Episode 16:「Invisible Present ~瞳に映らぬプレゼント」
12月24日
隆太は、虚ろな表情で電車に揺られ、A市のとあるホールへと向かっていた。
…過日、自分の進路と、入試の時に必要となる、勉強や部活以外で「自分にとって大切なもの」が何か思いつかず、つい苛立ち余って友加里を突き飛ばしたり、友達や家族にも暗い表情で接したりしてしまった…。
隆太の、焦りを浮かべて、どこか悄然とした表情を不憫に思ったあきら達は、こっそりと相談し合って、クリスマスに開催される「Sweet Chocolate Garden♪」のクリスマスライブへの招待状を渡していた。
だが、その招待状の一文には、「ご自身が一番得意な楽器を一つお持ちください」とあった。
「…そんなこと言われたって、、、僕にできるのは、このリコーダーぐらいしかないし…。 しかも全然上手くないし…。 それでいて、音楽の専門家ばっかりが集まる所で演奏するってなれば、恥かくの目に見えてるじゃん…」
…そうは思ったが、まさかあきらや愛莉たちが、自分に恥をかかせるつもりで招待したとは思えない。 不安は払拭しきれなかったが、隆太は会場へと入っていった…。
「おっ!!隆太~!! 来たか~♪」
出迎えてくれたのはあきらだった。 しかし今日のあきらは少し違う。 何と小さなエレキギターを持っていて、衣装もやや派手な格好をしていた。
「あ、、、あきら…?? ナニ、その格好??」
「ああ、あははは…ww 実はさ、平服でいいって言われてたんだけど、楽器ひとつ持ってこいって言われたら、俺、これしか能がないからさぁ…ww …で、間違ってもジャージ姿でギターとか似合わないじゃん。 こっそり派手な衣装を借りてきたってわけさ♪」
…続けて、愛莉も出迎えた。
「隆太!! 隆太はリコーダー持ってきたの?」
「うん…。 でも僕、全然上手じゃないし、こんなのしか楽器なんて使えないんだよ…。 ねぇ愛莉! 今日って一体、何をしようって言うんだい…?」
「うん、それはね…、、、後でわかると思うから、今は言わない…。」
「な、、、なにそれ…?」
「いいからいいから。 さ、早くあんたも控室に来て! 今日はみんなで、自分が得意な楽器を持ち寄ってフリーダムな演奏会をしようってことになったんだよ♪ だから、演奏が上手も下手もないんだよ。 あたしだってまだまだだし…。 だから、演奏ミスってもだれも咎めないから心配ないよ。 あ!そうだ! 後で、涼子さんも観覧に来ることになっているから、そのつもりで頑張ってね!」
「えっ…!! りょ、涼子さんが…!?」
…隆太は一瞬、小学生の時に初めて学校のステージで歌を披露した時の恥じらいのような感情を蘇らせた。 だが、今はひとまず、愛莉の言葉を信じてみるしかなさそうだ。
愛莉をはじめ、スイチョコのメンバーたちは、いくつかの楽譜とスコアブックを交換しあい、その中で演奏できそうな曲をピックアップしていった。 リーダーの由真はアドリブも利くらしく、事前の打ち合わせは不要だとして、機器類の調整をしていた。
…それを見ていると、その中に友加里の姿もあった。
そう言えば、友加里を突き飛ばしてしまった日からだいぶ経つが、殆ど彼女と話をしていない。
流石に不安に思った隆太は、彼女のもとへ駆け寄り、やや尻込みしながらも声を掛けた。
「ゆ、、、友加里…。」
「あ、、、隆太…。」
一瞬、場が凍り付きそうなムードもあったが、すかさず隆太は話を進める。
「友加里って、今日、何やるの?」
「え? 見ればわかるじゃん。 ドラムだよ。 愛莉はまだ、キックドラムとかは無理だかんね。 えーと…、、、ハイハットの位置ってここでよかったかなー…??」
微妙に、友加里は隆太を遠ざけているかのようだった。 隆太は、楽器をセッティングしている友加里に向かって、今までの気持ちなどを話してみた。
