ステージ(F)
ここはどこだろう?
上下の間隔がない
たとえるのなら、深く深く海のそこで漂っている感じか
もう、ずっと長いことこのままな気がする
時間の概念を忘れた
彷徨い、彷徨い、彷徨い続ける
いつになったら、終わりが訪れる?
いいや、始まりが訪れるのか?
それすらもわからない
――――あれ?
久しい感覚
この桜のような風
新雪に鮮血が染まったような、鮮やかな紅色
彼女だ
ボクの意識の先に――――イッちゃんがいる
彼女もまた、宙を漂っている
ボクという存在の輪郭は定まっていない
だが、こんなところで茫然としていられるものか
もう二度とあんな思いはしたくない
今度こそ、この手で掴み取るんだ
彼女に向かって、腕を伸ばす
指の先までピンと張る
あと、もう少し
ほんのわずか、手を伸ばせば彼女に届く
届えェェエエエエエエエエエエエッッ‼
ふわりっ
優しい風が、ボクと彼女を引き裂いた
離れる。もう絶対に届かない
ダメだ、こんなところで諦めてたまるものか
誓ったのだ
生まれ変わった『僕』は、必ず君を守り抜くから
もう一度、一度『ボク』に君の笑顔を見せてください
彼女の赤い血で涙を流しながら
そう、誓ったから
――――行けよ
肩に、何かが乗った
固くて温かい、何か
手だ
それも、白くてひび割れている、美しい手だった
何者かを確認しようとして、
とんっ
背中を押された
拡がりゆくはずだったボクと彼女との距離が縮まる
最期のチャンスが訪れた
これを逃しては、本当に、終わりだろう
コ:――――ッ
口を結び
腹に力を込める
もう一度、この手を伸ばす
気づけばボクの手に、ちょっとしたひびが入っていた
きっとこれは――――
勇気が湧いた
力がみなぎる
今度こそは、必ず
コ:おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――ッ‼‼
時の流れ
空間の歪み
すべてを乗り越え
そして、
たしかに、掴んだ
必死になって彼女を抱き寄せる
コ:……イッちゃん
イ:…………っ
胸の中で眠る彼女は、それはそれは安らかに眠っていた
桜色だった髪は紅色に変わっている
自身の血で染まってしまったのだろう
だが、それでも
彼女は変わらず――――
永久に続くと思われた意識が、徐々に白く濁り始めた
もうすぐ目覚めの時だ
これで本当の本当に――――この言葉を伝える最期の機会だ
コ:――――っ
息を吸って、そして、
微笑んだ
この言葉は、取っておくとしよう
ボクたちなら、大丈夫だ
いずれまた、出会えるはず
だから、
コ:またね、イッちゃん
次の『僕』に告げる
『ボク』の愛した彼女を、頼んだよ
光に満ち溢れる
そうして、
そうして……、
そうして……――――――――、
――――広大な黄金色の海が広がった
失われた・命から――――次なる・命へ




