、学校を休むことはなくなった。
愛莉は、いじめた者たちへの手紙の送り主が隆太であったことを知り、驚きと同時に、親友のありがたさを、どこまでも深く感じ取っていた。。。
それから数日後、隆太、あきら、友加里は放課後、教材の整理の手伝いで学年主任の先生の手伝いをしていた。 その際、愛莉のいじめについて、匿名の手紙が届いた事が話題に上ったのだが、最初は必死に、自分達ではないと隠そうとした。
…しかし、既に事は解決を見た今となっては、打ち明けてもいいと思い、「あの手紙、実は僕達が…」と、真相を曝け出した。
「ははは…。やはりお前たちであったか。 最初は、ワープロ文字だったので誰かと思ったが、お前たちが仲良くしていることがフッと頭に浮かんでね。 それに、ひとつだけ酷い誤字脱字のある手紙があったので、それで差出人がわかったよ。 浅倉!お前のでわかったんだ!」
「はあぁぁぁ…!?!?」
「浅倉?先生が国語を担当していることを忘れたのか? 1年生の時にお前のクラスを受け持ったことがあるから、よーく覚えているが、女子に一人だけ、作文を書かせると筆は速いが漢字から文法から間違いだらけのものがあって、それが、浅倉友加里という生徒のものだったから、ずっと印象に残っていたよ。 例えそれが、ワープロの文字になっても同じことだ。 浅倉! 確かお前は、作曲家を目指して勉強しているんだったな!? だとしたら、譜面にこんな稚拙なミスがあるようじゃあ、プロとして認められないぞ!! 作曲家だって言葉は大切に扱うものだから、もう少し語学にも力を入れないと、色々とデビューしてから苦労することになるぞ!!」
主任の先生の言葉こそ辛辣だったが、表情はどこか笑っていた。
きっと、愛莉を親友として大切にする彼らが自主的に行動したことが、先生の心を強く動かしただろうし、結果として円満解決に至ったのだから、今はそれに満足している様子であった。
友加里は、何だか恥ずかしそうに…
「はぁ~い…、、、国語、せめて50点は取れるようになりま~す…」
「バカモン!! そんな点数では高校にすら入れないぞ!!」
「ひえぇぇぇっ…!!!!」
そんなやりとりを見ていた隆太とあきらは、お互いに顔を見つめ合って爆笑した。
…ちょっぴり恥ずかしい場面を味わってしまった友加里だったが、帰宅すると、何と彼女にも手紙が届いていた。
しかし、今度の手紙にはちゃんと差出人がある。 それを読んだら、何と! 友加里が密かに憧れを抱いていた、ゲームミュージック作曲家である「悠月あゆみ」からの一通であった。
ちなみに、悠月あゆみは、友加里が毎年応募している、アマチュア作曲コンテストの審査員を務めてもいる。
「ななななな…????? なにこれ…!?!? どういうことなの…????」
胸の高鳴りを抑えつつ、慎重に封を切って中の手紙を読んだ。 すると、そこにはこのようなことが書かれていた…。
「浅倉友加里さま。はじめまして。 あなたはまだ中学生でありながら、作曲コンテストに果敢に応募され続けてきましたね。 今回のコンテストも、残念ながらあなたは入選には及びませんでしたが、コメントの中であなたは、本気で作曲家になるために、どんな苦労も厭わないことを強く意思表示されていましたね。 まだあなたの作曲は完璧なものではありませんが、私には素晴らしい素質を感じてならなかったので、あえてこの度、浅倉さんにこのお手紙を書かせて頂いたのです。 (中略)... ところで、中学卒業後は音楽を真剣に学習していくとの言葉も見かけましたが、もしも、あなた自身に決意があり、あなたのご家族がお許しになるのであれば、中学卒業後、私に師事しながら、音楽の勉強をして行ける学校への推薦状を書かせて頂きますよ。 無論、お返事は絶対ではありませんし、急ぎません。 あなたの進路に係わる重要なことですから、ひとつ、真剣にお考えになって、その結果を私にご報告いただければ幸いに思います。」
「私は現在、フリーランスという形で音楽活動を行っておりますが、ゲーム音楽を中心に扱い、集まる若い女性だけの音楽バンド”じょしおん♪”(女子音楽大好きバンド)の統括も担っています。 浅倉さんは最初のうちは見習いで所属して頂きますが、主に同人ルートで、時折ライブを開いたり、CDをリリースしたりしています。 売れたCDやライブでの収益は、そのままバンドの、そしてあなたの収入になりますし、”じょしおん♪”ではメンバーそれぞれが独自の趣向で音楽を楽しみ、作ることを許し合っています。 浅倉さんは私が指導してきた人材の中でも最年少で、なおかつ、大きな将来性を感じましたので、失礼ながらこのお手紙をお送りさせて頂いたのです。 突然のことで驚きかとは思いますが、あなたならばと見越してのお話です。 どうぞご一考くださいね。」
♪悠月あゆみ♪
友加里は、目をぱちぱちさせながら、何度も手紙を読み返していた…。
「えーとえーと…”師事”って何だ?? えー、なになに…、”師として仕え、教えを受けること”だってーーー!?」
…そして友加里は、この願ってもない話に二つ返事で「はい!今すぐにでも行きます!!」と書きそうになったが、その前に、悠月が薦めて来た学校について調べなければならない。 すぐさまネットで、手紙の中に記されていた学校を調べると、そこは、とある音楽大学の付属高校であることが判明。
一気に、華々しい高校生活が脳裏に浮かんだが、ホームページを読み進めると、一気にそれも曇っていった。
そこは全寮制の女子高で、忌引きでもない限り欠席は基本的に許されず、数日学校を休んだだけで退学処分を受けることがあるという。 しかも、異性との交友は断固として禁止されており、いわば、某アイドルグループの「恋愛禁止条例」のようなものまであるというのだ…。
当然、今の田舎を離れての寮生活となれば、見知らぬ者との暮らしにも慣れねばならないし、勉強の厳しさに泣き言を吐いてしまうことも十分考えられる。。。
友加里は、自分の夢が一気に近づいたと喜んだ反面、それに向かうための想像を絶する辛苦があることを思い浮かべると、脳内がコンフリクトを起こしてしまった…。
悩んだが、友加里は家族にそれとなくこの話を告白した。 以後、友加里は卒業まで、この進路を歩むことで家族、学校ともに事が運ばれることになるだろう。
だが、そこには大きな壁があった。
そう。 大好きな友達と、別れなければならない。
特に、隆太とは、本当に、「恋愛は3年生で終わり」という公言通りになってしまう。 最初は、単純な強がりと、自己主張のつもりで持ち出した話だったが、それが必須になるとは…。
ある日、友加里は隆太をデートに誘った。 もちろん、この話を打ち明けるために…。
そして、隆太は友加里の進路がほぼ確定し、中学卒業を最後にもう恋愛感情は消滅させ、次にいつ会えるかもわからないところへ行ってしまうことを告げた。
「…そんなわけで、ウチ、中学出たら、もう恋愛できないんだよ…。 隆太! それでも、隆太とは、ずっと大切な友達同士でいようね。 約束だよ!!」
秋の深まった公園のベンチに座る二人。 隆太は、色んな意味で身をブルブルと震わせながら、友加里にこう言った。
「友達じゃいやだ!!!!」
- つづく -




