No.365
No.365
「そろそろ我らは行くとしよう」
国主は立ち上がり、ディータとの話を切り上げた。
「彼が行ったのよ。心配する必要は無いわよ」
「であろう。あれだけの力を持つお方。事態の終息はこちらが思う以上に早いことだろう。しかしそれは事を収めるまであろう?」
国主の言葉にディータは統一郎のすることだ。騒ぎを起こしている者達を諌めることはしても、それ以上のことはしてこないだろうと考える。
あいつの事じゃ、それ以上は自分のすべき領分じゃないとか言いそうね。困っている人を助けることはするけど。何でもかんでもじゃない。自分達が出来ることは自分達でさせるべきだと考えてるでしょうから。
それからディータは軽く溜め息を吐いてから国主に少しだけ行くのを待たせる。
そしてトウカに声をかけ、家から溜め込んでいる晶石を持って来て欲しいと頼む。
「良いの? トウイチロウが使うんじゃないの?」
「良いのよ。どうせ足りなければ取りに行くでしょうから。何よりあんなに家に有ったって使い道が無いでしょう」
「うんわかった。じゃあトウカひとりじゃ大変だからおさるさん達も手伝って」
「「「「ウキ? ウキィー」」」」
「ならメェメェも手伝うですよ」
トウカはピンクサル達とメェメェを連れて家に戻る。それを見送ってからディータは再び国主へと向き直り。
「今晶石を持ってくるわ。ここじゃそんなに使い道がないから持っていくと良いわ」
「いやしかし」
「必要になるでしょう。荒れた地を治すのにだって外じゃ自然には治らないから」
ディータの言葉に国主は黙って頭を下げた。
☆★☆★☆
「ただいま帰った」
「にゃーん」(帰ったのー)
「ウキキ……」(メシにありつけなかった)
暫くすると統一郎達が空から木々の穴から降り立った。その両腕には大きな魚を掲げながら。
「早かったわね。って言うかそれ魔獣よね。どうしたの?」
「あっ! トウイチロウお帰りなさい。虎丸お帰り。サルバトールもお帰り」
「にゃーん」(ただいまなのー)
「ウキッー!」(その名で呼ばないでくれ!)
トラさんは自分の肩から降りるとトウカへと駆け寄る。
ピンクサル、お前サルバトールだったのか。わからんかった。は、トウカに名前を呼ぶなと抗議している。いい加減諦めの悪い奴だ。
みんなただいま。これか? 川下ってた先に本物の海があってな。海面すれすれを飛んでたら襲ってきた。そんで調べてみたら食べれるやつだって書いてあるし。サルバトールが「腹へった! メシ早く食わせろ!」と、うるさくてな。クエに似てるし、これでいいかと思って持ってきた。そんでお客さんは?
帰ってくれば国主さん達や捕縛していた奴らも居なくなっていたことに気が付いていた自分は、知ってそうなディータに聞く。
「あの人達や縛った人達を引っ張りながら帰ったわよ。騒動が収まってもすぐに国が建て直す分けじゃないでしょうし。またここへ直ぐ来れるかどうかも分からないからって」
……うんそうか。ならいいや。
「それで。きちんと無事で帰ってきたってことは、あんたの方はきっちりと終わらせてきたんでしょうね?」
なんのことだ? 自分は新しい術を試しながら、食材を取りに行ってきただけだぞ。
自分は空とぼけてディータの質問を躱す。
何しろ何処へ行くとか。何をしてくるとか言わずに出ていったのだ。想像するのは勝手と言うやつだな。
しかしそんな自分の答えに呆れた顔をしたディータは溜め息を盛大に吐き。
「ハァ~~~~~~。あんたがそうしたいならそうしとくわ。ああそれと、国主達はここには来ていなと言う事にしたそうよ」
よく分からんがお偉いさんは大変だな。それじゃあ自分はこいつを調理するからな。早くしないとうるさい奴らがいるからな。
自分はディータとの話しを切り上げ持っていた魚を台所へと持っていき下ろす。と、トウカが申し訳なさそうな顔でやって来て。
「……トウカおもてなしできなかった」
自分はトウカの頭に手を置こうとして魚臭いと思い手を戻す。そしてトウカの目線に合わせて。
トウカが相手にもてなす気持ちがあったのなら、きっと相手はその行為事態は感じてくれているよ。それともトウカは相手にもてなす気持ちは無かったか?
