No.372
No.372 【幕間】そのなな 『カツヲ流詫びの仕方』
海の国の式典途中を抜け出してきたカツヲ。そのまま部下であるサンマ達に自分は聖地に行くと伝え、聖地へと向かった。
そして川を上って行き、目的地である場所に辿り着き上陸する。
そこには目的とする人物は居らず。ピンク色をした猿の賢獣達が何かをして戯れていた。
「うむ。トウイチロウは不在であったか。ここで生活している以上は然もありなんか」
来ればいつも居ると言う方が可笑しな話だとカツヲは思った。
そして残っていた賢獣達がこちらを興味深そうに見ていたので、統一郎がすぐに帰ってくるか聞くことにすると。
「ウキ? ウキウキ、ウキャ!」
「うむ。うむ。さっぱり分からぬ。済まぬな。こちらの言葉を理解しているとは言うのは何となくわかるのだが、其方らの言っている事が我にはわからぬ」
「ウキ~……」
身ぶり手振りで一生懸命伝えようとしていた賢獣をカツヲは自分が理解できないと謝罪をすると、賢獣達はしょうがないと言うように諦める。そうするとそれぞれがまた何かをして過ごし始めた。
カツヲはそれを見て暫くすれば統一郎が来るだろうと、賢獣達に待たせて貰うと声を掛ける。
それに賢獣達は手を上げ答える。
「あれは了解の意図と取って良いのだろうか?」
そう解釈したカツヲは滑らかに作られている石畳の上に座る。
そして石のその滑らかさに触れ思う。
「…………綺麗に切断されているな。これはトウイチロウが持っている不思議な力でやったことなのか。それともトウイチロウの技量でやったことなのか」
どちらにしてもこれだけのモノがあればと思うと、戦場では常に心胆を凍りつかせる感覚がカツヲを襲う。
これから先どのような判断が下されようとも相手に任せるカツヲであったが、いざその足音が自分の真後ろまで迫っていると思うと、手が震え恐怖に体が支配されそうになる。
「わかっていたつもりであったが、いざ自分がそちら側に回るとなると、こうも心が乱されるものか」
修行が足りなかったかと自分を嗜める。
しかしそれも今さらな話。統一郎が帰るまでにどうこう出来るものではないと、自分を落ち着かせるために禅を組み心を沈めることにする。
そして小一時間経った頃だろう。無我の境地とまで行かずとも、自分を無心にまで持っていくカツヲ。
これならばと罰せられるための支度を始めるカツヲ。
持ってきていた刀を置き。着ている鎧を脱ぐ。
そして小袋から白い布と縄を取り出す。
白い布の方は顔の前に取り付けるようにすると、顔全体を隠す垂れ幕の様になる。縄の方を持っていざ後ろ手にして縛ろうとしたとき。
「むっ! いかん! これは自分では縛れぬではないか!」
そして一人で四苦八苦しているところに賢獣達がこいつ一人でなにしてんだ? と言うような表情で見つめていることに気がつく。
カツヲはそこで賢獣達に己の手を縛って貰えないだろうかと賢獣達に言うと、賢獣達はこいつそんな趣味があるのかと、若干蔑んだ目をして見つている。
「申し訳ない。我一人では出来ぬのだ。手伝って貰えぬだろうか」
そうもう一度頼むと。賢獣達は仕方ねぇな付き合ってやるよと、言うような表情をしてカツヲの手を縛る。
「すまぬ感謝する………まて。なぜそのような物を持ってくる?」
カツヲを縛り終わると賢獣の一人が家に何かを取りに向かっていて、それを持ってきた。
「ウキッ!」
ピシャーン! と地面に打ち付けるそれ。
それは鞭であった。ついでになぜかロウソクも。
あっ、ついには三角に切られた木材を持ってくる賢獣もいた。いったい何を始めるつもりでいるんだろうか!