「…本当にごめん。友加里…。 僕、あの時、めちゃめちゃに悩んじゃってて…、自分でもどうすればいいのかわけわかんなくなっちゃってて…。 友加里がせっかく心配してくれたのに、突き飛ばしちゃって、ホントにごめん!! 謝るから許してよ…。 この通りだよ…。」
…すると友加里は、少し作業の手を止めて…。
「うん。 わかったよ。 別にウチ、隆太とケンカしたいと思わないし…。 進路って悩むの当然だし…。 でもさぁ、思春期女子の胸をドンって叩いて、いい度胸してんじゃんか!? けっこう、色んな意味で痛かったんだぞぉ…?」
「だから…、それもホントに謝るよ…。 ごめんって…。」
「もういいよ。 それより、ウチ、このバンドの臨時メンバーとして、中卒まで頑張ることになったんだ。 中学出たら、バンドでの活動を作曲にも生かして行けるよって、由真さんに教わったし、作曲家…っていうよりは、クリエイターとしての技術磨くってこと、そろそろ本気でかからないとね。」
「友加里…!! ありがとう!! ぼ、、、僕、、、今日はヘタな演奏しかできないと思うけど、、、何とか一緒に頑張ってみるよ!!」
友加里は少し笑みを浮かべて…
「そうだよね。 あんたも少しは、勉強や部活から離れなよ。 そればっかりが中学生の仕事じゃないっての。 あんたの行きたい高校は、個性を尊重されるんでしょ? だったらその個性とか大事なものってのが、一体どんなことなのか、今日一日過ごしてみればヒントくらい見つかるんじゃね?」
「うん…。 友加里、、、ありがと…」
「お、、、おい泣くなっつーの…ww 男子だろ? この程度で泣いてちゃ、何もできないっての!」
隆太の拭った涙が渇く頃、スウィートショコラガーデンのクリスマス演奏会が幕を開けた。
幕が開くと、客席からはバンドのメンバーたちが寄せ集めた観客らが拍手を送ってくれた。 その中には、涼子や流美の姿もあった。 どうやら流美にも招待状が届いたらしい。 様々な緊張を覚える中、由真のナレーションが会場に響き渡った。
「皆さん、メリークリスマス!! イブの夜にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます!! さて、今年もそろそろ終わりを迎えますが、我らがスウィートショコラガーデンは、めでたくも結成1周年を迎える時となりました。 そこで本日は、これまでの感謝の気持ちと、これからの皆さんとの素晴らしい音楽の未来を共有できますことを祈念しまして、ジャンルを問わずあらゆる音楽を披露したいと思っております。 それでは皆さん、ごゆっくりとお楽しみください!!」
最初の演奏は、学校で習う簡単な音楽だった。 隆太も慣れない感じでリコーダーを吹く。 時折つまづくが、リーダーの由真が、アイコンタクトで「ドンマイ!頑張れ!」と合図してくれた。
それからも音楽は次々と演奏されていき、友加里はドラム、愛莉はキーボード、あきらはギター、隆太はリコーダーをそれぞれ担当し、少し異色なバンド構成とはなったが、そこは個人規模の催し物。 音楽の完成度よりも、会場のみんなとの親和性を大事にしながら演奏会は続いた。
休憩に入ると、バンドのみんながのどを潤し、お互いを激励し合った。
由真「麻衣子!ベースいい感じになってるよ! その調子なら、大学の課題もクリアできそうだね!」
麻衣子「ありがとうございます! それに今日は、愛莉ちゃんもすっごく頑張ってくれてますし、友加里ちゃんのドラム、すっごいパンチが効いててナイスですよ!!」
友加里「ああ、、、いや、まだまだですよ…ww 私なんて、ドラムの経験めっちゃ浅いんで…。 それよりもあきらのギターにはびっくりですーww あきらって、楽器弾けるなんて思ってもみなかったんで、ホントに驚きました~♪」
あきら「いやぁ…、実は知り合いのお兄さんに、ちょいちょい教わってたことあってね。 でも普段は、音がうるさいから弾けないでいたんだ。 今日持ってきたギターも、そのお兄さんのおさがりなんだけど、自分にピッタリで、すっごく気に入っているんだよ。 隆太だって、リコーダーの音色、けっこういい味出してたじゃん!! ちょっとしたアクセントになってて、俺、すっごい新鮮に感じたよ!!」
