Episode 14:「繋いだ君の手」
「愛莉が…!! 愛莉が車にはねられて救急車で病院へ…!!!!」
…夜も更けて来た隆太の家に、その凶報を持ち込んだのは友加里であった。
「ウソだろ…!? 何かの間違いじゃないのか!?」
「ばかっ!! ウソなんかじゃないよ!! さっき、あきらから電話あって、、、あきらが言うには、横断歩道渡ってた時、左折してきた車に接触したって…。。。 急いで救急車で病院に運ばれたけど、、、愛莉は、、、意識がないって言ってた…。 いっぱい血も出てるって言ってた…。 あきら、、、めっちゃ泣いてた…」
「そんな…、、、!!」
「隆太!! 急いで愛莉のいるA市の病院に向かおう!! さぁ!!早く支度してよ!!」
「うん!! …あっ!!でも、、、もうA市へ行ける電車がないよ…!!」
…一瞬、蹲る二人。 隆太の両親は、今日は揃って帰りが遅い…。 だが隆太は、彼の姉、流美が先日免許を取って車を買った事実を思い出した。
幸い、流美はバイトから帰って家にいた。 二人は事情を説明し、車で病院まで送ってもらうよう懇願した。
「…ちょっと…ww 事情はわかるけど、、、あたしなんて、免許は運の力で取れたような人間なんだよ…? しかも、こんな夜中の運転なんて一度も経験ないし、、、下手すりゃあたし達が愛莉ちゃんの病院に運ばれるかもよ…??」
尻込みする流美に対し、友加里はぐいっと身を詰めて…
「お願いです流美さん!! ウチらの…、私達の大切な友達が、大変な状態なんです!! もしかしたら、、、グスッ…、、、か、、、考えたくないですけど、、、今すぐ会いに行かないと、、、お別れの言葉を掛けられないかもしれないんです!! ホントに、、、本当にお願いします!!」
隆太も、友加里の熱意に後押しされ、共に流美に車を出してもらうよう頼んだ。
「お願い!!お姉ちゃん!! 本当に、、、いま、頼れるのはお姉ちゃんしかいないんだよ…!!」
…流美の返答を待っている間、二人はひたすら泣きじゃくっていた。。。
「うん。わかったよ。 これでも一応、免許取れたんだから、何とか頑張ってみるよ!! さ!! 車に乗って!」
…流美の自動車は、静かに闇に包まれた村を走り抜けた。
…しかし、如何せん、「新品の初心者マーク」を付けた流美の運転。 しかも夜中で、悪いことに雨が混じってきた…。 ノロノロ運転ゆえに、どんどん後続車に追い越しを掛けられる…。 二人は流石に、焦りを隠し切れなくなってきた。
「お姉ちゃん!! お願い!! もう少し早く走ってよ!!」
「あ…、あんたなァ…www この姉の拙い運転技術を知っててそんなハッパかけてるの?? これ以上飛ばすなんて無理ムリだっての…!! まして、雨降ってるし…!! 文句あるならあんた運転代われっての!!」
「それは無理…」
「だったら黙って乗ってな!! こんな時こそ焦っちゃ何にもならないでしょ!!」
…暫くして、友加里が何やら隆太に耳打ちした。
「お姉ちゃん…、その、、、近くのコンビニにちょっと寄ってくれない?」
「はぁ…!? こんな時におやつでも買おうってのぉ!? ふざけないで---」
「---そうじゃないよ!! 友加里が…、、、吐きそうだって…」
「えっ…!? 友加里ちゃん!? もしかして、車に酔っちゃったとか!?」
…車酔いではない。 友加里は、この緊急事態と、極度の緊張を受けて、気分が悪くなってしまったのだ。 それで、吐き気を催したらしい。 幸い近くにコンビニがあったので、そこのトイレを借りたが、友加里の顔は青ざめていた。
「友加里…、しっかりして!! もうすぐで病院着くから…」
隆太は、友加里の背中をさすり、震える手を握って励ました。 しかし、隆太だって愛莉のことが気がかりでならない。 手を握ってほしいのは自分の方だったが、ここはあえて、男らしさを見せるしかなかった。
…そして、愛莉が搬送された、A市の総合病院へと到着した。 夜中なので辺りは不気味な静けさに包まれており、人の歩く足音さえ薄気味悪い雰囲気であった。 まずは、すでに病院内にいるであろうあきらに、自分達の到着を電話で知らせ、救急車の到着口付近で彼が出て来るのを待った。
あきらが現れるまでの時間は、ほんの2~3分程度であったが、友加里たちにしてみれば、そのわずかな時間さえ、もどかしく、不安を募らせるばかりであった。
