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 どうしてこうなってしまっているのだろうか。

 私は今リッチェル様と馬車に乗り、失礼なあの(ひと)の舞踏会に向かっているのです。

 何故、という思いがぐるぐると渦巻き大きくなっていく。

 それを止める為にどうしてこうなってしまったのか回想する事にしましょう。


 あれはあの舞踏会から二日経った日に来客の報らせが入り、応接間へ向かいました。

 そこに居たのはローヴェル様でした。

 会いたくなかった相手に強張るのを何とか抑え、いつものように笑顔で挨拶をしました。

 するととても辛そうな、苦しそうな顔をされました。

 そんなの私がしたいわよ。

 どうしたらいいのか分からなくて、立ったままだというのに気がついてローヴェル様を座らせてから私も座りました。

 使用人がお茶を入れて出て行ってからローヴェル様は口を開きました。

「すまなかった。君に暴言を吐いてしまって。」

 突然の謝罪に驚愕してしまい、頭が真っ白になりました。

「しかし君はどうして自分を偽る。」

 思わず固まってしまった。

 出会ったばかりのこの人に気づかれた事がショックでした。

 どうして、完璧だったはずです。今まで培ってきた自信とプライドが崩れていく音が聞こえました。

 それでも十五年生きてきた()は微笑み続けていました。

「何故感情を隠そうとする?どうして頑なに偽ろうとするんだ。」

 答えれません。どれだけ顔色が悪くても微笑み続ける私に手を近づけてきた時、ドアが乱暴に開かれる音がして、振り向きました。

「リッチェル…様…?」

 どうしてリッチェル様が家に居るのだろうか。そして何故肩を怒らせていられるのか…。

 執事のデニスが慌てて来た。どうやらリッチェル様は許可を得ないままこの部屋に入って来たようです。

「あらローヴェル・アークチュアリー様?貴方も侯爵家なんですから分かるでしょう。自分と家を守る為に本音と建前を使う事は当然の事でしてよ。」

 ましてはか弱い女の身ですから。

 そう続けて挑むように胸を反らして微笑んだ。

 リッチェル様が庇って下さったのは理解しました。ですが、私の秘密がばれてしまったのです。

 もう先が真っ暗になりました。

 これからどう生きていけばいいのか分かりませんでした。

 もう死んで楽になりたい。

 疲れました。

 その時、体を揺すられ目の前に焦点を合わせると心配している二人の顔が見えました。

「どう…しましたか。」

 なんとかそれだけを口にした。

「どうしましたかじゃないわ!今にも死にそうな顔をしてましたのよ。」

 そんなに顔に出ていたのでしょうか。

 どうしましょう。もう()は駄目なようです。

 これからまた新しい()は作れそうにありません。

 家族には申し訳ありませんが自殺しましょう。

 出来るだけ痛いのも苦しいのも遠慮したいですが、もうどうしようもありません。

 どうせ死んだら痛みも苦しみも無くなるはずです。少しくらい我慢しましょう。

 問題は方法です。

 飛び降りるか毒を飲むか。後は何があるのでしょうか。

 嗚呼、絞首もありましたね。

 ただ、家族に迷惑を掛けないようにしなければ。

 自殺する事が迷惑を掛けてしまうのですけど、そればかりは譲れません。

 自殺方法を考えている私にローヴェル様は招待状を手渡してきました。

「一週間後、舞踏会に来て欲しい。」

 どうしてこのタイミングなの。それに急いで準備しても間に合わないじゃない。

「女性には色々準備がございますのよ?そんな短い期間で間に合いませんわ!」

 非常識です。とリッチェル様が私の代わりに糾弾して下さる。

「安心しろ一式持って来ている。」

 その言葉に呆けてしまう。

 周りに目をやっていなかった為に気がつかなかった。広いテーブルの端に高級そうな桐の箱がいくつも乗っている。

 これじゃあ死ねないじゃない。

 ハッと我に返った。

 この(ひと)に私の思考がバレている疑惑が浮上する。

 そんな訳無いはずよ。

 でも一旦思いつくと思考の端にちらつく。

「な、ドレスはまだ針子に調整して貰えばいいですけど、靴は無理ですわ!」

「その為に靴職人を連れて来た。」

 リッチェル様が絶句している。

 何故ここまでするのか分からなくて思考放棄してしまいました。

 理解してはいけない気がします。

 そこでリッチェル様は意地になられたのでしょうか。リッチェル様も行くと言うのです。

「安心なさい。私にはスペアがいくつもありますの。」

 という事は使用していないドレスや靴が余っているのでしょう。

 彼女の領地は腕の良い職人と商人が多くいらっしゃるという事もあるのだと思います。

 私の領地はワインが特産品です。その為、葡萄畑が多くあるのです。

 ワインと商人、その関係でフランゾール家とは親しくしているのです。

 靴職人は足を測ると急いで帰ってしまいました。急がないと間に合わないのです。


 嵐のようにリッチェル様とローヴェル様は帰っていき、両親は使用人から話しを聞いたのか根掘り葉掘り聞かれて参りました。

 回想はリッチェル様が話し掛けてきた事によりここまでにしましょう。

「御免なさいね、ここまで付いて来てしまって。」

「いえ、来て下さって心強いです。」

 これは本心です。仮面が剥がれてしまった私はたまに本来の自分が出てきてしまうようになってしまいました。

 早く新しい仮面を作りたかったのですが、忙しくてその暇がありませんでした。

 死にたいのに、そうはさせないとばかりに厄介事が目につくようになってしまいました。

 綺麗に清算してからと考えていました。しかし、今回の事を終わらせたら死にましょう。

 キリがないのです。ですから継接ぎの仮面で臨みましょう。



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