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No.194





 No.194




 「……そ、それは一体……? あ、いえ、言葉の意味が分からないと言うわけでなく……」

 「何故内乱が起こるか、であろう」


 カツヲの言葉に頷く。

 思案するような顔をしてからカツヲは語る。


 「我が国は御館様、国主の他に盟主様と呼ばれる御方達が国の大事を担っておられる」


 盟主。それはカツヲと初めて会った時に出てきた言葉だな。確かオルテガさんの国やティータの国でも導師だか、祭主だか、導き手だかの呼び名があって国の運営に携わってるとか。呼び名は違えど国での役割はみな同じってことか?

 しかし改めて思うが同じ意味を持つのに、何故こうも呼び名が違う?

 地球でもあるから言葉の違いと思えばそうなんだが、それだけじゃないように感じる時がある。

 例えば自分のステータスには魔力と記されて要るからそう呼んでいるが、こちらの人だと魔力が精力(マイン)と呼ばれている。

 意味合いを言えば話が通じるが、そのままで通せば「なんだそれは?」と言われる。

 話が通じる部分もあるのに、別々の言葉があるものだと途端にそうなる。

 まるでこの世界は別々の世界との繋ぎ合わせで出来ているようなーーー


 「今の代の盟主様だが、現在御高齢の御方で退陣されても後引き継ぐ御方もいらっしゃる故。その辺の心配がないのだが」


 おっと話が進んでいたか、余所事の考えは後にしよう。

 国の担う方で高齢、跡継ぎは要る、となると。


 「跡目争いですか?」

 「うむ。まだ正式には決まっておられないんだが、あの御方以外には居られん。何しろ他の候補の御方達とその御方では力の差が天と地ほどに違う」

 「力の差、と言うことは何かしらの能力を扱う役職と言うことですか?」


 それとも普通に政治力、外交とかの能力か?


 「盟主様のお役目は国土を安定させ、国を豊穣へと導く貴きお役目だ」


 ん? それは首相とかそう言う仕事をする人か? そうなると国主が象徴的な人?

 聞けば国主の方が政治・経済を担う方で良いそうだ。

 それで盟主の方は、うーん何て言えば良いんだ。

 例えば水不足の時は術で雨を降らせ、水不足を解消させたり。

 外敵、この場合は大型の魔獣だな。それを退治したり追い返したりと色々国のために働いている人のようだ。便利屋みたいなことをしているようだ。

 ただもちろん小さな事柄だったら国の騎士、ああカツヲのところは兵士の事を騎士と言うそうなんだが。その人達が動いている。

 日本で言うところの自衛官みたいな存在らしい。

 それで盟主って人は大規模な事情が働いたとき動く役割の人。

 カツヲの国では盟主は名誉職であり象徴でもある役職とのことだ。

 そんな役職だったら権力とか無いんじゃないかと聞けば。国を良くするためであるならば、政治に幾らか関わっても良いそうなんだが。何でもかんでもは駄目だそうだ。

 しかし盟主をやるような人は聖人君子の様な人が多いらしく。問題無く事案が通るそうなんだ。

 その殆どが、あそこの道が壊れているから直してほしいとか。魔獣の襲撃で城壁が壊れたから直してほしいとか。どちらにしろやらなければ行けないようなことばかりだからだ。


 「次期盟主様へと為られるであろう御方は、小民の出であれど。御館様に認められるほどの知識に富んでおり。他者に対しても知崇礼卑の心を持つ御方だ」


 このあと盟主を選ぶための候補者選びの話とか。盟主になるためにはどうすれば良いのかとかの話があるが、自分には関係無さそうなので割愛する。


 「では小民の出と言うだけで、一部の貴族の連中が意を唱えていると」

 「……うむ」


 さらに詳しく聞けば良くある話だった。

 筆頭の盟主候補の子は庶民の出。

 そこで身分が低い者がとか、卑しい身の出とかそう言った出自気にする奴等が出てきた。

 大体国の国主、カツヲの所は王族らしいんだが。その人達が認め王族の一員として迎え入れたと言っている。

 それを認めないのは、国に逆らっているのも同じじゃないかと言いたくなる。

 まあこの辺も理由があるらしいだが、盟主を選ぶのは基本。貴族連中が押した人物を選び立てるのが通例なんだそうだ。

 だけど今回の候補の子は、そんな貴族連中が押した子達より遥かに優れた才能を持っていた。

 はっきり言って逆立ちしても勝てるレベルじゃないそうだ。

 にもかかわらず、まだグズグズと言っているのは。その自分達の押した子が盟主となれば、自分達の発言力が高まるからみたいだ。

 こんな子を探し盟主にしたんだ自分等凄いだろう。だから自分達の言うこと聞けよ、みたいな。

 馬鹿じゃねぇかと言いたくなる。政に携わろうとする人間がプライドを持って仕事をするのは良い事だが。それが自己顕示欲に取り憑かれ始めたら終わりだ。その辺をカツヲに言ったら。


