No.374
No.374 【幕間】そのきゅう 『桃の花の芽吹き』
「でりゃぁああああ!」
「ウモッ! ウモッ!」
朱に髪を染め上げた少女が人形のような体躯を持つ牛の賢獣に拳を震い、蹴りを繰り出す。
牛の賢獣はそれを難なく受け流して捌いていく。
少女はそれが気にくわないように攻撃する速度を上げていく。
だがやはり牛の賢獣は少女の攻撃を躱し続ける。
そんな牛の賢獣に少女は思う。
自分が目の前にいる人物に師事してから幾月日が経つが、毎日自分が成長した実感が持てると同時に、目の前にいる人の強さが遠くにある事を実感する。
始めた頃は直ぐそこ、手の届きそうなところに要ると感じたのに。今では天の日に手を伸ばすようにその力強さと。それほどまでに自分との力の差があるのかと感じる毎日であった。
「…………ッ! せりゃああああ!!」
一旦攻撃を止め。自分の拳に力を溜め打ち放つ少女。
その時に少女の放った拳から少女の髪から溢れ落ちる朱色と同じ光だけではない。人為的に作られた炎が乗っている様に見えた。
牛の賢獣は瞬時にそれが危険であるものと判断して少女の拳から避け、過ぎる腕を取り。そのまま力を殺さず少女を投げ飛ばす。
「ーーーわきゃああああ!?」
投げ飛ばされた少女は奇声をあげ、地面に体を打ち付ける。
「ウモッ」
持っていた腕を牛の賢獣は体を使い関節を極める。
「ーーーッ!? いったたたたたっ!? こうさん! こうさん! 牛若せんせーい!」
「ウモ。ーーーッ!? ウモゥー!」
少女、トウカが降参すると極めていた関節技を解こうとすると、トウカの腕の一部が火傷をしてるのを発見する牛若。
すると直ぐ様牛若は家に居るメェメェを呼び寄せる。
「なんですよ? 怪我ですよ?」
メェメェがトコトコと川原へ下りてくる。
そして牛若が短く説明するとメェメェは頷き、トウカの方へ寄り腕を視診する。
「これは完全に火傷ですよ。なにしたですよ?」
メェメェの質問にトウカは牛若との鍛練中のあの瞬間、自分が思い描いたことを説明する。
それはシンジュウがこの聖地へやって来たとき、シズエが殺された怒りで、自らの業が発露したトウカ。
愛しきものを殺された怒りの炎が自分の体から噴き出した。トウカはそれを身に纏いシンジュウと戦った。
それが後賢獣達を守護する神獣、幽霊組の一人エヴァから『術式霊装』と呼ばれる危険な術だと聞かされ、以降は使っては駄目だと言われる。
だがトウカは強くなりたいが為に、自己流でそれを発動させようとした。以前シズエの時にしたように。
「はぁ~呆れるですよ。神獣さまから使っちゃダメと言われてなぜ使うですよ?」
トウカの話を聞き終えたメェメェは、先ず最初にそう聞いた。
「……だってトウカもっと強くなりたいんだもん」
本当は牛若からも術の類いの使用はするなと言われているため、罰の悪いトウカは不貞腐れるように言うと。コツッンと、頭を叩かれる。
それが誰かと確認すると牛若かであった。
「ウモ」
「えっですよ? わかったですよ。通訳するですよ」
牛若はメェメェに通訳を頼むとトウカを叱る。
今のトウカは術に耐えられる体はしておらず。使えば今のように体に何らかの弊害が起こると。だから今は体作りをして要ると説明するが。
「でもトウカは早く、もっともっと強くなりたいの!」
トウカは牛若の説得に理解はするも思いが先走り、自分の体を厭わない強さが欲しいと言うように言う。
牛若はその感情に、思いにやれやれと言った風に肩を竦め首を振る。
そしてトウカ用に作られた鍛練器具の内サンドバッグに目をやり。
「ウモッ」
「はいですよ。いまからやることを目に焼き付けろ、だそうですよ」
牛若はそれだけ言うとサンドバッグに近寄る。
トウカは何をするのだろうと首を傾げるも、牛若が見ろと言った以上は瞬きせずに、その行動の一つ一つを目に焼き付けようとする。