隆太は、少し戸惑ったが、お互いの演奏を褒め称えあうことの美しさが、何だか胸いっぱいに込み上げてきた。
「み、、、みなさん、、、本当に素晴らしい演奏で、、、ぼ、、、僕なんてホント、楽器なんて全然ダメな人間なんで…。 で、でも、みなさんが演奏中に、目で応援してくれるから、何だか自信が湧いてきて…」
…その話の中に涼子が割り入って来て…
「隆太くん! やればできるじゃん!! それに、演奏していてわかったでしょう? 最初は、音楽の演奏には無縁だって思ってただろうけど、みんなに後押しされて、みんなと励まし合えば、自然と誰とでも調和できるでしょう♪ 隆太くんの良いところ…っていうか、きみの個性って、そういうところなんだと思うよ♪ どんな人とでも仲良くなれて、それをプラスに活かして自分に磨きをかけられる。 きっと、隆太くんの誇れる個性って、それだと思うんだ(*^-^*)♪」
隆太は、自分の目の前のモヤモヤが晴れたかのような気持ちになった。 自分では気が付かなかったけれど、今までも周囲と自然に同調するかのように振る舞ってきたら、大体無難に事が運ばれてきた。 涼子に改めて言われて、そんな性格そのものが、自分の大切な個性なのだということを知った。
その時、友加里が照れくさそうに彼の元へ歩み寄ってきた。
「隆太?覚えてる? 私と隆太が出会った時のこと…。」
「ええっ…!? そ、、、それって確か、小学3年生の時の水泳大会じゃ…?」
「そうだよ。 あの時、何気なく隆太がウチに話しかけてくれたよね。 最初は、男子と話すって抵抗あったんだけど…、隆太って、それでもウチのこと、大事に思ってくれてて…。 一時はライバルだったけれど、気が付けば親友だったし、彼氏彼女だったね。 もっとも、カレカノの方はじきに終わりにして、親友の方を維持しようって思うんだけど、隆太ってみんなに気配りができて、いい雰囲気を作ってくれるじゃん。 ウチも、それがあんたのこと好きになった理由だと思うんだ…」
恥ずかしそうに隆太は下を向いた。 だがその時、ステージにいた由真が、隆太に駆け寄って来た。
「隆太くん。 実はね、愛莉からきみの事情を聞いていたんだよ…。 きみが進路や自分の個性探しとかで悩んでるって…。 愛莉さ、夏に事故に遭っちゃって、今でも辛い思いしてるけど、そんな自分を支えてくれたのが、隆太くんやあきらくん、それに、友加里ちゃんなんだって。 それでね、隆太くんに、クリスマスプレゼントをあげようって思ってたんだけど、それは目に見えるものじゃなくて、自分自身の中に眠っている、見えない個性を目覚めさせることが一番だろうって話してたんだよ♪」
「うっ…、うううっ…、、、クスン、、、」
由真「驚かせちゃってごめんね。 今日、みんなに楽器を持って来てもらったのは、その辺の気持ちを確認するって意味もあったんだよ。 バンドの演奏って、誰か一人でも波に乗れないでいると、みんなの足引っ張っちゃって、それが原因でケンカしちゃうこともあるでしょう? でもね、私達スイチョコは、そんなことをしないで、むしろ、上手に演奏できない人にこそ、音楽を通じてみんなとエールを送り合うことの喜びを知ってもらおうっていうのも、バンドのコンセプトとして持ってるんだよ。」
「み、、、みなさん…。。。」
麻衣子「隆太くんって、とっても頑張り屋さんだし、とっても他人想いな性格してるから、高校行っても絶対大丈夫だよ!! 隆太くんみたいに、少し控えめだけど、社交性のある男の子って、女子はもちろん、男子にだって信頼されるだろうし、社会に出るようになってからも、必ず良い意味でそれは活きるよ!!」
愛莉「そうだよ隆太♪ あたしが事故った時、隆太が流美さんに頼んであたしのところへ駆けつけてくれたんでしょう? あとでそれ聞いてめっちゃ涙出たんだよ…。 夜中だから、誰も来てくれないって思ってたから、隆太があたしのことを心配してくれてたってこと、ああ、、、いまでも思い出すと涙出る…。グスっ…」