 「……我が国の恥を晒すようで面目も無い……」


 素直に頭を下げた。こう言ったことを普通隠すものだと思うのに、自分に話した事にも不思議に思った。


 「話の前後になってしまったが、本来はこちらの話をしてからトウイチロウ殿を誘うつもりであった。しかし逸る気持ちもあってな」


 この話を出されてもこちらは首を縦には振らなかったろうから、なんもとも言えないな。

 それでなんで内乱になりそうなのかと言う話なんだけど。

 その件の盟主候補の子が権力に酔いしれ、無茶苦茶な事をし始めたと言った噂が出てきた。

 その発端がカツヲが初めてここに来る切っ掛けとなった出来事だそうだが。その辺は自分としてもどうでも言い話だ。

 それで続きだが、誰が言ったかは分からない。本当に噂レベルのもの。

 しかもその候補の子を盟主候補から外せと言う声が、真しやかに囁き始めたことだった。

 そしてそれは次第に真実となり。貴族連中の間に二つの派閥が出来はじめた。

 ひとつは現候補の子を押す。カツヲを初めとした中級貴族や新貴族と呼ばれる連中の集まり。

 もうひとつは古くから要る大貴族と呼ばれる連中が中心となり現候補の子を降ろし。新しく別の候補の子を押す連中の集まり。

 今のところ、この二つが直ぐにどうこう為ると言うことはないそうだ。

 内乱と言うのも最悪の事態に備えてと言うことらしい。

 それを聞いて少し安心した。戦争なんか起こせば痛い目を見るのは全て国民だ。そんな事にならないで欲しいと思う。


 「ああ我もそう思っている」


 カツヲも心を痛め少しでも信頼出来る手勢が欲しくて来たのだろう。断ったのは申し訳なく思うが。


 「わかりました。内乱の手助けと言うのであればお断りしていましたが。それを防ぐ準備と言うのであればお手伝いします」


 だけど力くらいは貸すと言ったのだ。

 それが戦争の回避する手助ならばいくらでも貸そう。


 「おお! そうか! 忝ない!」


 カツヲは有りがたいと言い、再び頭を下げる。

 今回の話で内乱が起こるかもと言うのは驚いたが、それ以上にカツヲが貴族と言うのも驚いた。

 漫画や小説の貴族だと、自分の領地からほとんど出てこないイメージがあるけど。カツヲはフットワークが軽すぎないか? あと良く頭下げるし。偉い奴って頭下げなくねぇ?


 「なに、我は机にかじり事務処理をするより体を動かし、民の為に動いていた方が性に合っているのだ。それに我の頭ひとつで事が好転するのであれば幾らでも下げよう」


 はぁーいやはや、なんとも自分が知る貴族らしからぬ人だな。見た目じゃわからん。だが本当に好い人だと言うことが分かった。


 「良く部下からも言われておる。我の貴族らしいところ等、このしゃべり方ぐらいだとな」


 もっと威厳を持ってくれと言われているなんて言っている。

 威厳はありそうだけどね。だけどこの人はそんなのが無くても人が付いてくると思う。それだけの人だ。


 「そうですか? 自分はそんなカツヲ殿? をーーー」

 「カツヲで良い」


 カツヲは手で制止。敬称は要らないと言う。


 「なら自分も統一郎で。そんなカツヲを尊敬しますよ。そしてカツヲと友人となれて」

 「友人か……部下から義兄弟と言われることはあったが、なかなか良い響きだ。トウイチロウ」


 カツヲは魚の目でどうやって細めているのか、目を細目、嬉しそうにしていた。

 そして自分はひっくり返された杯を手に取り。再び酒を注ぎ、カツヲに手渡し。自分も杯を手にして。


 「では、改めて自分達が友人となれた記念に」

 「我らの永久の友好を記し」

 「「乾杯」」


 互いに手にした杯を打ち鳴らした。















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