「お~い!! 隆太!! 友加里!!」
隆太「あきら!! 愛莉は!? 愛莉は…!?」
友加里「愛莉…、、、もしかして、、、グスッ…、、、やだ。。。 やだやだやだ…、、、やだよぉーーー!!!! 愛莉ぃーーーーー!!」
あきらも本当は声を出して泣きたい気分だったが、グッとこらえて、状況を話した。
「二人とも落ち着けって。。。 俺は事故の時から、愛莉と一緒に救急車でここに来たんだ。 それで、すぐに愛莉の家族の人も駆けつけてきて、愛莉はいま、集中治療室にいるんだ。 俺も正直、今のところ愛莉がどうなるのか全然わかんないんだ…。ううっ…、、、グス…、、、と、、、とりあえず、治療室の前で待っていようよ。 一通りの処置が終われば、お医者さんから説明があるっていうから、待ってるんだよ。」
…隆太と友加里は、黙って頷いた。
集中治療室の前は、僅かな廊下の明かりが灯る程度で、不気味な静寂と、時折聞こえる機械の音が、ただただ彼らの不安を煽った。
もちろん、愛莉の両親も悄然とした表情で医師が出て来るのを待っていた。
…と、そこへ駆け足で訪れる二十歳前後の男性が…。
「愛莉は、、、愛莉はどうした!?」
愛莉の母「まだわからないの…。 さっきの話だと、少し危険な状態だっては聞いてたけど…」
「クソっ!! 愛莉!! 何で事故なんかに…!! バカヤロォ!!」
辺りに、絶望の空気が立ち込めた。 友加里は、その緊迫に耐えきれず、男性に声を掛けた。
「あの、、、私達、愛莉さんのクラスメイトで、同じ部活のメンバーでもあるんです。 あ、、、こちらは、この子、隆太のお姉さんで、この人の車で一緒に駆けつけました。」
「そうだったのか…。 みんなすまない…。 うちの妹がみんなに心配かけちゃって…」
みんな「えっ!? この人、愛莉のお兄さんだったの!?」
「まったく…!! 今日はたまたまこっちに帰って来て羽を伸ばしていたら、とんだ事態になっちまった!!」
…愛莉の兄は、普段は仙台で仕事をしているようだった。 今日はたまたま休暇を貰って帰省していたが、事故の一報を聞いて、仲間達と遊んでいたゲームセンターからここへ飛んで来たのだという。
…彼は、流美に向かって…
「あなたが、愛莉のお友達を運んで来てくれたんですね。 どうもありがとう。 何せそちらは交通が不便ですから、こんな時に車を持っている人って頼りにされますよね。 愛莉が…、妹が、良い友達を持っているようで、俺も嬉しいです。」
流美は顔を赤らめて…、、、「はあぁぁ…、、、どぉいたしましてぇ…。。。」
流美の瞳の中に、何か恋心のようなフィーリングが生まれた…その時、集中治療室の「治療中」のランプが消えた。
そして、部屋のドアが開くと、呼吸器を付けられて、身体の至る所に包帯を巻きつけられた愛莉がベッドに寝かされて、点滴の棒を持った看護師ら数名と共に、別な病室へと運ばれていった。
「ああ、、、愛莉!!!!」
咄嗟に駆け寄ったのはあきらであった。 しかし、愛莉が危険な状態であることをすぐに思い返し、ベッドに一歩近寄った程度で、後は彼女がエレベーターに乗せられるのを見届けるのみであった。
「クスン、、、クスン、、、ねぇ隆太ぁ…?? 愛莉…、死んじゃったの…?? ウソだよね?? 絶対、ウソだよね…??」
「グスッ、、、グスッ、、、そんなこと言うなよ!! まだ誰も死んだなんて言ってないし…。。。なぁ、あきら?」
「グッ、、、ウッ、、、…そうだよ。 愛莉は、、、愛莉は無敵だ。 不死身の女だって!!」
あきらの必死な強がりは、悲しみに暮れる皆を少し勇気づけてくれたようでもあった。
…やがて、主治医の先生から説明を受けることになった。 説明は愛莉の家族のみがその部屋に入ることとなり、隆太たちはそれが終わるのを待った。
そして、愛莉の両親と兄が部屋から出て来て、医師からの説明を簡潔に隆太たちに話した。
愛莉の父「みんな、心配かけて申し訳ないね。 先生の話だと、何とか、命に係わるような状況は避けられたそうだ。 いま愛莉は、麻酔の力で眠っているとのことだ。 少し深い傷だったが、治らない怪我ではないらしいから、順調に回復していけば、1か月ほどで普通に学校に通えるようになるだろうとのことだ。」