友加里「わかった?隆太? まぁ、自分の性格って、主観視点じゃわかんないものだからね。 隆太にとって、将来の夢を叶えるために、自分の持っている友好的な性格って、入試以外でもめっちゃ大事なものになるんだよ?」
あきら「そうさ♪ 俺だって、隆太とけっこうな付き合いだけどさ、隆太って、控えめな草食系男子だけど、それがそもそも個性だと思うんだ。 ま、俺だってどっちかっていうと草食系だと思ってるけどなww 俺も、愛莉と暮れの演奏会どうしようかって話してた時、ちょうど隆太が悩み抱えてるってこと知って、それでみんなで相談して、今日みんなで楽器の演奏しながら、自分の良さみたいなのを見つけようってことになってさ。 実は俺も、隆太と同じで、何か勉強やスポーツ以外にも、出来ることとかがないとなぁ…って思ってたとこでさ。」
…隆太は、瞳に大粒の涙を浮かべながら、みんなに向かってこう言った。
「最高のプレゼントを、本当にありがとうございます!!!!」
…その後、演奏会は後半へと突入し、それぞれが独自の音楽を奏でて、それでいて、みんなで合奏を楽しみながら、和気藹々とした時間を過ごした。
「目には見えないプレゼント」 … 隆太は、狐につままれたような感じも拭い切れなかったが、友達、仲間、支えてくれる人の存在の大切さ、そして、自分もみんなと一緒に仲良くしていくことができること。 悩んで考え込んでも見つからなかった、人生の問題の答えが、今回この演奏会の中で、「プレゼントとして」彼に与えられた。
そして演奏会は恙なく終了し、また来年も音楽を楽しもうね♪…といった感じで皆が会場を後にした。
隆太は観客として呼ばれていた流美の車で家路についた。 友加里も今日は、雪の降る中電車で帰るのは厳しいということで、一緒に車に乗せてもらった。
二人は演奏会を終えて疲れていたのか、車の後部座席でお互いに手を繋ぎながら、静かに寝息をたてていた…。
流美はそんな彼らに、若干の嫉妬心を抱いたようでもあったが、今日一日の出来事を踏まえると、黙って二人の仲の良さを見守ってあげるのみであった。
あきらと愛莉は、それぞれに約束を交わしてあるようだった。
二人は、イブの夜、スイチョコのメンバーたちと打ち上げに参加していた。 そこで、あきらは何やら落ち着かない様子を見せていた…。
「あ、、、愛莉…、、、あの…」
「え…? なに??」
あきらは顔を真っ赤にして…
「来年のバレンタインデー、俺にチョコレートくれるわけ…、、、ないよなー…ww」
愛莉も少し恥ずかしそうにしたが…
「あ、、、いや、、、その…。。。 その時になってみれば、わかるかと…」
何やら言いたいことを言い出せないでいるかのような二人。 しかしもう夜も遅くなり、流石に帰らないわけにはいかなくなった。
あきらは、まだ少々歩行が辛そうな愛莉の手を取りながら、雪道を静かに歩いていた。
「な、、、なぁ、、、愛莉…」
「うん…?なぁに…??」
「いや…、、、お前がその…、、、ゲホッゲホッwww!! 何でもない。 早く、普通に歩けるようになるといいな。」
「うん。ありがとう。 ってか、バレンタインデーの催促だったの? 大丈夫だって。 ちゃんと、チョコあげるから。心配しないで。」
「いや…、、、そんなんじゃ、、、ないん、、、だけど…」
「じゃ、だったら何よ??」
「ほっ…ほら、、、今日も言ってた通り、目には見えない、大切なプレゼントってやつさ!! お、、、俺だって、愛莉がびっくりするような、、、バレンタインデーのプレゼントを…みたいにーーー」
「はぁ…??何言ってんの? バレンタインデーには女子が男子にプレゼントするんじゃんww ま、なにかあげたら、ホワイトデーには返してもらうつもりだけどねww」
「うん…。 でも、それまで待たなくてもいいかも…」
「????」
