ステージ4(A)
ミミの自宅
家具などもすべて氷からできている
ミ:もう傷は大丈夫なのかい?
コ:はい、イッちゃんのおかげで。多少関節が痛みますけど……
ミ:それはよかった。さすがは天使だ
イ:いえいえ、そんな……
コ:それにしても、すごいですね。全部氷でできてるなんて信じられません。溶けたりしないんですか?
ミ:この地域一帯にひろがる氷にはエネルギーが込められてるんだ。私たちにはそれを加工できる技術がある
レ:順応ってやつか
ミ:そういうことだな。この氷のおかげで私たちも人を殺さずに腹を満たすことができる
イ:もしかして……それが氷輝?
ミ:そういうことだ
ミミの手の中で淡い輝きを放つ氷
まるで虹色の水晶のようだ
コ:思い出した! それイッちゃんが眠ってたところにあったやつ!
イ:そういえば……
ミ:へえ。ここ以外にも氷輝が分布してるんだね
イ:珍しいんですね、やっぱり……
コ:だからあいつらも欲しがってたのかな?
ミ:それもある。だが、真なる理由は氷輝に秘められたエネルギーだ
コ:エネルギー……
ミ:私たち獣人と同様、普通のニンゲンもエネルギーを欲する。生きるためには必要不可欠だ。だが、そのエネルギーは『冒険者』から摂取するのがほとんどだ
イ:自然からじゃダメなの?
ミ:生活に必要な量が圧倒的に不足するんだ。だから基本的には『冒険者』から摂取するしかない
コ:あのさ……そもそも『冒険者』って、普通の人とは何が違うの?
ミ:詳しいことは公示されちゃいないが、要はこの世界とは『別の世界』から迷い込んだ存在らしい
コ:別の、世界……?
ミ:それが何なのか、誰もよくわかっちゃいない。だが、『冒険者』ってのが私たちには生み出せないエネルギーを持っていて、それを拝借して私たちは生きている。昔から、そうやってニンゲンは繁栄を続けてきた
コ:む、難しい……
ミ:深く考えるもんじゃない。要するに、私たち獣人だけじゃなく普通のニンゲンにとっても『冒険者』の存在は必要不可欠ってことさ
コ:必要って……でも、他の村の人たちが『冒険者』を食べるって話は聞いたことないんだけど
ミ:だとしたら、この世界はみな『獣人』扱いだろうよ。やつらはエネルギーを奪い取るため専用のシステムを構築しているらしい。王政公認のな
コ:王政……なんだか話が複雑になってきた
ミ:気持ちはわかる。まあ簡潔にいえば、『冒険者』には黙ったままでこっそりエネルギーを拝借するんだよ
コ:じゃあ『冒険者』と普通の人って、仲がいいってわけじゃないんだね
ミ:一般的にはな
イ:一般的には……あ、もしかして!
ミ:そう、ウオとあの村のやつらは違う。なぜなら共通の敵がいるからだ
イ:ミミさんたち、獣人の村……
ミ:そういうことだ
イ:そんなのおかしいよっ。ミミさんたちは好きで獣人になったわけじゃないのに、ちょっと人とは違うからって目の敵にして
ミ:私たちには氷輝もあるからな。それさえ手に入れば村人にとって『冒険者』からエネルギーを盗む必要もない。格好の的なんだよ
イ:なんで、そんな……ミミさんたちばかり
ミ:ありがとう。けれどね、私たちに罪がないかと言われれば決してそうじゃないんだよ
イ:違います! ミミさんたちに罪なんて
ミ:人を殺した
イ:――――え?
ミ:殺したんだよ。やつらの村人を、うちの村の獣人が
イ:あ、え…………
ミ:クマネズミのネズってやつでね、食いしん坊の女だった。あいつも殺したくて殺したんじゃないよ。氷輝があるとはいえど、腹は減るもんだ。タイミングが悪かったんだろうね、ちょうど腹を空かしてる時に隣の村のニンゲンと出くわした
コ:それで……
ミ:ああ、あっさり殺しちまったらしい
イ:…………
ミ:まあ――――ネズも殺されちまったんだけどね
コ:……どういう、こと?