牛若はトウカに分かりやすいようにゆっくりとした動作で構えを取る。
それは拳をサンドバックに軽く当てた状態であった。
そして軽く息を吐き。
「ーーーッモ!」
足で地面を踏み抜き。その力を足。腰。肩。腕。拳と力を伝達させサンドバッグを打ち抜く。
サンドバッグに強烈な打撃音が鳴る。だがサンドバッグは揺れることなく微動だにしなかったが、突然牛若が拳を振るったその反対側が爆ぜる。
サンドバッグの中身がズタボロになり飛び出してくる。
「なんでですよー!?」
あまりにも不可解な出来事にメェメェが叫び声をあげる。
しかしトウカは声をあげることなく。今牛若がした動きをする為にその場に立ち。何度も繰り返し今の動きを真似る。
「ウモ、ウモモ」
「……あなたもメェメェのお薬飲んで喋れるようになれば良いですよ」
「ウモー」
「はいですよ……。術は教えられないが、技なら教えてやれる、だそうですよ。今のを覚えたらまた新しいのを教えるだそうですよ」
トウカはその言葉に無言で頷きつつ、今の動きを真似る。
しかしどうもしっくり来ないようで首を捻ってばかりいた。
そんなことをしていると統一郎とカツヲが帰ってくる。
そうすると猿の賢獣達が統一郎へと駆け寄って騒ぎ出す。
「ただいmーーーだああああ!? いきなりなんだお前ら!? は? 腹へった? 飯作れ? そっちで食べてくれって、わかった! わかったら落ち着け! お前も文字で訴えなくてもわかったからみんな落ち着け! ほら川原へ行くから」
「何やら忙しくなったようだな。我はこの辺で暇させてもらおう」
「ああ待ってくれ。今から食事を作るからカツヲも食べてってくれよ。腹を減らしながら帰るよりはいいだろう?」
「むっ。、確かにそうなのだが、良いのか?」
「うちは大量に作るから問題ないよ。ん? トウカはこっちにいたのか。牛若さんこんにちは。トウカの鍛練にですか?」
統一郎達が川原へとやって来る。
そしてトウカはカツヲに少し怯えながらも統一郎の元へ行き、サンドバッグを指差して。
「トウイチロウお帰りなさい。あの叩くの壊れちゃたから直して」
「叩くのって、サンドバッグのことくぁあああ!? なんだありゃあああ!?」
トウカに言われそちらを見ると踏み砕かれた石畳に、ズタボロになったサンドバッグの中身が散乱していた。
統一郎は何があったと聞くと牛若が技の手本を見せてくれたと言う。
その牛若はすまんと謝りながら自分の頭をコリコリと掻いていた。
「まあ、いいですけど……。すまないけどトウカ。先にあいつらの食事を作っていいか?」
じゃないと暴れだすからとトウカを説得する統一郎。
トウカは猿の賢獣達を見てからわかったと頷く。
「これは……。凄まじい技量の持ち主だな。これはそのもとが?」
カツヲはこのサンドバッグは聞くが、トウカは何を言っているのだろうと首を傾げていた。
「悪いけどトウカは、ええっとたしか、鬼人語って言うのしか話せないんだ。しゃべれたらそっちで話してやってくれ」
統一郎の説明に納得が言ったカツヲはもう一度鬼人語で聞くと。
「ううん。トウカじゃないよ。牛若先生」
牛若を指差して言うトウカ。
牛若は「よっ」と言った感じに手をあげて答えていた。
「なんと!? 賢獣殿がこれを!?」
カツヲはむむむッと、考え込むと牛若の前に行き。
「どうか我に一手御指南頂けないだろうか」
カツヲは頭を下げ牛若に頼む。
牛若は別に構わないと言おうとしたが、そこで少し考えてから、隣にいたメェメェに話す。
「ふむふむ、ですよ。わかったですよ。伝えるですよ。相手するのは構わないと言ってるですよ。でも、その前に彼女と相手して欲しいと言ってるですよ」
そう言ってトウカを指差すメェメェ。
「我の方は一向に構わぬが、おっとそうであった。先程は治療をしていただき感謝する。賢獣殿が喋れるとは驚きであったが」
