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No.354





 No.354




 首都島イ・ラプセル。その城下町にて。


 城下町に魔獣が現れ既に数時間が経過していた。

 騎士隊と傭兵達の混合編成で無事な住民達の避難を急ピッチで行っていた。


 「まだ避難してない奴はいるか! いたら返事しろ!」

 「こっちに変異体の魔獣が出現! 応援を求む!」

 「やめてくれ! 来ないでくれ! まだ死にたくない! 死にたくないんだ!」

 「誰かこっちに来て手を貸してくれ! 魔獣が暴れたせいで建物内に取り残された奴がいるんだ!」

 「安心しろ! 助けてやるか! まず落ち着くんだ」


 しかしそれも難航していた。

 何処からも魔獣が出現してくるのに加え。騎士が魔獣に変貌したとの情報が飛び交い。住民達も誰を信じて良いのか分からない状態で行っているからだ。


 「クソッ。いったいこの国は今どうなってやがるんだ! おら! 救助の邪魔だ! 魔獣は引っ込んでろ!」


 悪態を付くのは彼らの陣頭指揮を率先して行っていたタチウオである。

 彼の手には既に武器はなく素手で魔獣を相手にしていた。

 そしてそんなタチウオに救援の部隊が到着する。


 「タチウオ! (これ)を使え!」


 到着した中にいたサンマがタチウオの刀を渡す。


 「サンマの(あに)ぃ! 俺の刀! 助かったぜ! 武器(エモノ)も手もどうしても足りなくなっていたんだ。そういやぁ大将やギンザメの(あに)ぃは?」


 サンマと自分達の処の騎士団、その数人の仲間しかいないことにタチウオが聞くと。


 「ギンザメは途中で負傷して後方指揮に当たらせている。大将は呼び声があってトビに向かわせたが、それ以降連絡がない。多分向こうも交戦状態だ」

 「ほんとかよ!? かなり不味いんじゃないのか!?」


 サンマの状況報告にタチウオは状況の悪さを察して言う。


 「不味いなんてものじゃない。こちらが後手の上に、向こうは準備万端で攻めてきている。それでも泣き言を言わずやるしかない。タチウオ。民の避難はどれだけ出来ている?」


 それでも自分達のやるべき事をやるしかないとサンマは言い、タチウオの方の状況を聞く。


 「正確な数はわかんね。多分半分、いやそれより少ない数しかまだ避難させられてねぇ筈だ。一応港に向かえと言っといたが、そっちに行ってねえとなると余計にわかんね」

 「くっ! もしかしたらこの島の避難場所に向かった者が要るかもしれん。誰か! この島の避難場所を知るものは要るか!」


 サンマが周りにいる者達に声を掛ける。すると数人知る者が現れた。サンマはその者達に手分けして避難場所に向かい。そこに人がいるならば港に向かうようにと告げる。


 「(やっこ)さん達は何がしたいんだ!? こんな魔獣だらけにしてよ!」


 タチウオは襲いかかってくる魔獣を自身の愛刀でで斬り伏せる。


 「良くは知らんが、理想郷を作ると言っていたぞ」


 サンマも近場から襲ってくる魔獣を斬り伏せながらタチウオの言葉に答える。


 「はあ!? 理想郷!? これがか!? どこがだよ!?」

 「だから知らんと言っている! それにこの倒している魔獣も、もしかしたら民かも知れん!」