「じゃ、愛莉、ここから家までは一人で帰れるよな? 風邪ひくなよ!! それじゃ!!」
「ああっ…!? あきらぁ…!!」
あきらは、何か言いたいことを言いそびれて悔しそうにしながら、吹雪の彼方へと走って行った。
月日は流れ、時はバレンタインデーとなった。 この日隆太は、涼子や愛莉、友加里たちからいくつかのチョコレートを貰った。 それを家に持って帰ったら、流美にしきりに妬まれてしまったのだが、隆太は数多くもらったはいいが、気の利いたお返しができるかどうか悩んでいた。
一方の、あきらはというと、この日、とある場所へデートの約束を交わしていた。
そのお相手は、誰であろう、愛莉であった。
人気の少ない公園へ行き、愛莉はチョコレートを渡そうとした。 そう。 二人は密かに、チョコレートの交換をしたい様子なのだった…。
愛莉がバッグからチョコレートを出し、あきらに手渡した。 すると次の瞬間、思わぬ言葉が愛莉に返って来た。
「愛莉!!好きだ!!大好きだ!! 本気で好きだ!! 真剣に好きだ!! マジで好きだ!! おお、、、俺と、、、俺と、、、付き合ってくれ!!!! 俺と、彼氏彼女になってくれ!!!! 愛莉!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・!!!!」
…愛莉は、突然の愛の告白を受け、当惑せざるを得なかった。
しかしだ。 愛莉は意外にも冷静さを保っていた。
「あきら…、ありがとう…(*^^*)♪ …ところで、チョコに添えてあるメッセージカード、読んでくれるかな?」
あきらは、言われるがままにメッセージカードの封筒を開けて、それを読んでみると、そこには愛莉の直筆で…
「あきら!!大好き!! めっちゃ好き!! どうかあたしと、恋人同士になってください!!」
「愛莉…」
「えへっ…。 告るタイミング、かぶっちゃったね…ww」
「愛莉…、これ、、、本当だよな…!? 俺と、付き合ってくれるとか、本当だよな…!?」
「あたり前じゃんww 冗談でこんなことできるわけないでしょ? だってあきら…。 あたし、こんな体になっちゃって、水泳も今は休んでるけど、あたし、あきらめたくないの!! 水泳で名誉ある何かを達成したい!! だから、あきらと一緒に、また泳ぎを再開したい!! 音楽活動も大事だけど、スポーツの夢としての水泳も、絶対にあきらめたくないの!!」
「愛莉…!! …わかった!! 俺、愛莉が普通に泳げるようになったら、バッチリとコーチしてやる!! 俺も、水泳のインストラクターになるのが夢なんだ!! 将来、一緒にオリンピック出られるくらいに成長して、みんなを驚かせてやろうぜ!!」
「ありがとう!!あきらぁ!!!!」
真冬の公園の真ん中で、あきらと愛莉は強く抱き合って、お互いの愛と夢を誓い合った。
そしてそんな二人を祝福するかのように、少し大粒の雪が、静かに、ひらひらと彼らのもとへ舞い降りては消えていくのであった…。
「これも、見えないプレゼントってものかな? 愛莉?」
「そうだね。 大切なものって、目には見えないことってことだよね。 あきら♪」
その時繋いだ手の温もりは、いつまでも冷めないで残っているかのようだった。
そして季節は進み、桜の咲く春がやって来た。 彼らはいよいよ3年生。 受験生となり、勉強も一層難易度が高くなり、入試を意識した学習スケジュールが日を追うごとに厳しくなっていった。
隆太と友加里は、相変わらず友達以上、恋人未満(?)な関係で過ごしていたが、あきらと愛莉は、普段でこそ普通のクラスメイトを演じているが、二人きりの時間ともなれば、お互いに恋の話に花を咲かせていた。
程無くして隆太たちにも二人の関係はバレてしまったのだが、もちろん彼らは冷やかすことはなく、将来の目標共々、成就できるようエールを送った。
さらに、この話は先日卒業した水泳部の先輩、杏奈の耳にも入っていた。 杏奈は何でも交通関係の職業に就きたいらしく、その進路に従って仙台にある学校へと入学。 地元を離れてしまっていたのだが、ある日、隆太の元へ手紙が届いた。