「感謝入らないですよ。それがメェメェのお仕事ですよ。それとメェメェはお薬で喋れるようになったですよ」
なるほどとカツヲはもう一度だけ感謝の言葉を述べた。
そうしてトウカの方に向き。
「そう言うわけなのだが、我の相手をしていただけぬであろうか?」
トウカは最初どうして良いかわからなかったが、統一郎が牛若が言って要る以上は何か意味があるからやってごらん、と言うとトウカは頷いて。牛若といつも鍛練する板張りの区域へ足を踏み入れる。
その様子にカツヲは了承の意を得たと。自らもその場所に立ち。即座に半身の構えを取ると、トウカもそれ似合わせ構える。
トウカの構えからある程度の技量を図ったカツヲはトウカを誉める。
「よい気迫であり。構えだ。余程の鍛練を積んだのであろう」
その言葉にトウカは口元に笑みを浮かべる。だが直ぐ様その笑みを消し、カツヲに特攻を仕掛ける。
低い体制から飛び込んできたトウカをカツヲは水の中ではない制限された体で対応する。
トウカの連撃にカツヲは防戦する。いやそれしか出来なかった。
制限された体でもあったが、それ以上にトウカの技量が自分が予想したより上で有った為に、その修正に二手、三手と遅れが出た。
「ーーーッ!? これ程とは! だが!」
修正し終えたカツヲからの反撃。
トウカはその攻撃に絡み付くような防御を見せる。
その瞬間カツヲは何かあると思い、攻撃の手を戻す。
「ーーーッ」
トウカから軽く舌打ちが聞こえた。
やはり何かしてくるつもりだったかと、カツヲは更にトウカを難敵と判断して対応することにした。
トウカ。本名朝霧桃花。
地球出身の渡界者。朝霧菊花を母に持ち。鬼皇国出身の元術士。鬼人族、ログルスを父とする、半人族の血を持つ少女。
過去鬼皇国にて悲しき出来事と嫌気が差し。母が残した出国許可証を使い国を出る。
以降彼女は各地を転々と歩くが、落ち着いた土地を得ることなくさ迷い歩く。
そして最後に行き着いたのが、人が滅多に来ることがない聖地であった。
しかしそれも数年と続かなかった。
彼女が出国した国は、国を出た時にどの様な人物が出ていったかを記録されていた。
その為国で術士の数が減り。また国のトップが変わったこともあって、術士であったトウカを再び国で働いて貰うために探しだされた。
各地を転々としていた為に探すのに多少苦労した様だが、聖地に要ると言う情報を元に聖地に赴く。
幸い、いや彼女にとっては不運だったのかもしれない。
丁度折しもこの聖地に住みだした聖人一人が、彼女の元へと行くことになる。
紆余曲折あり。彼女と彼女を探しに来た人物との問題は、その聖人が解決する。
彼女はその聖人と共に更に聖地の奥へと住み移ることになるのだが。この時彼女の心は変化する。
出会った当初、彼女は感情の起伏がそれほど無く。冷たい印象があったが、その聖人との幾つかの会話のあと。彼女自身も隠し忘れていた思い出を思い出す。
そして彼女は自らの心を二つに分ける。
ひとつは苦しい思いと悲しき過去を背負った自分。
もうひとつは楽しい記憶、嬉しかった思い出だけを持った自分に。
なぜそんな事をしたのか。
それは彼女のやり直し。言うなれば生まれ変わりをしたかったのだ。
辛い記憶しかなかった彼女が、優しかった母を思い出させてくれた聖人なら、自分に幸せな人生を歩ませてくれると願い託す。
そしてあとは辛い記憶を持った自分は消えてなくなればと。
彼女の願いは半分叶い、半分は叶わない。
それは自分の方が自分の存在を知り。自分を救おうと画策し動き出したことだった。
「はぁああああああ!」
「はあッ!」
静と動。
二人の戦い方を現すならこの表現しかないだろう。
トウカは己の速さを活かし。カツヲを翻弄する。
カツヲは得意な水中に居ない。そのため己の体を最小限に、そして最大限に活かし戦っていた。
(この者、思った以上に強いーーーされど)
(この人、強いーーーけど)
ーーー勝つのはこちら!