「ううん。トウカもてなそうとした」
なら大丈夫さ。もしそれでもトウカが嫌だと思うのなら、次に来たときにもてなしてあげれば良いよ。
「次も来るの? すぐ来るの?」
どうだろうな? ディータも言っていたし。お偉いさんみたいだから、次に来るとしてもいつになるか。そうだな今度他の魚人の人が来たら、彼ら用の手土産でも渡せば届く事ができるかもな。
「……そっか。うん! トウカその時のためにお土産用意しとく!」
食べ物は止しといた方が良いぞ。いつ来るか分からないからな。
「うん! わかった!」
それじゃあ料理を作るか。この魚、鍋にすればいいかな? あとは煮る焼くしか思い付かないし。
「なに作るの?」
うーんそうだな。鍋にしよう。トウカ手伝ってくれるか?
「うん! トウカお手伝いする!」
トウカは両手を上げて意思表示をする。
そんなトウカに自分は必要な準備を頼むと。大きな魚を解体していく。
「「「「ウキキィー?」」」」(うまいメシはまだか?)
もうちょっとだ。今日は鍋にするからなもう少しだけ遊んでてくれ。
食事の催促に来たピンクサル達に今作っているメニューを伝えると、元気のいい返事をして遊具場へと走っていく。
「はーいトウイチロウ。お鍋とお野菜持ってきたよ」
ありがとう。出汁を取って入れて煮れば完成かな。そうだ。〆は何がいいかな。米を入れて雑炊か。うどんでもいいな。トウカどっちがいい?
「うーとね、両方有った方がみんな喜ぶと思うよ」
そうだな。ピンクサル達のことだ。あとで二つ楽しめるなんて知ったら暴れないとも限らないからな。二つ用意しておこう。
そうしてふたつ分用意してから鍋を煮たたせ暫し待つ。
その間暇だから自分のステータスを確認しておく。これは自分がなにか行動を起こしたときに、更新されていないかも兼ねてやってきたことだ。
そしてステータス画面を開いたときにある項目が更新されていた事に気がつく。
名前:酒匂統一郎
性別:男 年齢:16(↑1)
種族:人間 固有特性:渡界者
加護:光獣『?????』
状態:感慨深さを感じています。
Lv:18
基本能力値
筋力:18
耐久:17
知力:24
精神:23
敏捷:65
器用:21
魔力:88
幸運:17
EXP:0
習得技
戦技: 総数:9
【弓術】Lv:1 【投擲術】Lv:1
【隠蔽】(戦)Lv:6(↑5) 【追跡】(戦)Lv:1
【戦略】Lv:6(↑4) 【戦術】Lv:8(↑3)
【槍術】Lv:1 【盾術】Lv:1
【体術】Lv:10
魔技:総数:4
【魔力操作】Lv:10(↑1) 【霊術式】Lv:10(↑5)
【魔力譲渡】Lv:2(↑1) 【精術式】Lv:10(↑3 )
工技:総数: 20
【生存技術】Lv:10(↑1) 【工作技術】Lv:10(↑2)
【接合加工】Lv:10(↑2) 【石材加工】Lv:10(↑2)
【木材加工】Lv:10(↑2) 【建築技術】Lv:10(↑4)
【繊維加工】Lv:10(↑4) 【織物加工】Lv:10(↑4)
【抽出加工】Lv:10(↑2) 【調薬加工】Lv:7
【武器加工】Lv:6 【防具加工】Lv:10(↑4)
【道具加工】Lv:10(↑4) 【短縮加工】Lv:10(↑3)
【成熟加工】Lv:10 【土木技術】Lv:10(↑4)
【陣地作成】Lv:10(↑4) 【製粉加工】Lv:7
【晶石加工】Lv:10(↑4) 【術装具作成】Lv:10 (↑4)
