No.315
No.315
「ハァ、ハァ、ハァ…………」
統一郎は息を荒げ、龍の息の余波を幾らか受け。体のあちこちに火傷の様な痕が在った。
ダァーファは今の一撃を避けるか。もしくは相殺するか。何かしらの事をするとは思っていたが、それを受け止め。返し技をする筈のモノをこちらに返さず。自分にダメージを受けることを承知で、受けたら力を上空へと反らした事に驚愕していた。
「……何故、今のをこちらに返さなかった?」
「ハァ、ハァ、ハァ、い、言ったでしょう。それをしたら殺してしまうって。あ、それはこっちか。まったく余計な付加はするなって言ったのに」
統一郎が右腕の籠手に話しかけるようにする仕草を見て、ダァーファはあの術装具には何かが宿っているものと思い当たった。
こちらは全力を出しきったと言うのに、向こうは手加減の上、まだ力を出しきっていなかった事に驚嘆した。
国ではそれなりにもてはやされていたが、世界は広く。自分などはまだまだな存在だと思うと、自然と笑いが込み上げてきた。
「くっははははは!! こちらの敗けだ! もう手はない。メェメェ殿、今度こそ彼に治療を」
今度こそ空白地帯にいるメェメェに治療をするように声を掛ける。
メェメェは目を輝かせて「もういいですよ? もう少し怪我を負ってからでも、メェメェはまったく問題ないですよ」と、治療する者とは思えない発言をしていた。
そんなメェメェの言葉に統一郎は叫びながら。
「クソッ! 来るな! この紫の悪魔が! また自分を実験台にする気だな! 頑張れ自分! ここから逃げ出すんだ!」
這いずりながらメェメェから遠く離れようとしていた。
「大丈夫ですよ。傷はキチッと治すですよ。その過程でちょっと効能の違う薬を使うだけですよ」
「それを実験台と言うんだよ! どうせあれだろう。変な副作用がまたあるんだろ!?」
「………………」
「何で無言なんだよ!?」
「だってこの薬はメェメェ初めて使うですよ。副作用があるかもしれないですよ。ないかもしれないですよ。だから断定して言えないですよ。だから実験するですよ」
「開き直りやがったぞこいつ!?」
「さあ捕まえたですよ。お薬の時間ですよ。あっ牛若さん、そちらの倒れている人はそっちに運んどいてほしいですよ」
「……ウモッ」
「離せこのやろぉおお! イヤだぁぁあああ!!」
ここでは最早日常と化したやり取りを見て、ダァーファはやはり評議委員達に似ているなと思った。
「………ここではいつものか?」
ジュピテールを再び体に納めてから、空白地帯にいるディータの側に行き聞く。
「………最近じゃあ、あんな感じかしら」
「………そうか。賑やかだな、ここは」
先程までの命のやり取りなど、何処か遠くへ吹き飛んでしまったかのように感じるダァーファであった。
それからダァーファは世間話でもするかのようにディータへと再び話しかける。
「そうだディータ。聞きたいことがあるのだが」
ディータ達空白地帯に居たもの達は食事を取り。統一郎達のやり取りを観戦しながらまったりと過ごしている。
そんな気の緩んでいたところにダァーファからの質問。ディータは何だろうと思いながら返事をする。
「んーなに?」
「彼との所帯の話は嘘であろう。そこのところも含めて、もう一度きちんと説明をしなさい」
その瞬間ディータは顔が真っ青になり、彼らがどうして争っていたのかを思い出した。
そして慌てて立ち上がり逃げ出そうとするが、その肩をガッシリと掴む者がいて。そちらを振り向くと、笑顔でないダァーファがにこやかにディータを見ていた。
「何処へ行く、ディータ? 説明はまだであろう?」
ディータは誰かに助けを求めようと視線をさ迷わすが、トウカはいつの間にか虎丸と共に昼寝をしている。ピンクサル達一同は起きてはいるが弁護を頼めるような相手ではない。
もちろんグレゴールを連れて帰ってきた牛若も同じであった。
弁護してくれそうな統一郎もメェメェに治療をされていてこちらに来れない。
現在のディータは孤立無援の状況であった。
「……えっと、ダァーファ大好きよ❤」
エヘッと笑顔で誤魔化そうとするディータ。
しかしダァーファの顔は変わることなく。
「いつもであれば嬉しい言葉であるが、今回ばかりはそれで誤魔化されるわけにはいかない。さあディータ。今度こそ誤魔化さず説明をなさい」
その後ディータは正座をさせられ半泣きになりながら、ダァーファに前回聖地来るまでの出来事と来てからの出来事を話し。
そして帰ってから再びこちらに来て今日までに起こった出来事を話した。
ダァーファはディータの説明を最後まで聞き。先程説明したときの違いや黙っていたこと。統一郎を利用し、自分達を追い払おうとしたことなどを到頭と諭し語っていく。
「…………これが嫌だったから誤魔化したのに………」
「反省の色が見られないのかディータ? 嘘や誤魔化さすと言うのはーーー」
「ああもうごめんなさい! 私が悪かったからもうお説教はやめてーー!!」
聖地の空にディータの声がこだまする。
「ウキキ?」(次回からはいつも通りかな?)
そんなやり取りを見ながら、ピンクサルが鍋に中身がまだ残ってないか。お玉で掬い確認しながら、そんなことを呟いていた。




