No.311
No.311
グレゴールが自身の身の丈ほどある。術装具でもあった戦槌に精力を込めると。打撃部分が茶色に幾らか輝き。歌うように震える振動音が聞こえてくる。
それを統一郎に向かい振るってくるが、そんな物に当たりたくないと統一郎は避ける。
躱された戦槌はそのまま地面に振り落とされ叩きつけられる。叩きつけられた地面は爆発したように弾け飛ぶ。
その様子に唖然として見る統一郎に、今度は天より雷が降り落ちる。
これも寸前で躱す事が出来たが、統一郎は戦々恐々の心であった。
どの一撃も統一郎を確実に殺しに来ているであろう一撃であった。
冷や汗が滴、どうにか誤解を解きたいと考える統一郎に、二人は間髪入れずに互いに連携をして統一郎に襲いかかる。
統一郎はそんな必滅な攻撃を避け、防御することだけを必死にやり続けた。
「もうやめて! バトル展開な話しになっちゃうからもうやめて! いつものゆるい感じでいこうよ!」
「何を訳の分からんことを叫んでる!」
「私たちに勝てない者にディータを娶る資格はない。最も勝てたところで嫁がせる気もさらさら無い!」
逃げながらの統一郎の必死な訴えも戦場に空しく響くだけだった。
「チクショウ! 地の文が悪いんだ! いつもと違うからこんなこと、うおっとッ!? 気も緩める暇もね!」
残念なから今回はこんな感じで行く。諦めて二人をどうにか攻略することを考えることをお勧めする。
さてそろそろメタな発言は控え真面目に行こう。
ダァーファ、グレゴールは実際には統一郎を殺すつもりはないが、それなりの攻撃はしている。それを統一郎が全て躱していることに、二人は驚愕の心境であった。
「くっくっくっ……」
自然と口から笑いが込み上げてくるグレゴール。
「なぁ、ダァーファよ。まだ本気じゃないとは言え。俺たちの攻撃をここまで避け続けられる奴は、いつ以来だ?」
「少なくとも二人になる以前には居なかったと記憶しているな」
「そうか。三人ならあの小僧を押しきれたと思うか?」
「どうかな。向こうもまだ本気ではない。こっちらに一切の攻撃をしてこないのがいい証拠だ」
「ッチ。年寄りだからって舐めやがって」
「私は年寄りとは思っておらんよ。それともお主はもう息が上がったか、見学でもしているか?」
「ディータの婿になるかもしれん奴を他人に見定めさせるか。丁度体が暖まってきたところだ」
「なら戦い方を変えるぞ。力で押しきれん相手だ。経験と技を持って相手を翻弄して捕まえるぞ」
「おうさぁ!」
グレゴールは戦槌を打撃部分から反対側の突起部分を前に出す。
それを振り上げ地面へと突き刺す。
統一郎は自分から離れていて要るのに何をするつもりなんだと思い。何が起きてもいいように身構えると、自分の足元が不自然に揺れ。地面の一部が突然隆起して錐状と成り、統一郎へと襲いかかってきた。
「のわぁ!? アーススパイクか!?」
統一郎はバク転をしなから後方へ避ける。
「逃さん!」
グレゴールが再度戦槌を振り上げ、再び地面へと突き刺すと。統一郎を追うように大地の錐が次々と現れる。
「『我は乞い願い奉る。天に住みし雷精よ。その持てる力、我と共に力を合わせーーー』」
「げっ!? ちょっとなに唱えてんの!? やめて! そんな本気見せないで! 統一郎ちゃん死んじゃうから!」
先程までとは違い。長い術文を唱えているダァーファを目撃した統一郎は、撃たないでくれとダァーファに訴えるが、ダァーファはニヤリと笑みを浮かべただけで術文を唱え続ける。
「ドSか!? ドSかあんたはーーーッ!?」
グレゴールの攻撃から逃げ回っていた統一郎は、いつの間にか自分の周りが隆起した地面で挟み込まれていることに気がついた。
「しまっ!? 誘い込まれーーー」
「気づくのが少し遅かったな小僧! これで終いだ! ダァーファ!」