教技:総数:5
【セフィリア言語】Lv:9 【教育】Lv:7(↑1)
【礼節】Lv:5 【交渉】Lv:6(↑2)
【手当て】Lv:5
特技: 総数:16
【万物の瞳】 【採取師】Lv:10(↑4)
【罠師】Lv:6 【地図記録】
【操獣術】Lv:6(↑1) 【釣り師】Lv:9(↑3)
【料理人】Lv:10(↑3) 【生産者】Lv:9(↑2)
【逃走者】Lv:10(↑7) 【救命者】Lv:1
【戦闘指揮者】Lv:5(↑4) 【黄泉還り】
【神秘眼】 【復讐者】Lv:1
【強健】Lv:10(↑5) 【並列思考】Lv:10(↑8)
装備品
Tシャツ ジーパンモドキ 下着類一式 木の靴
「…………そっか。もうそんなに立つのか」
この世界に来てから一年。と、思う。少なくとも自分が毎日欠かさずこのステータス画面を見ている限り変わることがなかった年齢の数値に初めて加算された。
あの日。あの場所に降り立ったときから自分がこの世界に生まれたとするなら。今日が自分の誕生日となるのだろう。
「どうしたのトウイチロウ? なんか嬉しそうだよ」
「いやなに。激動な一年だったなと思ってね。ちっとものんびりとした日々じゃなかったな」
自分が過ごしてきた一年間を振り替えると、あっと言うまな日々だったと感じられた。
過ごしてきた日々が嫌だと言うわけではない。その日その日を精一杯に生きてきてきた。
地球にも帰りたいと言う気持ちがないわけではない。それ以上にいま自分がこの地に根を張り始めていることに、喜びと楽しさが在るのもまた事実だからだ。
「そうなの? じゃあゆっくりしていきたいね!」
「ああ。ゆっくりと、のんびりとした日々が過ごせるようにしていきたいな。さあ鍋の方もいいだろう。食事にしようか」
「「「「ウキィ!? ウッキィー!」」」」(メシか!? メシができたのか!)
「もう食事なの? 今日は早いわね」
「美味しそうな匂いがするですよ。今日はなんですよ?」
「にゃーん❤」(お魚なのー❤)
少しずつ変わっていく日々。
しかしそれがひとりではなく。誰かと共にあるのであれば多少の苦があろうとも共に乗りきっていける気がーーー
「ぐわあ? くわあぁぁ」(食事時だったか? 先程の光で今日はやる気があると思ってきたが)
「ウモモ」(なに食べてからやればいい。)
「ぐわぁ」(ではそうするか)
土竜とランボが笑顔で川原へ降りてくる。
自分はそれを見て即座に加護を『風獣の加護』に変え空へと飛び立とうとしたが。それを見逃さない土竜とランボに叩き落とされた。
「ぐわあ?」(何処へいく?)
「ウモッ」(食事が終わったら鍛練だ)
「嫌だあああああああ! だれかたすけてえええええ!」
泣き叫び助けを乞うが。
「ぷりぷりとしたお肉ね。美味しいわ」
「お汁が染みたお野菜も美味しいの」
「ここはやりがいのある職場ですよ。それと同じくらい食事が楽しみですよ」
「にゃーん❤」(おいしいのー❤)
「「「「ガツガツ。ガツガツ」」」」
誰もこちらを見ようともしない。
誰も自分のことなどどうでも良いように食事を続けていた。
「くそっおおおお! お前ら人が困ってるんだから助けろよおおおお! 手を差し伸べてくれよおおおお!」
限られたモノ以外は足を踏み入れることすら躊躇われる聖なる土地に、大人気もなく泣き叫ぶ統一郎の声がこだました。
「ウキウッキー!」(今日も元気にメシがウマイ!)