「待て! 待つのだ! 我はそのようなことは頼んでおらんぞ! 痛ッ! こら! 何故鞭で我を叩く!? 何故火のついたロウソクを我に近づける!? ええーい! 何故その角材を我の股下へ入れるのだ!?」
カツヲが賢獣達の行動に突っ込みを要れるも、彼らは止まらずカツヲを攻め続ける。それは統一郎達が食料調達から帰ってくるその時まで続けられた。
「…………なに人ん家でしてんの?」
そう冷たい目線でカツヲ達を見つめるのは統一郎であった。
その目線はもう「うわぁ……。こいつ信じられねぇ。留守中の人の家で性欲満たすとか……」と、言うような目線である。
「待て! 待って欲しい! 違うのだ! 我が頼んだのはこう言うことではなかったのだ!」
必死のカツヲの弁明に何かあるのかと統一郎は、賢獣達に聞く。そうすると賢獣達は自分から望んでしてくれと言ったとカツヲに告げると。
「違う! 我が頼んだのは後ろ手に手を縛って貰うだけであった。この様な行為は頼んでおらぬ!」
そうなのかと、取り合えず話が出来ないから賢獣達を追い払うようにすると、食事を作れと騒ぐ賢獣達。
「「「「ウキィー! ウキキ!」」」」
「わかったわかった。あとで食事は作ってやるから、今は家にでも言って大人しく遊んでろ」
お客さんが居るから後でと言うと彼らは「絶対だぞ! 絶対あとでうまいメシ作れよ!」と言うように叫んで、土手の上の家に向かって行く。
それを見送ってから統一郎はカツヲの布や縄を取ろうとするが、カツヲがそれはいいと強く否定。
統一郎はどうした? と聞くと。カツヲは膝をつき頭を地につけるように下げ。
「此度の一件。我の頼み事からトウイチロウには多大なる迷惑を掛けた。あまつさえ我が国の大事となった一件を解決へと導いてくれたこと。どのような礼を尽くしても足りぬことである。だがいずれ国元より感謝の品が送られることではあるだろう」
統一郎はカツヲの言葉にそれをやったのは自分じゃ無いよ。別の人だよと言うような表情をしているが、カツヲからは見えていない。
「然れど! 我が頼み事をしたせいでトウイチロウへの官賊達の卑劣な行いがされたこと。民を守る者として官賊達の標的となるような事は、如何なる理由が在ろうとも許されるべき事ではないとーーー「うりゃあ!」ぐあっ!? な、なにを!?」
長々と喋るカツヲに統一郎はその頭にチョップを叩き込む。
それからカツヲの縛っていた縄を解き。
そして驚くカツヲに統一郎は両手を腰に置き怒った表情をして。
「あのな。その頼み事を聞けば危険な目に遭うと言うことを理解した上で、自分はカツヲの頼み事を聞いたんだぞ。それなのにグチグチグチと自分が頼まなければよかったなんて、今さら言われてもなってやつだぞ」
統一郎の言葉に押し黙らされるカツヲ。
「その事でカツヲが責任を取りたいと言うことで来たことはわかった。それなら迷惑かけて申し訳なかった位でこっちは構わない」
「しかし!」
「今も言ったろう。カツヲ達と敵対してる奴らから何かしらの攻撃はされるってわかって受けたんだ。それが分かっていながらその対処ができなかった自分が一番悪いんだ」
「……我の気が……」
カツヲはそれでも自分の気がすまないと出来ることなら自分の命をと、統一郎に差し出そうとするカツヲ。
「アホか! それで詫びの仕方が切腹か!? しかも自分の家で! どんな嫌がらせだよ!」
「我にはこれ以外は思い付かなかったのだ!」
こいつバカだ! バカすぎるとカツヲに言うと。カツヲはこれが失態に対する最上の仕方だと言う。
そしてその言い合いが次第にヒートアップしていく。
「詫びなら菓子折りのひとつでも持ってこいよ! 何で人様の家で血生臭い事しようとするんだよ!」
「だから言ったであろう! 自分の命を相手に委ねる。これ以上の謝罪方法があろうか!」
「あるよ! 何でこの世界の人達は直ぐに高いものを人様に贈ろうとか。命で償おうとかするんだ! そう言うのじゃない誠意を見せろよ!」
「トウイチロウの世界の常識など知らぬ! これがこちらでの詫びの仕方であり誠意なのだ! それを受け入れられぬなどと言われれば恥の上塗りではないか!」
「それこそ知らねえよ! ああ! そうだ思い出した! 初めて会った時だって頑固に詫びをするって言って、こっちが食べ物か何かが欲しいって言ったのに、寄越してきたのが牙やら鉱物やら薬やらと」