 「サンマの(あに)ぃはもしかして騎士が魔獣に変わった理由をしてんのか!?」

 「……水天宮(向こう)でも襲撃があって俺は大将の下へ向かった。到着した時には大将は既に居なかったが、その時に『龍人会』のひとり『坊』と相対した」


 その時の『坊』ことワラスボとの話したことをタチウオに話すが。


 「なんだよそれ!? 結局何も分かってないってことかよ!」

 「悪かったな! 行くまでにギンザメのアホが起こした事に巻き込まれ。行ったら行ったで議会場は血の海だぞ! 俺だって混乱することはあるんだ!」


 互いに罵るような会話をしながらも襲ってくる魔獣を倒していく二人。

 そんな戦っている最中に城の方から、大きな音と砂塵が巻き上がるのが見えた。

 サンマはそれを見てまさかと言う思いに駆られた。

 そしてそれを証明するかのように、城の方から轟音を立てながら突き進む()()が向かってくる。

 それを見たサンマは直ぐ様ここにいる者達に指示を出す。


 「全員退避だ! 港まで退避しろ!」

 「何いってんだ(あに)ぃ!? まだ民が残ってるかもしれないんだぞ!?」

 「わかっている! だがあれが城から出てきたと在っては、救助するどころではない!」

 「何が来るってんだ……!?」

 「突撃槍大蜘蛛(ランスタランチュア)だ……」

 「はあ!? 何で大型種が城んなかにいんだよ!?」


 サンマの言葉に信じられないと言うタチウオ。


 「奴等が大型種を捕まえ、それを利用した。そしてその大型種がご執心なのがギンザメだ」

 「いや意味わかんねえし! 何で大型種の魔獣が、ギンザメの(あに)ぃを狙ってんだよ!?」

 「その大型種と一体化してるのが、ギンザメが声掛した女と言うわけだ」

 「あーなんとなくわかった。つまりいつもの(あに)ぃの痴情のもつれか」

 「それが今回は特に最悪で現れていると言うことだ。無駄口を叩いてる前に出来るだけ民を避難させつつ、俺たちも引くぞ!」

 「勘弁してほしいぜ……」


 嘆きながらもタチウオ達は前線から後退していく。

 砂塵を巻き上げながら迷走しているモノが、確実にこちらに近寄りつつあることを遠目に見ながら。




 その時、空から突然光の雨が降りだした。




 「なんだこれは……?」

 「おいおい今度は一体なんだってんだよ!?」


 混乱する人々。そんな民を守りながら、彼らは必死に港にまで後退していく。



 ☆★☆★☆




 港湾区。大小様々な船が並ぶ港にて。


 「慌てず! ゆっくりと! 前の人が進み次第、船に乗り込んでください! 大丈夫です! 船は皆さんが乗船できるだけ数があります! ですから! 慌てず! ゆっくりとお願いします!」


 騎士のひとりが避難してくる住民に大きな声をあげ説明する。


 「いったい何が起きてるんだ!?」

 「何で魔獣が町の中にいるの!?」

 「騎士は何をしていたんだ!?」


 しかし住民からは混乱と避難の声が上がり、思うように避難誘導が出来なかった。

 だが騎士達は騒ぐ住民達をなだめながら船に誘導し続けた。


 「ギンザメ副将。乗員数に達した船がありますが、出港させますか?」

 「どれだけの人数が来るかわからん。出来るだけ乗せた後、沖に出て待機させろ。ただし有事の際は、船員判断で南方領へ向かうように通達しろ。向こうに受け入れ準備がしてあるとも伝え忘れるな」