グレゴールが力強く戦槌を地面に叩き込むと、統一郎を囲む大地の檻が完成した。
そしてグレゴールは即座にダァーファへと合図を送り。頷いたダァーファは最後の術文を唱え術を完成させる。
「『千の雷束なりて、一閃の雷撃と成り。私のディータに付く悪い虫を、貫き屠り殺せ!』」
「術文がおっかねえよ!? マジ殺す気か!?」
大地の檻の中から統一郎はダァーファの術文を聞き。その意味が自分を殺す気満々だったので、思わず突っ込みをいれた。
そしてそんな突っ込みを返してくれる者を待つこと無く。統一郎の頭上にバチバチと稲光が走りだした。その光が次第に多くなり。限界を越え弾けるように大きな轟音を立て、大地の檻の中に居る統一郎へと雷が落ちた。
落ちた場所にはもうもうと煙が立ち込める。
煙が晴れず統一郎の安否は確認できないが、確実にダメージを負ったと確信した。
「賢獣メェメェ殿は薬師と言っておられたな。先程の術は相手を殺すまでは力を込めておらん。今すぐ治療せねば死に至るぞ!」
空白地帯でこちらを見ていたメェメェに、統一郎の治療をするように指示を出すが、当のメェメェはまったく動きがない。動かないで統一郎が先程作っていた鍋をつつきながら「はぁ~美味しいですよ❤」と、まったりとしている。
「偽りを言っているつもりはないぞ。彼がーーー」
「あーダァーファ……」
空白地帯に居る者達が誰も慌てる様子がないことに、不思議の思いながらもダァーファは再度統一郎に治療を施すように呼び掛けるが。それの声をディータが遮り。
「あの程度であいつが死ぬ筈もないし。手傷を負ってる筈もないわよ。どうせ死んだフリしてやり過ごそうとか考えるんじゃないの? ねぇトウカ」
「ハフハフ。うにゅ? いまの? あれなら竜老おじいちゃんの方が速くて重いよ」
「何を言ってーーー」
「ダァーファ!」
二人の少女の言葉に理解できなかったダァーファ。
その意味を訪ねようとした時に、グレゴールから鋭い声が放たれる。
振り返りグレゴールに何だと確認しようとした時に、もうもうと立ち込めていた煙の中から黄色に輝く菱形の楯が、幾枚も重なるように浮かんでいたのが見えた。
そして煙の中から統一郎の声が聞こえてくる。
「死んだフリとか考えてないから。今の雷でちょっと感電して動けなかっただけですから。もう少しみんな心配してくれても良いと思うんですがね?」
煙が晴れた中から無傷の統一郎が姿を現す。
それを見てダァーファもグレゴールも信じられないと言う表情をする。
「日頃から竜老さんの電撃食らって耐性がなかったら、感電死は免れなかったんじゃないか?」
「普通はどっちを食らったって死んでるわよ。あんただけがおかしいだけよ」
「ひどい言われようだ……。誰のせいでこんな風になってると思ってるんだよ」
「美人で頭脳明晰。気立てが良くて将来有望な私よ」
「自画自賛もそこまで来ると呆れるを通り越すね」
統一郎は元凶であるディータに関しては、あとで仕置きすれば良いと考え。とりあえず今は目の前に居るダァーファとグレゴールに目を向ける。
「温厚で有名な統一郎さんもいい加減腹立ってきましたよ。誤解を解くとか話を聞かせるとかの前に、この孫バカなじいさんらを一発ぶん殴ることに決めました。ええ決めましたとも」
話し合いをするためにも、怪我を負わないよう負わせないよう考えていた統一郎は、その考えをやめた。
そして体全身に魔力を満たし鬼紋闘法術を行使する。
左腕。両足に回路の様な紋様が浮かび上がる。
そして最後に右腕が銀色の竜を模した籠手に変化した。
「じゃあ反撃させて貰いますからね。今度は年寄りだからって甘く見ませんから、そのつもりで居ろよ、こんちくしょうが! マジ今の痛かったんだからな!」
涙目でダァーファ達に啖呵を切り、反撃の狼煙を上げた。




