四次元の殺人現場の概要
「つまりお前は、死体が消えたと言いたいわけだな」私は親指を櫻葉に向けた。
「確かにあったんですよ!さっきまで!」櫻葉は両手をバタバタさせている。見ていて鬱陶しい。
「死体を見たのは何分前ですか?」詩音さんがメモ帳を右手に、ペンを左手に持ち櫻葉に質問する。
「ほんの二、三分前ですよ!よく見えませんでしたけど、紐か何かで首を絞められて倒れてたんです!」
「それなら聞けばいいじゃないか」私は躊躇無く、幽霊屋敷のインターフォンを押した。
「な、何してるんですか!?」櫻葉が私の腕を掴んだ。
「何って、インターフォンを押したんだよ。プッシュだ。プッシュ。私の助手はプッシュも分からない馬鹿なのか?」
「そう言う事じゃなくて…」櫻葉が言いかけたところで、幽霊屋敷のドアが開いた。
「何か御用でしょうか?」出てきたのは、見た目、三十代位の正に主婦といった外見の女だった。
「あぁ、失礼しました。私、こういう者です」私は内ポケットから名刺を取り出し、渡した。「探偵の真実常一です」
「あ、どうも。私は紐田縄子と申します」紐田さんは丁寧にお辞儀をし、私の目を見た。「それで、探偵さんが何の用でしょうか?」
「いやぁ、それがですね。私の助手が、あの部屋に人が倒れてたって言うんですよ」私は櫻葉が死体を見たという部屋を指さした。「ちょっと、あの部屋を見せてもらってもよろしいでしょうか?」
「真実さん!ちょっと!」櫻葉が割り込んできた。
「えぇ、いいですよ」紐田さんが強い口調で、声を出した。「死体なんて、ありませんよ?」紐田さんが、口元を緩めた気がした。
「誰もいないどころか、何も無いですね」私達は、紐田さんの後をついて行き、櫻葉が死体を見たという部屋に連れてってもらった。
「詩音さん、どう思いますか?」櫻葉が詩音さんの方を向く。
「見間違いだったんじゃないでしょうか?」詩音さんが丁寧な口調で、言った。
「それにしても、良い家ですね」私は紐田さんを見ながら言った。
「有難うございます。この家、実は江戸時代に建てられたんですよ」紐田さんが笑いながら言った。
「江戸時代?凄いですね」櫻葉が食いつく。
「江戸時代の大工、雲光亭珍洸という方が、建てたんです。」
「ウンコウテイチンコウですか」誰だ。
「ところで、奥さんは一人暮らしなんですか?」詩音さんが聞く。
「あ、いえ、夫がいるんですが、ちょっと、今は、いない、で、すね」
「どうも、失礼しました」櫻葉が頭を下げた。
「お仕事、頑張ってくださいね」紐田さんが笑いながら、ドアを閉めた。
「やっぱり、見間違いだったんでしょうか?」櫻葉が私と詩音さんの方を向いた。
「いや、ありゃ怪しいな」
「夫の事を聞かれた時、動揺していましたもんね」詩音さんに同意された。嬉しい。
「でも、死体はありませんでしたよ?」櫻葉が首を傾げた。
「あの部屋、壁に擦り傷のようなものがあった」
「擦り傷、ですか?」櫻葉が手を顎につける。
「雲光亭珍洸、か」変な名前だ。




