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No.369





 No.369 【幕間】そのよん 『トビ/ナマズ』




 「……あそこか」


 ーー白と黒の世界ーー


 その世界(なか)を飛ぶように羽を使い泳ぎ進むトビ。

 そしてその眼前に目的地の小さな島が見えてくる。

 その目的地の島の浜辺に上陸して影の中から這い出ると。


 「うあわああああ!? ま、魔獣!?」


 影から出るとき気を付けていたつもりだったが、島に住む民に見られたようだ。

 腰を抜かし涙目になり慌てる民に、普段から大きな声を出さないトビが、騎士が喋るように声を張り上げる。


 「南方領より来た。物資調達輸送組物資輸送班隊員。(あずま)飛魚(とびうお)朱里(しゅり)五等騎士だ。この島の村長から連絡を受け。荷物を持ってきたと伝えてもらいたい」

 「……へぇ? き、しさ、ま?」


 トビの騎士と言う言葉に少しは冷静になった民。

 トビは民の言葉に頷くと。飛び上がるように立ち上がる。


 「す、すぐ! いま! (おさ)に伝えてきます! (おさ)ー! 村長(むらおさ)ー! 騎士様だあ! 騎士様が物持ってきてくれたぞ!」


 自分以上に大きな声をあげて走っていく民。その様子にトビはあれなら島中に聞こえるなと思った。


 「…………ハァ。大きな声を出すのは疲れる」


 それから暫くすると浜辺には島に住むすべての民、子供から老人まで幅広い年代の者達が集まった。


 「……なぜ村長を呼んだのに他の者まで集まる? まあいい。この島の村長は誰だ?」


 トビは自分が呼んだのは一人だけの筈なのたがと疑問に思ったが、荷物を受け渡すのに問題はないと村長を訪ねる。すると一人の中年男性が前に出る。


 「申し訳ない騎士様。父、村長(むらおさ)はここに来るとき腰を痛めて……」


 来ることが出来なくなったと言う男性にトビは荷の確認だから誰がしようと問題はないと言い。男性に荷物の確認を頼む。


 「それは構わないが。騎士様、荷物と言っても船の方は?」


 本来数隻の護衛船を連れ物資の輸送をするのに、その船が見当たらないことに疑問視する男性。


 「今取り出す。僕の周りから少し離れていろ」


 民達は訳が分からないがトビの言葉に従い離れると、トビは地面に手を置いて精力(マイン)を体に行き渡らせるようにする。するとトビの髪が藍色に染め上がる。


 「【闇泳影潜(あんえいえいせん)蔵闇くらやみ】」


 トビの髪の色の変化とトビの言葉で影が広がり、そこから荷物が浮き出てくると。民達は口々に「術士だ!? 騎士の術士だ!?」と声をあげた。




 南方領所属。物資調達輸送組物資輸送班隊員トビ。本名(あずま)飛魚(とびうお)朱里(しゅり)