互いに相手の力量を知り。そして己が勝てると、自分の持つ力を最大限に乗せ相手へと叩き込むーーーその瞬間。
「ほーい。ストップだ」
突如横から入り込み。二人の決め手となる蹴りと拳を難なく受け止める。
「「トウイチロウ!?」」
左手と両足に光の紋様を走らせた姿の統一郎。
二人はなぜ止める? と統一郎に疑問の声をあげる前に、統一郎は二人を放してとある一角を指す。
「続けさせてやりたいんだけど、あいつらが持たなくてな」
そこには山となった焼きそばを前に、よだれを滝のように流して、こちらをチラチラと見ている猿の賢獣達であった。
トウカはそれで納得がいったようで食事の席にいく。
カツヲはどう言うことだと首を捻る。
「うちは食事を取るなら全員でって言うのが決まりかな」
そう言うことならばと統一郎に案内され食事の席につく。
「じゃあ、いただきます」
統一郎の掛け声で食事が始まる。
それぞれの席に盛られた焼きそばを食べる。
カツヲは箸と言うものを知っていたようで器用に使いながら、統一郎が作った焼きそばを舌鼓を打ちながら美味しそうに食べていた。
そしてそれぞれ食事をしながら談笑をする。
「なんと!? その方、トウカと申したか。武の鍛練を始めて四、三ヶ月とは……。天賦の才か、はたまた賢獣殿の師としての才か。いや、この場合両方であろうな」
カツヲに誉められ照れるトウカ。
統一郎達にも誉められるが。全く知らなかった人物から誉められると言うのは、トウカにとって新鮮なものであり。またより一層自分が強くなっていると実感が持てる言葉でもあった。
「……ありがとうお魚さん」
トウカは素直にお礼を言う、が。
「さっきのもう少しやりたかった。そしたらトウカ勝てたのに……」
トウカの確実に勝てたとの発言にカツヲが待ったを掛ける。
「何を言う。あのままやっておれば勝っていたのは我であった。いくら手加減していたとは言え。武を始めて間もない者に負けるほど、我が武は脆弱ではないぞ」
領地を持ち、騎士としての矜持もあるカツヲは大人気の無い発言を言い。また自分が弱いと言われトウカはカチッンと来る。
「トウカも本気じゃないもん。本気のトウカならお魚さんコテンパンだったもん」
頬を膨らませ言うトウカ。
そんなトウカに統一郎が「人見知りのトウカがこんなに早く打ち解けるなんて。シズエさん以来だな」と、しみじみと言うのが聞こえると。
「そう言えばトウイチロウ。先程奇妙な技を使っておったな。つまり我との殴り合い。本気ではなかったと言うことか?」
カツヲが睨むように統一郎を見る。
そしてトウカも統一郎が鍛練の時に自分との相手の時に、なぜさっきの様な動きを見せないで、手加減するのかと問い詰める。
統一郎はあれで全力だと言うが二人は取り合わなかった。結果二人は統一郎が本気を見せないなら見せるようにすれば言いと、統一郎とも鍛練を申し込む。
それに逃げようとする統一郎だったが牛若から「やれ。やらなければ自分とだ」と言われて渋々やらされる羽目となった。
「それでね。それでもトウイチロウは本気で戦ってくれなかったの。お魚さんも納得してなかったけど、お姉さまが誰がが絡まないと本気にならないって言ったら、お魚さん納得してた。どう言うことって聞いたら」
ーーーあいつは誰かの為にしか本気になれないのよーーー
「そう言われたらトウカなんとなくわかったの。トウイチロウは誰かの為にしか力をは振るわないんだって。それでね。それからお魚さんは牛若先生とも相手をしたんだよ。あっさり負けたけどねお魚さん。うんトウカも勝てないんだもん。お魚さんが牛若先生に勝ってたらトウカ、ちょっとしょんぼりする」
トウカは話続ける。今日起きた出来事を目の前の氷で閉ざした中に居るもう一人のトウカに。
しかしもう一人のトウカはピクリとも動かない。膝を抱え。虚ろな目で虚空を見続ける。
それでもトウカは話続ける。
そうすることで彼女を救え。また自分自身も強くなれると言われたから。
強くなれば誰かが傷つくことも、誰かを失うこともないとトウカは考える。
「それからお魚さん、牛若先生の本気も見たいから牛若先生のあの、えっと、き、き、きもなんとかを使ったの。そしたらお魚さん、スッゴくびっくりして尻餅ついたんだよ。確かに牛若先生のはすごいけどそんなに驚くことかな?」
言葉がでなかったトウカは誤魔化して先に進みカツヲの驚いた様を仰々しく語るトウカ。