「何が気に食わぬと言うのだ」
「気にくわないとは言ってないだろう! ただこっちが指定してるにも関わらず別の物を持ってくる神経が分からねえって言ったりだけだよ!」
「あれは探し出すのに苦労したのだぞ! 海龍の牙など命がけで入手したのだぞ!」
「はあ!? たかだか果物採ってきただけだろうが? 何で命を懸けてまで礼をするんだよ。意味わかんねよ!」
「我らが命懸けで手に入れてきたと言うのに愚弄するのか!」
「してねえよ!」
「してるであろう!」
互いに顔を付き合わせ睨み合う。
そして両方同時に互いを殴った。
「やりやがったな!」
「そちらが先であろう!」
その後は互いの殴り合い。殴られれば殴り返す。蹴られれば蹴り返すと言った喧嘩へと発展していく。
「ーーーッがあ!?」
「ーーーっぐぅ!?」
カツヲの詫びがどうこう言っていた筈なのに、何故殴り合いを始めるのかと、彼らの行いを土手の家から眺めていた者達は思った。
一時間程であろうか殴りあっていた彼らはボロボロとなり、その場に倒れる。
「ぞぼんのがぢだぼう」(自分の勝ちだろう)
「ばびをゆう。ばれのぼうのがぢだ」(なにを言う。我の方の勝ちだ)
何の勝ち負けだかは分からない。
顔を張らし何を言っているか分からない彼らに、薬師メェメェが家からスキップしながら飛び出ていく。
「はーいですよ❤ 怪我をした人はこのメェメェが治してあげるですよ 久しぶりの大ケガですよ メェメェ腕がなるですよ ヒャッホーイ、ですよ‼」
「ーーー!?」
「げんじゅうがじゃべって!?」(賢獣が喋って!?)
メェメェ登場にどちらも驚く。ただし統一郎だけはメェメェから這って逃げていく。
しかしそれを逃がさないメェメェ。統一郎を捕まえ笑顔でこう言う。
「どこへ行くですよ? 大丈夫ですよ。すぐに傷のない元の体に戻してあげるですよ。これぐらいメェメェにとっては簡単なことですよ」
だが統一郎はメェメェの言葉に涙を流しながら「要らない!」「治療はしなくていい!」と言うが、メェメェにはその言葉が通じない。
「何を言ってるか分からないですよ? だから治してあげるですよ」
その後はメェメェの治療ですっかり傷が治る二人。
しかし統一郎だけは傷が治っても暫くは起き上がることはなく口から泡を吹き。断続的な痙攣を起こしていた。
「この薬は刺激が強すぎるようですよ。もう少し弱めないとダメですよ」
そう治療を施したメェメェが呟いていたが、その声は誰の耳にも届くことはなかった。
暫くしてから統一郎も復活して起き上がると、また同じことを繰り返すかと思ったが。
「…………トビよりの言葉に『みんな怪我も病気もなく暮らしている』と聞き及んだ」
「………ああ、確かに言った」
「あれは確か重傷者以上の者が出た時のみ使用する言葉であったな」
「そう、だな……」
「その者の場所は」
カツヲの真剣な言葉に茶化すこと馬鹿にすることもなく。自分の頭をガシガシと掻き。そして家の方に向かって大きな声で。
「これからシズエさんのところに行ってくる。食事は悪いがそっちで何とかしてくれ」
それだけ言うとこっちだとカツヲを家の近くへと案内する。家の近くに新たに立てた木でできた倉庫を開けると、そこには銀色の荷車のようなものがあった。
統一郎はそれに乗り込み何かを操作すると、その荷車が魔獣や獣で引いていないのにも関わらず動き出した。
驚いているカツヲに統一郎は乗ってくれと後部座席を指差す。
カツヲはどう言う理屈で動いているのとか聞きたいことはあったが、統一郎の言葉に従い乗り込むと。
「むっ? これは!?」
乗り込んだ瞬間、空白地帯に要るような聖地での圧迫感がなくなった。
カツヲはついに我慢できなくなり統一郎に尋ねる。
「この車は蒸気の力を利用した蒸気車って言うんだ。どう言うものかはあとで説明するよ。それと聖地の侵食現象が無くなった理由は、この車の周囲に聖地の混濁した星力を中和する装置を取り付けたんだ。本当は別の物を作っていたんだけど。開発中に逆の性質の物が出来るんじゃないかと思ったらできた」
統一郎の説明にカツヲは全く理解できなかったがひとつ、聞きたいものがあった。
「中和の逆と言っていたが、もしや聖地と同等の性質を作り出すことができる装置を作ったと言うのか?」