隆太「ほ、、、本当ですか!?」
友加里「ああ、、、愛莉…!!」
あきら「はぁ…、、、よかった。。。」
愛莉の母「まだ何日かは絶対安静だけど、意識が戻ったら愛莉に声をかけてあげてちょうだいね。 愛莉はいつも、みんなのことを大切なお友達だって話していたのよ。 今日もこうして雨の中駆けつけてくれて、本当にありがとうね。」
愛莉の兄「みんな、ほんとに、ありがとう!! 俺は万一の事態に備えて、一晩病院で過ごすけど、みんなは帰ってゆっくり休んでくれ。 もう真夜中だ。 気を付けて帰ってな!!」
一同「はいっ!!」
…帰りの流美の車は、あきらも加わって4人でのドライブとなった。 これが「愛莉の事故」という状況でなければ、色々な話に花が咲くところだろうが、流石に誰も、何も話せず無言のまま帰宅した。 唯一心の支えとなっていたのは、愛莉は命だけは助かったというところであった。
…それから数日。
新学期が始まり、隆太たちはいつも通り学校生活を再開した。 始業式での校長先生の挨拶では、まず、愛莉が交通事故に遭ったことが話され、生徒らは皆、神妙な面持ちでその話を聞いていた。
隆太たちの教室では、愛莉の席だけが空っぽの状態で新しい学期がスタートした。 隆太たちは淋しい表情をしていたが、最悪の場合、その席(机)の上に花が乗せられている様子もあり得たので、ひとまず、それはなく、愛莉は必ず戻って来ることを信じて、授業や部活に勤しんだ。
そしてさらに数日後、隆太、あきら、友加里の3人は、愛莉が話ができる状態まで回復したと聞き、病院へ見舞に行くことにした。
愛莉の母に教えられた病室の中には、まだ身動きがほとんど取れない状態の愛莉が、彼らの訪れをうっすらと笑みを浮かべて出迎えた。
「みんな…来てくれたんだね…。」
友加里「愛莉!! 愛莉ぃ!! うわぁーーーーん…!!」
隆太「グスン…、愛莉、、、大丈夫かい? 本当に、、、心配したよ…。。。」
あきら「愛莉!! 俺だよ!! あきらだよ!! わかるよな!?」
愛莉は、瞳に涙を浮かべて、少し低い声で彼らに話した。
「ありがとう、みんな…。。。 怪我自体は、少し時間はかかるけど治るって言われた。 …でも、、、でも…、、、ううっ…、、、うわぁぁぁぁーーーーーん…!!」
愛莉が突然泣き出した。 不安になった隆太たちは、その理由を尋ねた。
「あたし、今回の事故で、足に裂傷を負ったんだよ…。 それで、それが元通りになるまでは、何年もかかるんだって…。 その間は、水泳は一切できないんだって…。 治っても感染症にかかるとまずいからだって。。。 グスッ…、、、あたし、、、最近、やっと水泳上達してきて、あきらにも色々と泳ぎ方教わってきて…。 でも、もうあたし、オリンピック選手目指すっていう夢は、あきらめなきゃいけないみたい…。 グスン、、、うっ…うっ…、、、うわぁぁぁぁーーーーーん・・・・・・・・・・・・」
愛莉の涙は、たちまち枕をびしょ濡れにした。 愛莉にとって、ひとつの叶えたかった夢をあきらめねばならないという現実は、肉体の怪我以上に痛く、辛いものだったがゆえに…。
…あきらは、そっと愛莉の手を握ってこう話した。
「愛莉…。 悲観するなよ…。 その怪我だって、一生治らないわけじゃないんだし、時間はかかっても、いずれまた泳げるようになるんだろう? だったら俺、その時にまた、愛莉のコーチしてやるよ!! もちろん、何年でも待ってやるよ!! 愛莉!! 夢をあきらめる必要なんてないよ!! ちょっと時間がかかるってだけで、きっと愛莉の夢は、叶う時が来るよ!!」
隆太もすかさず声を掛けた。
「そうだよ愛莉!! 僕も愛莉の怪我が治ったら、水泳教えてあげるって!! 今は苦しいだろうけど、頑張って前に進めば大丈夫だよ!! 僕達はずっと愛莉の友達として、一緒なんだよ!!」
目を潤ませる愛莉。 そして友加里とも話をしたが、彼女には少し違った”お願い”があるようだった。
「友加里ぃ…。 実は、あんたじゃなきゃ頼めないことがあるんだよ…」
「えっ…!?な、、、何さ?」
