事前面談
「この度は出資をご検討いただき誠にありがとうございます」
白いスーツ姿の男が、歩きながらそう言った。
白い壁、白い床の、白い廊下。大きな窓からは白い光が燦々と注がれている。
普通なら違和感しかない男の白スーツも、この空間ではごく自然に見える。丁寧に撫で付けた髪と細身の手足、穏やかな笑顔からは、ヤクザの様な野蛮さは微塵も感じられない。
むしろ――。
「すみません、こんな格好で……。会社辞めてスーツを捨てたら、家にまともな服が残ってなくて」
こんな清廉潔白な空間で、ジャージにジーパン姿の自分の方が何倍も不自然に思えた。
野崎 柊平がバツが悪そうにそう言うと、男はにこやかに答えた。
「ご心配には及びませんよ。これからお会いになるご支援先も私服でいらしてると思いますので」
当然だ。だって相手は子供なんだし。
男は一つの会議室の前で立ち止まると、野崎に目配せをした。それから落ち着いた所作でノックを3回。
「南様、野崎様がお見えになりました」
「はい、どうぞ……」
中から、あどけなさの残る声が返ってくる。
男が扉を開けると、中学生くらいの男の子が緊張した面持ちで会議椅子に座っていた。
少年は野崎の顔を見るとサッと立ち上がり、たどたどしくお辞儀をした。
「野崎様、こちらがご支援先の南 晴人さんです」
「南です……よろしくお願いします」
「あ……よろしくお願いします……。野崎柊平といいます」
大人らしい余裕を見せることができず、少し恥ずかしい気持ちになる。
野崎は上座に通され、促されるまま南の向かいの席に腰掛けた。南も元いた席に座り、南の隣の、入り口に一番近い席には白スーツの男が座った。
「えっと……すみません、南くんの親御さんは……」
「ああ。南様のお母様は本日お見えになることが出来ず……委任状をお預かりしております。
少々イレギュラーではございますか、我々『歳月銀行』がしっかりと仲立ちいたしますのでご安心を」
白スーツの男――歳月銀行の行員は、落ち着いた様子でそう説明し、A4の白い封筒を野崎に寄越した。封筒には何枚もの書類、冊子などが入っていてずっしりと重い。
「ご出資の手続きの書類と、ご出資中の流れや規定についてまとめた冊子でございます。
本日の面談の後、双方の合意が取れましたら、野崎様には正式にご出資を開始いただくことになります」
行員が慣れた様子で必要な説明を進めていく。
日月発育不全症の概要や、未成年者に対しての歳月の出資に関する法的な規定、出資中の定期面会の義務、想定されるリスクなど……。
この辺りのことについては、事前の説明会で嫌というほど聞かされた。今は決められた段取りの中で軽く触れているだけだ。
「途中解約も可能でございますが、野崎様には、ぜひ3年の満了時までご出資いただければと」
「はぁ……。それはまぁ、新しく出資者を探すのも大変でしょうし」
行員は口角を上げたまま、少しの間、野崎の顔を見据えた。
対照的に、隣に座る南は気まずそうな表情で、ちらちらと行員の様子を伺っている。
「南様は現在15歳……4月からは高校に進学されます。ご出資が途切れてしまえば、その間は休学となり、ご学友との交流も難しくなるでしょう。
どうか野崎様には、彼の青春を支えていただきたいのです」
その後も面談は続き、野崎は正式に『南 晴人』への出資を決めた。
野崎が出資するのは金では無い。
――『歳月』。赤の他人の少年に、自身が生きた時間を投じる。