…その一文にはこうあった。
「おっすー!!みんな元気にやってるか~い!! 隆太も友加里とケンカしてんじゃないぞーww それと、あきらと愛莉、お前たちリア充してんだってな? ヒューヒューww おアツいねぇ~(笑) ま、あんた達も3年生だ。 最後の中学校生活、全力でエンジョイしろよ~♪ そして、叶えたい夢を忘れるなよ~♪ アタシも彼氏作らないとヤバイなーーー^^ww まぁ、とにかくどんなに辛いことあっても前向いて頑張れよ!! あんた達を信じてるぜ!!」
…無駄に明るい文面に、杏奈の人柄を思い出してしまい、少しクスっと笑みがこぼれた4人であった。 また、杏奈は在学中、彼らを苗字で呼んでいたが、手紙では名前で呼んでいた。 おそらくこのあたりには、何か彼女なりの心境の変化があったのだろう…。
水泳部も練習は毎日のように続く。 そんな中、ある日一人の新入生(女子)が、あきらの元へと駆けつけて来て、瞳をキラキラと輝かせてこう言った。
「こんにちは!! あきら先輩!! やっとお会いできましたね~!! 私、ご存じでしょうが、あきら先輩の妹の、友紀の親友である、紡木真奈です♪ キャーーーwww あきら先輩!! いっぱい、いっぱい私にご指導くださいね~~~♪♪ なんたってあきら先輩は、私の恋人なんですものね~~~♪♪」
「ちょ…www あの…、、、真奈ちゃん…」
あまりに初心で、純真すぎる彼女のアタックにあきらはタジタジであった。
もちろん、その様子を愛莉は見ている…。。。
あきらは、部活の先輩として、彼女に水泳の指導をしないわけにはいかなかったが、そうしているうちにどんどん真奈は、あきらへの距離を縮めようとしてくる…。
ある日、部室で真奈が足を捻ったとして、あきらに足首を見てもらっていたのを目撃した愛莉は、つい、思い余って部室のドアを思いっきり「バタン!!!!」と閉めて、いつもは一緒に帰るはずが、一人で帰ってしまった…。
直ちに後を追うあきら。 それに気づいた友加里と隆太も、愛莉を宥めようとした。 すると、愛莉からある意味深な言葉が返って来たのであった。
「紡木真奈って子、実はあたしの、水泳のすっごいライバルなの…。 彼女、小学生の時点で、あたしの泳力もタイムも上回ってた…。 実際、去年の今頃、まだあたしが普通に泳げてた頃、プライベートでタイム測ったことある…。 全部負けた…。 だから、、、メッチャあいつを見ると悔しい…!!!!」
本来なら、後輩に負けないよう泳力のアドバイスをしたいあきら達だったが、愛莉の体はまだ事故の後遺症があり、それもままならない。 愛莉の心には、ただ追い抜かれる悔しさと、あきらに接近される嫉妬の念が湧きあがっており、少し冷静さを欠いていた…。
…その数日後のことだった。 愛莉は、いつも通りに部活をしている隆太たちのいる部室へと突然入り込んで来て、いきなりジャージを脱ぎ、下に来ていた水着姿になった。
「ほら!!あきら!! 泳ぐよ!! 早くあたしに泳ぎ方教えてよ!!」
「わわわっ…!!!!愛莉!! やめろって!! 大変なことになっちゃうっての…!!」
「あきらの言う通りだよ!! 愛莉落ち着けよ!! そんな体じゃ泳ぎなんて無理だって!!」
「うっ…うっ…、、、うるさいなぁーーー!!!! あたしが、、、あたしがどんな気持ちで今まで過ごしてきたか、あんた達に何がわかるっていうのよぉーーー!!!!」
…騒ぎを聞きつけた友加里が、急遽プールから上がって来た。 そして愛莉に駆け寄ったが早いか、迷わず彼女の頬に、プール中に響き渡るような音を立てる平手打ちを喰らわせた。
「バチイイイィィィィーーーーーーーン!!!!!!」
「ゆ…、、、友加里…、、、」
「愛莉!いい加減にしな!! 人に迷惑かけるような目標だったら今すぐ捨てな!!」
夕方の水泳部に、緊迫した空気が張り詰め、男子たちはただその様子を見つめる他ない様子であった…。
- つづく -