表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毒味の下女は、素顔を隠して毒を喰らう  作者: 夜空
黄金の繭(まゆ)と蛇の晩餐会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/32

東の宮、毒のフルコース

東の宮――そこは、黄金の装飾に彩られながらも、どこか墓所のような冷気が漂う場所だった。

卓の向こうに座る王太后は、老いを感じさせない鋭い眼光で、瑠璃色の衣を纏った私を値踏みするように見つめている。


「……其方が、叡明の飼っている小鳥か。陛下を救ったという知恵、見せてもらおうか」


王太后の合図で、次々と料理が運ばれてくる。

どれも後宮最高峰の贅を尽くした逸品。だが、私の鼻はその「死の香り」を逃さない。


「さあ、毒味役。毒味をせよ。……一口でも残せば、不敬罪で即刻打ち首だ」


周囲の女官たちが、冷笑を浮かべて私を見守る。

私は、運ばれてきた『白身魚の翡翠蒸し』をじっと見つめた。


(あぁ……。これ、『ちんの羽』を酒に浸して、その雫をタレに混ぜたわね。内臓が焼け付くような熱毒。……でも、この蒸し方なら中和されずに純度が保たれている。……最高じゃない)


私は、迷うことなく匙を手に取り、その一切れを口に運んだ。

刹那、喉から胃にかけて火を呑んだような激痛が走り、心臓が爆ぜるように鳴り響く。


「…………っ」

私は耐えきれず、ガクンと卓に突っ伏した。


王太后が、満足げに目を細めた。

「……死んだか。案外、呆気ないものだ」


だが。

私は、震える指先を卓について、ゆっくりと、しかし確実に顔を上げた。

私の頬は、毒の影響で微かに上気し、瞳は異常なほどに潤んで輝いている。


「…………美味しい」


「……何?」


「王太后様。この鴆の毒、わざわざ南方の密林から取り寄せたものでしょう? 非常に鮮度がよく、喉を通る時のこのピリリとした刺激……。脳が痺れるような、素晴らしい食感です」


私は、残りの魚をさらに一口、幸せそうに頬張った。


「ですが、一つだけ残念なことが。……このタレ、少し塩気が足りませんわ。毒の苦味を立たせようとしたのでしょうが、そのせいで魚本来の甘みが死んでしまっています。……あと、隠し味に干した梅肉を加えれば、毒のキレがもっと良くなったのに。……実にもったいない」


東の宮の空気が、凍りついた。

絶命するはずの娘が、毒の「味の感想」を、あろうことか「不備」として指摘し始めたのだ。


あの冷酷な王太后が、恐怖と混乱で声を荒らげた。


「……其方、正気か!? それは人を五人殺せる猛毒なのだぞ!」


「ええ、分かっています。ですから、今、私の心臓は通常の三倍の速さで動いています。……あぁ、この高揚感、癖になりそう。……王太后様、次のお皿は何ですか? 期待を裏切らないでくださいね」


私は、地味な下女の面影など微塵もない、不敵で、狂気すら感じさせる笑みを王太后に向けた。

 

王太后の手元が、微かに震えた。

力で、恐怖で人を支配してきた彼女にとって、死を「快楽」と「味覚」に変換してしまう私は、理解不能な「バケモノ」に映ったに違いない。


その時、廊下の向こうから、激しい足音が響いた。


「――凛花!!」


扉を蹴破らんばかりに現れたのは、顔を真っ青にした叡明様だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