「うん…。 実は、あたしの所属してる音楽バンドのスイチョコ(Sweet Chocolate Garden♪※7話参照)の定期演奏会、あとひと月先にあるんだよ…。 あたし、こんな体だから、演奏なんてできない…。 でも、メンバーに欠員が出ちゃうと、バンドのみんなはもちろん、あたし達の演奏を楽しみにしてるお客さん達にも迷惑かけちゃう…。だからお願い!! 友加里ってピアノとかドラムとかできるよね!! あたしの代わりに、あたしのパート代演してくれない?」
「ええっ…!? そ、、、そんなこと言われても…」
隆太「友加里! 友加里って作曲家目指してるんだし、楽器だって弾けるんだろ? だったら、あと一か月の間に練習すれば、愛莉のぶん、何とかできるんじゃね?」
友加里「簡単に言うなっての!! まだウチ、暗譜できないから、スコア(楽譜)見ないとピアノもギターも無理だし、バンド演奏ってなれば、他のメンバーと息が合わないと上手く曲が成立しないんだよ!! あと一か月あるって言ったって、練習できる日数なんてほんの何日かでしょう? ウチ、、、ただでさえ人前で演奏したことなんてほとんどないのに…。 ウチが下手な演奏したら、バンドに泥を塗ることになっちゃうよぉ…」
愛莉は、そっと友加里の手を握って、涙を溜めた瞳で彼女を見つめながらこう言った。
「お願い!!友加里なら大丈夫だって信じてるんだよ。 それに、あたしのバンドって、みんな基本素人なんだし、それを承知で演奏を披露してるんだよ。 もちろん、将来的には大きく活動したいって思ってるけど、今は1回の練習さえ惜しいような状態なの!! バンドのみんなも、わかってくれるはずだから。」
…友加里は、不安そうな表情で考え込んだが、やがて、愛莉の手を握り返し…
「うん。わかった!! 愛莉のぶん、ウチが引き受ける!!」
「ほ、本当!? …うわぁーーーーん、、、ありがとうーーー・・・・・・・・・。 じゃあ後で、リーダーの由真さんから、あたしの担当する曲のスコアを送ってもらうように連絡するから。 グスン、、、グスン、、、」
「あー、、、もうわかったから泣くなって。 ウチ、これも作曲家になるための大事なステップだと思って挑んでみるよ!! それより愛莉!! その頃には最低でも、演奏聴きに来れる程度には回復しててよね! 隆太やあきらも招待してもいいんだよね?」
「うん。いっぱい、いろんな人を招待してあげて。 そうだ! 以前お世話になった、隆太の親戚のお姉さんの涼子さんも誘ってあげて!!」
隆太「えっ…!? りょ、、、涼子さんを…!?」
「うん。。。 私達の音楽、一人でも多くの人に聴いてもらいたいんだ。。。 お願い。」
「わ…、わかった。 一応、話しておくよ…。」
…そろそろ面会時間が終わりそうだ。 隆太たちは「また来るからね」と別れの挨拶と共に、彼女の手を優しく握って、部屋を後にした。
愛莉は彼らの退室後、ほのかに残る手のひらのあたたかさに、みんなの笑顔を連想してしまい、一人でまた涙を流してしまったのだった…。
そんなお見舞いと、愛莉の復調への強い意志が奇跡を起こしたか、愛莉は予定より1週間も早く、退院の運びとなった。 しかしまだまだ油断は許されない状態なので、愛莉は相変わらず学校を休んで、車いすに乗って生活していた。 その間も隆太たちは、学校で勉強したことを、ノートを見せるなどして愛莉に教えていた。
そしていつしか、隆太たちが愛莉のもとから帰る際には、優しい握手をするのがお約束となっていた…。
月日は過ぎて、いよいよ今日は、スウィートショコラガーデンの定期演奏会の日となった。
友加里は、バンドの臨時メンバーとして参加するため、隆太やあきら達より先に会場入りした。 そして今回は、愛莉と、バンドメンバーらの計らいで、隆太の姉、流美と、隆太の彼女(仮)、涼子も招待された。
会場で隆太たちは、おめかしした流美や涼子の、大人の気品に少し酔い痴れていたところもあったが、ホールの中へ入ると、そこには兄に付き添われ、車いすに乗った愛莉がいて、彼女を見ると、今度は不思議な緊張感が漂ってきたのであった。
愛莉は、にこやかな表情で彼らを見つめて…
「みんな、、、本当にありがとう!! 私…本当に、嬉しいです!! うっ…うっ…うぇぇぇーーーん…」
愛莉の兄「おいおい愛莉泣くなよ!こんな時に! みんな見てるんだぜ!」
涼子「愛莉ちゃん! 大変だったわね…。 でも、今日は音楽という、苦しさに耐えて来たご褒美が待っているんだから、笑顔でね!(*^-^*)! 私も、こういう生演奏って実は初めてだから、とってもドキドキしてるんだよ♪」