カツヲが驚いたのは精力を使っての戦う技法だ。
通常精力をしようした戦い方は術を作り出して戦う。もしくは術装具を用いて戦うの二種類しかない。
それが第三の方法があると知ってカツヲは驚いたのだ。
「それでお魚さんもたまにここに来て牛若先生と鍛練した言っていってた。トウカとも手合わせしたいって。今度はトウカが勝つって言ったらお魚さん。負けないって言ってた。今度お魚さん来るまでにトウカうんと強くなってないと。ふふふ、楽しみ」
統一郎や牛若と相手をするはそれはそれで自分が強くなったと思える。しかし実力差が均衡した相手と戦ったとき、その相手に勝てたときは、トウカはより一層自分が強くなれたと思えた。それ故カツヲとの次回の対戦を待ちどうしそうに語るトウカ。
そんなトウカの声しか無かった場所に、トウカ以外の声が響く。
ーーーそろそろ時間ですよ。帰ってくるですよーーー
「あっメェメェさんだ。もう時間なんだ、あっと言うま。また明日ねヒエヒエのトウカ」
隔たれた氷の前トウカは手を振り、もう一人のトウカに別れを告げる。
静寂に包まれた世界には氷の中で膝を抱えたトウカが一人。
明るく暖かなトウカが居なくなったことで世界はより冷たさを増していく。
そんな世界で氷のトウカが始めて口を開く。
「…………幸せそうでよかった。でも私のところにはもう来ないで。あなたはそのまま幸せの中で生きて、私はこれらを持って消えるから……」
氷の中トウカの後ろ暗く闇に染まった先には積み上げられた屍があった。
それらは言葉にならない怨嗟の声を吐く。
それらの声は氷の中でしか聞こえない。
氷の中にいるトウカが目を閉じ、自分の存在を希薄にしていく。
それは早く自分が消えるようにと。
眠るようにしたトウカは気がつくことがない。天真爛漫のトウカが少しずつ、少しずつ暖かな気持ちを送り込んでいたために、自らが作り上げた氷の檻に亀裂が走っていたことを。
そしてそこから徐々に溶け始めて屍達の声が漏れ始めていたことにも。
ーーーーーーー♂トв+ゑウ㌶⊂∋¤₩$カ@━☆ーーー
後にトウカの二つに分かれた人格は、再びひとつに統合される。
それがなされた時はどちらも危険な状態であった。
表に出ているトウカの方はある事情で体が傷つき瀕死の重症に。
心の内に消えるために眠ったトウカの方はその消滅の寸前であった。
このままではどちらかが消えるのではなく両方消えてしまう。
彼女達の互いを救いたいと願うは、その願いどうしが対立していた。
しかしここに来て彼女達は合意する。同じ目的のために手を取り合おうと。
子供のように無邪気で天真爛漫のトウカと、苦しみに押し潰されその心を閉ざした大人のトウカ。
二人は一人に戻る。そこには子供の無邪気さを残しつつ、生きる辛さや苦しみも知ったトウカが生まれる。
彼女はどちらでもあってどちらでもない、新たなトウカであった。
周りの者はその変化に戸惑いを見せたが、聖人が子供から大人へと変わる心の変化みたいなものだと、周りの者達に言い聞かせると、皆が納得の表情を見せる。
トウカが過去に何をしたのか。何に苦しんでいたのかは、彼女自身が話さないため知ることがない。ただそれすらも今の彼女は乗り越え、笑顔にできる強さを持つことができたと言うことを私は知っている。
そうそう。彼女のことでもうひとつ。
人格統合されたことによってか、彼女のもうひとつあった雷の星力が使えるようになる。
そして更に今まで二色、二種類の星力の素養を持つ者がいても、それを同時に発現できるものはいなかった。しかし彼女はそれを成し遂げる。
一時は彼女は根源に足を踏み入れたのではと言う憶測もあったが。しかしそれは彼女の一心に誰かを守るために強くなりたいと言う思いで成し遂げたのだと言う結論になった。
炎と雷。この二つを扱い戦う姿から『炎雷拳のトウカ』と呼ばれ、武を志す者には必ず知る名前となった。
この頃になるとトウカに武術指南として海の国に来て貰えないかと声がかかる。
しかし移動手段が限られていたために断念するしかなかったのたが、当時聖人の好奇心で作られた空を移動するための乗り物ができる。
これによりトウカは海の国に指南役として月に一度向かうことになる。
そしてトウカもまた聖人との間に子供を儲ける。
その子供はトウカの星力の素養や武の才能が引き継がれることはなかったが、そんなことを気にすること無く。子供を慈しみ育てていくのであった。




