光の向こうへ
リュカが、栞の前へ来た。
栞は鞄の内袋を少し開き、紙に包んだ葉を見せた。
「まだ、匂いします」
「手で包むと、少し戻りますよ」
「うん。覚えてる」
リュカは頷いた。葉を確かめるために手を伸ばすことはせず、栞がしまうのを待った。
「もっと、本を一緒に読みたかったです」
「私も」
栞はリュカを見上げた。
「でも、猫の足、忘れないと思う」
「あれは抜けませんからね」
栞が笑った。リュカも笑い、半歩下がった。
ダリアは草の飾りへ目をやった。
「ほどけてないな」
「結び方、よかったので」
「そりゃよかった」
栞の目が左腕へ移ると、ダリアは肘を曲げ、掌を開いてみせた。袖の下に、細い傷の跡が見えた。
「動くよ」
栞は頷いた。
「一緒に走れて、楽しかったです」
「あたしも。転んだところまで覚えてなくていいからな」
「たぶん、そこも覚えてる」
ダリアは短く笑い、手を下ろした。
ミナは栞の鞄の前で、一度だけ手を止めた。触る代わりに、指を合わせて充電具の留め金を閉じる形を作る。
「切ってあります」
栞が先に答えた。
「線も、別にしました」
ミナは頷いた。言いかけたことが済んでしまったように、口を閉じる。
栞が袖口へ手をやった。そこにはもう花の留め具がない。鞄の小袋を押さえ直し、ミナを見た。
「いっぱい、ありがとう」
「はい」
ミナは小さく答え、前掛けへ両手を置いた。
「……寂しくなります」
栞は唇を結び、それから頷いた。
「私も、寂しいです」
ミナが顔を上げた。栞はもう一度頷き、鞄を持ち直した。
俺は道を空けた場所にいた。
栞がこちらへ向き直る。ローファーのつま先は、光へ向いている。
「レオンさん」
「はい」
栞はしばらく俺を見ていた。何かを言いかけ、言葉を探すように息を吸った。
「お世話に、なりました」
俺は頭を下げた。
栞も頭を下げ、顔を上げると光を見た。
鞄は胸の前にない。持ち手を片手で握り、体の脇へ下げていた。外側の木の鳥が、草の飾りに触れて止まる。
栞は一歩進んだ。
靴のつま先が光へ入り、膝の下まで白くなった。制服の裾が揺れ、次の一歩で鞄の下半分も見えなくなる。
栞が一度、こちらを振り返った。
「行ってきます」
俺はその顔を見た。
「いってらっしゃい」
栞は光のほうへ向き直った。
持ち手を握った手が白くなり、制服の肩を光が覆った。髪の輪郭が薄れていく。
最後に残った横顔が光に溶け、栞の姿が俺の目の前から消えた。