流美は、ハンカチで愛莉の目を拭いながら… 「愛莉ちゃん。 退院できてよかったね。 今日はみんなで、楽しい演奏を満喫できればいいね。」
…愛莉にとって、とても優しい言葉の数々が胸に響き、開幕の瞬間、こらえきれずにまた大泣きしてしまった。
そして、友加里はエレクトーンを担当していた。 友加里は様々な楽器を一通りこなすことができるのだが、人前での発表は初めてなので、小さな演奏会といえども、心臓の動悸は抑えきれなかった。
そして、演奏が始まった。 ♪♪♪
友加里は、いささか緊張した指使いではあったものの、幼少の頃からピアノなどを習っていただけに、その腕前は確かなものだった。
よく知られた音楽から、少しコアな趣向の曲まで、様々な音色が観客(隆太たち)を魅了していた。
そして最後は、スイチョコオリジナルの音楽を演奏してお開きになるという。
由真「それでは、今日お越し頂きましたみなさんに、少しでも私達が勇気や元気を与えられますように…という想いで作詞、作曲いたしましたオリジナルソング”彼方なる未来へ”です。 どうぞお聴きください♪」
…実はこの曲、作詞は愛莉自身が行っており、ボーカルも彼女が担当する予定だった。 しかし、今回の事態を受けて、友加里がボーカルを代演することになり、彼女は自身の声を出すことに抵抗を感じつつも、愛莉の気持ちを考え、恥を押しのけて練習していたのだった。
♪ さあ 旅立とう 果てなき未来へ さあ 手に入れよう 夢と希望を ♪
♪ 何があるかわからない 謎めいた 不思議な世界 ♪
♪ 見つけようよ素晴らしい そう 出会い 願い 大切な友 ♪
♪ 未来は待っている 君の訪れをね 躊躇っちゃいられない どこまでも歩こう ♪
♪ So, Good luck to you!! ♪
…ここまで聴いた愛莉は、曲の間奏が流れている時、突然車いすをステージ側へ押して、マイクに手を伸ばした。
「お願い! 2番は私も一緒に歌いたい!!」
…友加里は、その言葉に対し、笑顔のウインクで返事をした。
♪ さあ 出掛けよう 空よりも遠く さあ 掛け出そう 恐れることなく ♪
♪ 青い空を果てしなく 飛んでいこう 勇気を胸に ♪
♪ 君とだったら大丈夫 そう 嵐 吹雪 何も怖くない ♪
♪ みんなが願ってる 未来を願ってる この手でつかみましょう 笑顔で抱き合おう ♪
♪ So, We have a dream ♪
パチパチパチパチパチ・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!
…最後は、拍手喝采の中、定期演奏会は幕を下ろした。
メンバーは勿論、観客として聴いていた隆太たち、そして愛莉も、音楽の大きな感動を持て余さんばかりに感激していた。
やがて友加里がステージから降りて来て、愛莉に声をかけた。
「どうだったかなぁ?? ウチ、初めてだったんだけど…?」
愛莉「とってもよかったよ~♪ 本当にありがとう!! できれば、あたし達のバンドに正式に加わってほしいなぁ~」
「えっ…、、、それはちょっと…www」
その会話に、バンドのリーダー、由真が入り込み…
「友加里ちゃん、すっごくいい音楽の素質持ってるわぁ。 さすが、将来作曲家目指してるってだけあるよ!! アタシからもお願い!! ホントに、愛莉と一緒にバンドのメンバーになってよ!! アタシも、ベース担当の麻衣子も、音大通ってるから、友加里ちゃんに色々な音楽の知識も教えられると思うんだ。」
…友加里は、その言葉に対し、喜んで賛成の意思を表明した。
そして、学校の木々も紅葉する頃には、愛莉も学校に通う姿が見られるようになっていた。 まだ足を不自由そうに引き摺っている様子だが、隆太たちが彼女を手厚くサポートしながら、お互いに楽しい2学期を過ごしていった…。
愛莉は時々、授業のさなかにぼんやり手を眺めていることがあり、時折先生に叱責を受けていることもあったが、彼女の手には、隆太、あきら、友加里たちに握りしめられた暖かさが、まだしっかりと残っているので、ついそれを思い出しては、友達の有り難さを実感しているのであった。
「ありがとう!!みんな…!!」
-つづく-