ミ:簡単な話さ。ネズが食った相手の友人が『冒険者』のウオだった
コ:友達を殺されたから、復讐した……?
ミ:『冒険者』ってのは鍛えれば鍛えるほど強くなるらしい。ウオも相当な力の持ち主なんだろうよ。ネズの遺体に面影が残らないくらいにはね
コ:どうして……どうしてそんなことにッ!
イ:…………ミミさんは
ミ:ん?
イ:ミミさんはどうしたんですか? ネズさんが殺されて……黙ってたんですか?
ミ:そりゃあ私だって黙ってなかったさ。隣の村とは一触即発の状態。しかも『冒険者』であるウオさえ殺せれば私たちの勝利だ。こんなに優位な争いがあると思うかい?
イ:でも、そんなことをしたら誰かの憎しみを増やすだけじゃないですかっ。隣の村の人も、獣人の人たちだって何人も死ぬ。誰も、救われない
ミ:そうだね。そうやってあの時も反対した獣人がいた。名はアイス
イ:――――え?
ミ:あんたがつけている、その髪飾りを作った私の娘だよ
イ:アイス……ちゃん
コ:ボクたちが初めて救った獣人の女の子だよね
イ:うん、忘れるはずないよ。そっか、アイスちゃんはこの村の出身なんだ
ミ:そうさ。この世界を見て回りたいなんていい出した変な子でね、私もずいぶん手を焼いたものさ
イ:アイスちゃんらしい、ね
ミ:私たちが隣の村へ殴り込む前日にね、旅から戻ってきたんだ。あの子の力もすごいから、こりゃ百人力だと思って事情を説明したのさ
コ:たしかにあの吹雪はすごかった……
ミ:でもね、あの子ったら「そんなこと絶対しちゃだめ」って反対したんだよ。……あんな顔、初めて見た。しかも村中の人たちのところを回って、話し合って、説得して。ほんとに見間違えた
イ:……アイスちゃん
ミ:あの子の説得があったおかげか、隣の村と争う計画はなくった。むしろその逆で共生出来る方法はないのかを議論し合ったものさ
イ:アイスちゃんの意思がみんなを変えて、未来を変えたんだ
コ:アイスちゃんのおかげで今があるんだね
ミ:でも、あの子も殺された
イ:――――――――
今度こそ、言葉を失う二人
ミミの瞳も、どこかおぼろげだ
ミ:それだけ向こうの憎しみが強かったんだろうね。いや、憎しみだけじゃないと思う。いつ襲われるかわからない恐怖、不安。猜疑心。そういうものが膨らんでたんだと思う。あの子は話し合いに行ったきり戻ってこなかった
イ:ひどい……ひどすぎるよ……っ
コ:――――ッ
コクメの胸の内にうずまく、感情
それはまるで――――
レ:おいコクメ
コ:……えっ?
レ:お前、えらくひどい顔をしてるぞ。シュリンが怖がってる
コ:ご、ごめん。大丈夫だからねシュリンくん
シ:……う、うん
ミ:あなたたちが優しいおかげで、あの子もきっと変われたんだろうね
コ:ミミさん……どうしてそうも平然としていられるんですか? 自分の娘が殺されて、村の仲間も圧迫されているのに、どうして!
ミ:それがあの子の意思だからだよ
コ:――――っ
ミ:これで殺しをしたら、それこそ隣の村のやつらと同じだろう。そうじゃない。私たちはあの子からそれを教えてもらったから
コ:……だから、感情を押し殺して条約を結んだ
ミ:一定の周期で氷輝を譲る。それも私たちの生活に支障が出ないよう調整をほどこして。誰も死なない、幸せの約束だ
コ:ミミさん……それでもボクは……っ
ミ:大丈夫、あの子が命を賭してまで結んだ約束なんだ。私は絶えられる
コ:……
ミ:それにこんなの……食欲を我慢することと比べれば大したことないさ
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