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俺が幼馴染みに……




 深刻な寝不足だ。頭がくらくらする。できれば再びベッドにダイブして惰眠をむさぼりたい。しかしあいにく今日は平日、学校に行かねばならない。

 なぜこんなに眠いのかといえば、それはもちろん昨夜『七人の幼馴染み』をプレイしまくったからだ。

 あけみ、みゆき、かのこ、しずね、さなえ、ちほ、りか姉、まなか、二次元の幼馴染みたちとそれはもうとびっきりスイートなイベントをこなして脳味噌がとろけそうなほどいちゃいちゃしました。えぇもうほんとよだれが垂れそうでしたよ。垂れそうというか、垂らしたよ。ドバドバしとどに垂らしたよ。客観的に見たら超キモイとわかっていても止められなかった。二次元の幼馴染みたちへの愛が止められなかった。ついでによだれも止められなかった。もう病気だな、これ。やっぱ二次元の幼馴染みはサイコーだぜ。

 そんな愛するヒロイン達との一時の別れを惜しみつつ、俺は学校という孤独な世界に旅立たねばならない。みんな、帰ってきたらまたたっぷりプレイしてあげるからね。

 二次元の幼馴染みたちへの愛情を胸にしまいながら、玄関の扉をあけて朝日が差す家の前に出る。

 まぶしさに片目をすがめると、


「げっ……」


 という声が聞こえた。

 声がした方向に目をやると、三次元の幼馴染みが面食らって立っていた。

 イベントをこなしてフラグを回収したら、さぁ攻略ルートにレッツゴーだ!

 ……というのは二次元の幼馴染みだけであって、三次元の幼馴染みはそうはいかない。

 相変わらず俺らは、学校では一言も口を利かない関係だ。あれから一度もゲームで遊んでないし、家の前で顔を合わせたらこのように「げっ」って言うしね。

 気まずさはぬぐえず、微妙な距離感のままだ。

 わかってました。えぇわかってましたとも。どうせこんなもんだよ、三次元の幼馴染みなんて。現実はどこまでいってもクソゲーのままだ。

 俺は勘違いしない。ちょっと親しげに話しをしたからって、コロッといくようなちょろい男じゃないぜ。ちゃんと二次元と三次元の違いをわきまえている。

 だから期待なんてしない。期待せずに、今日も一人で学校に行く。

 さっと背中を向けて、凛子とは逆方向の道に足を進める。


「……おはよう」


 足が凍りつく。

 背後から、小さな声がした。

 いま……挨拶してこなかったか? 

 いやいや、でもまさかそんなはずは……。

 こわごわと振り返ってみると……そこには耳を赤らめた凛子が立っていた。

 見ている。俺をジーッと見ている。なにかを求めるように、つぶらな瞳は俺をとらえてはなさない。

 さっきのが空耳でなく、本当に朝の挨拶だったとしたら、返す言葉は一つしかない。


「……おはよ」


 凛子に負けず劣らず、俺も小さな声でぶっきらぼうに挨拶をする。


「うん……おはよう」


 凛子は顔をうつむける。前髪がたれて表情が見えなくなる。けどその唇はちょっとだけ笑っていた。


「えっと、じゃあ」


 ひらりとスカートをなびかせて、凛子はきびすを返した。俺とは反対方向の道を通って学校に向かっていく。

 一緒に登校するというイベントは発生しなかった。というか朝の挨拶をした直後に別れるってどういうことなの?

 いや、それよりも問題なのは挨拶をしてくれた凛子をかわいいと思ってしまったことだ。そりゃあ凛子はかわいい。これまでだって何度もかわいいと思ってきた。けど、このかわいいは……これまでのかわいいとは何かが決定的に違う。

 こんなにも胸が熱くなるのはおかしい。勘違いしないって自戒したばかりじゃないか。一体どうしちまったんだ。

 俺は二次元の幼馴染みを愛している。彼女達さえいれば他には何もいらない。

 だからこんなこと、あっていいはずがない。

 俺が三次元の幼馴染みに、凛子にほれるなんて、そんなことあっていいはずがない。

 どうかこれこそ、なにかの勘違いであってほしい。

 そう祈るものの、いつまでたっても、胸の高鳴りは静まりそうになかった。


                                   




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