「そう。晶石を馬鹿みたいに使ってその力を外に逃がさないようにしたやつな」
「それは……確か我の国でも同じものを作ったと聞き及んでいるが」
「……ふーんそうなのか。まあ結構簡単に作れるからな。同じ発想に至った人も要るだろう。だけど自分が作ろうとしたのはそんなに馬鹿みたいに使わなくても済むような物だな」
「ではそれはできたのか!?」
それができたのなら是非教えて貰いたいと統一郎の方へ乗り出すカツヲ。
しかし統一郎は首振って。
「それが全然駄目なんだよ。晶石の量を減らせばパワー、力不足になって聖地と同じ効果にはならない。聖地なら収穫したら次の日にはまた収穫できるんだけど。量を減らしたやつは一週間ぐらいかかるな、物によるけど。それでも普通の収穫を考えればこれも早いか」
その言葉を聞き。カツヲは統一郎に是非それを教え貰えないかと頼む。
「構わないけど……。これもまだ改良が足りないやつだぞ? それでもいいのか?」
「構わぬ! そこから我が国でも研究すればいずれば食料不足を解消する手立てが生まれるやも知れぬ」
「なら帰えるときにでも教えるよ。それより見えてきた。あそこにシズエさんがいる」
統一郎が指差す先には小高い丘に花が咲き乱れ。大きな一本の樹木がそびえていた。
蒸気車が舗装された道を走りある一角で止まる。
そこは長方形の石材が立てられ。その回りは綺麗に花が刈られていた。
統一郎が蒸気車から降りると自分も降りる。その時に自分の回りに術装具の力で結界を張るのを忘れないようにする。
統一郎はその石材の前に行き腰を下ろして。
「シズエさんまた来ました。今日はこっちの世界でできた初めての友人も一緒です。頑固者の奴でどうしてもシズエさんに会わせろと言って聞かなかったんですよ」
「何を言っている。我は一言もそのようなことは言っておらぬ。ただ案内して貰いたいと言っただけだ。それと誰が頑固者だ。トウイチロウの方が頑固者であろう」
統一郎がカツヲの言葉に振り返り何言ってんだコイツ? もう一ラウンドするか? 今日の統一郎さんはいつもより好戦的ですよと、言うような顔つきをしたが。丘の向こうから見知った顔をがやって来たのと、シズエさんの墓前ですることじゃないなと思い直しやめる。
「おーなんだなー。シズエの墓参りなんだなー。ありがとうなんだなー」
現れたのはうり坊の賢獣猪五郎。
統一郎と見知らぬ誰かにお礼を言うと、その見知らぬ方は誰かと聞く。
統一郎はカツヲ紹介する。カツヲはカツヲでシズエが亡くなった責任は自分に有ると統一郎に言ったようなやり取りをするが。
「そうなんだなー。でもそれは仕方がないことなんだなー。来ることはわかっていても、いつ来るか分からない災害と同じ何度なー。シズエが亡くなったのは悲しいことなんだなー。でもそれで自分が責任が有ると言うのは違うと思うんだなー。もし誰が悪いと言うのなら、それを送ってきた人が一番悪いんだなー」
猪五郎の言葉にカツヲは頭を下げ、もう一度申し訳ないと言う。
「さてせっかく来たんだ。シズエさんの墓を綺麗にしていこう」
統一郎が空気を変えるように言う。
そして統一郎は先程の蒸気車に戻り後部座席ら道具を取り出す。
猪五郎は水を組んでくると、何処か近くに沢でもあるのだろう。統一郎から桶を借りると向かっていった。
そんな二人のテキパキとした動きの中カツヲは手持ちぶさたと言うよりは、どうしたら良いのか分からず右往左往していた。
それを見かねた統一郎はシズエの墓回りの雑草を抜いてくれとカツヲに頼む。
それを了承し雑草を抜くカツヲだが。シズエの墓回りは、統一郎の習得技【陣地作成】を使い空白地帯となっている。その上暇があれば誰かしらがシズエの墓に来て綺麗にしているために雑草などもそれほどない。
猪五郎が水を汲み帰ってくる頃には、また手持ちぶさたとなっていたカツヲである。
そして今度はその汲んできた水で墓石を綺麗にする。
「これで良いのだろうか?」
こちらの世界では死者を弔う形が違うため戸惑いながら作業するカツヲ。
「手順とか違ってもいいんだよ。相手を思う気持ちを込めてやれば」
統一郎に言われそれならばと、カツヲは自分のせいで申し訳なかったと、シズエに心の中で詫びながら墓石を綺麗にしていく。
南方守護大将カツヲ。本名海舟鰹定助。