 「は! 有事の際は南方領へ。受け入れ準備があると。了解しました」


 ギンザメから指示を受けた騎士は出港可能な船に向かっていった。


 「……これはもしかしたら船が足らんかもしれないな」


 港に来ている住民数を見てギンザメはひとり愚痴る。

 そして住宅街の方を見る石造りの町とは言え。火の手が上がるように煙が上がっている。


 「ここの騎士と連携が取れれば、町にいる魔獣くらいならなんとか為った筈だが……。その騎士達が魔獣に変わる可能性があるか。……手詰まりだな」


 歯がゆい思いしながらもギンザメは次々と来る住民達を今いる騎士達で避難誘導をし続けた。


 「リミー! ケミー!」


 そんな中、狼の獣頭人族(ワイルド・ヘッド)の少年が、大きな声を出して人の波を掻き分けて行くのが見えた。


 「そこの少年何をしている! 列を乱さず並ぶんだ!」

 「ご、ごめんなさい騎士さん。でもリミーとケミーがいなくなってるんだ! せっかくタチウオのおじさんが、ここに行けって言ってくれたのに。どっかではぐれたみたいで!」


 ギンザメは少年の落ち着かせ。ここではぐれたのかを聞く。


 「わかんない。いつもみんなでいる場所まで戻ってから、残ってたみんなを連れてここまで来たんだけど。他のみんなはいるのに二人だけいないんだ!」

 「落ち着け少年。その二人の名前と歳、種族。それと何かすぐに分かる特徴があるか?」


 狼の少年はギンザメに言われて自分を落ち着かせるように息を吐く。


 「はぐれたのはリミーとケミー。歳は十の猫の獣人族ワイルドの双子の姉妹。特徴は二人ともよく顔が似てることと。姉のリミーは右の耳に赤いリボンを。妹のケミーは左の耳に青いリボンをしてる」

 「上出来だ。誰か! 誰かこの中に歳は十の猫の獣頭人族(ワイルド)の双子の姉妹! 名をリミーとケミーと言う。姉のリミーは右耳に赤いリボンを! 妹のケミーは左耳に青いリボンをしてる! 誰か! 知るものはいないか!」


 大きな声を出し避難してきた住民に聞くギンザメ。

 だが中々知ると言うものが現れなかったが、ひとり声を出す者がいた。


 「それらしい双子なら、住宅区の方からこちらに向かってくるのをさっき見たぞ!」

 「住宅区か……。情報感謝する! どうだ? 少年達は住宅区の方から来たか?」

 「俺たちがいつもいるのは市場の方だから……近いと言えば近いけど。来るときはそっちは通ってきてないんだ」


 少年の言葉に考えるギンザメ。

 普段は市場の方にいて、見たのが住宅区。そこは来る時に通ってきてないと言うことは、はぐれた時に何かしらの理由で、そちらを通るはめに為ったと考えるべきか…。不味いな。いま住宅区が一番魔獣の出現率が高い。サンマ達がそちらに向かっているが、上手く広い住宅区から見つけられれば良いが。

 そう考えた時に城の方から大きな音が立つ。


 「何事だっ!?」

 「わかりません! 突然城の方から音がしたとしか…」


 状況を把握しようと周りにいる騎士達にも声を掛けるが。港湾区からでは音がした方角を見ることができない。


 「いったい先程の音は何が……まさかッ!?」


 ギンザメは先程の音に心当たりが出た。そして周りにいる住民たちを見る。


 「……もし彼女であれば、俺を狙ってくるか」


 そしてギンザメは少年の方を向き。


 「少年。その少女の捜索は俺がしてこよう。君は他にいる者達と共に船に乗船してるんだ」


 大きな声を張り上げる。


 「各騎士達に伝令! これより俺は一時現場を離れ、民の捜索へと向かう! 出港可能な船があり次第。先程指示した通りにしろ! サンマ、タチウオ両副将が戻った場合はそちらの指示に従え! ただし! 緊急時の場合は民の安全を第一としろ! その場合我々を置いていくことも厭うな! いいな!」

 「ギンザメ副将、この場で指示を行う者がいなくなる方がーーー」


 ギンザメが現場指揮をしなくなる方が問題だと言う騎士。


 「それぐらいでどうにかなるようには俺達はお前達を鍛えていない。鍛練時通りに速やかに。迅速に。民の安全を確保しつつ安全領域まで離脱する。それをやるだけだ良いな。復唱はどうした!」

 「は、はい! 一時ギンザメ副将の現場離脱を承認。サンマ、タチウオ両副将が戻った場合は指示に従う。ただし副将達が戻らない場合は、現場判断で民の安全を確保しつつ安全領域までの離脱をする。了解しました」


 騎士の復唱を聞き。後は頼むと走り出そうとしたところ。住宅区の方から大きな音と砂塵が舞うのが見えた。砂塵は縦横無尽上がった後一度止まり。再び横に煙を上げた後はそこで止まった。

 そして一度止まった場所から、空へと光の術の様なものが放たれ。直ぐにその光の術の効果か、島全体に光の雨が降りだした。


 「何があった!? あの土煙はカゴメ殿として、この術は……? 考えているより向かった方が早いか!」


 そう言い。ギンザメは現場を騎士達に任せ。光の術が放たれた場所に向かうのだった。














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