 この時代に置いて珍しい、術を使う騎士。

 この時代ではまだ騎士は武器を手に前線で闘う者。術士は後方から術を使い支援を行う者として、その役割がハッキリとしていた。

 それ故に騎士と名乗る者は、術士としての素養のない者がなる職であった。

 今でこそ術士としての素養の有る者でも、騎士として職に就くものが多いが当時はそれが一般的であった。

 そしてそんな一般騎士であった彼が、歴史上初の術を使う騎士『騎術士』としての名が残る。

 またトビと言う名前で思い当たる人もいるだろう。現在では当たり前となっている。短距離専用個人輸送『飛び脚』の名前の由来となった人物でもある。

 この当時はまだ島の行き来は大型船。もしくは護衛船を付けての行き来が当たり前であった。

 それが個人が船を使わず、泳ぎだけで島の行き来をして物を届ける。どれ程の技量と度胸が有ったのだろうと私は思う。

 魔獣が住む海にたった一人で島の行き来をする。大量の術装具を持っていたとしても、尊敬できる職であったとしても、私としてはごめん被りたいものである。




 「以上が頼んだ荷物だ。間違いないか?」

 「は、はい。間違いない、みたいです。大丈夫です」


 トビの言葉に男性は目録を見て、荷物の中身を確認する。

 全ての荷物の確認が終わり。次の島に向かおうとしたとき。


 「荷物、ありがとう騎士さま!」


 島の子供がトビに近寄り笑顔を向けてそう言う


 「……気にするな。それが僕の仕事だ」


 トビは子供にそっけなく言うが、子供は気にすること無くトビの羽を指差し。


 「きれいな羽だね、騎士さま」


 無遠慮にトビに近寄り羽を触ろうとする子供を親が止める。そしてしきりにトビに謝る。


 「大丈夫だ、気にしていない。()()があるから、僕はお前達に荷物を運んで来れる」


 そう言ったトビは少し誇らしげに自分の羽を撫でる。


 「また必要があれば連絡をしてくれ。必ず届けに来る」


 それだけ言うと海へと走りだし、影の中に飛び込むトビ。

 白黒の世界で泳ぎながら今の子供の言葉を思い出す。


 「『綺麗な羽』か……。あいつもそんなことを言っていたな。……まあいい。僕のこの羽が役に立つなら、それが美しかろうと醜かろうと関係がないことだ」


 自分ができる仕事をするだけだと、トビは次の島に向けて泳ぐ。その羽を使い、自分が出せる最速の速度で。自分が来るのを待ち望んでいるであろう者達のために。白と黒の世界を飛ぶように泳ぐ。




 元環境改善技術開発施設支部技術長河中(かわなか)(なまず)新乃信(しんのしん)。地方領主であった時の名前が無いためにこの名前を本名として記載させていただく。

 彼が環境改善技術開発支部(※以降は環境局と明記する)に入り。その才能が開花されるまでの資料が残っていたので見たことがある。

 はっきりと言ってしまえば、彼が歴史に名を残すほどの才能有る者には思えなかった。言うなれば彼は凡人である。

 その彼の残っていた資料のどれもが、誰かの技術を模倣をして作り替えたものだと、専門的な知識の無い者でも一目で分かるほど稚拙なものであった。

 そんな彼が突然才気溢れる技術者となり。環境局の支部技術長にまで登り詰める。

 いったい彼に何があったのかは記録などが残っていないので定かではない。

 ただ私としては、彼のような突然に才能を開花する偉人を数多く知っている。


 『百戦の王者バイセン』『天の術士スリン』『術装具の父ボンポチ』『幻奏の舞手アユ』


 これらの名前は何処かしらで聞いたことのある名前だと思う。これらの偉人達はナマズ同様に才能有る者達ではなかった。

 彼らの人生の中で何かが起き。その才能が開花した。

 そして彼らのもうひとつの共通点としてあげるとするならば。彼らは皆、非業の人生を送っている。

 そうした人生を送ったからこそ才能が開花したのかと言えば、そうではなさそうだと言うことがまたわかる。

 彼らの才能の開花は突然なのだ。徐々にその才能が花開くのではなく。その人物から目をそらし、再び見たときには姿が変わっている。それぐらいの劇的な進化と言っても良いぐらいの変化をしているのだ。

 彼の残っていた資料を見たと前記しているが。その中で同日に作成した資料が、同一人物が作ったものかと疑いたくなる程のものが資料として残っている。

 それは多くの者が知る『星力(プラーナ)調整術装具』。通称疑似聖地や。肉体の欠損部分を再生治療を施す『合成人体治療方法』。通称キメラの雛形を作ったのが彼だと言うことだ。

 『河中事変』の時、この技術が未調整のまま使用されたと記録にある。

 彼が何を思い。これらを作り出したか記録にある。


 ーー民を救いたいーー


 『河中事変』終息後彼は投獄され、その残りの生涯を牢獄で過ごす。

 その彼は死ぬ直前までこの言葉を言い続けたと記録にはある。

 非業の人生を送った偉人達もナマズとは言葉は違うが。それぞれひとつの思いを抱き続け、その人生を終えている。

 彼らに何があり。そこまで駆り立てたのかは私には理解できないだろう。

 彼らの行いを善と唱え。彼らが居なければ今の我々が居ないと言う歴史家も要れば。

 彼らの行いを悪と唱え。大量殺戮者だと罵る歴史家もいる。

 彼らの行った行為で多くの人達が犠牲になり、亡くなった人達がいる。

 だが彼らが行動を起こしたお陰で、後の人々が救われたと言うのも、ひとつの事実だ。

 彼らの行いに対して私は善悪と明記することはしない。

 それは歴史のひとつの事実として受け入れるつもりで要るからだ。

 もし彼らの行いを善悪で分けたいのであれば、これを読んだあなたに任せるとしよう。















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