海の国の東西南北中央の内。南方領全域を統括守護を任されている、本来はかなり偉い人物。
一般騎士から南方守護大将まで出世した叩き上げの人物。お陰でイワシの様な輩にはかなり目をつけられていたが。本人はそんなことを気にしないタイプの人間であった。
武芸百般と言う言葉が合うくらい。あらゆる武器を使いこなすことが出来るが、一般騎士時代に支給された剣に思い入れがあるようで、剣技を主だって使う。
大出世した人物であるが、本人は身に余る仕事だと思っていて、自分は外周警戒(所謂国境警備)等で魔獣相手に仕事をしている方が良いのではと思っている。
三本刀のサンマ。ギンザメ。タチウオは南方守護大将に任命される前の時代に知り合い盃事を交わす仲となる。
統一郎との出会いの時は、ドジョウ姫の試練と言う名の自分にどれだけ味方が要るか探し出すものの時であった。
その時に出されたものは自分自身の才覚のみで聖地より果物を持ってくること。
つまり他人の力は当てにしてはならないが自分から頼み。それを相手が良しとしたのであれば借りることは大丈夫なものであったが、カツヲは支給されている剣や鎧などは自分の物ではないと判断しそれらをすべて外す。
しかし術装具などすべてを取り払ってしまったために聖地に入れなくなってしまう。
周りの者達は術装具ぐらい良いのではとカツヲに言うが頑としてカツヲはそれを受け入れなかった。
その為に聖地の混濁した力に対抗するための力をどうにかするため奔走する嵌めになる。
最終的に当時の盟主の試しの義(力を貸すに値する者を見定めるもの)を受け。それに打ち勝ち盟主の力を借り。一時的に聖地の力を中和させ。その間に探すと言う方法が取れた。
一番遠回りを取ったカツヲであったが、一番早くドジョウ姫のもとに帰り果物を献上した。
この様にカツヲは融通の聞く場合と全く聞かない場合の差がある。
しかしそれは線引きがなされている。即ちそれは民のためになる事で、それが良いことであれば即座に受け入れる。だがそれが自分事であれば頑固者になると言うのがカツヲである。
「ふぅ、これで良いであろうか」
額に汗かき墓石を綺麗にしたカツヲ。
それはもう一生懸命に綺麗にしていた。途中から統一郎は呆れて見ているだけだったが。
綺麗にされた墓石を見てカツヲは満足そうに頷く。
そしてもう一度だけシズエに詫びの言葉を言う。
「我の不徳の致すことで、そのもとを不運に見回せ申し訳なかった」
ーーーあまりご自分を責めては駄目ですよ。あれは私が望んで起こった結果ですからーーー
統一郎に教えてもらった合掌で墓石に向かい拝んでいたところ、カツヲの耳に年老いた女性の声が聞こえた気がした。
「……今、声が……!?」
不意に辺りを見回し始めたカツヲに何かあったかと聞くと。
「いや今しがた女性のご老人の声が聞こえた。言葉の意味はわからなかったが、何とも心が軽くなった気持ちになった」
「おいおい。ここには老人なんて……」
カツヲの言葉に返す統一郎だったが、ふっと何かを思ったのか言葉を途中で切り。
「ああもしかしたら聞こえたのかもしれないな。シズエさんの声が」
そう言って墓石の方を示す統一郎。
カツヲは振り返りる。
そしてもう一度先程の声を思い出す。彼女がなんと言ったのか言葉が分からないために意味はわからなかったが、それでもカツヲの心はここに来る前よりも軽くなったと感じていた。
「……そうであろうか。……うむ。そうであればよいな」
カツヲは墓石に向かい頭を下げる。猪五郎にも頭を下げ。統一郎の家に戻ろうと伝える。
墓から帰るとき、統一郎はカツヲの表情から陰が無くなっていたことにホッと息を吐いた。
今日であったときはそれこそ死人のような顔をしていたカツヲ。
それをなんとか戻そうとしていた統一郎であったが、自分では無理だと判断した。
シズエの墓前に行くことで、何か変わるかとも思っての行動であったが、結果が伴って良かったと思った統一郎である。
その後カツヲは統一郎から擬似的な聖地の力を作り出す装置の作り方を聞き国へと戻る。
そしてカツヲはある程度の暇が出来ると聖地へと来る。その時には必ずシズエの墓前に立ち寄り。その墓を綺麗にしていくと言うのが、カツヲのサイクルに加わった。
それはカツヲが自力で聖地へ来れなくなる時まで続けられることとなる。




